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第3章 地下宮殿

ジョンからの贈り物

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 洞窟の入り口から、一同は直ぐに離れていて、来る際に利用した御者の野営地に急いで向かった。
 目的地に着くと、まだ野営地は残されていた。テントの中から、足音に気付いた御者が出て来る。

「お帰りなさいませ。おや、人数が増えましたね?」
「ああ、すまないが、追加料金でトーキオまで乗せてくれないか?」
「私は構いませんが、私の馬車では5人が限界ですよ」

 つまり、二人は歩きになる。本調子では無いレベッカとマイクは必然的に乗車組で、依頼者のシャルロットとタケルも決定だ。残るのは、ジョン、マリ、ブルゲンの三人だ。あと一人しかスペースが無い。その時、ジョンが手を上げた。

「マリ、俺、君に話して無い事があるんだが」
「え?何ですか?」
「実は、これなんだ…」

 ジョンは自分の四次元バックパックに両手を突っ込むと、大きな荷物を取り出した。原動機付き自転車スクーターだ。

「ちょ、ええぇぇぇっ?!」
「あ、ほら、その~、絶対一緒に来るって思ってたから、持って来ちゃった」

 衝撃は受けたが、結果オーライでマリが運転する事になり、後ろにはジョンが乗る。そしてブルゲンが馬車の最後の乗車組となった。ブルゲンが二人分のスペースを取るので、かなり窮屈な状態である。
 先に馬車が走り、その後ろをマリ達が追って走る。速度は余り早く走らないが、車道と違い、荒れた道はかなりの振動をジョンに与える。

「燃料、大丈夫かな?あの、こちらには、ガソリンってあるんですか?」
「が、がが、ガソリン?な、なな、何だい、それはあああ?」

 振動で舌を噛みそうになりながらも、必死にしがみついて答える。座るスペースがもともと狭い(荷物を載せる)場所しか無いのだ。
(無さそうだなぁ。使い切ったら、もうこの原動機付き自転車スクーター使えないなぁ)

 3時間くらい走っただろうか。燃料はもう限界を迎えようとしている。前を走る馬車はまだ走り続けている。マリは、馬車との距離を縮め、シャルロットを呼ぶ。

「あのー、後どれくらいで着きそうですかー?燃料が切れそうです!」
「後20分くらいだと思うわ!もうすぐ見えてくるはずよ!」
「分かりましたー」

 再び追走をしてみたが、10分程で限界はやって来た。プスン、プスンと音を立て、速度は急激に落ち、完全に止まった。

「お、おい?どうしたんだ?」
「もう動きません!燃料切れです、早く収納して下さい!後は自力で走らなきゃ!」

 ジョンは慌ててバックパックに収納する。もともと原動機付き自転車スクーターは一人乗りだ。二人乗りで重量オーバーだと、燃費は悪くなり、速度も上がらないのは当然だ。

 二人は馬車の後を自力で走り出した。冒険者のジョンはともかく、マリは普通の女子高生だ。体力も無く、直ぐにバテた。肩で息をして立ち止まる。

「ゴメンな」
「え?キャッ?!」

 ジョンはマリを突然抱き抱えた。俗に言う、お姫様抱っこだ。そして、そのまま走り出した。マリは耳まで真っ赤になっている。
 冒険者の走りは、常人のそれとは全く違う。馬車と開いていた距離を、みるみる縮めていく。

「うぉぉぉぉぉっ!!」

 汗を大量に流しながら、走るその姿をマリは見上げる。胸から何か込み上げてくる…事は無かった。飛ぶ汗がマリの顔に次々と当たる。
(ああ、私この人絶対無理!)
 その後、後ろの様子に気付いたタケルにより、マリは馬車に乗らせ、替わりにタケルが走る事となった。

「すみません…」
「いいのよ、か弱い女子に全力疾走させる事自体、男として恥ずかしいと思うけど。ねぇ?」

  マイクは肩身の狭い思いをして、苦笑いするしか無かった。

やがて、トーキオの高い防壁が見えて来た。魔物からの進入を防ぐ為に、その高さは20メートルを超えている。
 馬車は、巨大で堅固に作られた扉の前でゆっくりと止まった。
 扉には、もう一つ小さな扉が作られていて、その扉を潜って門番が一人出て来た。そこへ御者が近付いて行く。入門するには、通行証と身分の提示が義務付けられているからだ。

「よし、許可する。開門しろ!」

門番が声を高々と上げると、軋む音を立てながら、ゆっくりと扉が開いていく。その光景を見て、マリは驚きと感動を覚える。自分の生活では、決して体験する事無く終わっていただろう、そんな世界に自分は来たのだと。

 門を抜けると、活気ある街並みが広がっている。門から続く大通りには、様々な売店が並び、多くの人々が雑談、交渉、喧嘩等を至る所で行っている。
  冒険者、商人、僧侶、一般人、物乞い、服装はイメージ通りのコスプレに見える。しかも、人種も様々で、白人、黒人、黄色人、金髪、黒髪、赤髪、白髪、と多い。それなのに、言葉は自分の知る日本語と変わりない。全てに、違和感を感じずにはいられない。
 そうこうしてる間に、馬車は大きな建物の前で止まった。

「皆さん、冒険者ギルドに着きましたよ」

 馬車を降り、シャルロットは代金を支払った。御者はお金を受け取ると、軽く頭を下げて馬車を引き上げて行った。
 マリは建物を見上げた。まるで、博物館のような作りだが、出入りする人々は皆、冒険者やクエストを依頼する商人といった格好をしている。自分だけが、Tシャツに制服のスカートと風変わりな格好だ。もちろん、周りから注目を浴びていることに気付き、マリは縮こまった。

「それじゃあ、私とタケルとジョンとマリはギルドで手続きが沢山あるから、ブルゲンはマイク達と行動して。マイクは、レベッカと共に一度は病院に行きなさいよ。新しいクエストが手続き終わるまで、おそらく二日かかるわ。ブルゲン、悪いけどそれまでは我慢してね。その時までは準備休暇よ。じゃあ、一時解散」

 マイク達がまたなと、手を振り去っていくのを見送り、シャルロット達はギルド内に入った。
 内部には至る所に掲示板が設置してあり、各々に種類分けされたクエストが張り出されている。

「タケルとジョンはクエスト報告よろしくね?私はマリを連れていろいろ手続きしてくるから」
「分かった」

 タケルは、ジョンと二人で更に奥の受け付けカウンターに足を運ぶ。受け付けには、20代前後の美人女性が担当をしている。タケルは、引き受けたクエストの羊皮紙を彼女に渡した。

「それでは、こちらに記入をお願い致します」

 渡されたのは報告書で、クエストの達成率、詳細、証拠品の提示と、今後のクエストの必要性を記入、提出しなければならない。

「ジョンさん、ケオスドラゴンの顎の骨を出して下さい」

 羊皮紙に記入をしながら、ジョンに預けておいたドロップアイテムを出してもらう。四次元バックパックから取り出した大きな骨を受け取ると、羊皮紙を今度はジョンに手渡す。

「俺はドロップ鑑定を行うんで、ジョンさんは残りの記入お願いします」
「お、おう」

 タケルはルーペを取り出して、細かいチェックをしては鑑定用の羊皮紙に記入している。
(やっぱり、鑑定士が仲間にいるだけで、手間がいろいろ違うな)
ジョンは感心して見ていた。そして任された記入欄を見る。
 ークエスト中死亡した者の詳細ー
そう。亡くなった者の家族や身内の為、こういった負の詳細も、報告の義務である。
 測量士のウィル。眼鏡を掛けた大人しい性格の男だった。測量士としてのレベルは高かったが、冒険者の職は持たず、冒険には不向きだったかもしれない。しかし、何度も共にクエストをこなした仲間であった。自分達がもっと強ければ、こんな自体にはならなかった筈。

「ジョンさん?」

タケルは鑑定書を書き上げ、ジョンの記入待ちだった。

「お、おう。ほらよ」

ジョンは書き終えた羊皮紙を手渡す。タケルはそれを受け取ると、鑑定書と共に提出した。

「はい、確かにお預かり致しました。審査には少々お時間を頂きますが、このままお待ちになりますか?」
「いえ、その間にドロップアイテムの換金に行ってきます」

 そう告げると、タケルはケオスドラゴンの顎骨を持って運ぼうとする。

「なぁ、タケル。良かったら、俺のこの四次元バックパックをやるよ」
「ええ?良いんですか?結構高価な物ですよね?!」
「ああ、お前達にはいろいろ救われたし、これからのお前には必要な物になるしな。少し古い型だが大事に使ってくれ」
「ありがとうございます!」

 タケルは四次元バックパックを譲り受けた。ポーチ型より少し大きめの腰袋タイプだが、収納制限(大)、重量制限(大)、キーロック機能有りと、使い勝手は最高である。
 早速、顎骨を収納して、換金所へと向かうのだった。
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