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第12章 御教示願うは筋違いらしいですよ⁈

172話 怠惰魔王イトウの思惑

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 怠惰魔王イトウは葉巻を消すと、アラヤ達を見据えて語り始める。

「先ずは、私を知らぬ者も居る様だから自己紹介といこうか。私はダイゴ=イトウ、怠惰魔王と呼ばれている。配下諸君は面識があるから分かるね?まぁ、話す機会も無かった訳だが。そして、私のパートナーを紹介しよう。結界を破ったのだから、大半が精霊視認の技能スキルを持っているのだろうが、余りお目に掛かった事は無いだろう。このカタツ……水玉模様の愛くるしい精霊が無精霊のデンデンだ」

『よ~ろ~し~『そして私がダビよ』く~』

 見た目が闇精霊エキドナに似ている闇精霊ダビは、エキドナに比べて少々御転婆みたいだ。ペチペチとデンデンに触角で叩かれている。

「無属性にも精霊が居たとは知らなかった」

「倉戸は勉強不足だな。まさか、無属性の特質を理解していないのか?」

「まぁ、にいやは勉強嫌いだもんね?」

「う…」

 まさか、カオリさんからも非難されるとは思わなかったぞ。そりゃあ、成績優秀だった人から見れば、確かに勉強嫌いだろうけど。

「大丈夫ですよ、アラヤ君。私達が理解していますので、任せて下さい」

 どうやらアヤコも理解しているらしく、カオリと彼女の2人以外は無属性を理解していなかったと判明した。

「篠崎は過保護だな。難しい事や難題はお前が全て引き受けるつもりか?」

「それが私の役目ですから」

「なるほど、夫を怠惰にさせて堕落させる事が役目か」

「ち、違いますよ⁈後からちゃんと教えるんです!」

「一色もだ。自分だけが分かっていたらそれで充分か?」

「…いえ、ダメですね。次からは気を付けます」

 不甲斐ない夫のせいで、2人は怒られてしまった。どうもすみません。

「無属性とは、森羅万象に存在するエレメントの中で、神の加護が与えられていない唯一無二の属性。それは、目に見えずも全てのものに加わる力、そう時間と重力だ。故に無属性には時間と重力に影響する魔法が多い。そこのエルフよ、それを踏まえて無精霊の結界の効果がもたらす効果が分かるかね?」

 突然の指名にイシルウェは戸惑いながらも、思い付く答えを述べた。

「外部との時間の干渉を遮る…とかかな?」

「うむ、正解だ」

「パパは凄いね!チャコには、何の話か全く分かんない」

「そ、そうか?」

 本当は自信が無かったという態度を、イシルウェはチャコの頭を撫でて誤魔化す。

「私は、この無精霊結界を張って、君達4人をこの部屋に閉じ込めた。因みに、デンデンには結界とは別に空間を繋ぐ役割も担ってもらっている」

 どうりで、結界が無くなったのに、ミヤウツの街とハフナルヴィーク島が繋がったままなのか。

「何故、お前達4人を閉じ込めたのか?それは、お前達を視る必要があったからだ。魔王たる者達が3人も集まる状況が、世界に及ぼす影響がどれほどのものかをな」

「待ってくれ、魔王が3人居るって、しかも俺達がそうだとどこで知ったんだ⁈」

 大罪教団には、暴食魔王のアラヤの存在だけが知られていて、カオリは死亡扱い、アヤコの強欲魔王に至っては誰も気付いていない…筈だ。

「確かに、教団からの情報では、お前達がそうだとは断定できはしない。だが、私が聞いたのは団員からでは無い。闇精霊達から聞いたのだ」

 アラヤがエキドナを見ると、知らないよとブンブンと首を振る。それはそうだろう。エキドナと知り合ったのはラエテマ王国を出る前だ。それからはずっと一緒に居た。

『貴方達ねー、闇精霊私達の間では有名なんだよ~。闇の魔力が超美味いってね~。魔王の魔力は美味しいんだよ~。ダイゴもそうだしね~』

 ダビはツンツンとイトウの首を突き、頂戴よ~と魔力を催促している。

『そんなに美味しいの?』

『まぁね~』

『まぁ、それなりにな!』

『うん…』

『絶品じゃ~』

『ブゥ…』

『虜…』

 アラヤが精霊達に尋ねると、揃って頂戴と手を差し出している。アラヤは照れながら仕方ないなぁ~と、魔力玉をあげちゃう。

「まぁ、精霊達情報も完璧では無かったが、お前達がムシハ連邦国に居ると知ってからは、各街の教団にラエテマ王国からの団員が接触して来たら連絡する様に頼んでいた。後は宿屋を特定して結界を張ったという訳だ」

 まさか精霊達から魔王を突き止められるとは思わなかった。という事は、勇者の所在や人物像も同じやり方で分かるかもしれない。

「結界を張るにあたって、起点となる精霊達は姿を隠せない。それが破られる結果となった訳だが、捕まえた無精霊達をそろそろ解放してくれないかね?」

「本題の続きを話して頂かない事には、それはまだ出来かねます」

 ハウンの足元には、土精霊ノームの鉱石牢に閉じ込められた無精霊達が入っている。そもそも精霊を触る事ができるのは、契約者となるパートナーと精霊に近い存在のみで、無精霊を確保する際には火精霊サラマンドラ達に捕まえてもらったのだ。

「うむ、そうだな。では、続きといこう。倉戸達を閉じ込めた後、私は彼等に特殊技能ユニークスキルの【因縁傍観】を使用した。これは、対象の過去を視る事ができるものだ。それにより、彼等がどう生活してきたかを把握した」

 どうりで教団が知らない情報まで知られていた訳だ。何かしらの制限はあるのだろうが、他人の過去を覗き見るのは痕跡視認の上位互換に当たる技能なのかもしれない。

「先程も言ったが、無精霊結界内は外部の時間からは遮断された空間だ。その中で倉戸達をダビの力で催眠状態にした後、結界内の時間を瞬間加速ヘイストさせた。【因縁傍観】に、もう一つの特殊技能【反転万象】を使用する事により、過去ではなく未来を視る事ができる。ただし、当事者の倉戸達は催眠効果により、事実として体感しただろうがな」

「あれが俺達の未来⁉︎」

 アラヤ達4人は、サーっと血の気が引き蒼白になる。あんなの最悪の未来じゃないか!

「そこは訂正する点もある。催眠の際に足した情報は、俺が用意したものが含まれる。故に、半ばからは誘導された未来だな。まぁ、一つの未来でもあるが」

「そもそも何でこんな事を⁈」

「言った筈だ。魔王が3人、集まる事の影響を知る為だと。私は大罪教に残る過去の魔王の記録を調べたのだ。こちらに来て間も無い魔王達は、お互いが離れた場所へと飛ばされる。魔王と勇者の戦いならば、本来なら協力する方が理に叶うというものだが、敢えて1カ国には2名までという事が決められている。その理由は、魔王の死亡後のにある事が分かった」

 厄災という言葉に、4人は恐怖を感じた。それは今更ながらに、魔王そのものが災いではないかという疑念を、呼び起こしたからであった。
 おそらくは自作のノートらしき物を開くと、イトウは淡々と読み上げる。

「ある記録には、暗殺による魔王死亡後に、上級悪魔が誕生したと記されている。悪魔はその都市を壊滅した後に、勇者達により討たれている。今までに確認されている悪魔は4体、レヴィアタン・マンモン・ベルフェゴール・アスモデウスだが、討伐したとしても次回で再降臨した為に、封印が最良手段だとされている」

「…マンモン‼︎」

「…アスモ…デウス…!」

 あれが封印された悪魔達か!各々が抱く怒りと恐怖が沸々と湧き上がってくる。

「だが、これ等の悪魔は魔王が殺害された場合に限りで降臨していた。つまりは、寿命や病気で死ぬ場合には悪魔は現れなかった。しかしここで疑問が現れた。過去に、暴食魔王は幾度となく殺害されてきたが、魔王が現れていないのだ。その理由は分からないが、おそらくは魔王としてのLV不足も影響していると思われる。暴食魔王だけは、最初に殺害されるケースが多いからだ」

「ええぇぇぇ…?」

 最初に狙われてるって酷くない?暴食魔王って、もしかしてそういう存在なのか?

「そこで話を戻すが、今の倉戸達の行動は、そんな悪魔になり得る魔王達が、一カ所で同時に降臨する可能性があるという訳だ。現にお前達は身をもって体験しただろう?2人は悪魔にその体を奪われる結果となった」

 アヤコとカオリは、クッと後悔の表情を見せて下唇を噛む。サナエはただ、そんな2人を心配そうに見るしかできない。

(篠崎と一色の2人には、心的外傷トラウマとして刻まれたか。だが、倉戸は…)

「2度とあんな未来にはならない!」

 恐怖というよりは怒りだけが見てとれるアラヤに、イトウは溜息をつく。

(結局、コイツの悪魔は判明しなかったな。最後ら辺では、片鱗が見えた気がしたのだが…)

「…とにかくだ。私が知りたかった事は半分は達成できた。結果、お前達は危うい。このままでは、あの未来に似た結果となるだろう」

「いいや、なりません!」

 アラヤの強い意志が、その眼差しから伝わってくる。これならば問題無いかもしれない。

「そうだな。失敗する先を知っても尚、同じ道を進むは怠惰では無く、もはや馬鹿としか言いようがない。お前達がそうならないと決意したのなら、私の進路相談は終了だ」

「「「先生⁉︎」」」

 イトウはスッと立ち上がると、入り口の扉を開けた。向こうにはミヤウツの宿屋の廊下が見えている。

「そろそろ空間を繋ぐのも限界だ。精霊達を解放して、ここから退室願おうか」

 言われるままにアラヤ達は部屋から出たが、アヤコ達はイトウに何か言いたげにしていた。今回の彼の行動に、教えられた事が多くある。

「「「御教示、ありがとうございました」」」

 アラヤ達は空間が閉じる直前、御礼の言葉を述べた。すると、微かだが、イトウの口端が吊り上がるのが見えたのだった。


      
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