上 下
190 / 418
第13章 初顔合わせにドキドキですよ⁈

186話 風の大精霊エアリエル

しおりを挟む
 不老長寿となった5人は、その実感は無いものの、大いに喜んだ。ただ、エルフと同様に成人してから成長が止まるらしいので、チャコの成長をまだ見る事ができるという事だ。

『さて、喜んでいるところをすまないが、それに見合った約束を果たしてもらおうか』

「はい。心得ています」

 アルディスはそう言うと、ベッドのシーツをめくり上げる。するとそこには、幾つもの魔法陣が施されていた。

「エアリエル様の霊気を抑える為の魔法陣でしたが、とうとう私の代で御役御免になりましたね」

 特殊な魔法陣らしく、文字を杖でなぞり一つずつ丁寧に消していく。

『我がエルフ達に匿われて、もう二千の年が経つ。もはや、我を付け狙うあのも諦めがついただろう。いやはや、我ながら永い引きこもり生活であった』

 エアリエルは、思いっきり伸びをして、魔法陣が解けるのを今か今かと待っている。確かに、こんな洞窟に長い間閉じ籠っていたのだから、外に出てみたくてたまらないだろう。

「エアリエル様、ですがくれぐれもご注意をお願いします。貴方様の力の影響は、世界にも直に影響致しますので」

 最後の魔法陣の解除を終えると、エアリエルはゆっくりと

『うむ。分かっている。そうだ!モース!それと、そこの其方!名を何という?』

『えっ、私⁈し、シルフィーですけど…』

 突然指差され、風精霊シルフィーはドキマギする。彼女からしたら、エアリエルは母親になるのかな?

『我の散歩に付き合うのです。しばらく出ていなかったから、外の世を案内してもらいましょうか』

『分かりました』

 元気よく返事するモースと違い、シルフィーはどうしたら良いの?とアラヤを見る。ただの散歩なら、何も問題無いだろう。

「うん、散歩に付き合って差し上げて」

『う、うん。分かった』

『では私に掴まるのです。行きますよ?』

 2人の中位精霊がエアリエルの手に掴まると、途端に風に包まれ洞窟から飛び出した。

『うおっ⁉︎何事じゃあ⁉︎』

 洞窟の外にいた土精霊達の悲鳴が聞こえ、アラヤ達も洞窟から外へと出た。すると、尻餅をつく土精霊達は空を見上げている。
 村の上空を飛ぶエアリエルに、村中の風精霊達が集まっている。
 村人達も、自身の守護精霊(契約精霊)が呼ばれるままに付き従い、楽しそうにしている姿に呆気にとられている。

『おい村長、これはどういう事じゃ?エアリエル様が何故外に?』

 土精霊達が、洞窟から出てきたアルディスに問い掛けると、彼女は彼等の前に濃厚な魔力玉を作り出して置いた。

「今までお疲れ様でした。エアリエル様を匿う使命も、今日で終わりです」

『なんと⁉︎とうとう決心がついてしまわれたか。寂しくなるのぅ』

『彼の方の側に居れぬ様になるとは、これからどうすれば…』

 2人の土精霊は寂しそうにしている。その姿はリストラされたサラリーマンに似ている。

「これで、世間からこの村は隠れる必要が無くなったんですか?」

「ええ。今までは、彼の方を隠し保護する事が、この村の役割でした。しかし、大精霊様が出られた今、村は自由になりました」

 村の結界を張っていたファウンロドの風精霊達も、エアリエルに呼ばれて結界を解いてしまう。村を隠していた結界が消えると、エアリエルは更に高く舞い上がる。

『さぁ、いざ世界へ!』

 風の化身となったエアリエル達は、東を目指して流れて行った。

「あれ、戻って来るんだよね?」

「ええ、多分。散歩と仰っていたので」

 少し不安になったけど、シルフィーならちゃんと帰ってくるだろう。問題は他の精霊達だろうなぁ。

「とりあえず、シルフィーが戻るまでは村に待機だね。それで、イシルウェはどうする?この村に残るのかい?」

 村長から離れて、彼に今後を小声で尋ねると、気になる彼女は外方を見ながらも、こっそりと聞き耳を立てている。

「いや、私はもう、外の生活に慣れているからね。村が自由になったとはいえ、まだまだ生活水準が低い村だし、この村に私の仕事は無い。チャコを養っていく為には、私が働ける場所に行かないとね」

 イシルウェも気を使ってか、姉が居るから嫌だとは言わなかった。村に来る前は、悪魔だと拒絶していたのだから、少しは気を許したのかな?まぁ、どちらにしても村には残らないと言ってるのだけどね。

「アラヤ君、そもそもこの村に来た目的は、新居を作るにあたっての参考になるかもという理由で来たんですよ?どうですか?参考になりましたか?」

「うん。呼び鈴や展望室もだけど、結界術を習えたのはかなり良かったと思う。後は良さそうな土地を探して買う準備をしなきゃね」

 家を建てたら当然、結界を張って隠蔽しなきゃね。

「家を建てる土地をお探しですか?村の中なら何処でも無料でお貸しできますよ?」

 アルディスが、ここだとばかりに話に入って来た。アラヤ達が村に家を建てれば、イシルウェも残る可能性が高まると思ってるんだな。しかし、巨大樹に家があるのが主流のこの村に建てる気は無い。

「いえ、出来れば見晴らしにもこだわりたいので、今回は遠慮します」

 彼女は残念そうに項垂れる。だが、村の掟が無くなった今、彼女は村を出る事ができる。外に出た経験が無い彼女にはハードルが高いだろうけど、イシルウェを追う事で克服できる気がする。

『其方、土地を探しているのか?』

 声がしたので見上げると、エアリエル達が帰って来ていた。モースとシルフィーも、アラヤ達の元に降りて来た。

『早過ぎてクラクラするわ~』

『当然よ、世界一周したのだもの』

「世界一周⁉︎」

 今の僅かな時間で、軽く世界一周を成し遂げたらしい。流石、風の大精霊だね。

『其方には、我の護衛を頼みたいと考えていたけれど、一定の場所に止まるのであれば残念。我はもう、閉じ籠るのは勘弁じゃからなぁ』

 エアリエルは、ウーンと考えている。護衛って、巨大な力を持つ大精霊に敵がいるとでも言うのか?もし居たとしたら、流石のアラヤにも土台無理な話しだろう。

『見晴らしの良い場所なら、この近くでさっき途中で見つけたよ~』

 シルフィーが、付き合わされた散歩中にそれらしい場所を見つけたらしい。近いらしいので、皆んなで見に行く事になった。

『ほら、あの場所よ~』

 その場所は、巨大樹の森から抜け出た山の中腹で、突き出した様な崖があり、平台の広さは建物を建てるには充分である。

「なるほど。確かに見晴らしは良いね。後は崖崩れ予防と結界による隠蔽をすれば良いかもね。えっと、この土地はどの国の管轄なんだっけ?」

「バラキイ国になりますね。この土地を購入するとしたら…」

『その必要は無い』

 何故かついて来ていたエアリエルが、アラヤ達の前に出て片手に風を起こした。
 その風を崖に向けて一振りすると、突き出した土地が丸々切り離された。
 ズズズとズレ落ちる土地を、新たな風で浮かばせる。無茶苦茶な力の使い方だ。

『これで、どの国にも属さない土地になった。さぁ、この土地に建てるが良かろう』

 浮遊地となった場所に家を建てる?天空の御殿ですね…。うん、良く考えると確かに悪く無いな。

「でも、エアリエル様の力添えが無ければ落ちてしまいますね」

『それは心配要らない。我も此処を住まいにするのでな』

 まさかの押し掛け大精霊か…。大精霊の力を借りる…僅かに嫌な予感もするが、これはとても凄い事だな。

『おおっ‼︎ならば儂等が建築の加勢をしてやるぞう!』

 呼んでもいないのに現れた先程の土精霊達。エアリエルの側に居たくて、隠れてついて来たな…。つまり、押し掛け精霊か。

『さぁ、目立つ前に結界で隠蔽するが良いぞ?楽しみであるのぅ。これで我も世界を旅する事ができる』

 もう勝手に決められている様だ。嫁達を見ると、アラヤと違いワクワクしている。

「土地代も建築費用も無料タダですね!」

「これなら、国境関係無しにデピッケルや村にも帰れるよ?」

「こうなると、天候を変えれるイシルウェさんには居て貰わなきゃね?」

「農園の母や仲間達も、是非遊びに呼びたいです」

 ハウン達は、これからは教団にどう居場所の説明をするべきか困っている。だけど、顔はニヤけているところを見ると、彼女達も楽しんでいるな。

「これはもう決まりだね。分かった、この土地に俺達の新たな新居を作ろう!」

 かく言うアラヤも、楽しみを隠さない笑顔で、早速始めるぞと走り出すのだった。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...