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第3章 神色の世界

第36話 魔鉱の星ランガジャタイ①

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 今回の転移により到着した場所は、見上げる程の石壁が聳え立つ、街の外防壁前だった。
 到着と同時に【水月鏡花】を発動したミノルは、姿を透明化し壁に近付き【気配感知】で辺り探る。

(…この辺りには、生命反応は無いな)

 ミノルは、安全を確認してからモブリアの念話に応じた。

『やっと繋がりました!ミノルさん、無事に着いたようですので、今回のチュートリアルを始めたいと思います。よろしいでしょうか?』

『ああ、よろしく』

『先ずは、ハヤトさんが持たせた荷物の中に、前回のアッサムニアで使用した世界地図の羊皮紙が入っています。それを取り出してもらえますか?』

 前回同様に、野営道具や現地服等はハヤトが準備してくれていた。
 亜空間収納に入れたそれ等の中に、確かに前回使用した世界地図の羊皮紙も入っていた。

『確かにあるけど、この地図はアッサムニアの世界地図だろう?ん?あれ?地図が消えてる⁉︎』

 広げて見ると、アッサムニアの地図は消えおり、無地となった一面の一部に、少しだけ別の地図が描かれていた。

『その世界地図は、ブラフーマ様から神具でしたので、ハヤトさんが改造の許可をもらい、手を加えたんです。私にはよく分からないのですがで、【融合】の権能で、訪れた世界の情報を取り込み反映できるんだそうです』

『情報を反映する地図?』

『ミノルさんが居る地点付近の、お、オートマッピング?の機能があるらしいです。他にも、踏破した地域をタップ?すると、その詳細を見れるのだとか』

 試しに現在地をタップしてみると、その場所がズームされ、詳細情報が浮かび上がる。


工業都市マピオン

人口約32万人。
【内訳】
 猿人 約13万人
 人間 約15万人
 魔人 約3万人
 ドワーフ 約8000人
 混血(各種)   約2000人
 
 どうやら情報不足により、今はこの程度しか映らないが、記録道具として充分過ぎる程に使える。

 試しに近くを歩き移動すると、地図に新たな地形が表記されて行く。
 自身を中心に、半径5キロ内は踏破されたと認識されるようだ。

『便利だけど、世界地図を完成させる目的なら、軽く数年は必要かもな』

 星の大きさが分からないから、どれだけ移動する必要かも分からない。

『その点は、現地の地図や情報を吸収するから、街を幾つか訪れれば大丈夫とハヤトさんは言ってます。文明レベル高いから、カメラ付きドローン?という道具が有れば、ソレを高く飛ばすのもアリだそうですよ?』

『何だ、そのお手軽感。間接的に視野に入れるだけでも良いのか…』

『それと、現地用の金銭を入れる巾着袋にも、現在地の通貨に自動変換されるらしいです。あ、お小遣いとして、5万円分は入れてあるそうです』

 小遣いって、子供扱いするなよな。
 念の為に巾着袋を取り出し中身を見ると、カードが1枚入っているだけだ。

(…。これは、この星では通貨がデジタル化しているという事か?)

 カードを手に取ると、名前と残高となる数値が浮かんでいる。もちろん、【言語理解】があるから読めるのであって、当然、日本語では無い。
 キャッシュレス化が進んでいるのかもしれない。先に知れて良かったな。

『その他にも…』

 その後も、スキル表等のモブリアの説明は続いた。これだけの神具の持ち込みを、よくユースティティアが許可したものだ。

『何だよ、悩む必要すら無いな。ハヤトのやつ、ほとんどがブラフーマ様の改良品とはいえ、便利道具(神具)を簡単にポンポン渡しやがって。俺は某漫画のロボットに泣きつくダメ男じゃないんだぞ?…だがまぁ、気持ちはありがたい』

『今回は、依頼神のモーリアン様がその星の創造神ではない為に、事前の支援を頂けませんでした。その問題点を解決しようと、ハヤトさんは頑張っていました』

 その星の創造神じゃないと、加護や権限が弱いのか?
 モーリアン自身が地上に降り立ち、恩恵を与えている辺り、確かにその可能性もあるな。
 そうなると、転移者達とのスキル交渉は大丈夫なのか?スキルを与える事ができないとか、流石に最悪だぞ?
 まぁ、ハヤトならその点も考えているだろう。

『そっか…。モブリアさん、ハヤトに有り難く使わせてもらうって、伝えておいてくれ』

『はい、必ず伝えます。それでは、ハヤトさんと見守っていますので、お仕事頑張って下さいね?』

 モブリアのチュートリアルが終わり、ミノルは一息ついた。

 今回の調査に必要なのは、扇動に必要な勢力図と地球文明との差異だろう。

(今回は、環境を把握するまでなるべく人との接触を避けるべきかな)

 ミノルは姿を消したまま、街の入り口を探した。
 道中、辺りを観察していたが、恐ろしい程に何も無い。街の外壁以外に、荒れた荒野が広がるだけだ。
 地図にも、街の周りに森すらないように見える。

「ん?入り口はあれか」

 外壁に大きな開口部があるだけで、扉や柵も無い。
 街の出入りを担う門と言うには、少々無防備だと思う。

(今は世界が平和らしいから、開放しているという事か?だとしても、害獣対策は必要だと思うが…)

 入り口へと近付くと、その一帯の地面が石床である事に気付く。
 敷き詰められた石床は、人工的に研磨されていて、土埃が無ければ鏡の様に反射して映るだろう。

(よく見ると、入り口の壁にもカメラレンズらしき物が付いているな。出入りは一応チェックされているのか)

ピピピピッ

 機械的な音が鳴り、街側から2つの黒い球体が飛んできた。
 球体には、動き回る光の目らしき赤い点と、機械的な腕が一本だけ有り、先には銃口らしき物が搭載されている。

(…見えてないんだよな?)

 ハヤトからもらった【水月鏡花】のスキルは、その存在ごと誤認させる事が可能だ。
 今は、姿は透明化している上に、匂いや体温すらも感知できない筈だ。

 球体はミノルの上空を通り過ぎると、1つは入り口の辺りを旋回している。
 もう1つはそのまま進んで行き、大きめの岩の上で止まった。

ピュン

 球体が短く光を放ったと思ったら、岩が一瞬でした。
 その溶け出した岩の隙間から、トカゲらしき逃げ出した。

ピュン、ピュン。

 放たれる光線が、必死に逃げるトカゲに命中し、トカゲは跡形も無く焼失した。

(おいおい、それほど危険な害獣って感じのトカゲじゃなかった気がするが?)

 トカゲの生命反応が消えると、再び球体は入り口へと引き返して行った。

(い、一応、害獣対策はしてあるって事かな?だけど、…確認しているんだよな?外から来た来客とかは、安全なんだよな?)

 流石に姿を現し試す度胸は無いので、透明化のまま恐る恐る入り口を通過する。
 通過後の入り口付近には、球体が幾つも浮いていた。
 一定時間で2つの球体が外に出て旋回している。あれが巡回なら、球体は警備兵の代わりだろうか?

 ミノルは気持ちを切り替えて、街の調査を開始する。
 建物は箱型の石造りばかり。外装は全て石張りで、窓が見当たらない。マンションやビルに似た形はあれども、窓が無いので墓石の様に見える。
 地面も全て石床で、色違いの線が幾つも引かれている。おそらくは案内線の意味があるのだろう。

(人が全く見当たらないな…。気配感知にも反応が無い。…地図で見るか)

 試しに地図を広げてマピオンの街をタップし拡大する。
 地図には、前回の種族別表も吸収されているので、しっかりと各家の中に動く生命反応が表示されている。

(この地図は神具だから分かるけど、気配感知のスキルでは建物に阻害されているのか?)

 街の至る所が、同じ様な石により造られている。
 ミノルは、試しに【鑑定】を使用して見てみる。

 パルマ魔鉱石盤(外装用)

 硬度性も高く、耐火・耐熱・防音・感知遮断に優れている。

(全ての建物に、この魔鉱石が使用されてるっぽいな。となると、気配感知よりも地図を頼りに動くか)

 地図上にある商店らしき建物を近くに見つけ、ミノルは慎重に近付いた。
 扉的な入り口は見当たらないが、センサーカメラらしき場所を見つけた。
 地図上には、その近くで動いている反応が2つある。
 ミノルは、亜空間から個別包装の飴を取り出して、センサー前に転がした。

フォンッ。

 飴が転がった先で、壁だった場所が突然左右に開いて入り口が現れた。どうやら、自動ドアが擬態していたみたいだ。
 扉が閉まる前に中へと侵入すると、そこには誰も居らず、下へ降りる階段があった。

 用心しながら階段下を覗く。複数の話し声が聞こえてくる。

「誰か来たのか?」

「どうせ、巡回球によるサーモグラフィーセンサーの誤作動だろう。そんなことより、早く終わらせてくれ」

 大丈夫、【水月鏡花】のスキルの存在消しは完璧な筈だ。
 ミノルはスキルを信じて、ゆっくりと階段を降りると、そこには猿の獣人が2人居た。
 猿人は、変わった球の箱詰め作業をしていた。

(第一街人発見~。さて、調査開始といきますか)

 ミノルは、手始めとばかりに、2人の猿人の会話と作業から調査を始めた。
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