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第一章

第七話

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  辻馬車を見送ったマチルダと竜は自分たちもそろそろ旅立とうと思う。

『じゃあ、我々も出発しよう』

「お願いいたします」

 そうマチルダが返事をすると竜は空に向かって飛び始めた。

 空に舞い上がるマチルダと竜の体の高度が高くなり、進むにつれ、スピードが出始めたのだが、なぜかマチルダは影響を受けない。風を受けるはずだが、マチルダの体の回りを避けているかのようだ。

『やはりお前は竜騎士の素質があるな。ドラガニアに行ってすることがなければ竜騎士になったらどうだ?』

 どういう仕組みかはマチルダにはわからないが、竜と共に空を飛び、そのスピードの影響を受けないことは竜騎士になるのに必要な要素のようだった。

「り、竜騎士ですか? いきなりなれるのでしょうか?」

 母のように竜騎士になれれば素敵だなとは思うものの、普通の令嬢として育ったマチルダには自分にそんな素質があるとは思えなかった。

『お前ならいきなりなれんこともないが、心配であるならドラガニアにある竜騎士訓練学校に入って勉強してから竜騎士になればよい』

「竜騎士訓練学校?」

 ドラガニアにそのような訓練学校がある事を知らなかったマチルダは思わず尋ねる。

『そうだ。エリザも出ておる。』

「お母さまが……」

『一応入学のためのテストがあるが、おそらくお前なら受かるだろう』

「受かりますか? 私、騎士の訓練などしたことはないのですが……」

『竜騎士に必要なのは竜への同調力だ。
竜に気に入られなければ、騎士の素質があっても、竜騎士には成れない』

 そう力強く肯定されるとマチルダは自分も訓練次第ではなれるのではないかと思うのだった。



 マチルダが竜の背に乗せられ、いろいろな話をしながら飛ぶこと、約四時間程。

 あっという間にドラガニアの上空にたどり着いた。

 竜が下を一瞥いちべつしたかと思うとスピードを落としながらマチルダに話しかける。

『マチルダ、下を見よ』

 怖いのかマチルダは恐々下をのぞく。

 すると、立派な城のような建物が見えてきた。

「竜様、怖いのですが……下にあるのは何かお城のようですが……このようなお城の上空を飛んでもいいのでしょうか?」

『竜であれば問題ない。もちろんわしに乗っておるお前もな』

「不敬にならないかと心配しました」

 マチルダは城を上を飛ぶ=国王の上に居る事で不敬にならないかと心配したが、ならないと知って、ホッとした。

『心配いらん。しかも、この城の持ち主、ドラガニア国王の姪にあたるお前が来たと知ったら、王も喜ぶだろう』

「いきなり先触れもなくやってきてもアレクサンダー=ドラガニア国王が喜んでくださるのですか?」

 マチルダは貴族のマナーとして、先触れは絶対必要であると思っているため、先触れもなくやってきてマナー違反であるため、叱責される可能性もあると思っていたようだった。

『そうだ。ほかの者のなら怒るだろうが、お前は別だ。あの国が邪魔をしてエリザの死に目にも会えず、お前の様子も知ることができずに長いこと悲しんでおったわ』

「そうだったのですか……」

 マチルダがしんみりしたため、竜はそれ以上言葉をかけず、下の城の方に降り立とうとゆっくりと城に向かっていく。

 そして、城の中にある竜の駐機場ならぬ駐竜場に降り立つのであった。

 いきなり降り立った紫の竜を見慣れているのか、駐竜場にいる何人かの騎士が竜の周りにやってきて、礼をするのだった。

「リラ様、今日はいかがされましたか?」

 紫の竜に向かってそう尋ねるのは、そこにいる中で一番位の高そうな壮年の騎士であった。

『急で申し訳ないのだが、エリザの娘を連れてまいった。アレクサンダーに至急面会させたい。』

「エリザ様のお嬢様ですか?何故?マグナス王国におられるのでは……」

 竜の言葉に壮年の騎士は驚きを隠せないようだった。

 竜はそれを気にせず、早くアレクサンダー国王に会わせようとかし立てる。

『詳しくは後でじゃ。無理やり攫ってきたわけではないので、安心せい。一先ず、アレクサンダーに会わせたい』

「承知いたしました。」

 そう言って竜と会話を交わした騎士は部下に目配せをする。目配せされた騎士は慌ててどこかへ向かって駐竜場を離れたのだった。

 残された者たちは竜の背に乗るマチルダが気になり、視線がマチルダに集中する。

 竜から降りてくるマチルダは視線を感じて、いたたまれない気持ちになる。

 その上、知らないところに来たからか、マチルダは竜の横から離れようとはしなかった。

『マチルダが疲れておるやもしれん。マグナス王国から四時間ほどわしの背に乗りっぱなしだ。休ませてやりたい』

 竜はマチルダへの気遣いを見せる。それを壮年の騎士は了承する。

「承知いたしました。お嬢様にお座りいただくものと飲み物と軽いお食事をご用意させていただきます」

 そう言ったかと思うと騎士は再び部下に目配せをする。

 目配せされたもののうち二人は、駐竜場の端にあるソファーを竜のそばへと持って来てマチルダへ勧めるのだった。一人はどこかへ急いで向かって行ったのだった。

「ありがとうございます」

 とマチルダはお礼を言って、腰かける。

 すると急いで駐竜場から離れた騎士が戻ってきて、壮年の騎士に耳打ちをする。壮年の騎士は話を聞いて頷いている。

「マチルダ様、お飲み物の準備をさせております。お待たせして申し訳ございませんが、しばしお待ちください」

 そう言って、マチルダに礼をしてくれるのだった。

「ありがとうございます。こちらこそ、急に来て申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらずに。陛下もお喜びだと思います。陛下がこちらへお越しになるまでしばらくお待ちください」

「ありがとうございます。」

 そう言い終わらぬうちに慌ただしい足音が聞こえてきたのだった。
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