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四
しおりを挟む『続いてのニュースです。先日覚醒剤所持の疑いで書類送検されていた飯田兼良容疑者が、近年若い女性の間で流行している覚醒剤「PASA」の売人であることが、警察の取り調べで分かりました。飯田容疑者の自宅から見つかった覚醒剤や吸引器具の量から、本薬物に関わっているとみられる人物が複数いるとして、その入手経路も含めて調べを進めていく方針です』
テレビは既に次のニュースを放送している。私は元いた椅子の上にのろのろと座り直した。
あの時の緊張感。これまで味わったことのないものであった。確かその後その人物は、死体の切断作業に暫くの間苦戦していたようである。途中で諦め、その場を去って行った。
気付かれなかったことに安堵した。夜は更けてきたが、作業を再開するために戻ってくる可能性もあり得る。逃げるなら今しかない。私は一目散に、そして音を立てないように逃げ帰った。
我に返った頃には午後九時を超えていた。自分の部屋にいる安心感からか、どうやら寝てしまったようだ。
「ちょっと。どうしたの?」
再度母に肩を叩かれ正気に戻る。私は適当に縦に首をふった。
「だ、大丈夫。少し驚いただけ」
「それなら良いけど。あんたも気をつけなさいよ。近頃物騒なんだから」
「ああ…うん」
「あ、高校の時お父さんから持たされていたこれ、役に立つかしら。GPAとか何とかで携帯電話の場所が分かるやつ。ね、あんたも携帯電話に入っているアプリの設定、またしておきなさいよ」
そう言って母は黒い、小型の機械を振る。昔過保護な父が、私が暴漢に襲われた際に助けに行けるよう買ったものである。
「…GPSね。後でしておくよ。暇な時に」
「あんた、それでいつもしたことないじゃないの」
まったくもう、と溜息をつきながら母は肘をつく。
「でも、この殺された向島美穂ちゃんのお母さんなんか、信じられないでしょうね。さっきニュースで言っていたけど、昨日は昼過ぎまで一緒に買い物していたそうよ。それなのに、そんな、ねえ」
「うん…え?」
その言葉に、私は母に勢いよく顔を向けた。
「ど、どうしたのよ」
私の反応に少々動揺する母の肩を掴む。
「殺されたって、本当に向島美穂って子なの?」
「え、ええ。それに今もアナウンサーがそう言っていたじゃない」
目を瞬かせ、うんうんと頷く。
それを聞いた瞬間、唖然とした。心ここに在らず、といった状態であった。それは、同じ大学の生徒が殺害されたから…という単純な理由ではない。
殺害された向島美穂は、毎日のように顔を合わせる友人の一人だったのだ。
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