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第9章 止めろと言うのは振りらしいですよ⁈

132話 虚偽報告

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 積雪がある中を、隊列を組んで進む討伐隊達の姿は、近くで見た一般人ならこれから戦争が起こるのかと思っただろう。
 討伐隊は皆、凍傷を避ける為、木製・革製の装備で統一しており、進行は割と早かった。とは言え、総勢200人の移動は、ガーンブル村に到着するまで5日を要した。

「何⁈ナーガラージャでは無く、ナーガだったと⁈しかも既に討伐された⁈」

 ガーンブル村の村長宅の応接室に怒号が響く。
 土下座する村長の周りには、領主の他に貴族や司教達が居る。

「アグロンスキー子爵、これは無駄足でしたな。これならば、他の方(貴族)みたく兵だけを送るべきだった」

 代表として参列して来た貴族が、やれやれとわざとらしくお手上げの仕草をする。

「オオイン司教、貴方の情報とは食い違うが、何か弁明があるかね?」

 アグロンスキー子爵は、事態が判明しても変わらず静観しているオオイン司教に、やや語尾を強めて尋ねる。

「そうですな。極めて申し訳無いと謝罪しましょう。私の方にも、今回の件で話があると、たった今オモカツタの街長、グスタフ様からコールが来たところです」

「何?グスタフから?」

 息子であるグスタフの名が上がり、子爵は眉をしかめる。

「アグロンスキー子爵、直接お話されますか?皆様に聞こえる様にも可能ですが、如何されますか?」

「うむ。皆に聞こえて構わん。繋いでくれ」

 オオイン司教は分かりましたと頷くと、ラッパが2つ付いた小さな魔道具を取り出して机に置いた。

『もう繋がったかしら?』

「ああ、今繋がったところだ」

『そこにはパパも居るのよね?丁度話があったのよね~。でも、怒るかもだし、今度にするべき?』

「ええい、グスタフ!早く今回の件で知っている事があるなら、それを先に話さんか!」

 マイペースな息子にイライラとした子爵は、八つ当たりの様に魔道具に怒鳴りつける。

『そう、興奮しないでよ~。ちゃんと話すわよ。…そうね、先ずは魔物が既に討伐された事から話しましょうか』

「むっ?」

 グスタフのトーンが真面目な感じになったと分かり、鼻をフンと鳴らし、子爵も真面目に聞こうと大人しくなる。

『件の魔物はロード級ではなく、キング扱いのナーガだったわ。ただ、肌色は白く、討伐難易度は高かったわ。次に、何故、私がその魔物について知っているかだけど、簡単な事よ。魔物の情報は、そこにいるオオイン司教と同じ様に、オモカツタの大罪司教にも報告された。それを知らされた私は、直ぐに討伐隊を編成して向かわせた』

「む?今のお前の街は復興が忙しく、動かせる衛兵は少ないだろう?」

 オモカツタの街が魔物の被害に遭った事は、子爵の耳にも届いていた。支援をする気は無いので放置しているが。

『もちろん、少数精鋭よ?上ランク冒険者とフレイア大罪教団からも派遣してもらい、犬ソリで向かわせたわ。そもそもナーガラージャと聞いていたからね。神の使いだと参加を嫌がる者達も多い。参加数は20人足らずだったけど、相手がナーガでなんとかなったわ。彼等は今オモカツタに凱旋中よ』

「そうか。では、ナーガが居た事自体は真だと言うのだな?」

『もちろんよ。討伐戦も疑うなら、戦った遺跡に向かうと良いわ。場所は村長が知っているわよ。じゃあ、次は私が言いたかっ…』

 子爵は、司教に魔道具の通話を切らせると、未だに土下座をしている村長に頭を上げさせる。

「その遺跡へと案内を頼む」

「は、はい」

 ここで言う遺跡とは、アラヤ達が作った闘技場を指すのだが、この近辺の土地を知る者達ならば、この近くに遺跡など無い事を知っている。

「…」

 村長はその場所をハウンからコールで知らされており案内は問題無い。問題は、領主様がこの土地・歴史を知る場合の言い訳だったのだが、どうやらこの領主様は知らされていない様だ。村長はホッとしたが、残念な気持ちになった。

「ここがそうです」

 闘技場には約1日掛かって到着した。その見慣れない建物に、子爵だけでなく貴族やオオイン司教も見上げて声を漏らす。

「何だ、この建物は…?神殿や墳墓でも無い。見世物の舞台に似ているが、客席も無い。ただ、戦う為だけの建物の様だ。この様な遺跡が、我が領内にあったとは…」

 場内には、戦闘時の破壊された床や壁、大量に残された血痕があった。
 血痕は既に数日経ったと分かる。最近、この場所で戦闘があったのは確かだ。

「この壁や床は鉱石か?」

 貴族が、配下の兵に瓦礫を調べさせる。

「…見た目は鉱石ですが、魔力を吸着してしまう特殊な鉱石の様です。つまり、この建物自体は魔法による破壊はできないかと…」

「それは凄いな…。この鉱石を先人達はどうやって手に入れたのだ?」

「継ぎ目が無いからな。巨大な岩盤をくり抜いて作ったのでは?」

「いや、これはアースクラウドと鉱石化の応用だろう。耐魔法の効果付与の方法は不明だが」

「解明して生成可能なら、超硬質磁力鉱石アダマンタイトに変わる耐魔鉱石となるぞ?」

 領主と貴族達は、もはやナーガ討伐の証拠など気にしないで、魔力粘糸配合の鉱石に夢中になっていた。

(暴食魔王が、教団の監視下に従うと連絡があったが、…まさか、この建物と戦闘の痕跡…魔王の仕業か?)

 ただ、オオイン司教だけは、1人、皆とは違う考えにふけっていた。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


「あんな嘘で誤魔化せたかしら?」

「ああ、大丈夫だろう。グスタフ殿、助かったよ」

 オモカツタの領主邸の応接間に、グスタフとベルフェル司教、そしてハウンが居た。
 3人は、先程の領主への嘘の報告を無事済ませて、一安心していた。

「まぁ、あの坊やには借りがあるからね。それに、領内の惨事に援助すらしない馬鹿領主に、彼等を利用させる訳にはいかないもの」

「ああ、そうだとも。彼等はこの街を救ったのだからな。御礼に君には今度、美味しい酒でも差し入れよう」

「あらま、嬉しいわ」

 グスタフ邸を出たベルフェル司教とハウンは、一度教団へと戻る。
 教団には、一台の馬車と、暴食王の配下となる5人が待機していた。

「皆、準備は済んでいるな?」

「「「ハッ!」」」

 彼等は直ぐに出発できるように、旅支度を終わらせていた。
 教団の教皇とも話し、最低限の監視とハウンによる定時報告で、アラヤ達には余り干渉しないと決まった。

「晴れてお前達は王の配下となる訳だが、歴代の暴食王同様に、干渉を嫌う性格のようだ。よって、お前達の役割は影からのサポートに徹する事だ。そしてリーダーは、王と面識が有り、監視下を承諾させたハウンに一任する」

「「「はっ!仰せのままに」」」

「よろしくお願いします」

 ハウンが頭を下げると、配下の1人が少し不満そうな表情を見せる。直属の配下に選ばれてもいない奴が、リーダーに選ばれた事に納得していないのだろう。これは落ち着いた頃に話し合いが必要かも知れないな。
 配下達が馬車に全員乗り込むと、ハウン自身は預かっているフィアーに乗馬する。

「では、頼んだぞ」

「「「はっ!」」」

 ハウン達はオモカツタの街を後にして、アラヤ達が待つ隣の領地へと向かうのだった。
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