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第6章 勇者候補の修行

謁見後の心境

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 国王との謁見が終了した後、タケルは王宮の離れの一室に案内された。その際に預けた荷物は返してもらった。
 扉を開けると、室内にはボルト大司祭とラネットが寛いでいた。

「おお、どうやら無事認定されたようだね」

「フフ、疲れたでしょう。こっちに来て座ったら?」

 促されるままにソファに座ると、直ぐ隣にラネットも移動して来た。ラネットが態と肩を寄せて来るので、タケルは大きく開いた胸元を必死になって見ないようにする。

「フフフ、意外に純情なのね。教え甲斐があるわ」

「ラネット、からかうのは良くないぞ。タケル君は緊張から解放されて、今はゆっくり休みたい筈だろうから」

「あ、あの、俺は今からどうなるんですか?」

 未だに目のやり場に困りながら、タケルはボルトにこれからの行く末を聞く。

「その説明をする為に、ここで待っていたのだよ。先ず始めに言っておくが、この部屋は元々は客間だったのだが、今は君専用の部屋となっている。これからの寝食はこの部屋で行ってくれ」

 王宮の客間なだけあって、全ての家具が豪華である。先日借りたホテルよりは広くは無いので、ホテルよりはまだ落ち着けるかもと思えた。

「君が目指すものは勇者なわけだが、勇者になるには試練の祠という場所に行き、バッジを手に入れなければならない。しかし、今の君が向かったところで、何も出来ぬままに終わってしまうだろう。そうならないように、君にはまず基礎能力の大幅な上昇を行なってもらう必要がある。よって、明日からは特別な指導者の下で修行に励んでもらう」

「その指導者達の一人が私とボルト大司祭って訳よ」

「そうだったんですか。よろしくお願いします」

 タケルは改めて二人に頭を下げる。会って間もないとはいえ、この二人なら信頼できる気がする。

「指導者は全員で六人。まぁ、大体が先刻会ったメンバーだから、細かい紹介は良いかな。ラネットが魔術担当、私が回復術担当、オーランドが戦技担当、カエデが隠密担当、バンカーが工作担当、武術担当はウィルソンだったんだが、ドワーフとの同盟の件で担当を外れたので、彼の代わりに武術を教える担当は、カエデが連れてくるらしい」

「みっちり教えてあげるから、先ずは貴方を丸裸にしなきゃね」

「へ⁈」

 タケルは裸にされると思い、しっかりと服を掴むが、ラネットはケラケラと笑いだした。

「違うわよ~。能力が丸裸って意味よ」

 ラネットは杖を取り出して、タケルの額に魔力を飛ばした。白い魔力の光がタケルの全身を包む。しばらくすると、その光が収束して文字列と変わった。
 ラネットはすかさずその光に羊皮紙をあてがう。光の文字は羊皮紙に吸い込まれ、そのまま描かれた。

「ふ~ん。平凡だわね」

「すみません、俺にも見せてもらえませんか?」

 タケルは何を持って平凡なのか気になって、見せてくれと頼むと、ラネットは気兼ねなく羊皮紙を渡してくれた。


 タケル=ハザマ  18歳  人間  男  黄色人

初期取得職業ジョブ 経験年数11年

・鑑定士 (下級 支援系職業)LV16  【測定】【鑑定】【解除】

 転職取得職業ジョブ   経験年数2年

・剣士(下級 破壊・工作系職業)LV15   【剣技】【体力強化】

 上級職昇格取得職業ジョブ 経験年数1年未満

・探検家(中級 工作・支援系職業)LV5  【索敵】【探索】【生存術】


基本能力値

体力     286
防御力 115
腕力      95
俊敏力 105
精神力 108
知力     120
魅力      95
運          62

「な、何ですか?この基本能力値って⁈」

「そのままの意味よ。貴方達冒険者は、バッジによるレベルでしか、自分達の強さを知る事が出来ないけれど、魔法には個人の強さを数字化できるものもあるの。剣士LV15の冒険者が二人居たとして、全く同じ強さだとは限らないでしょう?その基本能力値は、バッジの能力補正が無い数値で、そこに取得した職業ジョブ次第で数値が補足されていくのよ」

「俺の数値は平凡なんですか?」

「貴方の年齢での基本能力値としては平凡かしらね。違いを強いてあげるとしたら、職業ジョブを取得してからのLVの成長の速さかしら。短期間でこれは驚きかな?ちょっとは修羅場を体験してるみたいね」

 確かに自分は他の冒険者より出発が遅かったし、自分が強いという自信は無い。それでも、皆んなと経験した修羅場が、自分を成長させている事が分かって素直に嬉しく感じた。

「それで、それをどうするんですか?」

「担当指導者に配るのよ。彼等はこのデータを見て貴方への指導方法を考えるってわけ」

 「ええっ?何か恥ずかしいな」

「ご希望なら、女性遍歴や性癖まで載せようかしら?」

 「ラネット、いい加減に止めないか」

 からかう事を少し楽しみだした彼女を、静観していたボルトが溜め息混じりに止める。

「冗談ですよ~。でも、落ち込んでいるかなと思ってたんだけど、割と平気そうで安心したわ」

 どうやら彼女なりに、気を使っていたらしい。二人はタケルを心配してくれたのだろう。

「まぁ、とにかく今日はゆっくり休んで、明日からの修行に備えるといい」

 ボルトはラネットを連れて、また明日と部屋を去って行った。
 二人が去った後、改めて部屋を見渡す。客間は二部屋あり、今居る部屋は書斎を兼ねたリビングルームの様で、机や棚等が揃っているので読書好きなタケルとしては有り難い。
奥の部屋に進むと寝室になっていた。ふと視線を逸らすと扉の直ぐ横に、昼食用の食事のワゴンが置かれている。

「何でこんなところに?」

 その声に、あらぬ場所で音がする。

「ハッ!いつの間にか寝てしまった」

振り向くと、ベッドのシーツが突然持ち上がり、メイド姿の女性が現れた。

「「・・・・」」

二人は目が合い、しばしの沈黙が流れる。黒髪でショートの髪が、少し寝癖がついている。

「し、失礼致しました! わ、私ったら会話が終わるのを待っていたというのに!ど、ど、どうか、この事は御内密にお願いします‼︎」

「えっ?しっかりと寝てましたよね?」

 メイドの女性はテヘッと照れ笑いを浮かべる。いや、可愛く誤魔化してる時点で確信犯だと分かる。

「とにかくっ!これは貴方の昼食ですので!もう冷めちゃったでしょうけど、お召し上がり下さい」

 彼女は、ワゴンに乗っている料理を机にささっと並べると、そのまま後退りで部屋を去ろうとする。
 
「あの、貴方は誰なんですか?」

「あ、只の世話係です。客間の清掃と食事系統は私が担当しています。名前など、お気になさらずで結構ですので!」

 詮索は不要とそう言って、妙なインパクトだけ残して、メイドは許可なく勝手に出て行った。

「何だったんだ⁈」

 一人取り残されたタケルは、とりあえず用意された食事を有り難く頂く事にした。宣言通りに冷めていたけれど、味は普通に美味しかった。


「…あれが勇者候補に選ばれた男ですか…一応、報告しときますかね…」

 しばらくの間、メイドの女性はタケルの部屋のを監視していたが、今日は動きが無いとみて姿を消した。


「…この皿、取りに来るのかな?持って行く必要は無いよね?」

 タケルは一人考えたが、とりあえず部屋の端に片付けて置く事にした。

「そう言えば、ウィルソンさんに謁見後に見るといいと、渡された物があったんだった」

 タケルは返された四次元バックパックの中から、ウィルソンから受け取った小包を取り出した。
 ゆっくりと包みの包装を開いていくと、中からは意外な物が出てきた。

「これは…城の見取り図と、鍵?どこの鍵だろう?後、手紙か…一緒に包んでるからクシャクシャじゃないか…」

 クシャクシャな手紙を押し伸ばし、何とか読める状態にする。

『タケルよ、ワシは今、ブルゲンとの本格的な同盟を結ぶ話を決める役割の為に、その場には居ないだろう。肝心な時に居ない無責任なワシを許せないだろう。今更ではあるが、ワシは御主には本当にすまない事をしたと思っている。本来なら、土下座の一つでもするところだが、愛しい愛娘を嫁に出すのだから帳消しで良いだろう。御主とギルドで初めて会ってから、早くも13年も経つ事に驚いておる。5歳ながらにして、魔物の資料を調べ上げて鑑定士としての才能を開花させていた御主に、シャルロットを介して呪いの品で実力を測ったり、クエストに挑戦していた際も遠方から監視し、トーキオから逃走した際も、頃合いを見てシャルロットに居場所を教えたりした。始めは義務で監視していたつもりだったが、いつの間にか本気で御主なら勇者になれるのでは?いや、勇者に育てるべきだと思うようになっていた。という訳で、まぁ許せ息子よ!』

「…つまり、シャルロットとの出会いも仕組まれていて、気に入ったから勇者にならせる?しかも、何勝手に結婚決定みたく書いてるんだ?はぁ、でも仕組まれてると言えば、お父さん達にタケルの名を付けられた時点からだからなぁ」

 諜報活動していた両親達も、勇者にはタケルという名が必要とされる事は知っていた筈なのだし。終いには何だかどうでも良くなってきた。

「あれ?もう一枚手紙があった」

 見つけたのは小さな手紙。

『同封してある鍵は、その城にある特別資料室の合鍵だ。見取り図に印が付いてる場所がそうだ。基本、許可無しでは立ち入り禁止だが、検討を祈る』

「おいおい、いきなり捕まれと?こんなの、無視だ無視。早いけど、今日はもう寝よう」

 着替えを済ませてベッドに横になるが、中々寝付けない。結局は、見取り図を覚えてしまう程に、何度も出したり直したりを繰り返して過ごすのだった。

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