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第12章 御教示願うは筋違いらしいですよ⁈

173話 仮想未来の利点

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「随分と、慕われているようだな?」

 アラヤ達が去った後、ガランとした部屋に配下の団員と1人の司教が入って来た。ダビとデンデンはイトウの首裏へと隠れる。この司教から放たれる圧が2人は嫌いだった。
 その司教は常に笑顔でいるが、その笑みには作り笑いだと分かる。

「教示は筋違いだと言ったのだが。まぁ、仕事はしたぞ。結果として、奴等は放置しても仲違いによる暴走は無いだろう。少なくとも利用される奴等でも無い」

「それは良かった。では、暴食魔王の厄災は起こらないという事だな?戦争に勇者が駆り出されている今のタイミングで悪魔に出現されたら、下手すれば国が滅ぶ可能性もある。何しろ、まだ確認されていない悪魔だから、我々だけでは対応ができないからな」

「ああ、出来れば存在を確認したかったが仕方ないさ。しかしそのおかげで、今回の事を教訓に倉戸は更に用心するだろう。帝国の要人や大罪教団との接触は避けるだろうな」

「好都合だな。戦争が起こる今、魔王を利用しようという者達が各地に居る。では、私は引き続き監視のみの対応といこう」

 配下の者達が、司教から渡された品々を部屋隅に置いていく。いわゆる今回の一連の行動は、この司教からの調査依頼だったのだ。
 この司教は、倉戸が陥れられて殺害される未来の調査依頼をしてきた。なので、イトウが実際には違う未来を見せたとは知らない。

「それと、教団側の裏切り者は分かったかね?」

 部屋から去ろうとした司教が、思い出した様に振り返って尋ねる。

「いや、出なかったな」

「そうか…。では、また次の機会までさらばだ、怠惰魔王」

「私は、出来れば誰とも会わずにゆっくりしたいのだがな」

「ククッ、魔王が孤独を願っても、土台無理な事だろうさ」

 司教の笑い声が遠ざかり、配下の者達もホッと胸を撫で下ろす。

「苦手なんですよね、スフィリ司教…」

「ああ、アレはかなりの罪業に塗れた者だろうな。深くは関わらないさ…」

 イトウは、再び葉巻を取り出してフゥーっと煙を吐いた。
 篠崎と一色の存在は、教団にはまだ黙っておいてやるとしよう。今できるやれる事はやった。面倒な事は全部、他の奴等に任せれば良い。後は、上手く修正できるかは本人達次第だと、消え際の4人達の強い眼差しを思い出すのだった。



       ◇    ◆    ◇    ◆    ◇    ◆     ◇


 ミヤウツの街の宿屋に帰ったアラヤ達は、夜中だというのに早速緊急会議を開いていた。

「つまり、あの体験した未来で得た情報の信憑性はあると思うんだよ」

「それってやはり…」

「私が妊娠してるって事⁉︎」

 サナエがハッと、自分のお腹を触る。ハウン達も驚き、おめでとうございます!と一気にお祝いモードになってしまった。

「いや、その話じゃないよ?まぁ、一応調べなきゃいけないだろうけど」

「そうですよ、サナエちゃん。アラヤ君は、近々戦争が起きるかもっての話をしているんです。ですよね?」

「うん、そうだね。もちろん、妊娠にも気を使うけど、その為に慌てて同じ間違いを起こしたらいけないよね?帝国が本当にラエテマ王国へ戦争を始めるなら、当初の目的地だったナーサキには今は行かない方が良いと思うんだ」

 未来では、ナーサキでいろいろと問題が起きている。わざわざ同じ行動をするべきでは無いだろう。

「帝国が戦争を起こすんですか⁉︎」

「その可能性が高いって事だよ。怠惰魔王が、わざわざ俺達に体験させるくらいだ。かなり話が進んでいると思う」

 ハウン達は不安そうに顔を見合わせる。大罪教団自体は戦争には加担しないけれど、全く影響が無いわけじゃない。

「嫌な体験だったけど、確かに色々と情報があったわね。先生に感謝しなきゃ」

「確かに情報は助かったけれど、恩義までは感じる必要は無いよ、カオリさん。イトウにはイトウの、特になる事があった筈だから」

「にいやは先生を信用してないみたいね?」

「当然だよ。前世界では、俺の事を放置していたんだよ?異世界に来たからって、そうそう改心するとは思えない。イトウにとって、俺達と接触するメリットがあったんだよ」

 怠惰の称号が付く男だよ?こんな手間がかかる事を、好き好んでやったとは考えられない。

「私も同意見です。先生の狙いが何かは分かりませんが、おそらくは教団絡みの依頼ではないでしょうか?少なくとも、利益無しでは動かないと思います」

「その理由はともかく、4人で手に入れた情報は3つ。戦争の勃発。大罪の悪魔の存在。取り引きを持ち掛けて来た大罪司教。これらは避けるべき案件だ。避けられない戦争はともかく、悪魔の出現は、その司教と会わなければ起こらない。というか、取り引きに応じたらダメだけどね?」

「「ごめんなさい」」

 アヤコとカオリは深く頭を下げる。身を持って味わった恐怖と罪悪感が、2人の顔を真っ青にする。

「取り引きの内容は何?念話で良いから教えて?」

 同じ誤ちを犯さない為に、敢えて酷な質問をする。内容次第では解決案があるかもしれないからね。

『…私は色欲魔王の、知識の深淵を教えるとされる場所の情報だったわ。そこはラエテマ王城の地下墳墓の奥地で、悪魔アスモデウスが居たわ。おそらく、封印を解いたのは私ね。ちゃんと解読もできないままに儀式を行ったの。…結果は最悪。あんな恐怖…もう二度と行かないわ』

 欲しがる知識の興味を持たせて、アスモデウスの封印先に向かわせたのか。元からカオリを利用して、アスモデウスを復活させる考えだったかもしれないな。

『…私は、……です…』

 ん?アヤコは念話なのにボソボソと聞こえ辛く答えた。

『ごめん、何て言ったの?』

『…【必授丸】という、…受精率が高まる薬です…。ほぼ確実に成功する人気薬で、入手困難なんです!』

『受っ⁈』

『だ、だって!だって…、私にも、欲しかったんですもん…赤ちゃん…。だけど…飲んだら体が変に気怠るくなってしまって…』

 顎が外れた様に呆然となるアラヤに、一体どんな取り引きだったんだと周りがざわつく。おそらく、その薬にマンモンを復活させる何かが含まれていたのだろう。
 やはり、その司教が原因とみて間違い無いな。イトウが言うように、魔王が死ぬ事で悪魔が降臨するのなら、戦争が起きているタイミングで、ラエテマ王都と帝国領のナーサキで同時に悪魔が復活した場合、両国とも戦況は大混乱だろう。
 その大罪司教は、帝国側についているという訳でも無いのか?

「よし、決めた!」

 アラヤは意を決して声を上げた。全部を考えた上で、これからやるべき事を決めたのだ。

「ムシハ連邦国で、家を探してしばらく住もう!」

「どういう事ですか?」 

「さっきも言った様に、帝国領のナーサキの様なわざわざ危険な場所に行く必要は無い。かと言って、戦地になるラエテマ王国に戻るのも危険だ。それなら、戦況が落ち着くまではムシハで暮らした方が良いと思うんだ」

 内心、ラエテマ王国で知り合った皆んなが心配な気持ちもある。だが、自分達が帰ったくらいで彼等の安全が保証される訳じゃ無い。むしろ、巻き込んでしまう可能性の方が高いかもしれないのだ。

「それに、せっかく知り合ったイシルウェは、帝国領のナーサキには行きたくないでしょ?」

「ああ、そうだな。出来れば遠慮したい」

「もちろん、反対意見や提案があれば聞くけど。どうかな?」

 皆んなは押し黙り、しばらく考えている。もしかして、皆んな反対だった?と不安になった時、チャコがハイッと手を上げた。

「チャコ、パパのお家に行ってみたい!」

 全員がイシルウェに注目する。そう言えば、イシルウェの故郷って聞いて無かった。

「う…。私の家か?出来れば里帰りはしたくないのだが…」

 何故か、イシルウェは気まずそうにしている。彼がチャコの願いを即決しないとは、余程な理由があるのか?

「里…。エルフの里?もしかして、人間は受け入れないとか?」

「いや、昔から人間とも交流はあって、至って普通の里なのだが…」

「よし!ひとまず行ってみよう!家探しの基準になるかもだしね?」

 こうして、渋い表情を見せるイシルウェに、無理矢理に里を案内してもらう事が決まった。
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