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第四章 再会
頭の中
しおりを挟むまさに瓢箪から駒。俺は開いた口が塞がらなかった。しかし、確かに美琴は言った。この場所が、そう。
「俺の、頭の、中だって?」
ぶつ切りに復唱した後、いやいやと首を横に振る。
頭の中、という言葉は、日常会話でよく使う表現である。試験勉強をし、完全に覚えた知識のことを人は「頭の中に入っている」と宣う。物理的に頭に入ることなど…大きさからして、できるわけがない。
そこで気がつき、「あっ」と声を上げた。なるほど。頭の中だなんて、紛らわしい言い方をするものだ。美琴同様、俺も自分のこめかみを指でつつく。
「つまりVR…バーチャルリアリティのことを言っているってことだよな。ほら、最近ゲーム等で話題のある、あれ」
俺は両手を使って、テレビゲームのコントローラーを握るそぶりを見せる。
バーチャルリアリティとは、現実ではないが現実同様の感覚を味わうことができる空間、仮想現実のことだ。最近はVRを利用したゲームやアトラクションも数多く存在し、人々の日常に馴染みつつある言葉である。視覚、聴覚…人間の五感にそう錯覚させる点をみれば、プレイヤーの頭の中での出来事といっても誤りではない。
最初記憶に触れた時、何が何だか分からず慌てたが、そもそも俺が今に至るまでにここで経験したことを考えると、それ以外説明がつけられないのだ。
そうだとしても、何故俺がVRの世界にいるのか」は、分からないのだが。まあそれは、目の前にいる美琴より訳を聞けばいいだけの話である。
しかし彼女は首を横に振った。
「あなたのやっている記憶さがしは、そんなお遊びとは違うの」
一蹴。小馬鹿にする言い方に、恥じらいも含めむっとしつつも気を取り直し、咳払いを一度する。
「じゃあ。さっきの頭の中って、一体なんのことを言っているんだよ。俺の記憶が作り出した空間?何を言っているんだ」
投げやりにそう聞くと、美琴は随分と険しい表情になった。
「それは…」
「さっきも言ったけど、俺は記憶さがしなんて始めた覚えは無いんだよ。それをするまでの記憶があれば、こんな質問しないんだけど。生憎それが無いから、こうして聞いているんだ。…というか、ここが頭の中の世界なら、現実の俺は今、何をしているっていうんだ。美琴は知っているんだよな」
締めに再度尋ねる。美琴は積極的に話そうとしなかったが、やがて意を決したように大きく息を吸った。
「九月二十日のこと。何か、覚えてないかな」
「九月二十日だって?」
覚えているも何も。リュックサックに入っている封筒表面に書かれた文章を思い出す。
「覚えていないんだよ。それを思い出すことが、この記憶さがしの目的らしいんだけど。俺の方こそ、三週間前に何が起きたのか。知りたいくらいさ」
俺がそう言うと美琴は驚いた風に口を大きく開けたが、すぐに閉じて首を横に振った。
「み、美琴?」
苦虫を噛み潰したような顔をして、彼女は俯く。
何だろうか、心なしか胸騒ぎがする。
「美琴。一体どうしたって…」
その先を聞いては駄目だ。瞬時にそう感じたのだが、好奇心に勝るものは無かった。彼女は頭を上げ、改めて俺の目を見る。そして次のとおり告げた。
「九月二十日。その日は、そう。あなたは何者かに襲われて、殺されてしまった日。今のあなたはもう、死んでしまっているのよ」
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