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第3章 スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

030話 誓い

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    結婚発表から3日目。衣装が無事に完成したらしい。二人は朝一番に織物屋に走って行った。俺は、その間に指輪の完成を見る為に村長の元へと向かう。

「おっ?来たね。安心しな、良い出来だよ。見てみるかい?」

「お願いします」

    村長は奥の部屋に行き、綺麗な装飾が施された小箱を持って来た。まさか、この小箱作りに小箱にこだわって、まだ出来てないとか無いよね?

「私の装飾品第1号達だよ」

   丁寧にしまわれていた指輪を取り出して並べて見せる。

「おおっ!凄いですね!」

   その指輪は、金剛石ダイヤの大きさは1カラットぐらい。淡いピンク色をしている。リング部分は金と白金のダブルリング。
   これって、前の世界でもかなりお高いだろうけど、こっちでもかなり高価な気がする。こういう時は、お金のいらない村で良かったと思うね。とてもじゃないけど俺には買える気がしないもの。

「本当にありがとうございます」

「これは式の最後に渡すから、アラヤも早く準備に戻りなさい」

   今一度礼を言って、アラヤも織物屋へと向かった。店の扉を開けると、ナーベさんが待っていた。二人の姿は見当たらない。

「二人の御披露目は後だよ。今、ナーシャが二人を化粧してるんだ。その間に、アラヤ君は出来た正装を試着してみようか」

   渡された衣装に部屋の隅で着替える。この生地、ブルパカの毛から出来た物なのだが、光沢がありとても柔らかくて肌触りが良い。なんだかカシミヤに似てるな。
   衣装も、タキシードというよりも民族衣装という感じだろうか。自分で言うのも嫌だが、子供感が拭えない。

「うん、似合ってるよ。裾をもうちょっと調整しようか」

    ナーベさんは、ささっと素早く裾を上げて仕上げくれた。少し、母さんを思い出した。
   あの日、いきなりこの世界へと飛ばされて来たけど、残された家族の皆んなはどうしているだろうか。やはり、突然死んだ事にされて、沢山悲しませたのだろうか。

「親にも、見てもらいたかったな…」

    ちょっとしんみりしてしまった。男なのに、マリッジブルーなのかね。

「アラヤ君、花嫁達は後で来るから、先に村長宅に行って待ってなさい」

    どうやら、ここでの御披露目は嫌らしいね。分かりましたと素直に先に行く事にした。
   普段は勉強会の教室の村長宅の一室が、まるで教会に居るかのように思えるほどに激変している。

「これ、ちゃんと元に戻せるんだろうね?」

   室内で茫然と立ち尽くす村長の気持ちも分かる。某番組の「何という事でしょう…」的なナレーションの声が聞こえる気分だよね。でも、アヤコさんなら元に戻すのも訳ないと思うよ。

「村長、その衣装見違えるようですね」

    村長の姿は、朝見た職人スタイルでは当然なく、白のローブに赤のストールを着用している。普段は簡単に結っているだけの赤の長い髪も、三つ編みにして整えている。今日は全体的に清楚に見えるね。

「まぁな。たまにはシャンとしないと、威厳が無くなるからね。そう言うアラヤこそ、馬子にも衣装ってやつだな」

   失礼な物言いですね。エセ貴族なので間違いではないですけれど。

「お、部屋が教会みたくなってるぞ」

「あら、素敵だねぇ」

   村人達が次々と列席者としてやってきて、空いてる席に座り始める。村人全員は入れないので、先着順になっている。
   本来なら、挙式は身内と親しい友人達が立ち会うのが一般的だけど、アラヤ達の両親はこの世界にいない。
   しかし、この村の人達は皆、アラヤ達の事を家族同然として扱ってくれている。だから、今日を楽しみにしてくれる事はとても嬉しかった。
    席は満席状態になり、入れなかった人達は窓から覗いている。裏手の方から、ナーベさんが顔を出して中を確認していた。

「アラヤ、そろそろ新婦さんの入場だよ。あんたはこのまま、落ち着いて待ちな」

「はい。ありがとうございますメリダ司祭様」

   司祭と呼ばれて、村長もまんざらでも無い表情を見せる。とうとう今から、挙式が始まる。
   やがて外でどよめきが聞こえ、その後でゆっくりと扉が開かれた。

「「「おおっ‼︎」」」

  その姿を見た瞬間、アラヤは言葉を失った。その美しさに、ただただ、見惚れてしまう。
  純白のAラインのウェディングドレス。胸元は無理に強調せず、シンプルで可愛いい刺繍と、なだらかに広がるスカートはとても凛として気品がある。
  いつもと違う髪型と化粧で、美しく大人の雰囲気の二人。二人共同じドレスだけど、どちらも引けを取らない程に似合っているよ。
   エスコートはナーベさんとナーシャさんが、スカートを後ろで持つ役はダンとペトラが受けてくれたようだ。
   入場曲は無いけれど、食堂のおばちゃんであるメリッサさんが、美声で讃美歌を披露してくれた。その歌声に合わせて、ゆっくりと歩んで来る。
   その視線は、足元から徐々に上向き、アラヤの視線と合わさる。
   アラヤはドギマギしないように、必死に平静を装っている。
   二人が、アラヤを挟むように並ぶと、メリダが前に立ち聖書らしき本を広げる。

「では今から、生と死、愛情と戦いを司る紅月神フレイアに、三人の結婚の誓約を執り行う。
   新郎アラヤ=クラト、貴方はここに居るアヤコ=シノサキとサナエ=ツチダの両名を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「はい、誓います」

「新婦アヤコ=シノサキ、貴方はここに居るアラヤ=クラトを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「はい、誓います」

「新婦サナエ=ツチダ、貴方はここに居るアラヤ=クラトを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「はい、誓います」

「それではここに、紅月神フレイアに三人の結婚の誓約は果たされた。アラヤ=クラト、誓いの証となる物を伴侶となるべき者達に捧げよ」

    メリダ司祭から手渡される木箱を見て、二人は興味津々な表情だ。ゆっくりと箱を開け、指輪が見えた瞬間は目が輝いたね。

「準備してたんだ…」

「嬉しいです…」

   二人が差し出した左手の薬指に、アラヤは丁寧に指輪をはめる。今度はアラヤの指輪をはめる役だが、揉めそうになったので素早く自分ではめて見せる。

「「むぅ…」」

   二人は納得してなさそうだけど、ここで揉められても困るからね。

「では皆に誓いのキスを見せよ!」

   この場合は、二人から左右の頬にキスをされて終了だ。それを見た列席者達が拍手を送ってくれる。
   歓声と拍手が鳴る中を、三人はゆっくりと何度も頭を下げながら外へと出た。外にも、列席できなかった村人達が居て、三人に拍手をしてくれる。

「さぁ、結婚式は終了だ!宴を始めるから食堂に集まりな‼︎」

  いきなり雰囲気を打ち壊す、いや、結果的に盛り上げた村長は、村人達を食堂へと誘導する。

「三人共、一旦着替えてから参加しようか」

   背後に、ナーベさんとナーシャさんが待機してくれていた。

「二人共綺麗だったよ~!アラヤ君は幸せ者だね!」

「ありがとうございます。お二人のおかげでもありますよ」

「ふふっ、作り甲斐があったよ。新たなデザインも貰ったから、こちらこそ、ありがとうだね」

「さぁ、早く着替えて、美味しい物食べに行きましょう!」

   時間的には昼食の時間だったのだけど、宴会は夜まで続きました。
   三人共、慣れないお酒を結構飲んだ為、フラフラとしながら帰宅しました。俺一人は、酔うに酔えなかったんだけどね。ああ、ドキドキが止まらないよ⁈どうすれば良いんだろう⁈一人舞い上がるアラヤを置いて、二人は自室の扉を開ける。

「「おやすみ~」」

「へ?」

   二人はご就寝されました。
   こういう場合、どうすれば良いの?アラヤはしょんぼりとしながら、自分も部屋で寝る事にした。
   アラヤは知らない。
   隣の寝室では、二人の攻防が始まっている事を。アラヤが眠りについた頃、ゆっくりと扉が開かれる。そこに居たのは…
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