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第20章 責任は押し付けるものじゃ無いですよ⁉︎

297話 罪悪感

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 頭が痛い。
 それは、自らの判断ミスにより、敵の移動手段の特定と追跡を怠った事。
 優先順位が合流だったとはいえ、結果的に自分達が到着する前に戦いは終わっていた。

「その確認をしたとして、アヤコさん達が巻き込まれない補償は無いよ?相手は教皇だし、当然護衛は強者が居ただろうからね。俺としては、単身で危険を犯してまで調べに行かなくて良かったと思ってるよ」

 アラヤに打ち明けると、逆に良かったと咎めることは無かった。
 だが、再び出発の予定日が近付くにつれ、闇雲に各地で起きている戦地に向かう非効率の原因が、自分にあると思えて仕方なかった。

「アヤコさん、考え過ぎだよ。次の予定地が定まらない事を、アヤコさんに責任を押し付けないさ。そもそも、アスピダもそのおかげで結婚できるようなものだよ?」

「そう、ですけど…知ると知らないでは対応の仕方が…」

「はい!もうその話は終わり!さぁ、新技能スキルの検証、やるの?やらないの?やらないなら、カオリさんと変わってもらうよ?」

「も、もちろん、やります!」

 カオリは、アスピダの儀式の為に特訓をしていた。
 その内容は、聞いた試練内容と同じだ。
 アフティの従魔のデビルマンバに足を絡ませた状態で、オードリーが木槌で叩き、クララがフレイムで炙るのだ。
 もちろん、デビルマンバには耐性を付与してある。
 アスピダにも、アヤコが以前に複数(物理、魔法、熱、麻痺)の耐性を与えている。痛みに関しても、鈍感痛覚の技能があるから、今更特訓は必要無いかと思うのだが、サナエ曰く、夫となる心構えが必要なんだそうだ。
 俺にあっただろうか…?

 アスピダの事はカオリ達に任せて、アラヤはアヤコと広場へと移動する。

「今回の戦いでは大きな成果がある。一つは勇者の技能を得る事ができたことと、もう一つは快楽睡眠の対処法が見つかった事だね」

「確か、カオリさんのかたきの寛容の勇者でしたね。勇者相手に【弱肉強食】を使用して、快楽睡眠にならなかったんですか?」

「いや、なったよ。分身体達がね」

 今回、特殊技能ユニークスキルを使ったのは3人の小さな分身体で、3人共に使用した後で快楽睡眠に陥った。

「大きな分身体が、その小さな分身体を回収したんだけど、睡眠の影響は無かったんだよね」

「それはつまり、この先【弱肉強食】の使用は分身体にさせるって事ですか?」

「戦闘中、もしくは相手が勇者や魔王といったいった強者ならそうなるね」

 正直、本体があの快楽を味わえないというのは拷問だと思う。分身体が味わっているから納得するように努力するしかない。

「しかも、分身体1人につき1つの技能を奪っているから、計3つの技能を奪えた。その中の1つは特殊技能だし」

「それは良かったですね!」

 もしかしたら、俺が特殊技能を食奪獲得イートハントしたから、勇者の倍返し能力が不能となってカオリのデスが届いたのかもしれない。

「それで、その勇者の遺体はどうされたんですか?」

「ああ、遺体は闇の眷属竜ニュクスが、眷属のゾンビにするって預かってるよ」

 アンデッドや死肉からは、技能を食奪獲得できないからね。カオリの為には、忘れる為に遺体は火葬した方が良かった気がするけどね。

「今回、新たに勇者から得た技能は、特殊技能の【受罪寛容】、【超適応体質】は、物理耐性、魔法耐性、精神耐性、以外の熱耐性や毒耐性等の状態異常耐性と吸収合併して、【不変者】に昇華した。残りは身体強化で、経験値が上がってLV5になったよ」

「カオリさんのはなしだと、確か【受罪寛容】は受けたダメージを倍返しするんでしたよね?」

「それが、鑑定では受けた攻撃と表記してある。だから、ダメージは関係なく、受けた魔法を倍返しだと思う。ただ、勇者はコレを100%受けてから返してたらしい。まぁ、魔法耐性の強い鎧を装備していたみたいだけど。つまりは、必ず受ける必要はあるけど、ダメージ量は関係なく、攻撃を倍返しって事じゃないかな?」

「なるほど。受けた事象の倍返しなんですね。ひょっとしたら彼は、魔法耐性が無かったのかもしれませんね?だから、常に魔法耐性の高い鎧を着ているしかなかった」

 確かにそうかもしれない。現に彼は自分からは魔法を使わなかった。俺には魔法は効かないとアピールし、自身が得意な物理戦に持ち込む。ひょっとすると、魔法の技能も持たなかったのではないか?

「とりあえず、今から使用するからヘイストで試してみて?」

 アラヤが【受罪寛容】を発動させると、直ぐにアヤコがヘイストを掛けた。

「…体に受けたヘイストとは別に、確かに手に大きな魔力ができたよ」

 アラヤはその魔力の塊をアヤコへと向けて放つ。すると、アヤコには倍掛けのヘイストが発動した。

「これは、ダメージカウンター以外に、バフにも良いかもね」

 高速で頷くアヤコに思わず吹き出したら、高速チョップで沢山叩かれた。

「…それにしても、アラヤ君は幾つも魔王や勇者から特殊技能を手に入れましたね。今持っているのは4つですか?」

「そうだね。先ず、暴食王の特殊技能の【弱肉強食】、そして暴食王のLVUPで手に入れた【生命変換】。そして分別の勇者の【分断別離】、そして寛容の勇者の【受罪寛容】だね」

「私の持つ【技能与奪】も、ゴウダから奪ったものでした。【分断別離】もコウサカさんが勇者から奪ったものでしたし、思った以上に特殊技能は奪われ易いものなのかもしれませんね?」

 言われてみたらそうだ。寛容の勇者からは全ての技能を奪ったわけではない。ランダムで奪う確率な筈だが、コウサカも一回で奪っているあたり、優先的に奪っているのか?
 それとも、やはり運の要素が高いのか?

「つまりは、俺の【弱肉強食】も奪われ易いかもしれないんだね?」

「あくまで、可能性ですけど。…でも、固有技能とは違い、譲渡可能な特殊技能が持つ意味って何だと思いますか?」

「意味って……まさか⁉︎」

「はい。私がそうだったように、素質がある人物が特殊技能を与えらた場合、転職ジョブチェンジする可能性があるんです」

 アヤコは初めは伝導士という職業だった。確かに、彼女にゴウダの特殊技能を与えたことにより、彼女は強欲王へと転職した。
 だが、それは元の持ち主が素質の消失、又は死亡した後なのだろう。
 既に、寛容の勇者ユートプス=モアは死亡している。

「つまり、俺達の家族の中に、寛容の勇者を生み出せるって事だね?」

「はい。これは凄い事だと思うんです!この浮遊邸には既に魔王が3人居るんですよ?更に勇者まで加われば、おそらく帝国の軍事力をも、凌駕する存在になれる。私達は、単独でヌル虚無教団に対抗できる家族になれますよ?まだ不安なら、コウサカさんの特殊技能も奪…」

「待って!」

 アラヤは、ガシッとアヤコを抱きしめて黙らせる。彼女の目の焦点がブレていて、悦に浸る表情になっていたのだ。

「だって、全て手に入れられるような存在になるんですよ⁉︎複数の禁呪を扱えるカオリさんに、大精霊のエアリエル様と暴風竜エンリルもいる!地上より遥か上空に構え、誰にも手出しできない。だから、だから、早くヌル虚無教団を止めないといけないんです!そうすれば、全てアラヤ君が望むままに奪える世界に!私が、満たされる世界に‼︎」

 彼女は、強欲魔王の快楽に呑まれ掛けている。アラヤは、ただ強く抱きしめて落ち着かせる。

「なのに、それなのに、私は…」

 彼女の脳裏に、先代の強欲魔王達の成れの果てが浮かび上がる。それは、彼女の魂に刻まれたフレイア神の記憶。
 フラッシュバックされるその記録は、かつての魔王達が欲望に溺れた結果だ。

「ううっ、うっ、ごめんなさい…」

 快楽が冷め冷静になるにつれ、アヤコは泣き崩れた。

「わ、私、強欲魔王の快楽を知ってから足を引っ張ってしまっています…平静を装っているけど本当は、みんなの技能を奪いたい!全て私のものにしたいって、考えている自分がいるんです!今だって、本当はアスピダとアフティを祝わないといけないのに、違うことを考えてばかりで、このままじゃ…」

 快楽の誘惑と失敗のストレスで、彼女は一杯一杯の状態だったようだ。アラヤは彼女を抱きしめたまま、ギュッと拳を握る。

(アヤコさんごめん、分断別離‼︎)

 彼女の後頭部に、特殊技能を軽い力で当てる。

「うっ…」

 意識を失った彼女を、ゆっくりとソファに寝かした。
 彼女の、失敗に対する不安と強欲に溺れたことへの後悔を切り離そうと技能を使った。
 上手く効果が出ている事を願い、ゆっくりと彼女の意識を起こす。

「ん…」

「アヤコさん、大丈夫?」

「…?一体、何があったんですか?」

 ゆっくりと起き上がるアヤコは、辺りを見渡す。
 記憶が飛んだのか、繋がりを離したのか、その結果は大きな違いだ。

「さっきまで技能検証をしていたんだ。それ覚えてる?」

「…はい、覚えてますよ?でも、何でしょう?胸につっかえていた何かが分からないんです」

「そう?何か今、新たな特殊技能で思い付いた事はない?」

「う~ん、今は特に…。それよりも、ミュウとサハドが式後には浮遊邸に来るんですから、アスピダとアフティの部屋の改装をお願いしますね?私は、トランペットの練習を頑張りますから」

「ああ、そうだね」

 記憶ではなく、不安や強欲の誘惑に対する感情の欠落。これは成功したということか?
 効果がどれだけ続くのか、それとも永遠に戻らないのかは分からない。
 ただ、平和に、最善策と考え使用したにも関わらず、アラヤは彼女に対する罪悪感が消えないでいた。

 
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