17 / 75
第2章 新世界
状況把握の会食
しおりを挟む
見渡す限りに闇と静寂が広がる樹海。空は雲で覆われ、雨が降り続いている。
地面に置かれた2つの魔石灯に、異様な格好の3人の影が揺れる。
何故か制服姿の女子高生と、冒険者姿の男性が正座をしている。その目前には仁王立ちする金髪の冒険者の女性。
「要するに、貴女はこの森に初めて訪れて、誰も知られずに自ら命を絶ちに来たと。全く呆れるわね」
「スミマセン」
樹海にこの世から別れるために来た女子高生榎田マリは、有無を言わさず正座をさせられている。
「それで、この森は富士の樹海という名で間違い無いのね?」
「はい、この森では富士山の影響で方位も狂うし、人は近付かないことから自殺の名所とも呼ばれてもいます」
「ふじさん?私達の居たジーフ火山とは違うのね。魔物を知らない件もだけど、冒険者もトーキオの都も知らないのはちょっと信じられ無いわ」
マリは困惑していた。自分が知っている常識を、この人達は知らないと言う。逆に、見た事も無い怪物を彼等は普通に戦えていた。
「シャルロット、そろそろ体も冷えてきた。何処か野営できる場所を探さないか?」
「あら、タケルの道具は入り口にほとんど置いてきたじゃない」
「君の四次元バックパックがあるだろ?気付いてないと思っていたのかい?」
シャルロットは、しょうがないわねと微笑み、腰から小さく可愛らしいポーチを取り出した。彼女はポーチを開けると、そのまま腕を押し込んだ。
ごそごそと何かを掴むと、それを引っ張り出す。ポーチの口が異様な大きさに広がり、長筒状の包みを吐き出した。
「タケルはこれをお願いね」
男性に渡された包みは、どうやらテントの様だ。それからも、彼女は小包を幾つか取り出した。
(あのポーチ、何?もしかしてこの女性、未来から来た人型ロボットなの?!)
マリは混乱する。ふざけた格好に、噛み合わない常識。そして、不思議な便利道具。近くに置かれた、ランタンに良く似たその道具も、中央には火や電球でも無く、クリスタルに似た石が光を放っている。
「えっと、マリ?だったわね?食事を作るから手伝いなさい」
「は、はい」
小包の中は食料や調理器具が入っていた。マリは見慣れた器具を見て、少しだけ安心できた。その後はシャルロットの指示の下、調理を開始した。
一方で、タケルはテントの設置を終えて、焚き火を起こしていた。
木々や落ち葉は濡れていて、火の着きが悪い。そこで、他に燃えそうな物が無いか、近くを探す事にした。
しばらく探していると、何やら見覚えある物が、根腐れでできた縦穴に落ちているのに気付いた。
穴に降り、魔石灯でそれを照らす。土で汚れてはいるが、羊皮紙の巻物と、シャルロットの物とは形は少し異なる四次元バックパックのようだ。
「まさか、先発隊の持ち物か?だとしたら、彼等もここに来たという事か」
タケルは探索を止め、一度報告に戻る事にした。
野営地に戻ると、女性陣が料理を完成させたところだった。
「報告は分かったけど、火を起こせていない言い訳にはならないわ」
結局、タケルは料理に使用していた種火を、湿気った枝や落ち葉に無理矢理着けるはめになった。白煙に噎せながら風を吹き込み、程なくして着火に成功する。
「では、食事にしましょうか」
3人は焚き火を囲んで座り、皿によそわれた料理を食べ始めた。
「うん、美味しい」
思わず声に出してしまった。以前、クエストの際に食べた料理に比べ、かなり上達したのではないか?そう感じて、シャルロットを見ると、少し不機嫌そうに食べている。どうやら、味付けはマリが担当したようだ。
食事を終えて、タケル達はもう一度情報を整理することした。
国や土地名は、全く一致しない。魔王や魔物は存在せず、生活は安定している。魔王を倒し、平和な時代になればそんな世界になるのだろうか。
「貴女は、仕事、職業は何をしているの?」
「私はまだ学生なので仕事はしていません」
「その歳でまだ無職なのか。ずいぶんと裕福なんだな」
「裕福ではないですけれど、私の国では子供の頃から働くことは余りしません。子供は勉強をするべきという考えが多いです」
「でも、職業はあるのよね?貴女が、その学生という期間を終えたら、いずれは選ぶ訳でしょう?それなら、貴女が選ぶつもりの職業に、こんなバッジも無い?」
「こういう物だよ。職種の証明みたいな」
タケルは、鑑定士と剣士のバッジを渡す。マリは2つのバッジをじっくり見ると、頷いて答えた。
「同じかは分かりませんが、弁護士や警察官といった、国家資格を取った人が持っているのを見た事があります」
「なるほど、バッジシステムはあるようね。どうやら異世界には違い無い様だけど、文化や生活環境の違いは大して無いのかもね」
彼女はそう言うと、先程タケルが見付けてきた先発隊の落し物を取り出した。
「問題は、私達と同じ様な形で、先発隊の彼等や魔物が、この世界に来ている可能性があること」
羊皮紙の巻物の紐を解き、それを皆の前で広げる。そこにはジーフ火山の洞窟のマッピングが中途半端な状態で描かれていた。
「どのみち、今の私達には帰る方法が無い。彼等を探して、私達の世界に帰る方法を見つける。その為には…」
シャルロットはマリを見つめる。そして頭を下げた。その行為にタケルは驚きを隠せない。
「マリ、貴女の力を貸してほしい」
「で、でも、私、樹海に死にたくなって来たぐらいだし、地味だし、暗いし、人に必要とされることなんて…」
タケルはマズイと直感で感じた。シャルロットの表情が見る見る冷たくなっていく。
「貴女がどう感じるからとかは、私にはどうでもいい。貴女は協力するのか、しないのかを答えるだけでいい」
シャルロットの目が笑っていない笑顔に、マリは震え上がる。拒否する選択肢は初めから無いと知る。
「は、はい。協力します…」
「ありがとう。これで貴女も冒険者の仲間ね。よろしく」
表情一転して、満面の笑みで肩を叩く。固まるマリを見て、タケルは苦笑いしかできなかった。
こうして、新たなパーティメンバーが加入することになった。
地面に置かれた2つの魔石灯に、異様な格好の3人の影が揺れる。
何故か制服姿の女子高生と、冒険者姿の男性が正座をしている。その目前には仁王立ちする金髪の冒険者の女性。
「要するに、貴女はこの森に初めて訪れて、誰も知られずに自ら命を絶ちに来たと。全く呆れるわね」
「スミマセン」
樹海にこの世から別れるために来た女子高生榎田マリは、有無を言わさず正座をさせられている。
「それで、この森は富士の樹海という名で間違い無いのね?」
「はい、この森では富士山の影響で方位も狂うし、人は近付かないことから自殺の名所とも呼ばれてもいます」
「ふじさん?私達の居たジーフ火山とは違うのね。魔物を知らない件もだけど、冒険者もトーキオの都も知らないのはちょっと信じられ無いわ」
マリは困惑していた。自分が知っている常識を、この人達は知らないと言う。逆に、見た事も無い怪物を彼等は普通に戦えていた。
「シャルロット、そろそろ体も冷えてきた。何処か野営できる場所を探さないか?」
「あら、タケルの道具は入り口にほとんど置いてきたじゃない」
「君の四次元バックパックがあるだろ?気付いてないと思っていたのかい?」
シャルロットは、しょうがないわねと微笑み、腰から小さく可愛らしいポーチを取り出した。彼女はポーチを開けると、そのまま腕を押し込んだ。
ごそごそと何かを掴むと、それを引っ張り出す。ポーチの口が異様な大きさに広がり、長筒状の包みを吐き出した。
「タケルはこれをお願いね」
男性に渡された包みは、どうやらテントの様だ。それからも、彼女は小包を幾つか取り出した。
(あのポーチ、何?もしかしてこの女性、未来から来た人型ロボットなの?!)
マリは混乱する。ふざけた格好に、噛み合わない常識。そして、不思議な便利道具。近くに置かれた、ランタンに良く似たその道具も、中央には火や電球でも無く、クリスタルに似た石が光を放っている。
「えっと、マリ?だったわね?食事を作るから手伝いなさい」
「は、はい」
小包の中は食料や調理器具が入っていた。マリは見慣れた器具を見て、少しだけ安心できた。その後はシャルロットの指示の下、調理を開始した。
一方で、タケルはテントの設置を終えて、焚き火を起こしていた。
木々や落ち葉は濡れていて、火の着きが悪い。そこで、他に燃えそうな物が無いか、近くを探す事にした。
しばらく探していると、何やら見覚えある物が、根腐れでできた縦穴に落ちているのに気付いた。
穴に降り、魔石灯でそれを照らす。土で汚れてはいるが、羊皮紙の巻物と、シャルロットの物とは形は少し異なる四次元バックパックのようだ。
「まさか、先発隊の持ち物か?だとしたら、彼等もここに来たという事か」
タケルは探索を止め、一度報告に戻る事にした。
野営地に戻ると、女性陣が料理を完成させたところだった。
「報告は分かったけど、火を起こせていない言い訳にはならないわ」
結局、タケルは料理に使用していた種火を、湿気った枝や落ち葉に無理矢理着けるはめになった。白煙に噎せながら風を吹き込み、程なくして着火に成功する。
「では、食事にしましょうか」
3人は焚き火を囲んで座り、皿によそわれた料理を食べ始めた。
「うん、美味しい」
思わず声に出してしまった。以前、クエストの際に食べた料理に比べ、かなり上達したのではないか?そう感じて、シャルロットを見ると、少し不機嫌そうに食べている。どうやら、味付けはマリが担当したようだ。
食事を終えて、タケル達はもう一度情報を整理することした。
国や土地名は、全く一致しない。魔王や魔物は存在せず、生活は安定している。魔王を倒し、平和な時代になればそんな世界になるのだろうか。
「貴女は、仕事、職業は何をしているの?」
「私はまだ学生なので仕事はしていません」
「その歳でまだ無職なのか。ずいぶんと裕福なんだな」
「裕福ではないですけれど、私の国では子供の頃から働くことは余りしません。子供は勉強をするべきという考えが多いです」
「でも、職業はあるのよね?貴女が、その学生という期間を終えたら、いずれは選ぶ訳でしょう?それなら、貴女が選ぶつもりの職業に、こんなバッジも無い?」
「こういう物だよ。職種の証明みたいな」
タケルは、鑑定士と剣士のバッジを渡す。マリは2つのバッジをじっくり見ると、頷いて答えた。
「同じかは分かりませんが、弁護士や警察官といった、国家資格を取った人が持っているのを見た事があります」
「なるほど、バッジシステムはあるようね。どうやら異世界には違い無い様だけど、文化や生活環境の違いは大して無いのかもね」
彼女はそう言うと、先程タケルが見付けてきた先発隊の落し物を取り出した。
「問題は、私達と同じ様な形で、先発隊の彼等や魔物が、この世界に来ている可能性があること」
羊皮紙の巻物の紐を解き、それを皆の前で広げる。そこにはジーフ火山の洞窟のマッピングが中途半端な状態で描かれていた。
「どのみち、今の私達には帰る方法が無い。彼等を探して、私達の世界に帰る方法を見つける。その為には…」
シャルロットはマリを見つめる。そして頭を下げた。その行為にタケルは驚きを隠せない。
「マリ、貴女の力を貸してほしい」
「で、でも、私、樹海に死にたくなって来たぐらいだし、地味だし、暗いし、人に必要とされることなんて…」
タケルはマズイと直感で感じた。シャルロットの表情が見る見る冷たくなっていく。
「貴女がどう感じるからとかは、私にはどうでもいい。貴女は協力するのか、しないのかを答えるだけでいい」
シャルロットの目が笑っていない笑顔に、マリは震え上がる。拒否する選択肢は初めから無いと知る。
「は、はい。協力します…」
「ありがとう。これで貴女も冒険者の仲間ね。よろしく」
表情一転して、満面の笑みで肩を叩く。固まるマリを見て、タケルは苦笑いしかできなかった。
こうして、新たなパーティメンバーが加入することになった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる