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第21章 その存在は前代未聞らしいですよ⁉︎

310話 穏便

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 中央通りにたどり着いた捕獲班のアラヤとアヤコは、特攻班が引き起こした事態に思わずため息をついた。

「キリが無いな!」

「更に、早く、裂けば!」

「バカにいや!これ以上増やさないでって言ってるでしょう⁉︎」

 アラヤとクララが大蛇達を切り裂いて回り、カオリがそれを上級闇魔法【底無しの渦潮ボトムレスメイルストロム】で闇の渦に沈めたり、同じく上級魔法の【影の寄生虫シャドウパラサイト】で自身の影に喰われてトドメを刺されている。

「おいおい、何やってるんだ本体。切り分けた分だけ増え続けるんだから、斬るは悪手でしょ!」

「それは分かってるんだけど、アーリマンの本体が消えちゃってさ。本体を探してるんだよ」

 その結果が、辺り一面に増殖した大蛇の群れか。

「ほら、感覚共有」

 カオリがみんなに感覚共有を掛けた。それと同時に脳内に浮かぶ魔力の流れと術式。

「私1人の処理じゃ終わらないから、みんなも協力してよね?」

 意図を理解したアラヤ達は、散開して大蛇の群れを囲むような配置に着く。
 そして両手を突き出すと、ごっそりと魔力が消費されたのを感じた。

「「「「底無しの大渦ボトムレスメイルストロノーム」」」」

 囲まれた大蛇達が、闇の濁流に巻き込まれながら逃げ出すことも出来ずに大渦の中心に飲み込まれていった。

「はい、終了!お疲れ様」

「終了って、カオリさん、これじゃ本体見つからないんだけど⁉︎」

「その点は大丈夫でしょ。まだ大蛇は港にも居たし。本体は別の場所に最初から居たんだと思うよ?」

 中央通りにいた大蛇が全て飲み込まれたが、街にはまだ大蛇の反応がある。
 しかし、アラヤ達の強さを理解したようで近付いては来なかった。

「ご主人様と、カオリ様は平気でしょうけど、私は今みたいな魔法を連発していたら、先に魔力切れになりますよ?」

 クララは魔力電池を使用して、消費した魔力を補充している。

「だからこそ、これ以上増やさずに、本体を叩かないとダメなんだよ。大蛇自体は大した強さじゃないけど、長期戦になったらこっちが不利になる。街を破壊して良いなら話は早いんだけど…」

「アラヤ君、それをおそらくアーリマンは知っているのでしょう。私達が街の破壊、住民の殺害をできないと。だからこそ、大蛇を街に潜ませ、住民を人質にする形に切り替え隙を伺っているのだと思います」

 確かに、街の破壊行為や住民の被害を出しては、国家となり初めてのアクションとしてはイメージが悪いかもしれない。
 軍事力を見せ付けるなら街ごと破壊でOKだろう。だがそんなことしたら、晴れて世界から排除すべき脅威認定されそうだ。

「ククク、貴様等が空中国家だってことは分かっているんだ。そのまま、地上で終わらない戦闘を繰り返していれば良いんだ。その隙に、俺がその国を落としてやる」

 本体であるアーリマンは、ボリスンの遥か上空から、アラヤ達が街中を駆け回る姿を見ていた。
 下半身の大蛇が無い姿でホバリングしながら、その浮いている国とやらを探していたのだ。

「ううむ…。しかし見当たらないな。隠蔽結界みたいなことをしているのか?」

 街の近辺を飛び回り探したが、見つからないのだからそういった対策はしていたのだろう。
 そう考えたアーリマンは、魔法で炙り出してやるかと詠唱を始めた。

「星の鼓動、カルマの躍動する流れと等しき存在である大精霊ムルキベルよ、何者もその猛る真意を冷ます事は出来ぬ。止める者はその愚行に懺悔するだろう。その片鱗を、同調せし我が助けとして開放せよ。視界に映る、全てを焼尽と化せ、フレイムインフ…」

 アーリマンは直前で詠唱を止めた。経験したことの無い悪寒がしたからだ。
 そして、それは的中していた。

『クハハハッ‼︎惜しかったな!』

 真上の雲が散り、ゴツゴツとした剥き出しの地肌が降りてくる。
 それが、浮いている大地の下部であることに気付く事は容易かった。

「更に上にいたか…」

 現在の浮遊邸には結界を張る精霊が足りず、姿を隠してはいなかった。
 エキドナとキュアリーが戻れば可能だが、今回は国を誇示する意味もあるので見せているのだ。
 そして、それを守るようにして飛んでいる巨大な翼竜がいる。

「暴風竜エンリルか…。惜しかったとはどういう意味だ?私はこのまま、上の国を焼き払うことができるぞ?」

『やってみるが良い。全て己に返るだろうがな。下はもう気付いているぞ?』

 エンリルが街を指差しニヤリと笑う。
すると、街中を駆けていた筈のアラヤ達が、こちらに向かって来ていた。

「あのバカ、バラしやがったな⁉︎」

 カオリを担いで木々を飛び走るアラヤは、アーリマンがこっちを凝視していることで、魔導反転しようとしていたことがバレたと理解した。

『上からは丸見えだ。貴様の行動は上の者達により彼奴らに伝わっている』

「それは親切にどうも!」

 アーリマンの魔力を込めた邪眼に、直視したエンリルは体が痺れた。

『ぐぬ⁉︎』

 その一瞬の隙を見て、アーリマンは浮遊邸へと侵入を試みた。
 エンリルは体に巻き付けられた闇の鎖で、みるみる落下を始める。

『小癪な‼︎フンッ‼︎』

 呪いカースの一種である邪眼の鎖を引きちぎり、エンリルは落下状態からなんとか立ち直った。

「フン、入ってしまえばこっちが有利だ」

 アーリマンは、来賓館の屋根から飛び降りると、先ずは手駒に使えそうな者を探し始めた。

「侵入者、排除します!」

 部外者の侵入を感知した竜人ドラッヘン姿のアラヤゴーレムが現れた。

「これは丁度良いな。我に従え!」

 洗脳をしようと、アーリマンは邪眼を使用する。
 一瞬、アラヤゴーレムの体がビクンと反応したが、再びアーリマンを捕らえようと動き出した。

「な⁉︎効いてないだと⁉︎」

 その早過ぎる動きに、アーリマンは逃げることが精一杯だ。慌てて建物内へと逃げ込み扉の鍵を閉める。

「あら、お客様ですか?」

 今度は、慌しく扉の閉まる音を聞いたメイドが2人現れた。

「エルフか、珍しい種族まで従えているな。まぁ良い、盾役には使えるだろう」



 エンリルに乗り浮遊邸に遅れて到着したアラヤとカオリは、騒ぎ声が聞こえる来賓館へと急いだ。

「みんな、無事か⁉︎」

「た、助けて…」

 そこには、羽根を踏み付けられ、ナイフを幾つも背中に刺された状態のアーリマンがいた。
 踏み付けて抑えているのはアルディスで、レミーラが新作の包丁を新たに刺しているところだったのだ。

「あ、お帰りなさいませ、アラヤ様」

 少し呆れ笑いを浮かべるディニエルが、起きた詳細を教えてくれた。
 来賓館に居たアルディスとディニエルに、邪眼で下僕化を図ったが失敗に終わり、アルディスと契約精霊モースに撃退されたアーリマンは厨房へと逃げ込んだ。
 そこには、サナエ、コルプス、新作包丁を持って来ていたレミーラが居て、短い戦闘の結果今に至っているらしい。

「クソッ、何で邪眼が全く通用しないんだ⁉︎しかも、精霊のせいで魔法も使えないとは!」

 少し哀れに見える程、アーリマンはボロボロになっていた。

『そりゃあ、当然じゃない。5属性の大精霊の加護がある領地内で、害を成そうとしている悪魔に魔法が使えるようにする訳無いでしょ?』

 シルフィー達契約精霊達が、アーリマンをケラケラと笑っている。

「5属性の大精霊…だと⁉︎バカな、風の大精霊エアリエルのみでは無かったのか⁉︎」

 アラヤが受けた加護は敷地内にも影響している。それは作物の成長速度等でハッキリと分かっていた。
 呪いが無効化されているのは、光の大精霊ミフル闇の大精霊プルートーの加護の影響なのだろう。
 つまりは、浮遊邸領地内では敵の魔術士は無力に近いというわけだ。

「話が違うぞ…!」

 アーリマンは、情報源であるタカノブの情報の少なさに苛立った。だが時既に遅く、身動きが取れないアーリマンは、呻く事しか出来ない。

「アーリマン、君に提案があるんだけど?」

 アラヤは身を屈めて、アーリマンに優しく語りかける。

「提案…?」

、どっちが良い?」

 何故か、その言い方にアーリマンは鳥肌が立つ。討伐しに来たからには、殺すのが目的な筈。封印は分かるが、被験体とは何だ⁇

「先ずは、大蛇の増殖は止めてもらってからだな。従わなければ、問答無用で被験体だけどね?」

 明らかに、被験体とやらが待遇が悪いことは理解できる。

「分かった。解除する」

 アーリマンがそう言うと、残兵と大蛇の対応に街に居るアヤコ達から大蛇が消えたと念話が届いた。
 それと同時にアーリマンの下半身に大蛇が生えてくる。

「暴れないんだね?」

 手足となる大蛇が生えたことで、近接戦が可能になった筈のアーリマンは、抑えつけられたままだった。

「どうせ無駄だろ?俺は無駄だと分かっている事に執着しないんだ」

「それは助かる」

 アラヤはアルディスにアーリマンを離すように合図する。
 体が自由になったアーリマンは、ゆっくりと体を起こすとアラヤと向き合った。

「お前が暴食魔王、且つ新たな国王か。見た目と能力が違い過ぎて笑えてくるな」

「見た目は余計だ」

「別に貶している訳じゃない。今までに無い存在って意味だ。それで?便に封印で済ませてくれるという条件は何だ?」

「封印に抵抗は無いのか?もう二度と悪魔界に戻れない上に、媒介となったから出られないんだろ?」

「可笑しな奴だな、お前が提案しているんだろうが。それに、俺は結構遊べたからな。今は満足している。どうせなら、気分良く終わりたいのさ」

 アーリマンの行ったそれが許される立場では無いのだが、アラヤは聖人君子では無い。 
 むしろ、知らない場所で勝手に起きた悲劇まで、請け負うつもりはサラサラ無い。

「そっか。なら、封印ってことで。じゃあ、封印に取り掛かるその前に、いろいろと聞かせて欲しいんだよね」

 アラヤは、討伐どころか、敵の新たな情報源を得たことにニヤリと笑うのだった。


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