拳で語るは村娘

テルボン

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プロローグ

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 武道館の中央に特設されたリングの上で、上半身裸で筋肉隆々の男が二人熱い決闘バトルを繰り広げている。
 飛び散る汗、技と駆け引きの応酬に、観客席の誰もが熱気を帯び、大声で歓声や声援を上げている。
 リングで紅いボクサーパンツの男は、相手の右ストレートをギリギリで躱し、その腕にそのまま腕拉ぎ十字固めを決める。マットに倒れ込んだ後も離しはしない。
 彼は二連覇を掛けて闘っていた。彼の名は新垣 悟。若干22歳にして、総合格闘技の世界チャンピオンになった男。

 相手の腕をへし折る勢いで力を込めて、更に左右に捻りも加えていく。相手の男は堪らず、マットをバンバンと叩きギブアップした。
 割れんばかりの歓声が上がり、悟の二連覇が確定した。
 相手の腕を離し、そのまま仰向けに見上げる。幾つもの照明が自分を照らしている。その中に、あり得ない人影が見える。
 空中に人影?しかも、羽らしきものまで見える。しかし、逆光の為よく見えない。
 更に眼を凝らして見ようとすると、その影は両手を振り上げ、何かを叫ぶとその両手を振り下ろす。

 刹那ーーーーー

 もの凄い爆発音と共に屋根が抜け落ちてくる。
 続く爆発、衝撃、粉塵、逃げ惑う人々、一瞬で熱気溢れた会場は、恐怖飛び交う阿鼻叫喚の巷と化した。

 悟は落ちてくる瓦礫を避け、辺りを見渡すが舞い上がる粉塵で視界が悪い。再び見上げて、先程の影を探そうとした時、自分の体が発光していることに気付く。
 胸を中心に白から赤みを帯びていくその光は、悟の全身を包み込んだ。

「や、ヤバイ!?」

 そう感じてその場から飛びのくが、光は悟から離れない。

「フフフ・・・・」

 騒音の中でも悟の耳に直接届く様にして、妖艶な女性の声が響く。見上げると、先程の影が上空からこちらに向かい掌を差し向けている。

「さようなら、勇者候補の誰かさん」

 その声を最後に、悟の意識は搔き消された。
  爆死ーー。
完全に機能を停止した下半身、微かに残る意識は自分が死ぬことを理解させた。
  視界に映る天使か悪魔か分からないその女性に、感覚が残る炭化した右腕を伸ばす。

「しぶといわね」

 そう呟き指をパチンと鳴らす。悟の腕はボロボロと崩れ出す。

「リリム、帰るわよ!」

 最後にその言葉が聞こえ、悟は死の淵へ落ちていった。

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