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第3章
作り上げる虹(2)
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「あっくーん!」
そう呼ぶのなんて一人しかいない。
そのほうへ顔を向けると、そこには当然のように流奈が無邪気に笑っていた。
――だから、なんでいつも急に現れるんだよ。
窓枠まで近づいてきた流奈は当たり前に制服を来ていて、同じ学校だったんだと知った。
今まで学校で会ったことがなくて、名前を聞いたこともなかったのに。
ってことは、流奈が俺のことを知っていたのは同じ学校の生徒だったから、なのか。
俺はなにも知らずにいたのに、彼女だけが一方的に知っていたのか。
「…え、お、同じ学校だったのかよ?」
驚いた顔でそう聞くと、流奈は肯定を示すようにへらっと笑うだけ。
いや、にしても、時間的に今はまだ授業中のはずなのにどうしているんだ。
「あっくんが見えたから来ちゃった!」
「…どうなのそれ。怒られても知らねえぞ」
「だいじょーぶ! 自習だったし、プリントも全部終わってから出てきたし問題なし! ぶいっ!」
流奈はこっちに向けてピースサインをして、子供みたいな顔で微笑む。
やることがいちいち子供っぽいんだよな――そう思って、ふと目線を下に向けると目に入った上靴。
それには赤のラインが入っていて、それで彼女が3年生だと知った。
――え、せ、先輩なのかよっ!?
「…せ、先輩だった……んです、か?」
流奈が年上だと知ってタメ口で話すことに多少の躊躇いがあって、慌てて敬語を使った。
そういうことに厳しい、先輩後輩の上下関係に口うるさい人は少なからずいる。
今までのことから考えてみても流奈がそうだとは到底思えないけど、先輩相手に今までどおり話していいのか迷ってしまった。
案の定、彼女は一気に機嫌悪そうに頬を膨らませ、「なにそれ!」と叫んだ。
「ちょっと年上だからって、いきなりそんな言葉遣いなんてひどいよ! あっくん!」
「…いや、でも」
「私は〝先輩〟としてじゃなく、〝流奈〟としてあっくんと会ったんだよ?」
「え」
「あっくんには、そんなふうに話してほしくない! もちろん学校でも! わかった!?」
すごい剣幕で言われて、それに根負けして、コクコクと頷いてしまった。
敬語を使っただけで、まさかこんなにも怒られるなんて思ってもみなかった。
それほど俺が他人行儀な態度を取るのが嫌なのか、だとしたらなぜ?
「ところで、あっくんはなにしてるの?」
さっきとは打って変わって無邪気な顔に戻り、流奈はそう聞いてくる。
机に並べられたたくさんのプリントを見て心の中でため息をつき、「ちょっと雑用」とだけ答えた。
クラスメイトにも言えないことを流奈に言えるわけがなくて、知られたくなかった。
なぜかわからないけど、彼女の前でだけはカッコつけていたかった。
なんの問題もない、健康な男を装っていたかった。
初めて会ったのが病院だったから、もしかしたらなにかあるかと思われるかと思ったけど、幸いなことに流奈はそのことに関してはなにも聞いてこなかった。
なにも思わないのか、それとも、そういうふりをしているのかわからないけど。
「ね、ちょっとだけいい? あっくんに見せたいものがあるの! 今日いい天気だし!」
「…? なに?」
「いいからいいから。上靴のままでもいいから。ほら、早く!」
俺は一息ついて、強引に腕を引っ張ろうとする流奈に「はいはい」と返事をして、窓に足を掛けて外に出た。
そう呼ぶのなんて一人しかいない。
そのほうへ顔を向けると、そこには当然のように流奈が無邪気に笑っていた。
――だから、なんでいつも急に現れるんだよ。
窓枠まで近づいてきた流奈は当たり前に制服を来ていて、同じ学校だったんだと知った。
今まで学校で会ったことがなくて、名前を聞いたこともなかったのに。
ってことは、流奈が俺のことを知っていたのは同じ学校の生徒だったから、なのか。
俺はなにも知らずにいたのに、彼女だけが一方的に知っていたのか。
「…え、お、同じ学校だったのかよ?」
驚いた顔でそう聞くと、流奈は肯定を示すようにへらっと笑うだけ。
いや、にしても、時間的に今はまだ授業中のはずなのにどうしているんだ。
「あっくんが見えたから来ちゃった!」
「…どうなのそれ。怒られても知らねえぞ」
「だいじょーぶ! 自習だったし、プリントも全部終わってから出てきたし問題なし! ぶいっ!」
流奈はこっちに向けてピースサインをして、子供みたいな顔で微笑む。
やることがいちいち子供っぽいんだよな――そう思って、ふと目線を下に向けると目に入った上靴。
それには赤のラインが入っていて、それで彼女が3年生だと知った。
――え、せ、先輩なのかよっ!?
「…せ、先輩だった……んです、か?」
流奈が年上だと知ってタメ口で話すことに多少の躊躇いがあって、慌てて敬語を使った。
そういうことに厳しい、先輩後輩の上下関係に口うるさい人は少なからずいる。
今までのことから考えてみても流奈がそうだとは到底思えないけど、先輩相手に今までどおり話していいのか迷ってしまった。
案の定、彼女は一気に機嫌悪そうに頬を膨らませ、「なにそれ!」と叫んだ。
「ちょっと年上だからって、いきなりそんな言葉遣いなんてひどいよ! あっくん!」
「…いや、でも」
「私は〝先輩〟としてじゃなく、〝流奈〟としてあっくんと会ったんだよ?」
「え」
「あっくんには、そんなふうに話してほしくない! もちろん学校でも! わかった!?」
すごい剣幕で言われて、それに根負けして、コクコクと頷いてしまった。
敬語を使っただけで、まさかこんなにも怒られるなんて思ってもみなかった。
それほど俺が他人行儀な態度を取るのが嫌なのか、だとしたらなぜ?
「ところで、あっくんはなにしてるの?」
さっきとは打って変わって無邪気な顔に戻り、流奈はそう聞いてくる。
机に並べられたたくさんのプリントを見て心の中でため息をつき、「ちょっと雑用」とだけ答えた。
クラスメイトにも言えないことを流奈に言えるわけがなくて、知られたくなかった。
なぜかわからないけど、彼女の前でだけはカッコつけていたかった。
なんの問題もない、健康な男を装っていたかった。
初めて会ったのが病院だったから、もしかしたらなにかあるかと思われるかと思ったけど、幸いなことに流奈はそのことに関してはなにも聞いてこなかった。
なにも思わないのか、それとも、そういうふりをしているのかわからないけど。
「ね、ちょっとだけいい? あっくんに見せたいものがあるの! 今日いい天気だし!」
「…? なに?」
「いいからいいから。上靴のままでもいいから。ほら、早く!」
俺は一息ついて、強引に腕を引っ張ろうとする流奈に「はいはい」と返事をして、窓に足を掛けて外に出た。
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