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第24章 それは世界の救世主らしいですよ⁉︎

353話 神の使い

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「確かにありました。スカルゴの印です」

 その印は、要塞都市の北東部にある三級魔人居住区の袋小路にあった。
 見つけたのはアフティが感覚共有しているメタリースライムで、小さなボール状になって転がって移動していた先で見つけた。
 無の契約精霊スカルゴのカタツムリの印が、突き当たりの建物の扉に残してあった。

「了解。一度従魔達を回収しようか」

 要塞都市の各所にバラけていた従魔達は、ゴンドラがある西部の工業区へと向かう。
 姿を隠せる羅刹鳥、シャドウハウンド、メタリースライムは難なく移動できたが、ダークユニコーンとモノキュラーオウルは、見つかり易い為に催眠と幻術を使用しながら進むしかなかった。
 それ故に、街中に設置されている魔導カメラにより、2体は姿を捉えられていた。

【侵入!侵入!都市内部に複数の魔物が侵入しました!住民は速やかに避難区域へ移動、警備隊の邪魔にならない様注意して下さい!】

 アラームとアナウンスらしき放送が流れ、建物の出入り口は鋼板のシールドシャッターで塞がり始める。

「アー君とアヤコさんは合流を急いで」

 ダークユニコーンはアヤコが、モノキュラーオウルはアー君が感覚共有していた。
 本来、モノキュラーオウルなら上空からの移動で早いのだが、対飛行戦艦の落下傘部隊対策用として、捕縛ネットの罠が張り巡らせてあるので、低空飛行を余儀なくされていた。

 先にゴンドラへと辿り着いたアラヤ達が感覚共有する従魔達は、ゴンドラへと乗るなり共有を解除した。

「アフティは、このままゴンドラを一度上げて従魔を回収して。2人の回収は俺が直接向かうよ。そのまま魔人達を撹乱して、遺跡入り口から遠ざける様に引きつける」

『馬鹿者!それではアラヤが危険だろうが』

「だけど、突入組と支援組を割くわけにはいかないからね。それに、耐魔鉱石ゴーレムを連れていくよ」

『むぅ…』

 風の大精霊エアリエルは、自分自身が決めた戒めにより参加できない事を歯痒く思った。

『ならばせめて、シルフィ達を連れて行け。でなければ、安心ができない。結界の維持は私がすれば問題ないからな』

「ありがとう、エアリエル」

『か、勘違いするでない。私も一応この月の庭モーントガルテンの王妃だからな?夫だけでなく国を守るのも当然な事よ』

 エアリエルの手を握る姿を見る限り、このアラヤが増殖技能による分身体だとはアヤコ達には思えなかった。
 分離分身には体積と性格の違いが現れていたが、この増殖分身体はそのまま本人ではないかと勘違いする。
 だからこそ怖くもある。こちらが本体の可能性もあるのではないかと。

「あの、アラヤ君?目立ち過ぎるのは控えて下さいね?」

「うん、分かってる。頃合いを見てテレポートで戻るよ」

 アヤコ達の不安をよそに、アラヤはゴーレムを回収すると、早速外壁へ出てモーントガルテンから飛び降りた。

「アヤ、あのアラヤは私が注意して見とくよ。アヤは作戦に集中しなきゃ」

「はい、そうですね。こちらも油断せずに攻略しちゃいましょう」

 気持ちを切り替えたアヤコは、突入組のリーダーであるニイヤに念話を繋いだ。

『ニイヤ君、現場の判断は貴方に任せます。最終目標はダクネラ教皇の捕縛、又は…行動不能状態になります。ただ、敵の勢力規模も、強さも不明です。アラヤ君の話にあったベルフェル司教は、誓いの呪いがあるので味方ではありますが、緊急事態の際に擁護する必要はありません。彼もテレポート持ちですから。最も重要なのは、全滅を招く様な強行手段は控える事。必ず単独行動はさせないで、メンバーは2人以上、テレポート持ちと組んで行動させて下さいね?』

『大丈~夫。向こうが多技能持ちばかりなのは分かっているし、最初からする気はないからさ』

 ニイヤの粗暴的な性格は、こういった作戦の時には頼りになる。躊躇による油断が減るからだ。
 細かい気配りは、夫であるアー君やクララが居るから大丈夫だろう。

『はい、お願いします。それでは、作戦開始です!』

 アヤコの号令と同時に、アラヤの降り立った西区から爆発音と煙が上がる。
 空中公国モーントガルテンが、建国して初のヌル対虚無教団に対する本格的な作戦が開始したのだった。



       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇



 大河の水中にある神殿。その最奥にあった厄災の悪魔用の祭壇前で、自身を神殿の護人だと称する娘、リアナの話を水の大精霊アーパス達は聞いていた。

「…オラが知っている神の使い様の偉業は、これで全部だぞ」

 彼女の話を要約すると、

・名前はバアルゼブルという名の恰幅の良い神の使い。

・前年の収穫物や供物を捧げ、盛大に祭り上げる事で、人々に豊穣を齎してくれた。

・大きな災い(疫病・飢饉・地震・洪水等)が起こる前に、信託としてと呼ばれる者に伝えていた。

魔物の異常発生デスパレードを使い自らの手で鎮めて下さった。

「巫女…。リアナも巫女なのかな?」

「オラは護人だぞ。最後の巫女はおばばだったぞ」

「何故、この神殿は大河に沈んでいるの?信託があるならば、こんな人が住めない場所に、あるべきじゃないよね?」

 信託を承る巫女がだいぶ前に亡くなった後は、誰も引き継がなかったのかな。

「オラ達の国は当然、異端者達に襲われたんだぞ!奴等は蒼月神フレイを信仰する賊だったんだぞ!奴等は巫女であるおばばを殺したんだぞ!」

 リアナはおそらく泣いているのだろうけど、水中では涙が見えない。だが、悔しいという表情でそれとなく分かった。

「君は何故助かったんだい?」

「オラは神殿を守る護人だぞ!護人は精霊を従えないとなれないんだぞ!オラが従えたマイマイは、結界が得意だったんだぞ」

 ああ、神殿を囲む結界か。中々に強い結界だった様な気する。それに、属性的に無属性の中位精霊で間違いないだろう。

「奴等は神殿に入れないと分かると、近くの村を襲い始めたんだぞ。だから私は、この事態の救世主となる神の使いに願ったんだぞ!「奴等をみんな」って!そしたら、そしたら突然神の使い様が姿を恐ろしい姿に変えたんだぞ…。異端者達は願い通りにみんな消えたぞ。だけど、村のみんなも消えたんだぞ…。その後に、使い様はオラごと神殿を河に沈めたんだぞ…」

 段々と当時を思い出したのか、リアナは顔を両手で覆い嗚咽を漏らす。
 助けを願った筈が、神の使いが聞き届けた奴等の定義が、異端者だけではなかった。
 彼女は初めに神の使いを見た事は無いと言っていたが、その出来事を今でも悔いていてついた嘘なのだろう。

「オラとマイマイは、2人だけで河の中に閉じ込められたんだぞ。結界を解こうものなら、神殿は激流で粉微塵になりそうだったんだぞ!だから出ないことにしたんだぞ」

 確かに元の激流を考えたら、神殿は崩れていただろうな。
 ある意味、結界を張った状態の神殿で大河に沈められたから助かったと言える。
 逆を言えば、神の使いバアルゼブルは、リアナと神殿すらも消すつもりだったかもしれない。

「無の大精霊ケイオスはいつ来たの?」

「…だいぶ経った頃だぞ。マイマイが、突然騒ぎ出したから驚いたぞ。結界に穴が開いて、大量の水が入って来たんだぞ!あの玉が開けたんだぞ!オラは死ぬ思いをしたのだけど、何故か平気になったんだぞ。あの玉は、来て早々に神殿を物色して宝を奪って回ったんだぞ。そしてオラを見て、お前もと呼ばれるのだなと笑ったんだぞ?」

 彼女の窒息耐性は、死ぬ間際にギリギリ覚えたのか。普通なら死んでいるな。

「玉は、しばらくオラを誘って来たんだぞ。玉の寝床の護人になれと。オラはハッキリと断ったぞ。「頭が気持ち悪いから嫌だぞ」って。そしたら、玉は怒ってオラとマイマイ以外の微精霊達を神殿から連れ出したんだぞ。それからずーっと、2人きりだったんだぞ…」

 うん、この子は自分の気持ちに嘘が上手くつけないんだな。
 だが今回の話で更に疑問が増えた。
 暴食の悪魔バアルゼブル。この悪魔が果たして、創造神ヌルの召喚を防ぐ救世主となり得るのだろうか?
 しかも今回の召喚によって、神の使いバアルゼブルか厄災の悪魔バアルゼブル、一体どちらが現れるのだろうか?
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