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第18章 離れ離れが寂しいのは当然ですよ⁉︎

254話 祭壇に潜む闇

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 翌日の朝。

「そう、土田さんが残るわけね?もちろん歓迎するわ」

「ええ、よろしくね」

 ゴーモラに残るサナエ達が準備を終えて現れると、コウサカは素直に歓迎していた。少なくとも、アラヤが条件をのんでくれた事に安心したのだ。
 下手をすれば、また敵対関係になる可能性は充分にあっただけに、この進展は有り難い。

「こちらの方も、準備は済んでいるみたいよ」

 前に紹介された4人組も、アラヤ達の前に荷物を持って現れた。

「暴食魔王殿、我が倅を何卒宜しく頼みますぞ?」

 夜魔族族長であるヴァンパイア、ヒヨド=ドラクル伯爵が、息子の荷物を甲斐甲斐しく確認している。

「うむ、着替えも身嗜み道具も揃っているな。ああ、外界では血酔いに気をつけるんだぞ?念の為に薬も持っていくのだ」

 随分と過保護な奴だな。息子の方はうんざりした表情をしている。日常的にこうなのかもしれないな。

「父上、我は遊びに出向く訳ではありません。ゴーモラ代表の1人、夜魔族代表として魔王様の側に就くのです。立派に務めを果たして参りますので、ご心配なさらないでください」

「うむ、流石は我が倅、立派だ!」

「ちょっと伯爵、邪魔なんだけど?」

 コウサカの睨みで、我に返った伯爵はコホンと咳払いした後、頭を下げて部屋から退室した。

「改めまして、よろしくお願いします。我が名はコモン=ドラクル。ご存知、ヴァンパイアでございます。暴食魔王様の力になれるよう精進する所存でございます」

「うん、よろしくコモン。無理に堅苦しい感じは必要ないからね?」

 コモンが礼をして後ろに下がると、桃髪のラミアが前に出て来た。

「次は私ですね。私は邪竜族のラミア。名前はミュウ。闇精霊の契約精霊パートナーがいます。魔王様の精霊達と仲良くなれる事を、とても楽しみにしています」

「うん、来たら更に驚くこと間違いないよ」

 なんたって風の大精霊が居るからね?それにしても、ラミアって種族自体、闇精霊に姿が似てるよね。亜人の人蛇ヒュースネとの違いは、蛇という生態よりも魔力に影響を受けている点だろうか。

「次はワシじゃな。鬼族、オーガ(人鬼)のイゾウと申す。剣技にはそれなりに覚えがある。あとはそうだな、人肉は好かん」

 着物に似た服装に、腰に長剣。うん、剣客だね。ただ、筋骨隆々な見た目的には金棒が似合う気がするけどね。

「最後ハ私デスネ?」

 次にスタスタと前に出て来たのは自動人形オートマタだ。声色と無表情には違和感があるが、それ以外は人間と変わらない。

「私ハ、死霊族ノ憑依種族デアル付喪族。名ハ【ピラー】。コノ体ハ、私ガ制作シタ。憑依スル個体ハ自身デ製作デキルノデ、迷惑ハ余リカカラナイトオモウ。ヨロシクデス」

「うん、歓迎するよピラー」

 彼にはゴーレム系統で頼りになるかもしれない。ハルが居ない今、精霊が搭乗する守護者ガーディアンタイプの他に、彼が憑依する脱皮人形タイプの研究も面白そうだ。

「とりあえず、自己紹介が終わったところで、食事にしましょう?親睦を深める為にもね?」

 ジョスイが既に準備していたらしく、会場へと案内される。そこに向かう途中、コウサカがアラヤに耳打ちしてきた。

「一色さんの具合はどう?まだ悪いなら、病気に詳しい者を送るけど?」

「ああ、大丈夫だよ。だいぶ良くなってるから」

 疑われている訳じゃないだろうけど、流石にアラヤも心配になってきている。仮死状態デスタイムがあるとはいえ、丸一日は経った。あまり順調ではないのかもしれない。
 やはり、彼女1人に任せたのは間違いだっただろうか?少なくとも、彼女程の適任は居ないのだけど。



       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇




 どれくらい時間が過ぎたかは分からないが、ようやく宝物庫、もとい禁呪の魔導書がある部屋に着いた。
 室内に浮かび散乱する書物に、魔導書がダメになってはいないか不安になる。
 室内をくまなく調べていると、隅に泡の塊がある事に気付いた。
 よく見ると、バブルショットの様な泡に包まれた水色の魔導書があった。

「良かった、ここの禁呪魔導書は水属性だったのね」

 泡の範囲を広げ、魔導書を手に取り早速読み始める。
 今回の目的では、魔導書は持ち帰らない。故に、カメラアイの技能スキルを持つカオリが選ばれたのだ。
 持ち帰らない理由として、コレはあくまでもゴーモラ国の遺産であり、厄災の悪魔レヴィアタンがあくまでも近海から出ないままならば、ゴーモラ国を守る要として置いておくべきだと判断したからだ。
 ただ、ゴーモラ国に解読できる者が誕生するかは分からないけど。
 アラヤ達からすれば、禁呪の対抗策として内容を把握さえすれば良い。
 全ての頁を記憶し終えたカオリは、念の為に魔鉱石壁の箱を即席で作り、魔導書を中に入れて閉じた。
 更にジャミングを掛けて、見た目は近くにある欠けた床石と変わらない。

(万が一、ヌル虚無教団が来た場合でも、これなら直ぐには分からないわ)

 カオリは辺りを見渡す。
 禁呪魔導書の記憶と隠蔽以外に、この遺跡でやらなければならないことはあと一つ。
 祭壇の場所の確認だ。これも万が一の対策だが、いざという時にテレポートの地点として覚える必要がある。

「あった」

 それは入り口が狭く、屈んで通らねばならない通路で、壁際に固定された机の下にあった。
 前屈みになって通路を進んでいくと、カオリはだんだんと息苦しさを感じてきた。
 空気は足りているので、かなり深く潜ったから水圧による圧迫が原因だろう。

 しばらくして、広い空間へと辿り着いた。  
 闇がかなり濃く、熟練度が足りないのか暗視眼でも見えづらい。
 仕方なくライトを作り闇に放つと、祭壇の土台が照らされる。

『何者だ』

「‼︎⁉︎」

 照らされた祭壇の裏に、4つの目が開きカオリを睨んだ。
 カオリは直ぐにライトを消して後ろに飛んだ。直後に巨大な顎が先程居た場所でバクンと水を飲み込んだ。

「ごめんなさい!驚かせるつもりは無かったの!まさか、先客が居るなんて思わなかったから!」

 カオリは一瞬見えた巨影で、その正体が何かを概ね理解した。その上で、こちらに敵意が無い事を伝える。

「本当に悪気は無いんです、様」

『…我を知る貴様は何者だ?』

「風の大精霊エアリエル様の眷属で、色欲魔王のカオリ=クラトと申します」

 ここで誤魔化すのは危険だと判断して、正直に答える。エアリエルの加護を受けているから眷属ってのも嘘じゃない。

『フム、色欲魔王か。双子神の加護者の1人だな。風の大精霊の加護も持つのか…。して、何故に我が眠りを邪魔する?』

「すみません。ここがニュクス様の寝床とは知りませんでした。この遺跡には、別件で入った次第でして…。直ぐに退出致しますので、お許しください」

『ならぬ。もう少し其方の目的を話せ。隠し立てするならば、四肢が我が腹に収まると思え』

 カオリの顔に爪を近付け、脅すように鈍く光る牙を見せる。
 暴風竜エンリルに比べて、体格はやや大きい。しかし翼竜ではないらしく、翼は見当たらない。
 入り口は狭かったのに、どうやってこの祭壇の間に入ったのだろうか?

「お話する点は構いませんが、私に危害を与えるのは得策ではありませんよ?」

『フン、粋がるな』

 ニュクスの爪先がカオリの顔にあった泡を破る。たちまち泡は顔から離れ、息ができなくなった。

『人間など、息ができないだけで死ぬ様な弱い存在が、闇さえあれば何不自由なく生きれる我に意見するなど許さぬ。そのまま醜くもがき死ぬが良い』

 カオリは一瞬驚きはしたが、自身には窒息耐性があることを忘れていた。水が口に入るので開けることはできないが、呼吸はしなくても大丈夫そうだ。

『残念ですが、この様な仕打ちを受けては、お話することはできません。失礼致します』

 カオリは軽くお辞儀をすると、ライトを最大出力の光で作り出し、その隙に入り口へと戻った。

『グヌッ⁉︎、逃すか‼︎』

 ライトを掻き消したニュクスは、カオリを探すが既に室内には居ない。となると、出入り口は限られている。
 ニュクスは闇を全身に纏わせると、徐々にその闇を小さくしていく。
 やがて、小さな子ドラゴン程の大きさになった。

『よし、直ぐに追いついて捕まえてやる!』

 狭い入り口を難なく通り抜けると、ニュクスは突然急ブレーキをかけた。

『ああ、そっちが本体なんですね?』

 出た先に、カオリが大量のライト玉と待ち構えていたのだ。

『プルートー様も引きこもりらしいですね。でも、こんな場所にいるニュクス様もってことですかね?』

『貴様⁉︎我とた…』

 ニュクスが動くよりも先に、カオリがその体に触れてテレポートをする。

『グォォォォッ⁉︎光が痛い!』

 眩しい光に包まれ、突然身に掛かる水圧が無くなった。
 ニュクスはゆっくりと、4つあるその目を開ける。

『な、な、な、なっ⁉︎』

『おっ?ニュクスじゃないか!』

 再び入ってきた視界には、小さな自分を見下ろす暴風竜エンリルのニヤけ顔があった。

「言いましたよね?私に危害を与えたらいけませんって」

 エンリルの背中から、カオリは顔をひょっこりと出して悪戯な笑顔を見せるのだった。

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