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第20章 責任は押し付けるものじゃ無いですよ⁉︎

296話 禁呪の影響

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 コウサカの、仮の王城となったアラヤ特製の魔鉱石屋敷。
 引き渡して3日目、アラヤとカオリが立ち寄ってみると、外観は既に変更されていた。
 繁殖力が強いお化けツタが、外壁にはびっしりと覆われて年季ある洋館のようだ。
 番犬代わりのオルトロスが建物周辺を警備していて、アラヤに気付き駆け寄ってくる。

「「陛下に御用ですか?」」

「うん、禁呪の調査報告等をね」

「「了解です、少しお待ちを」」

 オルトロスは屋敷の玄関に行き、2、3度吠える。すると、扉が少し開いて要件を伝えている。

「暴食魔王殿、どうぞ!」

 アラヤ達が玄関に来ると、扉がゆっくりと開かれた。

「ジョスイさん⁉︎」

 出迎えてくれたのは、宰相のジョスイだったのだが、顔は腫れあがり歯が数本抜けて、服もボロボロになって見る影なかった。

「ようこそ、暴食魔王殿」

 言語理解が無ければ、モゴモゴと意味不明に聞こえるのだろうけど、そんな解読不能な言葉でも理解できるって、技能スキルって凄いと思うよね。

「大丈夫ですか?」

 リッチは死霊系なのでヒールによる治療はできない。死霊系魔物の回復には、死肉や魂の捕食しかないのだ。

「問題無いです。陛下はリビングでお待ちです」

 誰にやられたかは明白だったが、触れてはいけない気がしたのでこれ以上は聞かないことにした。

「あら、一色さんも来たのね?もうお体の方は良くて?」

「ええ。ようやく慣れてきたところよ(仮死状態デスタイムが無くなったことに)」

 カオリは、寛容の勇者が死んだ事で仮死状態が無くなり、通常通りに起きていられるようになった。
 習慣となっていた影響か、眠気はまだあるものの、体力や集中力も、以前に比べてある。
 変化は技能にも影響があり、彼女の技能の【即死無効】も【即死耐性】に下方修正されていた。
 ただ、仮死状態に陥る際の仲間達に掛ける迷惑や不安からは解放されて、彼女自身はとても良かったと喜んでいる。

「それで、あの白い空間の事は何か分かったの?」

「ええ、少しはね。魔素の残滓から、光属性をベースに風、水、土属性魔素を練り合わせた合成魔法だと分かったわ。外部から対属性で影響を与えても効果無しだったわ。吸引しても空間だから効果無し。ただ、生物が空間内に入る事は可能だけど、生活はできない。空間内は魔素自体が光を放っているから影はできない。もし、中に入ったとしたら、確実に視力はダメになるわ」

 これは、空間内に入ったチビアラヤにカオリが感覚共有して調べた結果だ。
 正直、検証後の融合した際に影響がでないか心配した。
 一応は大丈夫だったけど、カオリの予測では、大精霊達の加護を持つアラヤ以外では無理かもしれないと言われた。怖い

「…入らないわよ。そんな解析内容を聞かされても、私にはさっぱりだわ。そんな事よりも、私が知りたいのは対処法なの」

「…結論から言うと、あの空間を現時点では消す事は不可能よ。ただ、使用された魔力量と内部にある魔素量を考えれば、永久的不滅ではないわ。今現在も爆心地から拡張しているわけだけど、広がる度に内部の魔素量も減っている。つまりは、放置していれば勝手に消滅するってわけ」

「そうなの?じゃあ、どれくらい放置すれば良いのかしら?」

「…20年ってとこかしら」

「ちょっ、長くない⁉︎」

「絶望する程じゃないでしょ?貴女だって不老不死なんだし」

「どういう事?貴方達はアンデッドじゃないから不老不死じゃないでしょう?」

「あ、ああ、そうだったわね。そんな事よりも、広がる範囲だけど…」

 隠す必要があるかは分からないが、カオリはアラヤ達が大精霊の加護で不老長寿になったことを黙っていることにしたようだ。

「島の3分の2は範囲内になる予定よ」

「そう…あの島にいる魔物達は、他の島に移住する必要があるわね」

 デーヴォン列島の中でも2番目に大きい島だっただけに、住んでいる住民も多かった。
 魔物同士とはいえ、多種族との関わり合いが苦手な者が多いから、いろいろと問題が山積みだろうな。

「それもだけど、あの空間の範囲外に死霊魔族の幻惑(トーテムポール)の結界を張る必要があるわ。住民の侵入禁止の目的と、魔力注入による範囲拡大を防ぐために」

「消滅するまでは気が抜けないってわけね。はぁ~、ホントにムカつくわね、ヌル虚無教団の奴等!倉戸、サッサと壊滅してちょうだいよ!」

「無理言わないでくれよ。世界を相手にケンカ売ってる奴等だよ?時間は掛かるけど、一つずつ消していくしかないでしょ」

 今現在で、4つの遺跡と禁呪魔導書が判明し、禁呪の記録はカオリの記憶にある(風の禁呪魔導書は海中のアラヤが所持)。
 ヌル虚無教団も、今回使用した禁呪以外に、カオリも知る闇の魔導書と、ナーサキに使用した禁呪を手に入れている。
 となると、まだ手に入れていない禁呪魔導書は1つとなるのだが、既に相手の手の内にある可能性もある。

「禁呪を使うには、大量の生贄、魔力量が必要だから、大きな戦地が標的にされる可能性が高い。そして、そこには当然、術者であるトランスポートが居る筈だ。狙うなら、その戦地に向かうしかない」

 問題は、禁呪を使用できる人物がトランスポート以外に居た場合だけど。
 各地で禁呪が同時に発動なんて、考えただけで身の毛がよだつ。

「本当はゆっくり執筆したいのに、にいやが次から次へと頼られるから、休む間が無いわね」

「ごめんよ、でもカオリさんが居ないと、禁呪には対処できないからさ」

「分かってるわよ。その代わり、私の研究にも協力してもらうからね?」

「……イチャつくのは帰ってからにしなさいよ」

 コウサカが、面白くなさそうにティーカップで遊んでいる。

「そ、そうだった、ミュウとサハドの件で聞きたかったんだけど、挙式とか挙げるべきなのかな?魔物の風習は知らなくてさ」

「…そうね。私もこの世界に来て1年経つけど、魔物の結婚に立ち会った事が無いから分からないわ。…ジョスイ、来てちょうだい」

 呼ばれて、直ぐに駆けつけたジョスイは、先程よりは若干怪我が治っていた。死肉の捕食ができたのだろう。

「…なるほど挙式についてですか。当然、国民達に同盟関係のアピールを考えても行うべき行事です。しかし、アンデッドは基本的に結婚そのものをしません。生前で既に済ませたりしている者もいますが、主な理由は子を産めないことです。一方、生者の魔物達にはもちろんございます。ただ、種族により異なるのが難点ですな」

「ミュウは邪竜族、サハドは夜魔族だったね?どう違うのかな?」

「サハドに関しては、人間のそれに近いです。強いてあげるなら、銀の指輪は絶対に結婚指輪に使わないことですかな。一方のミュウは邪竜族ではありますが、竜種の儀式とは違い、ラミア独特の儀式を行います。ラミアは伴侶となる相手と尾を絡み合わせながら、同族からの洗礼を受けなければなりません」

「洗礼って?」

「2人の繋がる尾を、同族が引く、叩く、炙ると引き剥がそうとします。それを、最後まで耐える洗礼ですね」

 これは、2人の愛の強さを測る為の試練だな。ただ、ミュウの相手はアスピダだ。蛇の尾と人間の足では絡み辛いだろう。

「どうせなら、一回で式を終わらせたいんだよね。2人とも同時に式をするという名目で、式の内容を俺達が決めちゃダメかな?」

 都合の良い式に変更しようと考えたアラヤの意見を、ジョスイは頭を横に振った。

「手間は掛かりますが、ここは我々魔物側に譲歩していただきたいです。それにより同盟関係の強さを各族長達に誇示する事になります。それに、邪竜族族長は古き習わしを重んじる御人。そもそもが、今回の婚姻に反対派だったのです。ですので、式の内容変更は避けるべきかと」

 反対派かぁ。尚更、洗礼が厳しくなる可能性大じゃないか。

「式の予定日はいかがいたしますか?」

『にいや、出発の日を考えると早めにしなきゃいけないかもよ?』

 世界の現状把握ができていない今、なるべく早くゴーモラを出発したいのは事実だ。

「準備もあるだろうから、両族長に5日後の午前と正午に分けて行うと伝えてもらえますか?」

「了解致しました」

 ジョスイは頭を下げて、早速飛んで行った。彼は宰相なのに、あまり部下を使わないよな。

「結婚って、めんどくさいのね~」

 自分には無理だわ~と、コウサカは怠そうに机に突っ伏している。
 まぁ、彼女には耐えられないだろうなと思うアラヤとカオリだった。

 
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