4 / 24
第一章
第三話
しおりを挟む
急いで会場を出たマチルダは王都のスチュアート公爵家の屋敷へ馬車を走らせるのだった。
屋敷に着いたマチルダを初老の執事のケビンが出迎える。
この国のものに異形のものとして扱われることの多いマチルダだが、ケビンだけは蔑んだり虐めたりすることなく、普通に扱ってくれる。(公爵令嬢なのに継母のせいもあってメイドもつけず扱いが雑であるが、本人はなにもされない=普通と思っている。)
「お嬢様、夜会からのお帰り早すぎはしませんか?」
問いかけるケビンに急いで荷造りしようと屋敷へ入ってきていたマチルダが振り返る。
「急なのだけれど、パトリック殿下に国外に即刻出るように言われたの」
ケビンは予想しないマチルダからの答えに驚きを隠せない。
「へ?それは、どう言う意味で?」
マチルダは思わずにケビンに苦笑いする。
「アリスと結婚したいから、私とは婚約破棄ですって」
その返事にケビンは不思議そうな顔をする。
「婚約破棄ですか?でも、アリス様はドラガニアの血はお持ちではないのですが……」
ケビンはパトリックとマチルダの婚約の経緯を思い出すように尋ねた。
「さあ?それは殿下に言って。荷物取りに屋敷に戻る許可を貰ったので、取りに帰ってきたの」
言い終わるとマチルダは急いで自分の部屋へ戻っていった。
マチルダを見送ったケビンは公爵に報告するため、慌て公爵の執務室へ駆け込んでいったのだった。
自分の部屋へ戻ったマチルダはクローゼットの隅にあったトランクをベッドに広げた。
クローゼットの中を見ながら何を持っていくのか悩む。
「飾りの派手でない庶民っぽい服とお母様の形見は絶対いるわね。でも、この髪は目立つから……ローブを被るか……女子の一人旅は危ないから、乗馬用のズボン??」
一人でぶつぶつ言いながら、持っていくものを選ぶ。
もともと公爵令嬢であるにもかかわらず、継母に虐げられていた事もあり侍女を付けられていなかったマチルダは自分の事は自分で出来るので、ベッドの上に置いたものを手早くトランクにしまうのだった。
そして、宝石箱から母エリザの形見である紫の宝石の目を持つ竜をかたどったネックレスを取り出し、自分の首にかけて服の中に隠し、譲り受けている宝石をいくつかトランクに入れた。
荷物がまとまり、長い銀髪を一つに括り、ドレスから着替えたローブの内へ入れる。
ローブにブラウス、ズボン、乗馬用のブーツと言う出で立ちで幼き日より過ごした部屋に別れを告げていた頃、部屋の扉をノックする音が聞こえる。
ノックに気付いたマチルダは応答する。
応答ののち部屋に入ってきたのはケビンとスチュアート家の当主のクリフだった。
怒った顔をしたクリフはマチルダに詰め寄る。
「マチルダ、婚約破棄とはどういう事だ?お前、殿下に失礼な事したのか?」
マチルダが何かをやらかした前提で話を進める父にマチルダは首を苦し気に横に振る。
「わかりませんわ? でも、殿下がアリスと結婚したいと仰っていたのですわ」
父クリフのあまりの怒り様にマチルダは後ずさりしながら、父が喜びそうなパトリックとアリスが結婚したがっていた事を告げるのだった。
「アリスと結婚?」
「そうですわ。そして、殿下は私に国外に出るようにおっしゃったわ」
マチルダは公爵がパトリックとアリスの結婚の話に気が向いているうちに自分の国外への追放も併せて伝える。
「スチュアート家としては、王妃を出せるからどちらでもいいか……」
「では、お父様。お世話になりました。」
「ああ」
アリスがパトリック殿下の妃になることについて考えている公爵を余所に、さっさと屋敷を出たいマチルダは挨拶もそこそこに屋敷を出ようとする。後を追って、ケビンがやってきた。
「お嬢様、本当におよろしいのですか?」
「いいんじゃない?この見た目ではこの国にいても疎まれるだけだし」
あきれるように言うマチルダにケビンはすがる。
「でも……」
「父も済々してるんじゃないかしら?」
「でも……」
「その証拠に追いかけてもこないでしょ」
返す言葉のないケビンはこの国て異形の者として扱われていたマチルダの行く末がさすがに心配になってくるのだった。
「お嬢様、この後どうされるのでしょうか?」
そう訪ねられたマチルダは城から帰ってくる間に考えた事を言ってみる。
母に似た容姿を異形扱いされるなら、母の出身地に行けばいいのじゃあないかと考えたのだった。
「取り合えず、ドラガニアに行ってみようと思うわ」
「しかし、ここからでは馬車でも何か月もかかります」
「それでも、この国にこのままいるより、いいと思うわ。私のこの容姿もあまり目立たないだろうし……それに、いろいろ考えてもなる様にしかならないわ」
「お嬢様、これを……」
ケビンはお金をマチルダに持たせようとする。首を横に振って断るマチルダ。
「そんなことしたら、お義母様に『私のドレス代取った』と怒られるわよ」
「でも……」
「大丈夫。お母様から頂いてる宝飾品も持ったから売りながら行くわ」
「換金しにくい場所もあるかと……」
ケビンはこれまで積極的に関わらなかったとは言え、マチルダの事が心配で仕方がなかったのだった。
「ありがとう、ケビン。大丈夫よ」
ケビンの心配を払拭するように力強く大丈夫である事を伝えるのだった。
「……お嬢様」
名残惜しそうなケビンにマチルダは力強く決意したかのように微笑んだ。
「じゃあ、行くわね。ケビンも元気でね」
「お嬢様もお元気で」
屋敷を出るマチルダの後姿をケビンはいつまでも見送るのだった。
屋敷に着いたマチルダを初老の執事のケビンが出迎える。
この国のものに異形のものとして扱われることの多いマチルダだが、ケビンだけは蔑んだり虐めたりすることなく、普通に扱ってくれる。(公爵令嬢なのに継母のせいもあってメイドもつけず扱いが雑であるが、本人はなにもされない=普通と思っている。)
「お嬢様、夜会からのお帰り早すぎはしませんか?」
問いかけるケビンに急いで荷造りしようと屋敷へ入ってきていたマチルダが振り返る。
「急なのだけれど、パトリック殿下に国外に即刻出るように言われたの」
ケビンは予想しないマチルダからの答えに驚きを隠せない。
「へ?それは、どう言う意味で?」
マチルダは思わずにケビンに苦笑いする。
「アリスと結婚したいから、私とは婚約破棄ですって」
その返事にケビンは不思議そうな顔をする。
「婚約破棄ですか?でも、アリス様はドラガニアの血はお持ちではないのですが……」
ケビンはパトリックとマチルダの婚約の経緯を思い出すように尋ねた。
「さあ?それは殿下に言って。荷物取りに屋敷に戻る許可を貰ったので、取りに帰ってきたの」
言い終わるとマチルダは急いで自分の部屋へ戻っていった。
マチルダを見送ったケビンは公爵に報告するため、慌て公爵の執務室へ駆け込んでいったのだった。
自分の部屋へ戻ったマチルダはクローゼットの隅にあったトランクをベッドに広げた。
クローゼットの中を見ながら何を持っていくのか悩む。
「飾りの派手でない庶民っぽい服とお母様の形見は絶対いるわね。でも、この髪は目立つから……ローブを被るか……女子の一人旅は危ないから、乗馬用のズボン??」
一人でぶつぶつ言いながら、持っていくものを選ぶ。
もともと公爵令嬢であるにもかかわらず、継母に虐げられていた事もあり侍女を付けられていなかったマチルダは自分の事は自分で出来るので、ベッドの上に置いたものを手早くトランクにしまうのだった。
そして、宝石箱から母エリザの形見である紫の宝石の目を持つ竜をかたどったネックレスを取り出し、自分の首にかけて服の中に隠し、譲り受けている宝石をいくつかトランクに入れた。
荷物がまとまり、長い銀髪を一つに括り、ドレスから着替えたローブの内へ入れる。
ローブにブラウス、ズボン、乗馬用のブーツと言う出で立ちで幼き日より過ごした部屋に別れを告げていた頃、部屋の扉をノックする音が聞こえる。
ノックに気付いたマチルダは応答する。
応答ののち部屋に入ってきたのはケビンとスチュアート家の当主のクリフだった。
怒った顔をしたクリフはマチルダに詰め寄る。
「マチルダ、婚約破棄とはどういう事だ?お前、殿下に失礼な事したのか?」
マチルダが何かをやらかした前提で話を進める父にマチルダは首を苦し気に横に振る。
「わかりませんわ? でも、殿下がアリスと結婚したいと仰っていたのですわ」
父クリフのあまりの怒り様にマチルダは後ずさりしながら、父が喜びそうなパトリックとアリスが結婚したがっていた事を告げるのだった。
「アリスと結婚?」
「そうですわ。そして、殿下は私に国外に出るようにおっしゃったわ」
マチルダは公爵がパトリックとアリスの結婚の話に気が向いているうちに自分の国外への追放も併せて伝える。
「スチュアート家としては、王妃を出せるからどちらでもいいか……」
「では、お父様。お世話になりました。」
「ああ」
アリスがパトリック殿下の妃になることについて考えている公爵を余所に、さっさと屋敷を出たいマチルダは挨拶もそこそこに屋敷を出ようとする。後を追って、ケビンがやってきた。
「お嬢様、本当におよろしいのですか?」
「いいんじゃない?この見た目ではこの国にいても疎まれるだけだし」
あきれるように言うマチルダにケビンはすがる。
「でも……」
「父も済々してるんじゃないかしら?」
「でも……」
「その証拠に追いかけてもこないでしょ」
返す言葉のないケビンはこの国て異形の者として扱われていたマチルダの行く末がさすがに心配になってくるのだった。
「お嬢様、この後どうされるのでしょうか?」
そう訪ねられたマチルダは城から帰ってくる間に考えた事を言ってみる。
母に似た容姿を異形扱いされるなら、母の出身地に行けばいいのじゃあないかと考えたのだった。
「取り合えず、ドラガニアに行ってみようと思うわ」
「しかし、ここからでは馬車でも何か月もかかります」
「それでも、この国にこのままいるより、いいと思うわ。私のこの容姿もあまり目立たないだろうし……それに、いろいろ考えてもなる様にしかならないわ」
「お嬢様、これを……」
ケビンはお金をマチルダに持たせようとする。首を横に振って断るマチルダ。
「そんなことしたら、お義母様に『私のドレス代取った』と怒られるわよ」
「でも……」
「大丈夫。お母様から頂いてる宝飾品も持ったから売りながら行くわ」
「換金しにくい場所もあるかと……」
ケビンはこれまで積極的に関わらなかったとは言え、マチルダの事が心配で仕方がなかったのだった。
「ありがとう、ケビン。大丈夫よ」
ケビンの心配を払拭するように力強く大丈夫である事を伝えるのだった。
「……お嬢様」
名残惜しそうなケビンにマチルダは力強く決意したかのように微笑んだ。
「じゃあ、行くわね。ケビンも元気でね」
「お嬢様もお元気で」
屋敷を出るマチルダの後姿をケビンはいつまでも見送るのだった。
11
お気に入りに追加
1,296
あなたにおすすめの小説
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした
桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。
彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。
そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。
そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。
すると、予想外な事態に発展していった。
*作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
私をこき使って「役立たず!」と理不尽に国を追放した王子に馬鹿にした《聖女》の力で復讐したいと思います。
水垣するめ
ファンタジー
アメリア・ガーデンは《聖女》としての激務をこなす日々を過ごしていた。
ある日突然国王が倒れ、クロード・ベルト皇太子が権力を握る事になる。
翌日王宮へ行くと皇太子からいきなり「お前はクビだ!」と宣告された。
アメリアは聖女の必要性を必死に訴えるが、皇太子は聞く耳を持たずに解雇して国から追放する。
追放されるアメリアを馬鹿にして笑う皇太子。
しかし皇太子は知らなかった。
聖女がどれほどこの国に貢献していたのか。どれだけの人を癒やしていたのか。どれほど魔物の力を弱体化させていたのかを……。
散々こき使っておいて「役立たず」として解雇されたアメリアは、聖女の力を使い国に対して復讐しようと決意する。
【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた
月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」
高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。
この婚約破棄は数十分前に知ったこと。
きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ!
「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」
だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。
「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」
「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」
「憎いねこの色男!」
ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。
「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」
「女泣かせたぁこのことだね!」
「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」
「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」
さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。
設定はふわっと。
『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる