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第21章 その存在は前代未聞らしいですよ⁉︎

308話 生命の檻

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 少し前に手に入れたアラヤの技能スキルの中に、【魂魄剥ぎ】と【生命の檻】がある。
 効果は文字通り、魂を剥ぎ取る技能と、生命を閉じ込めれるというもの。
 この生命に魂が当てはまるかは分からないが、試してみて損は無い。

 浮遊邸をボリスンの街よりまだ少し離れた地点で停止させ、一晩準備をすることにした。

「少し、森の魔物で試してみよう」

 アラヤはクララを連れて、荒れた森で技能の実験体となる魔物を探した。

「とりあえず、ホーンラビットと2匹とボールバイソン1匹か」

 実際にはまだ数は居たが、小腹が空いたアラヤが食べてしまった。
 結局は、クララが3匹とも麻痺させて捕まえたのだ。

「えっと、先ずはホーンラビット1匹に軽く傷を与えてから、【生命の檻】を使用して中に入れる」

 アヤコの渡された手順書を見ながら、アラヤは書かれている通りにする。

「うん、中でも生きてるね。空間内に入れると直ぐに檻が取り囲むのか…。傷により体力は減っているな。時間は経過しているみたいだ」

 現時点では、入り口がショーウィンドウの様になっていて、中の檻はフィギュアの様に小さく見えている。
 亜空間収納の場合、中では時間は影響しない。熱や劣化は止まっているから鮮度は保たれる。だが、生きた対象は収納できない。
 しかしこの生命の檻は、生きた対象を収監できる。そして、時間経過もあるようだ。

「えっと次は、もう1匹を感染力の高い毒状態にして入れる…エグいなぁ…」

 しかし、実験に犠牲は付き物だ。心を鬼にして、闇属性魔法のポイズンドロップでホーンラビットを毒状態にしてから中に入れた。

「あっ、同じ檻には入らないな。個体認識なのか…。後は、中で感染が広がるかだけど…檻部分に透明な壁があるな」

 出ようともがく2匹が、懸命に角を使い体当たりをしているが効果は無い。
 毒状態のホーンラビットが咳をしだしたが、隣の檻には飛んでいないようだ。どうやら檻は見た目だけで、禁固室の方が近いかな。室内感染はしないようだな。
 2匹とも、段々と弱ってきた。

「次は、技能自体に外から干渉できるかを試す。ああ、中にいる2匹にヒールとクリーンが使えるか?か」

 先ずはウィンドウの檻に触れてクリーン(LV3)で毒治療を行う。すると、効果は弱いが効いているようだ。
 次は傷をつけたホーンラビットにヒールを当ててみる。これも同様に、効果は通常より落ちるが効いている。

「これは、捕虜や調教テイムしたい魔物に使えますね」

「確かにそうだね。さて、次は本題の、魂が生命に当てはまるか?だね。先に、ボールパイソンに【魂魄剥ぎ】を使用してみる」

 技能発動と同時に、指先から赤い魔力の爪が伸びた。その爪でボールパイソンの尾に触れると、そのまま擦り抜けた。

「魂だけに触れるってことかな?なら、頭かな?心臓部かな?」

 魂の在処には諸説あるけど、この世界では頭だったようだ。
 爪に引っ掻けられて剥がされた魂は、形があやふやでゆらゆらと揺れている。
 抜き出た後の体は、ダランと力も抜けみるみるうちに体温も無くなっていく。

「よし、入れてみよう」

 この爪から離れると目に見えなくなるようで、魂がちゃんと入ったか分からなかったが、ウィンドウには新たに檻が増えていた。

「あっ、こうなるのか!」

 檻の中には確かに魂が存在していて、あやふやだった形がボールパイソンの姿に形付いている。
 その上、言葉も発しているではないか。

「…凄いな。この世界では、魂は生命と判定されているみたいだね。となると、大司教の理論上なら禁呪阻止には使えるのかな?」

 でもそうなると、カオリの仮死状態デスタイム時の魂の在処はどこにあったんだ?亜空間収納には遺体として入れた訳だし。
 魂の有る無し関係無く、生命活動停止状態が判定ラインなら、亜空間収納の基準が意外と曖昧だな。
 ピラーに頼んで試しておけば良かったかな?

「最後は、奪った魂が復活に使えるか…?うん?これって…」

 深く考えるのは後にして、今度はその魂を取り出して、ボールパイソンの遺体に戻してみる。
 爪で摘むようにして取り出した魂を、冷えた遺体に押し込んでみる。
 魂はわりとすんなり入ると、直ぐに体に馴染んでいく。

「鼓動を確認、体温も徐々に上昇。蘇りましたね…」

「……。これは更なる検証が必要になるね。特に、この爪がどの程度使えるかの検証がね」

 その後は、【魂魄剥ぎ】を用いて生きたままの魔物にどれだけ有効かとか、見えなくなった状態の魂を掴む事ができるか等を検証した。
 結果、意識レベルがハッキリしている対象からは掴めるが剥がせない。
 複数の魂を辺りに解放し、手当たり次第に爪で捕らえようとしたが、思うように触れられなかった。
 魂を視認できる技能が有れば良いのだけど。
 おそらく悪魔達なら持っていそうだよね。
 こんな事なら、下級悪魔とかをもっと食べてれば良かったな。
 放置された魂達は、しばらくすると体へと帰ってきた。これは、死んだ遺体にも同様だった。
 つまりは、亡くなって間もない遺体には、魂がまだ残っている可能性が高いという事だ。

「…手当たり次第、遺体に残る魂を剥いで回るしかないかな?」

「ご主人様、サナエ様の舞も試すべきでは?」

「あ…そうだね。とりあえず、とりあえずは調べてみるか…」

 アラヤ達は浮遊邸に帰り、結果を嫁達に話した。結果を見た一同は様々な反応を見せた。

「これは…体を変えて蘇生する事も可能だわね…。生命神テヘヌートへの冒涜とも取れるかもしれない。例え体がゴーレムだとしてもね…」

「でも、無念な死を遂げた人達には救いの力になるのかも」

「私としては、成仏させるのが一番だと思う。それに、私の【鎮魂の舞】が、魂に有効かを知りたいのよね?」

「…あくまでも、検証だからね?」

 アラヤは、檻へと閉じ込めていた魂を2つ取り出した。
 視認できるように掴んだままの状態でいると、サナエがゆっくりと舞を始める。
 鎮魂の舞はまだスローテンポの舞なので、お腹への負担は少なくて済みそうだ。

「あっ…」

 魂はワナワナと震え出し、霧が晴れる様にサァァ…と消えてしまった。

「フフフ、どうやら、私の舞は魂の浄化も可能の様ね!」

「まぁ、結果としては分かったけど、アーリマン討伐には参加させないよ?」

「分かってるわよ」

 しかし、この結果が大きいのも事実。今後の禁呪対策でも、彼女の舞を案から外して考える事はできないだろう。

「アラヤ君、まだ最後の検証が残ってますよ?」

「へ?」

「食べていませんよね?」

 食べる?魂を?と思ったが、気になった時点で、試さないわけにはいかなくなっている。
 ワクワクと結果を見たがるアヤコ達に観念して、魂を2つ取り出す。
 開けた口にそれを入れて噛んでみる。だが、スカスカと噛めずに終わった。

「では、今度は【弱肉強食】で食べてみてください」

「う~ん、一緒じゃないかな?確か、アンデッドには効果無かったよね?」

「食べてください」

 ニコニコと笑顔でも、圧を感じるので諦めて従う。

「弱肉強食、いただきます!」

 パクッと魂に噛み付くと、口の中に旨味がジワっと広がる。

『ボールパイソンの全ての技能を食奪獲得イートハントしました。既存技能の経験値に加算されました』

 脳内に流れる声に、アラヤはショックを受けた。

(この特殊技能ユニークスキルだと、レベルが上がったら魂まで食べれる気はしていたんだよね。ゆくゆくは、精霊が相手でも可能になるかもしれない)

 その意味を考えただけで身震いする。自分はもう、全てを喰らってしまう存在になりつつあるのだ。
 その先にあるのは、周囲から向けられる畏怖の念。
 ああ、段々と孤立していく自分が見えてきそうだ。

「…その様子だと、食奪獲得は可能そうですね?分かりました。では、検証は終了です」

 アヤコは特に驚きもせず、淡々と手帳に記入すると笑顔を見せた。彼女の中では、既に予想の範疇だったようだ。
 俺の心配はなんだったんだ?

「それと、感覚共有を忘れてますよ?弱肉強食を使用する際に、近くに家族がいる時は快楽を共有するって。それで、味的にどうでした?」

「え?ああ、まぁ食感は水大福かなぁ。旨みはじわっと広がるけど少なめだったよ」

「水大福、食べたいですね~。旨みが少ないのは質量が足りなかったのかもしれませんね。次の技能使用時は、みんなと共有してくださいね?」

 そういえば、最近はこの共有の約束を忘れていたな。
 アヤコもカオリも、同等の快楽を得られるけど、みんなと共有しようとはならない。快楽を得る方法が問題があるからだけど。
 その点で、アラヤの食奪による神の快楽はリスクは少ないし、依存し過ぎる心配は無いと言える。

「うん、分かったよ」

「じゃあ、準備の続きを頑張りましょう。禁呪対策の幅も広がったことですし、まだまだできる事はありそうです。アラヤ君の言う通り、できる事は多くやっておきましょう」

 その後は、望遠眼が視認可能なギリギリから街の様子を観察。その上で、シミュレーションを混ぜた作戦も立てたりも行った。

「街は敵も住民も壊滅状態に近い。残された住民は、大司教の到着までもたないだろう。明後日、厄災の悪魔アーリマン討伐戦を決行したいと思う」

「そこは、思うじゃなくて決行する!って言いなさいよ。アラヤはもう国王なのよ?」

「サナエちゃん、直ぐには無理ですよ」

「別に、にいやは変わる必要はないんじゃない?」

「私もそう思います。ご主人様は今のままが一番です」

 なんとも緩い感じで締まらないが、空中公国となって初めての大仕事の開始が決まったのだった。
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