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第9章 止めろと言うのは振りらしいですよ⁈

130話 家族無双

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 観客席の無い闘技場は即席で作ったとはいえ、地盤の厚み・鉱石化の強度・魔力粘糸の網といった万全の状態だ。

「キシャァァァァッ‼︎(先ずはお前からだぁ‼︎)」

 ナーガラージャは、隙を見て闘技場から出ようとしていたリアム達に尾を振り下ろした。

「危なっ‼︎」

 ハウンが咄嗟にリアムの首襟を掴んで引き寄せる。尾撃によりソリは破壊され、リアム達は弾き飛ばされた。
 壁にぶつかる寸前で、サナエの保護粘膜バブルショットで衝撃が吸収された。

「あ、ありがとうございます」

「貴方達はここに隠れていなさい」

 サナエは、鉱石の防壁で2人を隠すと、熱感知されないように外側をアイスで覆ってジャミングで防音にする。

(くっ、今の私では役立たずという事ですね…)

 ステータスは高いのに、戦力外扱いされてしまったハウンは落ち込んだ。実際には、戦闘状況(異常な技能や魔法の戦い方)を見られたくないと考えた、アラヤ達の配慮なのだけど。
 一方、手綱が切れたスノードッグ達が闘技場内を逃げ回り、ナーガラージャに狙われていた。次々と噛みつき捕食されている。

「はっ‼︎」

 アヤコは、耐性があるので威力は落ちると分かっているが、魔鉱石の矢に眼突きの技能を使用して連射していく。
 眼突きの技能による補正が掛かり、少しの追尾効果が矢に備わる。
 スノードッグに集中していた蛇頭の眼に、吸い込まれる様に突き刺さった。

「ギシャー!ギシャー‼︎(眼がー!眼がー!)」

 アヤコが弓攻撃に出た理由は、突き刺さった矢によりアイスの魔鉱石で凍らせ視力を奪う目的だった。

「良し!噛みつき攻撃に気を付けて、攻撃開始だ!先ずは光属性の蛇頭を叩く!」

「「「了解‼︎」」」

 ダメージを与えても回復されたら意味がない。魔力切れも期待したが、スノードッグを捕食してから魔力がゆっくりと回復していく。通常の食事や睡眠による魔力回復では有り得ない速度だ。
 故に光属性の蛇頭自体を攻めるのが妥当なのだ。

粉砕の渦パルヴァライゼーション ボルテックス!」

崩壊の嵐コラープス テンペスト!」

「アッシドミスト!」

細氷ダイヤモンドダスト!」

 アラヤ達は、光属性の蛇頭を除いた全ての蛇頭に、四方から一斉に魔法を仕掛ける。各蛇頭も魔法で反撃して、ぶつかり合った激しい魔法の衝撃波と音が闘技場内に反響して、生き残りのスノードッグ達は気絶した。

「魔法、一旦中止」

 大ダメージを負った蛇頭達は、勢いが弱まり動きが鈍くなった。
 唯一、光属性の蛇頭だけが他の頭を回復させようとして魔法を連発している。
 アラヤはその頭部に降り立つと、大きな魔力粘糸の網で口を閉じさせた。
 慌てて他の蛇頭がアラヤに突進してくる。アラヤはそれを躱しながら、バルクアップした両腕で剣を突き刺して首の根元に向かう。

「ギシャァァァッ‼︎(ぎゃぁぁぁっ)」

 剣身が足りずに切断には至らないが、外皮と筋肉を貫通し、大量の血が放出する。

「アラヤ!危ない!」

 その声に反応して咄嗟に上に飛ぶと、他の蛇頭が大口を開けて元いた位置に突っ込んで来た。

ガシュッ‼︎

 その蛇頭はそのまま大量に出血していた首元に噛み千切った。牙から煙と異臭が立ち昇り、光属性の蛇頭は傷口から石化が始まる。

「血を止める為に首を1つ捨てたのか⁉︎」

 一瞬気を取られたアラヤの死角から違う蛇頭が襲い掛かる。だが、周りの嫁達も見ているだけでは無い。死角のカバーは当然に入る。
 接近戦はクララとサナエが、援護をカオリとアヤコが行う。皆んなが瞬歩を得ているので、ナーガラージャの素早さに何とか対応できている。

『みんな、そろそろいっても良いかな?』

 それは、弱肉強食の技能の使用の合図だ。もし、アラヤが気を失った場合に、残された皆んなで対応できるかの判断を聞いているのだ。

『大丈夫!やっちゃって!』

『分かった!でも感覚共有は駄目だからね!』

 アラヤは近くの蛇頭の首にしがみつき、弱肉強食で噛みついた。職種レベルはアラヤがナーガラージャよりも上だ。よって、全ての技能を奪う事ができる筈。

「鳥のササミみたいな食感で美味い‼︎ってアレ?」

 奪えたのは、土属性魔法とペトリファイバイトの技能のみ。全ての技能どころか、他の首の技能すら奪えていない。

「まさか、胴体部を食べないとダメか?」

 今までは1噛みで全てを奪えたのだが、首が複数ある場合は1体扱いでは無いのかな?だとすれば、全ての頭を食べる必要があるか、胴体のみで良いかを試すかな?そう考えた矢先、背後から叫び声が聞こえた。

「サナエ、危ない‼︎」

 違う蛇頭の対応中のサナエが狙われて、    彼女を突き飛ばしたカオリが代わりに牙で負傷した。

「シャシャ、シャシャーッ‼︎(キャハハ、即死毒だーっ‼︎)」

 しかし、ムクリと起き上がる鱗状の肌の彼女を見て、蛇の口はあんぐりと開いたままになる。

「あ~イタタタ…サナエさん、その夏服じゃ寒く見えるわ。蛇皮のコートなんてどう?」

「蛇皮は衣類では着たくないわね。せいぜい財布かバックかしら?まぁ、皮を剥いでおけばなんとでもなりそうね?」

 夏服とはいえ、技能の体温調節があるので、現在の気温程度ならば平気なのだ。
 2人の冷たい視線が、水属性の蛇頭へと向けられる。
 ピキッと全身が竜鱗で覆われた2人は、ニヤッと笑うと同時に走り出した。
 カオリは蛇口に、ダブル魔法でウォータムとサンダーランスを放って体内を電流で焼き、サナエはチャクラムにエアカッターの魔鉱石を嵌めて、バーサークを使い狂戦士化状態で斬撃の恐ろしい舞を始めた。
 バーサークで能力が上がった斬撃に、エアカッターが更に食い込みナーガラージャは悲鳴を上げる。

「うわ、早く食わないと、食べる前に首が無くなるな。クララ、来てくれ」

 アラヤはクララの背に乗り、攻撃してくる蛇頭を躱しながら反撃でかぶり付く。だが、
やはりその首が持つ技能しか奪えない。

「一度、胴体へ向かってくれ」

 今は全ての蛇頭が嫁達に攻撃を仕掛けているので、ナーガラージャの胴体は立ち上がっている状態だ。今なら心臓に近い部分を噛み付くことができるだろう。

「【弱肉強食】いただきます!」

 胸筋に噛み付いたアラヤは、先程とは違い全身に強めに快感が走ったので、全ての食奪獲得イートハントが成功したと分かった。やはり、頭が複数ある敵の場合は、胴体を狙えばいいみたいだね。

「アヤコさん、耐性も全て奪ったから、後は爆破するなり、斬り刻むなり好きにしてね?。…俺はちょっと意識飛びそうだから、離脱するよ」

「ええ、後は私達に任せて休んでてください」

 全ての技能を失ったナーガラージャは、言わば首の多いだけの蛇となった。俊敏さと体力はあるものの、今の嫁達には問題ないだろう。
 アラヤはクララに隅に運んでもらい、安心して眠りについたのだった。

1時間後…

 鉱石の防壁を解除されて、ようやく外へと出してもらったハウンとリアムは、目の前の光景に絶句した。

「ほら、貴方達も必要な分の肉を回収しなさいよ?」

 少し擦り傷が目立つサナエが(バーサークを解除する為にダメージを負わされた)、目の前でナーガラージャの尻尾の肉を切り分けていた。

「こ、こ、これは⁉︎」

「ん?貴方達の分の蛇肉だよ?」

「へ、蛇肉…」

 こんなでかい蛇の肉と言ったら、先程のナーガラージャ以外考えられないのだが、肝心のナーガラージャの本体が尻尾以外は見当たらないのだ。

「これで貴方も、しばらくは食糧に困らないでしょう?」

「あ、ああ…」

 困惑する2人の下にアヤコがやって来た。見た感じで彼女は無傷だと分かる。成り立てとは言え、ロード級との戦闘で無傷なんて…。そういえば、アラヤとあの金髪の女性も見当たらない。(カオリは仮死状態デスタイム中)

「あの、アラヤ様は…?」

「彼は今、仮眠中です。彼から貴方達に伝言があるわ。ハウンは、ここで食糧を亜空間に収納した後に、リアムの住処にそれを届け、オモカツタに一度帰るように。司教の指示に従い、先程の話が通った場合には、私にコールして配下と共に来ると良い、だそうです」

「分かりました。…あの、ナーガラージャ討伐の件は司教に話しても?」

「ええ、構わないそうです。但し、ロード級では無かったと伝えるように。死体を調べたいといわれても、討伐の際に焼き払ってと言えば済むわ。現に、残らずにできるでしょう?」

「わ、分かりました」

 つまりリアム達は、証拠隠滅の片棒を担ぐという事だ。しかし、こんな化け物みたいな奴等にリアムに文句など言えるわけは無い。「有り難く頂戴するよ」と全ての尻尾の蛇肉の処分を引き受けた。

 ナーガラージャの戦いも終わってみれば、大量技能持ちとなった嫁達の、良い肩慣らしの戦いになったと言えるだろう。
 これがもし、職種レベルが3以上ならここまでは上手くいかなかっただろうけど。
 ハウン達が出発した時も、1人馬車に寝かされているアラヤは、まだ余韻に浸っていたのだった。
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