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第21章 その存在は前代未聞らしいですよ⁉︎

301話 勇者達の情報

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『やぁ、おかえり』

 アラヤ達が、クモワスの街の近くにある神殿の探索を終えて浮遊邸に帰宅すると、来賓館の入り口前で光の大精霊ミフルとフレイ美德教教皇及び慈愛の勇者が待っていた。

『ごめんね、勝手にお邪魔してるよ?』

 テヘッと、少しも悪びれていない笑顔で謝るミフルに、言っても無駄だろうなとアラヤはため息をついた。

「貴方が、今期の暴食魔王殿ですか?」

 ミフルの背後から静かに姿を現した教皇は、司教冠ミトラを脱ぎ一礼した。

「私の名は、ヨハネス=オ=ドワーズ。フレイ美德教教皇を任されています。私が慈愛の勇者も兼任している事は、存じているようですね?」

 突然の彼の出現に、既にアスピダ達が厳戒態勢を敷いている。
 しかし、当の本人には戦う意思がないように伺えるので、アラヤの反応待ちという感じだ。

「初めまして、ヨハネスさん。教皇様、いや、勇者様って呼んだ方が良いかな?」

「いや、今この場の私は、教皇でも勇者でもありません。ヨハネスで構わないですよ」

 そう言って見せる笑顔は、教皇としてのカリスマ性を感じさせる。

「ミフル様、立ち話もなんですし、中で話しましょうか?」

『良いのかい?』

「ええ、もちろん」

 ミフルとしては、エアリエルが見当たらない事を気にしていたようだけど、勝手に来ている時点で、怒らせることに変わりはないからね?

 アラヤは、2人を来賓館の応接間に案内して、クララにお茶の準備を頼んだ。

「それで、今日はどういった御用件でいらっしゃったのですか?」

『う~ん、君達の行動が気になってね?』

 ミフルは、念写の技能スキルで指先からディスプレイ画面を見せる。そこには、遺跡を調べるアラヤの姿が映っていた。

「大罪教団の極秘案件だから、内容は言えないよ」

「いや、内容を探るつもりはないよ。ただ一応、フレイア神殿といえど管理は帝国領地内の大罪教だからね?彼等には許可を得ているのかい?」

「ああ、問題無いよ。許可は得ている」

「そのわりには、団員から隠れている気がするよ?」

の団員達からは嫌われていてね。ほら、例の暴風竜の件で」

 アラヤが手甲の従獣紋を見せると、ヨハネスは頷いた。

「ああ、なるほど。君の仕業だったか」

「違う。あれは奴の独断だ」

「フフ、冗談だよ。あの詳細はミフルから聞いている。風の大精霊からの罰で、話はついているよ」

 そういう冗談は分かりづらいんだよ。笑えないし。
 クララが紅茶を淹れて差し出すと、ヨハネスは何の疑いも無しに口に含んだ。

「仮にも教皇なのに、無警戒過ぎじゃないかな?」

「そうかな?普通に美味しいよ。それに、ミフルから加護を受けた君達が、そんなマネをするとは思えないからね」

 この男はなんなんだ?世間話をする為に来たわけじゃないだろう?

「それにしても、よく浮遊邸ここに来れましたね?ミフル様にも見抜けないように努力したつもりでしたが…」

『うん、見事な結界だったよ。だけど、透明化に光の屈折を利用するなら、水属性が欠けてるよ?』

 ああ、シレネッタが抜けていたから分かったのか。以前より強化していただけに少し納得いかなかったんだよね。

「そうまでして来たのには、ちゃんとした理由が本当はあるんですよね?」

「…そうだね。一つは、貴方の隣にいる強欲魔王さんが、フレイア美德教の教皇は帝国に肩入れし過ぎていると仰ったと聞いてね?」

「⁉︎」

「私は事実を述べただけです」

 アヤコとアスピダが、美德教団にも反乱分子の鎮静化を促す為に発破を掛けたことを言っているのだろうが、気になるのはそこじゃない。

「なるほど、貴方は鑑定レベルが5以上なんですね?」

「まぁ、私は目が良くてね。そのおかげで教皇の座に着いたと言っても過言じゃないかもね?」

 鑑定だけで、教皇の座に最短では着けないだろうということは分かっている。他にも精霊視認のような見える技能を幾つか持っているのだろうな。

「まぁ、彼女に指摘された事は、事実だから否定はできない。今や世界各地で起きている争いの火種を鎮火する事にはもちろん賛成だけど、先走る帝国の軍を抑える事も重要なんだと分かって欲しいな」

「帝国軍を抑制しているとでも?とてもそうは見えませんが…。ラエテマ王国への侵攻や、大罪教団施設への強襲等…現に、寛容の勇者はヌル虚無教団側に付いていましたし」

「ハハハ…君は手厳しいな。美德教内部にもトランスポートの繋がりがある者達が多くてね。それを淘汰するにも時間が掛かるのさ。勇者達に関しては、言わば同期だからね。私の言う命令なんて、聞く気は持ち合わせていないんだ。全く悲しくなるよ」

 勇者間では、教皇という立場は関係無いらしい。まぁ、それは魔王間でも同じかもしれないけど。

「では、今の勇者達が、敵か味方かも不明なんですか?」

「ん~、彼等には独自の正義と信念があってね。寛容の勇者モア君も、彼なりの正義を見て敵側についたのだと思う。私が今の勇者でヌル虚無教団側でないと考える者達は、忠義の勇者スナイプス君、分別の勇者ジャッジ君、勤勉の勇者スタディ君、純潔の勇者ミュゲット君だね」

「寛容以外に、あと1人の勇者は?」

「…節制の勇者タカノブ=ブリアトーレ。変わった人物でね。何を考えているか、私にも視えないんだ。ただ、彼の資質から考えれば、欲望の象徴たる君達魔王の存在は敵だろうね。だから、ヌル虚無教団側というより、アンチ大罪教という印象かな?」

 タカノブという名からして、日本人とのハーフかな?

「せっかくだから、各勇者の特徴や特技も教えてもらえないかしら?」

「それは、色欲魔王さんも何かしらの情報を出してくれるという事で良いのかな?」

「そうね。情報次第かしら?」

 当然のように、カオリを色欲魔王と見抜いて会話するヨハネスは、顎に手を当て考えている。

「仲間を売るようで、流石に特技は教えられないが、そうだね…見た目と性格ぐらいは教えても良いかな?」

 ヨハネスも、ミフルのように念写を使用した。

「先ずは、分別の勇者ジャッジ君。正義感が人一倍強い彼は、人助けが趣味みたいな漢だね。彼はラエテマ王国だけじゃなく、帝国やムシハ連邦国でも、弱きを助ける正義の勇者だったよ」

 うん、知ってる。彼は、昔ながらのRPGの勇者みたいだよね。

「次に勤勉の勇者スタディ君。彼は普段から鍛錬を欠かさない、いわゆる脳筋ってやつだね。強い相手、困難なクエストを好み冒険者として活躍している。故に、彼が好む依頼があれば簡単に使われる。今回、彼はレニナオ鉱山の古竜退治で、結果的に王国侵攻に加担したが、本人は利用された事には気付いてもいないだろう」

 ああ、王都で戦った勇者だね。奴にはレベルがあって、上がる度に飛躍的にステータスも上がるという、戦いが長引くだけ余計に強くなる相手だった。

「そんな彼とペアを組まして制御しているのが、純潔の勇者ミュゲット君だね。彼女は、美德教団の聖女という役職でもある。何故、彼女には彼の舵取りを一任してあるのかと言うと、スタディ君は強者には悪人でなくても戦いを挑むから、冒険者や一般人の被害者が絶えないんだ。そんな被害者を減らす目的と、スタディ君のイメージダウンを防ぐ為なんだ」

 要は、厄介な案件を押し付けられたのか。
そのわりには攻防のコンビネーションは良かった。まぁ、あのコンビは個別に相手しないと勝てない相手だな。

「続いて、忠義の勇者コーリー=スナイプス。彼はグルケニア帝国軍の大佐をしている。まぁ、義理人情に厚い人物だよ。悪く言えば、軍の言いなりだね」

 容姿は、筋肉質な体型の黒人青年。肩幅が広く、アメフト選手を彷彿とさせる。
 ただ、その表情は堅く生真面目そうな印象だ。

「最後は節制の勇者タカノブ=ブリアトーレ。彼は…」

「「「オタクじゃん‼︎」」」

「え?」

「あ、ごめんなさい。続けて?」

 映し出された念写の姿が、アニメキャラクターのヒロインTシャツを着た、そばかす顔の小太り青年だった。
 派手な黄色の額縁メガネを曇らせる姿は、アラヤ達が想像する外国人オタクにピシャリと当てはまっていた。

「うん。まぁ、彼の言動は一貫性に欠ける事が多くてね。直ぐに情緒不安定になり引きこもるんだ。だがそれでいて、真面目な場面には驚くほどに的確な統率力を見せる。良くは分からない人物さ」

 ううむ、アニオタの可能性がある以外、他には何も大した情報が無いな。
 見た目も強そうに見えない。まぁ、虚無教団側に付いている可能性はあっても、勤勉の勇者ほどの脅威ではないな。

「さぁ、私は話しましたよ?貴女も何か話して下さい」

「そうねぇ、じゃあ魔王と勇者の新情報を教えてあげるわ」

「魔王達の情報ではなく?」

「ええ。それはね……憤怒魔王と寛容の勇者が死亡したということよ」

「な⁉︎それは本当ですか?」

「そうだね。…どちらも、ヌル虚無教団絡みで情報が出回っていないのだけどね」

「う~ん…虚無教団についたとはいえ、モア君の強さは知っている。憤怒魔王についても、亜人ばかりのパガヤ王国で将軍の地位についた実力者だった筈だ。そう簡単には倒されはしないだろう?まさか…」

 ヨハネスの視線がアラヤを見た後、カオリを見て止まる。

「…貴女がトドメを⁈」

「…視えたのかしら?」

 痕跡視認とは違う、個人の過去視認だろうか?ヨハネスは2人が関わっている事にも気付き、カオリが倒した事を言い当てた。

「言っておくけど、正当防衛よ?」

「はい、そのようで。別に責める気は無いですし、敵対もしたくはありませんよ」

 争うなんてとんでもないと、手を振って否定する。

「できる事ならその力、ヌル虚無教団を叩く為に貸していただきたい」

 アラヤに、スッと差し伸ばされた手。
 協力ソレこそが、今回浮遊邸に来たヨハネスの真の目的だと分かったのだった。
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