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第七章 海への道
7-16 ガイの旧友
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「話は少し聞いている……が、正直、その件については、心当たりに連絡を取っている最中です。まだ返答が来ていないので何ともお答えできない次第で」
ガイは申し訳なさそうに苦笑したが、セインとしてはすでに手を打ってくれていたことの方に驚いた。つい最近、話を聞いたばかりのはずなのに、もう伝手を当たってくれていたとは。
ちょっと感動してお礼を言おうとしたが、ガイは慌てて目の前で手を軽く振った。
「いや、まあ……実は、奴を探したのは別件がらみでのことで……それがたまたま、今回の件でもかかわりがある奴だったんですよ」
あまり期待を持たせてもいけないと思ったのか、慌ててそう続けた。
その男はガイの昔の仲間、いわゆるハンターパーティの一人だった。二つ名こそなかったが、彼もマスターランクCで、短弓、短剣使いのシーフだった。
罠の解除、鍵開けから、隠密、斥候まで、戦闘の戦力としては心許ないが、パーティにはいなくてはならない存在だったようだ。
「名はキムリ。数年前に離婚してからハンター業を退き、フリーで情報屋に、何でも屋、気まぐれに船乗りになったりと、フラフラと放浪して所在がわからないんですよ」
「……離婚、ですか」
「相手はメイジーという名で、同じパーティメンバーでした。彼女はこけら族で年若く見えるが、最年長だったこともあり頼りになるリーダー的存在でした」
「こっ、こけら族……!」
思わず大きな声を出しそうになって、すんでのところでなんとか堪えた。
「彼女は両親ともこけら族だったんですが、彼女の祖父が、交易品を商会に卸しに、度々地上と行き来していたようで、メイジーは幼い頃から地上に興味があったそうです」
実のところ、こちらからは地下には行けないが、今でもこけら族は稀に地上へ出ているようだ。なにしろ、昔と違ってこけら族も地下で手に入る物資だけでは満足できないからだ。何十年も地上と取引をしていれば、その生活様式も変わってくるのは仕方がない。
便利に慣れれば、不便には簡単には戻れないものである。
とはいえ、先人の怒りを無視することもできず、人々に紛れるようにしてこっそりと物資を調達していた。
そんな中、メイジーは地上の生活に憧れ、両親の反対を押し切って飛び出した。また、地上の生活が肌に合ったのか、ハンターとして身を立てるようになった。
数年後キムリと出会い、パーティを組むうちに恋仲になり、やがて結婚したというわけである。メイジーはかなりの姉さん女房だったようだったが、こけら族は成人になるとそれほど容姿が変わらないため、それを気にする者はいなかった。
「ただ、生まれた子の身体が弱くて、その子が十になる年に、突然、離縁届を置いて、彼女は子供とともに姿を消してしまった」
セインは思わず「あっ」と、小さく声を上げた。その子は当然人間とのハーフである。ジャズ夫婦の子供と同じ病だったに違いない。
ガイは頷いて続けた。
「アイツは何も言わなかったけれど、おそらくメイジーは両親の元へ戻り、助けを求め、そして条件として帰ってくるようにとでも言われたのかもしれない」
――そうか、メイジーさんはこけら族だから、海側の通路からこけら族の地下コロニーへ行けるんだ。
「そんなわけで、正直なところメイジーが姿を消して数年経った今となっては、キムリに聞いたところで彼女への伝手があるかどうかもわからないんだ」
確かに、完全に関係を断っているとしたら、望み薄かもしれない。それでも、可能性がないわけではない。ジャスさんの様子からも、悠長に他を当たるほどの時間はないと思えた。
こけら族との交流は、この辺りの国では、ほとんどマリン港が唯一といっていいからだ。
「……そういえば、キムリさんには他に用事があると言ってましたが。あ、もちろん、なにか極秘のことならお聞きしませんが」
こうなっては待つ以外、他に手がないのでセインは少し気になったことを聞いた。
「まあ、極秘とまでは言いませんが……そうですね、この国だけの問題ではなさそうですし、なにより、ロルシー家の方なのですから、無関係ではないでしょう」
少し逡巡したのち、ガイは「むしろ意見を頂きたい」と、声を潜めるように身体を寄せた。
「え、無関係じゃない……て、どういう?」
話のついでにちょっと聞いただけのつもりだったセインは、本題より熱心な様子になったガイの圧に押されて、思わずたじろぐことになった。
ガイは申し訳なさそうに苦笑したが、セインとしてはすでに手を打ってくれていたことの方に驚いた。つい最近、話を聞いたばかりのはずなのに、もう伝手を当たってくれていたとは。
ちょっと感動してお礼を言おうとしたが、ガイは慌てて目の前で手を軽く振った。
「いや、まあ……実は、奴を探したのは別件がらみでのことで……それがたまたま、今回の件でもかかわりがある奴だったんですよ」
あまり期待を持たせてもいけないと思ったのか、慌ててそう続けた。
その男はガイの昔の仲間、いわゆるハンターパーティの一人だった。二つ名こそなかったが、彼もマスターランクCで、短弓、短剣使いのシーフだった。
罠の解除、鍵開けから、隠密、斥候まで、戦闘の戦力としては心許ないが、パーティにはいなくてはならない存在だったようだ。
「名はキムリ。数年前に離婚してからハンター業を退き、フリーで情報屋に、何でも屋、気まぐれに船乗りになったりと、フラフラと放浪して所在がわからないんですよ」
「……離婚、ですか」
「相手はメイジーという名で、同じパーティメンバーでした。彼女はこけら族で年若く見えるが、最年長だったこともあり頼りになるリーダー的存在でした」
「こっ、こけら族……!」
思わず大きな声を出しそうになって、すんでのところでなんとか堪えた。
「彼女は両親ともこけら族だったんですが、彼女の祖父が、交易品を商会に卸しに、度々地上と行き来していたようで、メイジーは幼い頃から地上に興味があったそうです」
実のところ、こちらからは地下には行けないが、今でもこけら族は稀に地上へ出ているようだ。なにしろ、昔と違ってこけら族も地下で手に入る物資だけでは満足できないからだ。何十年も地上と取引をしていれば、その生活様式も変わってくるのは仕方がない。
便利に慣れれば、不便には簡単には戻れないものである。
とはいえ、先人の怒りを無視することもできず、人々に紛れるようにしてこっそりと物資を調達していた。
そんな中、メイジーは地上の生活に憧れ、両親の反対を押し切って飛び出した。また、地上の生活が肌に合ったのか、ハンターとして身を立てるようになった。
数年後キムリと出会い、パーティを組むうちに恋仲になり、やがて結婚したというわけである。メイジーはかなりの姉さん女房だったようだったが、こけら族は成人になるとそれほど容姿が変わらないため、それを気にする者はいなかった。
「ただ、生まれた子の身体が弱くて、その子が十になる年に、突然、離縁届を置いて、彼女は子供とともに姿を消してしまった」
セインは思わず「あっ」と、小さく声を上げた。その子は当然人間とのハーフである。ジャズ夫婦の子供と同じ病だったに違いない。
ガイは頷いて続けた。
「アイツは何も言わなかったけれど、おそらくメイジーは両親の元へ戻り、助けを求め、そして条件として帰ってくるようにとでも言われたのかもしれない」
――そうか、メイジーさんはこけら族だから、海側の通路からこけら族の地下コロニーへ行けるんだ。
「そんなわけで、正直なところメイジーが姿を消して数年経った今となっては、キムリに聞いたところで彼女への伝手があるかどうかもわからないんだ」
確かに、完全に関係を断っているとしたら、望み薄かもしれない。それでも、可能性がないわけではない。ジャスさんの様子からも、悠長に他を当たるほどの時間はないと思えた。
こけら族との交流は、この辺りの国では、ほとんどマリン港が唯一といっていいからだ。
「……そういえば、キムリさんには他に用事があると言ってましたが。あ、もちろん、なにか極秘のことならお聞きしませんが」
こうなっては待つ以外、他に手がないのでセインは少し気になったことを聞いた。
「まあ、極秘とまでは言いませんが……そうですね、この国だけの問題ではなさそうですし、なにより、ロルシー家の方なのですから、無関係ではないでしょう」
少し逡巡したのち、ガイは「むしろ意見を頂きたい」と、声を潜めるように身体を寄せた。
「え、無関係じゃない……て、どういう?」
話のついでにちょっと聞いただけのつもりだったセインは、本題より熱心な様子になったガイの圧に押されて、思わずたじろぐことになった。
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