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第3章
作り上げる虹(3)
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流奈に連れていかれたのは水道のところで、蛇口にはホースが繋がれている。
ここになにがあるんだ、と訝しげな視線を送ると、彼女はニヤリと笑って蛇口を捻る。
ホースの先を指で押さえるように摘み、出てきた水を空へ向けると、
「どう? 綺麗でしょ?」
そこには七色の橋が作り出された。
虹を見るのはこれが初めてじゃないのに、それが青色の空と合わさってとても綺麗だった。
いつだったか見た時は、病院ということもあってどこか虚しい気持ちになったのを覚えてる。
一人で見ても無意味で、なんの感情も湧いてこない。
だけど今は、流奈がいる。
たったそれだけで感じる気持ちが違って、心の奥がほんわかと温かくなった。
――虹って、こんな綺麗だったんだ…。
それを改めて知って、流奈につられるようにして笑みが溢れた。
一人じゃないってだけで、見える景色がこんなにも違うなんて思わなかった。
どこで見るかじゃない、誰と見るかで、きっとこんなふうに見えるんだ。
だって流奈は、俺のことをすべてわかってくれているような気がするから。
「元気なさそうだったから見せたんだよ。あっくんだけ特別ね」
普段どおりにしていたつもりだったのに、流奈はなんでもお見通しで、俺のためにこんなことまでしてくれる。
それがすごく自分で思う以上に嬉しくて、胸の奥がじんとした。
「…べ、別に元気なくねえし」
弱った姿とかいじけたところとか、ここでもやっぱり感じさせたくなくて強がって見せた。
そう言っても流奈は特に気にしたふうもなく、「そっかそっか!」と笑うだけ。
そういうところが安心して、俺の気持ちをいつも楽にさせてくれる。
「じゃ、私のワガママってことで。私がただあっくんと虹が見たかっただけ」
「………」
「ありがと、付き合ってくれて」
「…あーうん、これくらいいつでも」
「ふふ、あっくん優しい」
違う、優しいのは流奈だ。
なにも知らなくてもなにかを感じ取って、俺のためになにかをしようとしてくれる。
流奈なら、俺の体のことを知っても側にいてくれるんじゃないか――そんな期待をしてしまいそうになる。
その期待を裏切られた時が痛くてつらいのに、そんなことはわかっているのに。
流奈だと大丈夫かもしれない、なんて、そんなふうに思いたくなる。
「……この虹みたいに、俺も誰かと繋がってんのかな」
友達はできてもどこか虚しくて、本当の意味で友達になれてない気がする。
自分に残された時間が決まっているから、どこか一線を引いてしまう。
その気がなくても無意識に、深く関わりすぎないでいようって、そうしないと傷つくって。
なのに、こうして流奈と虹を眺めて、この先にある未来に希望があるような錯覚がした。
そんな夢みたいなことを見たくなったのは、きっとこの虹のせい。
「――繋がってるよ」
流奈は迷いのない瞳で七色の虹を見て、その後で俺に視線を転じて、その透明さにドキッとした。
「あっくんは一人じゃない、他の誰がいなくても私がずっといるよ」
出会ったばかりで、俺のことも体のこともなにも知らないのに流奈ははっきりとそう言った。
それがなんだかすごく心に沁みて、心の真ん中、一番大事なところに温かさを感じた。
「ずっとって……んなん、無理だろ」
そう言ってくれたのが嬉しいくせに、素直じゃない俺はそんなことを言う。
永遠なんて、そんな夢みたいなことは有り得ない。
信じられたらよかったけど、命に期限があるのに信じられるわけがない。
あと少しの命ならなお、希望も未来も見られるわけがないんだ。
「どうしてそう思うの?」
その問いかけに対する答えを持っていながら、俺は答えられなくて、言葉を詰まらせるだけ。
俺がなにも言えずにいると、流奈は凛としたまっすぐな声で名前を呼んだ。
あっくん――もう定着した愛称がやけに胸に響き、特別に聞こえた。
「もしみんながいなくなっても明日世界が滅びるとしても私は、…私だけはあっくんの側にずっといる」
「………」
「だって、私が今ここにいられるのはあっくんのおかげなんだから」
「えっ?」
「あっくんを一人にさせないために私はここにいるの。あっくんの笑顔が見たいから」
俺が見せる笑顔が取り繕ったものであることに、きっと流奈だけが気付いていた。
だけど、口でならどうとでも言える、と思ってしまう俺は歪んでるのかもしれない。
それが今だけの言葉で、ただの建前に過ぎないのかもしれないなんて。
そう思ってしまう自分が嫌だと思うのに、流奈のことも信じきれない。
ここになにがあるんだ、と訝しげな視線を送ると、彼女はニヤリと笑って蛇口を捻る。
ホースの先を指で押さえるように摘み、出てきた水を空へ向けると、
「どう? 綺麗でしょ?」
そこには七色の橋が作り出された。
虹を見るのはこれが初めてじゃないのに、それが青色の空と合わさってとても綺麗だった。
いつだったか見た時は、病院ということもあってどこか虚しい気持ちになったのを覚えてる。
一人で見ても無意味で、なんの感情も湧いてこない。
だけど今は、流奈がいる。
たったそれだけで感じる気持ちが違って、心の奥がほんわかと温かくなった。
――虹って、こんな綺麗だったんだ…。
それを改めて知って、流奈につられるようにして笑みが溢れた。
一人じゃないってだけで、見える景色がこんなにも違うなんて思わなかった。
どこで見るかじゃない、誰と見るかで、きっとこんなふうに見えるんだ。
だって流奈は、俺のことをすべてわかってくれているような気がするから。
「元気なさそうだったから見せたんだよ。あっくんだけ特別ね」
普段どおりにしていたつもりだったのに、流奈はなんでもお見通しで、俺のためにこんなことまでしてくれる。
それがすごく自分で思う以上に嬉しくて、胸の奥がじんとした。
「…べ、別に元気なくねえし」
弱った姿とかいじけたところとか、ここでもやっぱり感じさせたくなくて強がって見せた。
そう言っても流奈は特に気にしたふうもなく、「そっかそっか!」と笑うだけ。
そういうところが安心して、俺の気持ちをいつも楽にさせてくれる。
「じゃ、私のワガママってことで。私がただあっくんと虹が見たかっただけ」
「………」
「ありがと、付き合ってくれて」
「…あーうん、これくらいいつでも」
「ふふ、あっくん優しい」
違う、優しいのは流奈だ。
なにも知らなくてもなにかを感じ取って、俺のためになにかをしようとしてくれる。
流奈なら、俺の体のことを知っても側にいてくれるんじゃないか――そんな期待をしてしまいそうになる。
その期待を裏切られた時が痛くてつらいのに、そんなことはわかっているのに。
流奈だと大丈夫かもしれない、なんて、そんなふうに思いたくなる。
「……この虹みたいに、俺も誰かと繋がってんのかな」
友達はできてもどこか虚しくて、本当の意味で友達になれてない気がする。
自分に残された時間が決まっているから、どこか一線を引いてしまう。
その気がなくても無意識に、深く関わりすぎないでいようって、そうしないと傷つくって。
なのに、こうして流奈と虹を眺めて、この先にある未来に希望があるような錯覚がした。
そんな夢みたいなことを見たくなったのは、きっとこの虹のせい。
「――繋がってるよ」
流奈は迷いのない瞳で七色の虹を見て、その後で俺に視線を転じて、その透明さにドキッとした。
「あっくんは一人じゃない、他の誰がいなくても私がずっといるよ」
出会ったばかりで、俺のことも体のこともなにも知らないのに流奈ははっきりとそう言った。
それがなんだかすごく心に沁みて、心の真ん中、一番大事なところに温かさを感じた。
「ずっとって……んなん、無理だろ」
そう言ってくれたのが嬉しいくせに、素直じゃない俺はそんなことを言う。
永遠なんて、そんな夢みたいなことは有り得ない。
信じられたらよかったけど、命に期限があるのに信じられるわけがない。
あと少しの命ならなお、希望も未来も見られるわけがないんだ。
「どうしてそう思うの?」
その問いかけに対する答えを持っていながら、俺は答えられなくて、言葉を詰まらせるだけ。
俺がなにも言えずにいると、流奈は凛としたまっすぐな声で名前を呼んだ。
あっくん――もう定着した愛称がやけに胸に響き、特別に聞こえた。
「もしみんながいなくなっても明日世界が滅びるとしても私は、…私だけはあっくんの側にずっといる」
「………」
「だって、私が今ここにいられるのはあっくんのおかげなんだから」
「えっ?」
「あっくんを一人にさせないために私はここにいるの。あっくんの笑顔が見たいから」
俺が見せる笑顔が取り繕ったものであることに、きっと流奈だけが気付いていた。
だけど、口でならどうとでも言える、と思ってしまう俺は歪んでるのかもしれない。
それが今だけの言葉で、ただの建前に過ぎないのかもしれないなんて。
そう思ってしまう自分が嫌だと思うのに、流奈のことも信じきれない。
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