上 下
13 / 24
第二章

第三話

しおりを挟む
 マチルダ以外の竜騎士訓練生がリラの圧力にうろたえていると緑色の竜を連れて担任のテオドール・ハイゼが入ってきた。入ると同時に、リラに目をやったかと思うと、緊張の色を見せ、深々と礼をする。

「リラ様,ご無沙汰しております」
『久しぶりだな、テオドール。うちのマチルダを頼むぞ』
「もちろんでございます」

 担任の堅苦しい挨拶にマチルダだけ相変わらず何が起こっているのか分からなかった。思わず、リラに尋ねるのだった。

「リラ、どうしたの? みんな、リラに腰が低いと言うか……」

『どうもせんわ。この国で一番の長生きをしている竜だから、敬ってくれているんだろうよ』

 リラはこともなげに答えた。

 担任のハイゼが首を振る。

「いえいえ、リラ様は国王陛下の妹のエリザ様の竜であっただけではなく、長生きしているからと言うだけではなく、竜王であらせられます。ですから、皆このように応対しているのです」

 焦った様に説明するハイゼにリラは困った顔をする。聞いている他の竜と訓練生達はハイゼの言葉に激しく同意するように首を縦に振った。

『マチルダには内緒にするつもりだったのだが……』
 
 リラが参ったとばかりに呟いた。

「申し訳ありません」
『リラ様、余計なことをハイゼが申して、申し訳ありません』

 うっかり口を滑らせたとばかり、担任は顔を青くして、連れている緑色の竜のヴァルトも慌てて謝罪をするのだった。

 マチルダはリラ=竜王と言う言葉に驚く。マチルダから見たリラは気のいい親切な母の連れていた竜だったから、そのような位の高い竜とは思いもしなかった。

「リラって、そんなすごい竜? 私がパートナーでよかったの? 他に……」

 マチルダが申し訳なさそうにリラに尋ねた。

『マチルダなら気にするだろうから内緒にしておきたかったものを……』

 困ったようにリラはつぶやく。

「申し訳ありません」『申し訳ございませんでした』

 重ね重ね謝罪をする担任と竜のヴァルトにリラは首を振るのだった。

『もうよい。いつかは話さなければならぬこと。で、何用?』

「入学式が始まるので、講堂にお連れしようと……」

 ハイゼの改まった姿にリラはため息をそっとついた。

『そんなに改まらなくても、普通でよい。マチルダはこの学校に入学する。それについてきただけの竜だと思って接すればよい』
「ですが……」
『頼んだぞ!!』

 リラは圧を担任に向けるのだった。

「承知いたしました」

 リラの圧に押されるようにハイゼは返答し、竜のヴァルトは縦に首を振るのだった。


 そして、ハイゼは入学生の方を向いた。

「では、6人ともいいですか? 後、ここは竜騎士を育てる場所。対等の竜騎士が居る場所ですので、身分は関係ありません。そのことを肝に銘じておくように」

 と、ダニエル・シェーファーの目を見ながら言うのだった。ダニエルは悔し気にしぶしぶ首を縦に振った。

「では、皆さん、講堂へ参りましょう」

 そう言って、担任は掛け声をかけ講堂へ向かって行く。その後ろを新入生たちはついていく。

 先に扉に向かおうとしたダニエルとフランクはすれ違いざまマチルダをにらみつけて行った。連れている竜達はマチルダとリラに向かってお辞儀をしながら出て行った。

 にらまれたマチルダはため息をついた。

――この国でも、疎まれるのかしら……どこの国でも同じかしら……いえ、陛下やルドルフ様がいらっしゃるからそんなことないわよね……

 マチルダは一人思いながら教室を後にした。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

私をこき使って「役立たず!」と理不尽に国を追放した王子に馬鹿にした《聖女》の力で復讐したいと思います。

水垣するめ
ファンタジー
アメリア・ガーデンは《聖女》としての激務をこなす日々を過ごしていた。 ある日突然国王が倒れ、クロード・ベルト皇太子が権力を握る事になる。 翌日王宮へ行くと皇太子からいきなり「お前はクビだ!」と宣告された。 アメリアは聖女の必要性を必死に訴えるが、皇太子は聞く耳を持たずに解雇して国から追放する。 追放されるアメリアを馬鹿にして笑う皇太子。 しかし皇太子は知らなかった。 聖女がどれほどこの国に貢献していたのか。どれだけの人を癒やしていたのか。どれほど魔物の力を弱体化させていたのかを……。 散々こき使っておいて「役立たず」として解雇されたアメリアは、聖女の力を使い国に対して復讐しようと決意する。

婚約破棄令嬢は、前線に立つ

あきづきみなと
ファンタジー
「婚約を破棄する!」 おきまりの宣言、おきまりの断罪。 小説家に○ろうにも掲載しています。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

処理中です...