上 下
44 / 418
第3章 スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

040話 入れ違いの冒険者達

しおりを挟む
「ええっ⁈既に討伐が済んだと聞いたって⁈」

   フユラ村に帰還した六人の冒険者達。リーダーのアルバスが、村長に報告にいった際にそう聞いたのだった。

「どういう事だよ、リーダー?」

「それが、俺達が巣に向かったその日に、他の村の人間が来て、そう教えてくれたんだそうだ」

「他の村の人間が何で?」

「その村も子供達が攫われたらしく、村人総出で救出に当たったらしい」

「え~?村人にゴブリンキングが倒せるかしら~?」

「実際に、この村の子供を2名救出して連れて来たらしい」

「じゃあ、その子達に詳しく話を聞こうぜ?」

「いやしかし、傷口をえぐるようで悪いだろ?」

「でも、スタンも気になるだろう?」

「うむ…」

   結果的に多数決で話を聞くことが決まり、村人に聞いて回る。
   そして、タオとハルの二人を見つけ出したのだった。

「あの、用って何ですか?」

「うん、君達が助かった時の事を聞きたくてね。思い出すのは辛いだろうけど、私達もギルドに報告しないといけなくてね」

「あの、正確には覚えてません。僕達は気が付いたらヤブネカ村の人達に介抱されていましたから。しばらく村で過ごして体調が回復したので、昨日村まで送っていただいたんです」

「う~ん。どうやって村人達だけでゴブリンキングを倒したか、聞きたかったんだけどなぁ」

「キングを倒したのはししょだよ」

   ハルちゃんがそう答えて、タオ君が慌てて口を抑えると、ダメなの?と、キョトンとするハルちゃん。

「へぇ~、キングを一人で倒した人が居るの?強いねー。そのししょさんてのはどんな人?」

    アニはハルに笑顔で尋ねる。その人物に俄然興味が沸いたのだ。キングクラスの魔物は、ソロで戦うならAランク以上の実力が必要とされている。

「…お姉ちゃんは、ししょの事を聞いてどうするの?」

「何もしないよ?ただ、凄い強い人なら冒険者に向いてるかもなぁって思ったの」

「すみません、その方は普通の村人で居たいと思いますので。ハル、もう行こう?」

   タオが間に入ってハルを連れ出し、冒険者達は取り残された。

「ん~、凄い警戒されてる?」

「そりゃ、いきなり勧誘する気だは無いだろ。手合わせしたいからって、がっつき過ぎだ。顔に出ていたぞ、アニ」

「まぁ、仕方ないさ。昨日、来たというのなら、次の行き先を知っている人に聞くまでだ」

「リーダー、やる気になったね?」

「ああ、俺もちょっと気になってね」

   彼等はその後、村長から山岳地帯に向かった事を聞いて、村に停めておいた馬車に乗り山岳地帯へと移動した。
   入り口のバリケードは退かされているままだ。彼等はまだ帰って無いということだ。

「ロック鳥の卵を取りに来てるんだよね?やっぱり普通の村人達とは思えないわ」

「別に戦う必要は無いだろ?俺なら盗んで逃げるけどね」

「まぁ、どちらにせよ、ここで待っていれば来るだろうよ」

   しばらく待っていると、突然ザップが近くにあった木に登った。

「おい、向こうで戦闘音が聞こえるぞ」

「何⁈近いか?」

「いや、ちょっと遠いが、向かうか?」

   アルバスは仲間を見る。全員、異存はないようだ。

「よし!直ぐに向かおう!」

   よし来たと、一同は直ぐに馬車を走らせる。しかし、中腹を過ぎた辺りから、山道がとても走りづらくなってきた。

「おいおい、これって完全にロック鳥とやり合ってないか?」

    道端のあちらこちらに、落とされた大岩と、それが砕かれた破片が見えてくる。

グギャァァァァッ‼︎

   突然聞こえる魔物の叫び声。一同は顔を見合わせる。今まさに、ロック鳥と何者かが戦っている。

「スタン、ザップ、アニ、君達は先に向かって必要ならば援護するんだ!」

「「「了解‼︎」」」 

   三人は馬車を飛び出し、跳ねるように荒れた山道を駆けて行った。

「トーヤ、俺達は邪魔な岩を退けるぞ!」

「おう!」

    馬車がスムーズに進む為に、二人は破片を退かしにかかった。

「ザップ!反応は⁈」

「気配感知には、デカいロック鳥が一羽だけだ!やられちまったか⁈」

「慌てるな!気配を消しているのかもしれないぞ!」

   三人は、ロック鳥を視認できる場所までたどり着いた。確かにロック鳥は一羽で、つがいは来ていないようだ。

「おいおいっ⁈」

   そのロック鳥は、目から煙を出して暴れ回っていた。手当たり次第に、両翼による羽ばたき攻撃を飛ばしている。

「ロック鳥の両目を潰したのか⁈」

「ザップ、肝心のししょさんは見つかった?」

「いや、反応も無ければ、遺体も無い!既に逃げたみたいだな!」

「ええっ⁈また入れ違い⁉︎」

   せっかく目前まで来たというのに、肝心の人物は居なかった。アニは苛立ちを大岩に打つける。

グァァァァッ‼︎(この人間がぁぁっ‼︎)

   ロック鳥は、爛れた目でギョロギョロと何かを探している。薄っすらと見えているのかもしれない。

「おい、逃げるぞ」

「それが良さそうね」

「視力はまだ回復してない筈だ。静かに移動するぞ」

   満場一致で、三人はこの場から離れる事にした。三人でロック鳥を相手に戦う気など、さらさら無い。戦うなら、チーム全員ででないとリスクが高いだろう。

「おーい、皆んな!」

「な⁈リーダー⁈」

   間の悪いことに、大声で呼びながら馬車でこっちに向かって来る。
   案の定、ロック鳥に居場所がバレてしまった。

グァッ!グァーッ‼︎(そこか!逃がさーん‼︎)

   ロック鳥は、今一番の羽ばたき攻撃を声の聞こえた場所に飛ばす。

「偉大なる大精霊エアリエルより生まれしシルウェストレよ、悠然とした其の内に眠りし一片の激情を我に貸し与えよ、竜巻トルネード‼︎」

   馬車から放たれたフロウの風魔法が、ロック鳥の風圧攻撃と衝突すると、衝撃波が辺りに飛散する。

「さぁ、今の内だ!皆んな馬車に乗れ!」

   暴れる馬を制して、アルバス達は元来た道へと引き返す。しかし、ロック鳥も片目だけ微かに見える獲物の後を追いかける。

ピィッ!ピィィィーッ‼︎(貴方!私も行くわー‼︎)

「げっ!つがいのロック鳥まで現れたぞ!」

   急いで中腹まで戻ったのに、馬車の前方から大岩を掴んでもう一羽のロック鳥が現れた。

「スタンは威嚇射撃で、投石のタイミングの邪魔を頼む!アニは大岩の軌道を変えろ!トーヤは馬を石飛礫から守れ!フロウは次の魔法を頼む!馬車のコントロールはザップ、任せたぞ!何としても切り抜けるんだ‼︎」

「「「了解‼︎」」」

   アルバス達は、二羽のロック鳥から必死の逃走を繰り広げることになった。

   一時間後…。
   山岳地帯から何とか抜け出したアルバス達は、草原地帯で馬を休ませていた。

「どうも今回は、いろいろとタイミング悪いな」

「結局、ししょさんとは会えず終いだしね」

「その方と会うのは、今回は諦めるべきだな。凄腕ならば、いずれ冒険者ギルドに来るやもしれんぞ?」

「それもそうね~。それまで楽しみにしましょう~」

「報酬も無いし、骨折り損だったな~」

「ああ、村長は報酬は俺達に受け取ってくれと言っていたぞ」

「はぁ?良いのかよ?」

「村の防御壁の強化や、近辺の魔物を討伐してくれたからだそうだ。ゴブリンキングを討伐した村人達は、報酬は受け取らないからってさ」

「ちょっと悪い気がするけど、それはありがたいわね」

「そのししょさんに感謝だな」

「んじゃ、そろそろ王都に出発するか?」

「ああ、そうだな」

   六人が、再び馬車に乗る準備をしていると、北から一台の荷馬車がやって来た。

「やぁ、こんにちは!こんなところで、何かお困りですかな?」

   小太りの御者の男が、馬車を止めて挨拶をしてきた。荷台には護衛らしき男と子供が一人乗っている。

「いや、ただ馬を休ませていただけですよ。お気遣いありがとうございます。もう大丈夫そうなので、今から出発するところです」

「そうですか。では、お気をつけて」

   明るく手を振りながら、荷馬車の御者達は南へと去って行った。

「まさか、今の中にししょさんが居たりしてね?」

「いや、無い無い。小太りのおじさんに子供だったよ?唯一の護衛の男なんか、よだれ垂らして寝てたし!」

「そうだな!ハハハ…!」

   そんな事を言われているなどつゆ知らずに、荷馬車のモドコ店長達は、ヤブネカ村へと帰って行くのだった。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...