歌を唄う死神の話

ちぇしゃ

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銀色の夢を

6話

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「遊びです。ただの子供のごっこ遊びです。」


そんな申し出をする彼女は実に涼し気で、しかし私はその涼しさに痺れすら感じた。
「勝てるわけない。」私たちが負けに負けを重ね、土を噛み締めまくったドラゴンを
風でも薙ぐように楽し気に圧倒していたウタさんを相手に、私みたいな豆腐メンタルな小娘が…

「勝てるわけない。そんなこと、考えなくていいんですよ。」
私の心情を、まさに大鎌で私の足元を掠めながら遮った。
「うわっ!」私はよろめき、冷たい浅瀬に尻餅をついた。
「さっきから言っているじゃないですか。私はただブルーさんと遊びに来ただけですよ。
これはゲームなんです。誰も死なないし、誰も傷ついたりしない。ただ楽しむだけのゲームです。それとも私が怖いですか?」
きっと彼女にあの大きな刃を向けられていたら、あの六花の瞳で鋭く見据えられていたら「怖いです。」と感じていただろう。
だけど、今ウタさんが私に向けているのは、砂浜と同じように白い手の平だった。

「そんな事ないです。ウタさんを怖いなんて思うわけない。」
私はウタさんをかっこいいと思っていたんだから。だから、私は今戦士になったんだから。
私は腰に携えた剣を抜き、右手で構え、腰を低くして相手を…ウタさんを見据えた。



辺りからは磯の香りと、波の音が静かに私達の世界を彩っていた。
「はあああああ!」
雄たけびをあげて波しぶきを蹴散らしながら、頭の上に剣を掲げ飛び掛かる。
月明りに反射して、二つの刃から火花が弾ける。

キィィィィィンっという金属音が鼓膜を刺激する。


ウタさんが身体を捩じり刃を後ろに構えるのに反応し、私は大きく後ろに飛びのく!…が
それを見越し、彼女はその体制のまま私の眼前へ迫り、大きな円を描くように鎌を横に薙ぐ。


「――っ!」
私は両手で強く握った剣で防ぐ。しかし、それでも私の足は踏ん張る事を忘れ
波打つ海面へと放り込まれる。


「いい反応しますね。勇ましいです。」
「ウタさん、それ女の子的にはあまり嬉しい誉め言葉じゃないです。」
「そうですか?すいません。なにぶん自分の事しか考えていないので。」
「いえ、でもウタさんに言われるなら、いいかな。」
冷たい海の水で、頭の中がすっきりしたような気がした。



早かった鼓動も落ち着き、クールダウンした。



強張る頬も握りこぶしも次第にいつものテンションを取り戻していく。
握っていた剣を、もう一度強く握り直す。
そうだ、私は自分でやりたくてこのゲームを始めたんだ。
最初から私は自分で選んで剣を握ったんだ。遊ぶために、剣を握ったんだ。

「遊びましょう。ウタさん。」
そう言うとウタさんは「いいですよ。」っと笑い大鎌の柄を握り直した。


――楽しい!
逆手に持った刃でウタさんの顎先を掠める。
中空で身体を一回転させ、その勢いのままにアクロバットに蹴りを入れてくる。
それを鳩尾に貰い、私は吹き飛ばされる。

――楽しい!踊るように心がそう叫ぶ。
右斜めから振り下ろされた鎌を、避けて体当たりする。
よろめいたウタさんは左足でバランスをとる。

――楽しい‼ずっと続けばいいのに!そう叫ぶ。
月明りに照らされた二つの刃が、幾度もぶつかりあい琥珀色の火花を散らす。
まるで星屑のようで銀河のようでとても綺麗だ。



まるで夢のような情景だった。
私は、私の身体はまたしても海面に叩きつけられ、握っていた剣も何処かへ弾き飛ばされていた。
「…あぁーあ、やっぱり強いなぁ、ウタさんは。」
溜息が出るような、そんな強さだった。
「ブルーさんも、とっても強かったですよ。楽しかったですか?」
「すっごい楽しかった。やっぱりゲームって楽しいね。まぁ、出来れば勝ちたかったけどさ。明日もまたやろうよウタさん!
明日は、二人もログインできるだろうから、せっかくだし今度はチーム戦なんてのも面白いかも!」
「そうですね。ログインしたら遊びましょう。」
私のテンションの上がり方にウタさんは少し驚いていたようだった。
それは当の本人である私自身も、ビックリしていた。だって仕方ない。とても楽しかったのだから。

本当に夢のような時間だったのだから。







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