370 / 418
第25章 喰う、それは生きる為ですよ⁉︎
366話 脳筋
しおりを挟む
不敵な笑みを浮かべるダクネラ教皇に、勤勉の勇者クリスチャートは何の躊躇いも無く飛び込んだ。
ミシッ!
僅か2歩。
純潔の勇者フローラの【不可侵領域】から飛び出して、地面を蹴れた数だ。
その2歩でも飛び出したので4mは進んだのだが、次の1歩を踏み出す前に、クリスチャートは天井に貼り付けられていた。
「な⁉︎か、体が浮いた?しかも天井から離れられない⁉︎」
「まさか、触れてもいないのにグラビティを⁉︎」
勇者2人は驚いているが、ダクネラは大精霊の同等の力を引き出せる契約者だ。この程度はまだ序の口だろう。
ただ、こうも高い天井だと、フローラは自分の特殊技能の円内には彼を入れられないから助けられない。
「いやはや、勤勉の勇者君は思慮が足りないな」
ダクネラはやれやれと呆れる仕草をする。
「ベルフェルの話した意味を理解せず、相手の力を見誤って無謀に突っ込んで捕まる。これがタカノブが言っていた脳筋と呼ばれる人種か」
クリスチャートを見る限り、彼は天井に張り付いたというより、天井に押し当てられているように見える。
「ぐっ、クソッ、何だこの力は⁉︎」
凄い力を入れているのにも関わらず、僅かに顔を天井から離せる程度しか動かない。
「無駄だよ。君は今、この世界の核たるものの重力の一部を受けているんだ。多少、君の体重と受けるベクトルは変えてあるのだけれどね?」
ダクネラの話から考察すると、クリスチャートの体重を軽くして、彼にだけ星の重力の一部と同等の圧を掛けているようだ。
身体強化LV5に達する彼が動けないのなら、並の人間なら潰れているかもしれない。
ダクネラは、そのまま動けない我々に向かい歩いて来る。
現状で、純潔の勇者の円から出るのは難しい。
唯一の安全地帯には違いないが、打開案も生まれない。
「どうしよう…。どうすれば…?」
フローラは錫杖を握りしめ、どうにかしてクリスチャートを解放できないかを考えているようだ。
「ベルフェル、道中でサイルという青年と会わなかったかね?」
「ああ、彼には歓迎されたよ」
ベルフェルが失った右手首を見せると、ダクネラは少し残念そうな表情を見せた。
「君達がここに来た時点で、彼が敗れたのは分かってはいた。彼はやんちゃだったからね。天井に張り付く彼のように、彼も脳筋の人種だったのかもしれないな」
遂に目前まで来てしまった。フローラの前にベルフェルが立ち、ダクネラと向かい合う。
彼女の今の【不可侵領域】の拒絶項目は、物理攻撃・魔法全般攻撃・状態異常だ。
仲間以外の侵入という拒絶は設定していない。
つまりは、誰でも容易に円内に入られてしまう。
「私が質問をしても?」
注意を逸らすというよりも、ベルフェルは元々その目的で来ている。
ダクネラは円の前でピタリと止まり、余裕のある笑顔を見せた。
「ああ、もちろんだとも」
「…長いこと会わなかったが、君の活躍はどちらの教団でも良く聞いていたよ」
「それは私もだよ。君がラエテマ王国のオモカツタの支堂長に就任が決まった際には、運命だと思った程だ。故郷に近かったのだ、親には会いに行ったのだろう?」
「…父とは疎遠でね。君も知っているだろう?」
2人の会話があまりにも親し気な事に、フローラは血の気が引く。
見た目はダクネラの方が若く見えるが、もしかしてダクネラとは古くからの仲間なの⁉︎
いや、彼はつい先程も命掛けで戦ってくれている。
司教で魔術士の彼が、大事な右手首を失ってまで私達を騙すメリットは無い。
だが、単独で神殿に潜入しようとしていた点は不審でしか無い。
クリスが動けない今、頼れるのは彼だけだけど、信用しきれない。
こんな時、私はどうすれば良い?
見上げた先のクリスは、何とか天井から離れようとまだ諦めずに足掻いている。
彼と彼女には見えないが、直ぐ近くまで無の契約精霊が近づいていた。
「それは残念だったな。もう彼とは会えないのだから」
「…⁉︎討伐が間に合ったのか⁉︎」
ベルフェゴールが討伐される事など無いと思っていた。
分身体がある限り本体に逃げられる。それはもう経験済みだった。
「…喜ぶのかい?仮にも君の父親だろう?それに、君も計画には賛同していたのだろう?」
「賛同していた内容とは違う!この世界には、浄化の必要がないもの達も居るだろう⁉︎」
突然、声を荒げたベルフェルに、フローラ達は驚く。
「ああ、まぁ順序に違いが出た事は申し訳なく思うよ。私としても、いろいろと予測を見誤ってね。ことごとく邪魔をされている様だ。君なら、その邪魔している者達を知っているのではないかい?」
「それは、単に両教団の頑張りだろう。彼等勇者も、こうして君に辿り着いた」
誓いの呪いが掛かるベルフェルは、決して空中公国月の庭の情報を出したりはしない。
「フム、それは確かにそうだが…。暴食の悪魔バアルゼブルだけは、どちらの教団でも神殿の所在地が分からなかった。それを、数刻前に見つけた者が居るのだ。私が知る魔王や勇者達、教団の者達には難しいと思う。当然、ここに居る彼等では無理だろう?」
ダクネラの冷淡なその視線に、フローラ達はビクッと震える。
もはや、私達は眼中に無いらしい。苦楽を共にしてきたこのパーティを馬鹿にされた気がして、フローラは奥歯を鳴らした。
(一度、領域を解除して物理攻撃を仕掛ける!見たところ、彼も魔術士タイプ。魔法を唱える前に抑え込めれたら、次の領域発動で動きを完全に封じれる。大丈夫、私達はこのままじゃ終わらない!)
フローラは片手を背に回し、背後にいる配下の2人に領域解除による行動パターンの合図を送る。
「復かーーつ‼︎」
フローラ達が動こうとした矢先に、移動できるようになったクリスチャートが落ちて来た。
「クリス‼︎」
「急に動けるようになった!」
粉塵を巻き上げ、ダクネラの中距離グラビティを警戒している。
「おや、彼は君の契約精霊なのでは?」
クリスチャートの肩に乗るスカルゴを見て、ダクネラは理由が分からないと首を傾げる。
「友よ、君は質問がしたかったのではないのかね?」
「ああ、私はそう望んでいたのだが、スカルゴは私の契約精霊ではないのでね」
「…何?」
ダクネラの意識がベルフェルに向いていると見たクリスチャートが、一瞬で間を詰めて来た。
「懲りぬ奴だ」
捕まえる直前、ダクネラは目前から消え、そしてクリスチャートの背後に居た。
「‼︎⁉︎」
今度は地面へと強力な力で押さえつけられる。
『か、解除なんだなっ!』
押さえつけられた力が和らぎ、クリスチャートは直に再び距離を取った。
『け、ケイオス様は、別に止めないんだな。だ、だ、だから目一杯邪魔してやるんだな』
スカルゴはかなり震えているが、しっかりと勇者の肩にしがみついている。
本来、契約者でなければ精霊は直接触れるという干渉はできない。
よく見ると、勇者の肩の一部だけ透明だが加護で光っている。
(なるほど、仮に加護を与えたのか。ベルフェルから切り替えたわけではなさそうだな。…いや、彼は契約者ではないと言った。という事は…?)
ダクネラは辺りを見渡す。彼等以外に、契約者になれそうな者は見当たらない。
未熟な契約精霊は、契約者から魔力供給できない距離まで離れる事はしない。
又、契約者も加護の力が薄れる為に離れ過ぎる事はしない。
見て分かるが、あの契約精霊はまだ中位精霊にもなっていない。
つまりは未熟で、魔力を提供している契約者が近くにいる筈なのだ。
「調子が悪いのか?だが好都合だ!今度こそ拘束する!」
クリスチャートは考え込むダクネラを、3度目の正直と捕まえに突進した。
「やはり脳筋は思慮が足りないな」
彼が軽く手をかざしただけで、クリスチャートは躱しきれずに勢いよく突っ伏す。
その刹那、ダクネラの背後から【不可侵領域】を解除したフローラの錫杖が振り下ろされていた。
シャン‼︎
錫杖は空鳴りした。確実に捉えた筈のダクネラの姿は無く、空振りしていたのだ。
直後に来る全身にのし掛かる重力に、フローラは両膝を地に着けた。
「どうかね?この神殿には数刻前から、ケイオスの力でグラビティが掛けられている。安全地帯に居た君には分からなかっただろう?身体強化を持たない配下の者達は、動く事すら無理の様だよ?」
不可侵領域を解除した事で、配下の2人は既に倒れていた。
フローラは、身体強化をLV2まで持つ為にこの程度で済んでいるに過ぎない。
「まぁ、この重力下であれだけ動ける彼は、流石は勤勉の勇者と言ったところか。だが、私の使える力は重力だけで無いと理解していなかったな」
「じ、時間…か?」
なんとか顔を起こすクリスチャートに、ダクネラは指差す。
「正解。だが自在に操る事はできない。それはケイオスが許可しないのでね。私にできるのは、多少の時間経過を止めるくらい。まぁ、ベルフェゴールの【怠惰感染】の上位互換だと思ってくれて良いよ」
「時間を…止め…⁉︎」
ここにきて初めて、クリスチャートの目に絶望感が浮かんだ。
巨大で理不尽な力を相手に、どう足掻いても勝てる未来が浮かばない。
彼は、気力で上げていた顔を遂には下ろした。
「ん?契約精霊が居ない?」
足掻くことをやめた勇者達の側に、あの契約精霊が見当たらない。
膝をつきかろうじて耐えているベルフェルの側にも居ない。
「おかえり、スカルゴ」
「⁉︎」
階層入り口から声が聞こえた。しかも1人ではなく多くの声がする。
「来たか、契約者!」
ダクネラは、浄化に抗う人間達だと直感的に感じ、心が高鳴り顔が緩むのを抑える事ができないのだった。
ミシッ!
僅か2歩。
純潔の勇者フローラの【不可侵領域】から飛び出して、地面を蹴れた数だ。
その2歩でも飛び出したので4mは進んだのだが、次の1歩を踏み出す前に、クリスチャートは天井に貼り付けられていた。
「な⁉︎か、体が浮いた?しかも天井から離れられない⁉︎」
「まさか、触れてもいないのにグラビティを⁉︎」
勇者2人は驚いているが、ダクネラは大精霊の同等の力を引き出せる契約者だ。この程度はまだ序の口だろう。
ただ、こうも高い天井だと、フローラは自分の特殊技能の円内には彼を入れられないから助けられない。
「いやはや、勤勉の勇者君は思慮が足りないな」
ダクネラはやれやれと呆れる仕草をする。
「ベルフェルの話した意味を理解せず、相手の力を見誤って無謀に突っ込んで捕まる。これがタカノブが言っていた脳筋と呼ばれる人種か」
クリスチャートを見る限り、彼は天井に張り付いたというより、天井に押し当てられているように見える。
「ぐっ、クソッ、何だこの力は⁉︎」
凄い力を入れているのにも関わらず、僅かに顔を天井から離せる程度しか動かない。
「無駄だよ。君は今、この世界の核たるものの重力の一部を受けているんだ。多少、君の体重と受けるベクトルは変えてあるのだけれどね?」
ダクネラの話から考察すると、クリスチャートの体重を軽くして、彼にだけ星の重力の一部と同等の圧を掛けているようだ。
身体強化LV5に達する彼が動けないのなら、並の人間なら潰れているかもしれない。
ダクネラは、そのまま動けない我々に向かい歩いて来る。
現状で、純潔の勇者の円から出るのは難しい。
唯一の安全地帯には違いないが、打開案も生まれない。
「どうしよう…。どうすれば…?」
フローラは錫杖を握りしめ、どうにかしてクリスチャートを解放できないかを考えているようだ。
「ベルフェル、道中でサイルという青年と会わなかったかね?」
「ああ、彼には歓迎されたよ」
ベルフェルが失った右手首を見せると、ダクネラは少し残念そうな表情を見せた。
「君達がここに来た時点で、彼が敗れたのは分かってはいた。彼はやんちゃだったからね。天井に張り付く彼のように、彼も脳筋の人種だったのかもしれないな」
遂に目前まで来てしまった。フローラの前にベルフェルが立ち、ダクネラと向かい合う。
彼女の今の【不可侵領域】の拒絶項目は、物理攻撃・魔法全般攻撃・状態異常だ。
仲間以外の侵入という拒絶は設定していない。
つまりは、誰でも容易に円内に入られてしまう。
「私が質問をしても?」
注意を逸らすというよりも、ベルフェルは元々その目的で来ている。
ダクネラは円の前でピタリと止まり、余裕のある笑顔を見せた。
「ああ、もちろんだとも」
「…長いこと会わなかったが、君の活躍はどちらの教団でも良く聞いていたよ」
「それは私もだよ。君がラエテマ王国のオモカツタの支堂長に就任が決まった際には、運命だと思った程だ。故郷に近かったのだ、親には会いに行ったのだろう?」
「…父とは疎遠でね。君も知っているだろう?」
2人の会話があまりにも親し気な事に、フローラは血の気が引く。
見た目はダクネラの方が若く見えるが、もしかしてダクネラとは古くからの仲間なの⁉︎
いや、彼はつい先程も命掛けで戦ってくれている。
司教で魔術士の彼が、大事な右手首を失ってまで私達を騙すメリットは無い。
だが、単独で神殿に潜入しようとしていた点は不審でしか無い。
クリスが動けない今、頼れるのは彼だけだけど、信用しきれない。
こんな時、私はどうすれば良い?
見上げた先のクリスは、何とか天井から離れようとまだ諦めずに足掻いている。
彼と彼女には見えないが、直ぐ近くまで無の契約精霊が近づいていた。
「それは残念だったな。もう彼とは会えないのだから」
「…⁉︎討伐が間に合ったのか⁉︎」
ベルフェゴールが討伐される事など無いと思っていた。
分身体がある限り本体に逃げられる。それはもう経験済みだった。
「…喜ぶのかい?仮にも君の父親だろう?それに、君も計画には賛同していたのだろう?」
「賛同していた内容とは違う!この世界には、浄化の必要がないもの達も居るだろう⁉︎」
突然、声を荒げたベルフェルに、フローラ達は驚く。
「ああ、まぁ順序に違いが出た事は申し訳なく思うよ。私としても、いろいろと予測を見誤ってね。ことごとく邪魔をされている様だ。君なら、その邪魔している者達を知っているのではないかい?」
「それは、単に両教団の頑張りだろう。彼等勇者も、こうして君に辿り着いた」
誓いの呪いが掛かるベルフェルは、決して空中公国月の庭の情報を出したりはしない。
「フム、それは確かにそうだが…。暴食の悪魔バアルゼブルだけは、どちらの教団でも神殿の所在地が分からなかった。それを、数刻前に見つけた者が居るのだ。私が知る魔王や勇者達、教団の者達には難しいと思う。当然、ここに居る彼等では無理だろう?」
ダクネラの冷淡なその視線に、フローラ達はビクッと震える。
もはや、私達は眼中に無いらしい。苦楽を共にしてきたこのパーティを馬鹿にされた気がして、フローラは奥歯を鳴らした。
(一度、領域を解除して物理攻撃を仕掛ける!見たところ、彼も魔術士タイプ。魔法を唱える前に抑え込めれたら、次の領域発動で動きを完全に封じれる。大丈夫、私達はこのままじゃ終わらない!)
フローラは片手を背に回し、背後にいる配下の2人に領域解除による行動パターンの合図を送る。
「復かーーつ‼︎」
フローラ達が動こうとした矢先に、移動できるようになったクリスチャートが落ちて来た。
「クリス‼︎」
「急に動けるようになった!」
粉塵を巻き上げ、ダクネラの中距離グラビティを警戒している。
「おや、彼は君の契約精霊なのでは?」
クリスチャートの肩に乗るスカルゴを見て、ダクネラは理由が分からないと首を傾げる。
「友よ、君は質問がしたかったのではないのかね?」
「ああ、私はそう望んでいたのだが、スカルゴは私の契約精霊ではないのでね」
「…何?」
ダクネラの意識がベルフェルに向いていると見たクリスチャートが、一瞬で間を詰めて来た。
「懲りぬ奴だ」
捕まえる直前、ダクネラは目前から消え、そしてクリスチャートの背後に居た。
「‼︎⁉︎」
今度は地面へと強力な力で押さえつけられる。
『か、解除なんだなっ!』
押さえつけられた力が和らぎ、クリスチャートは直に再び距離を取った。
『け、ケイオス様は、別に止めないんだな。だ、だ、だから目一杯邪魔してやるんだな』
スカルゴはかなり震えているが、しっかりと勇者の肩にしがみついている。
本来、契約者でなければ精霊は直接触れるという干渉はできない。
よく見ると、勇者の肩の一部だけ透明だが加護で光っている。
(なるほど、仮に加護を与えたのか。ベルフェルから切り替えたわけではなさそうだな。…いや、彼は契約者ではないと言った。という事は…?)
ダクネラは辺りを見渡す。彼等以外に、契約者になれそうな者は見当たらない。
未熟な契約精霊は、契約者から魔力供給できない距離まで離れる事はしない。
又、契約者も加護の力が薄れる為に離れ過ぎる事はしない。
見て分かるが、あの契約精霊はまだ中位精霊にもなっていない。
つまりは未熟で、魔力を提供している契約者が近くにいる筈なのだ。
「調子が悪いのか?だが好都合だ!今度こそ拘束する!」
クリスチャートは考え込むダクネラを、3度目の正直と捕まえに突進した。
「やはり脳筋は思慮が足りないな」
彼が軽く手をかざしただけで、クリスチャートは躱しきれずに勢いよく突っ伏す。
その刹那、ダクネラの背後から【不可侵領域】を解除したフローラの錫杖が振り下ろされていた。
シャン‼︎
錫杖は空鳴りした。確実に捉えた筈のダクネラの姿は無く、空振りしていたのだ。
直後に来る全身にのし掛かる重力に、フローラは両膝を地に着けた。
「どうかね?この神殿には数刻前から、ケイオスの力でグラビティが掛けられている。安全地帯に居た君には分からなかっただろう?身体強化を持たない配下の者達は、動く事すら無理の様だよ?」
不可侵領域を解除した事で、配下の2人は既に倒れていた。
フローラは、身体強化をLV2まで持つ為にこの程度で済んでいるに過ぎない。
「まぁ、この重力下であれだけ動ける彼は、流石は勤勉の勇者と言ったところか。だが、私の使える力は重力だけで無いと理解していなかったな」
「じ、時間…か?」
なんとか顔を起こすクリスチャートに、ダクネラは指差す。
「正解。だが自在に操る事はできない。それはケイオスが許可しないのでね。私にできるのは、多少の時間経過を止めるくらい。まぁ、ベルフェゴールの【怠惰感染】の上位互換だと思ってくれて良いよ」
「時間を…止め…⁉︎」
ここにきて初めて、クリスチャートの目に絶望感が浮かんだ。
巨大で理不尽な力を相手に、どう足掻いても勝てる未来が浮かばない。
彼は、気力で上げていた顔を遂には下ろした。
「ん?契約精霊が居ない?」
足掻くことをやめた勇者達の側に、あの契約精霊が見当たらない。
膝をつきかろうじて耐えているベルフェルの側にも居ない。
「おかえり、スカルゴ」
「⁉︎」
階層入り口から声が聞こえた。しかも1人ではなく多くの声がする。
「来たか、契約者!」
ダクネラは、浄化に抗う人間達だと直感的に感じ、心が高鳴り顔が緩むのを抑える事ができないのだった。
0
お気に入りに追加
2,702
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる