晴明、異世界に転生する!

るう

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第六章 守り神

6-10 カナート

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 ロルシー侯爵家の五男カナート。
 母親は末席の愛妾で、正式な妻ではなかった。カナートの出産時に亡くなったので、赤子は例外的に母親の実家に引き取られた。
 セインほどではないが、成人の兆しも遅く、よって侯爵家に戻ってくるのも遅れたため、他の兄弟たちから見ても影の薄い存在だった。
 すぐ上の双子たちと違って、札作りも振るわず、術も振るわなかったため、なにかと比べられたせいか、カナートは少し消極的な少年時代を送ることとなった。もっとも、自己顕示欲の塊のような双子と比較されれば、誰でも控えめに映るかもしれないけれど。
 やんちゃの数々で双子の評価は下がったが、それでも当時、その破天荒さは天才ゆえの暴走と、好意的に捉えられていた。そしてそれは、地味で目立たない平凡な弟を、さらに透明人間のようにしてしまった。
 ただ、計算だけは兄弟の中でも飛びぬけて得意だったので、荘官の一人として派遣されることになった。
 重要な拠点への派遣だったが、本人はそれほど嬉しそうではなかった。
 なぜなら妖狐族本来の能力も、技能も、術も、期待されていないと決定的になったからだ。
 土地の責任者という点では同じだが、鉱山都市マリザンの都主という輝かしい地位を手に入れた次男とは雲泥の差である。加えて、問題児となって侯爵家の頭痛の種になっている双子が、それでもハンターとして自由気ままに飛び回っているのも気に喰わなかった。
 カナートからしてみれば、自分にそんなチャンスがあればもっとうまくやれる、という自負があった。確かに術も能力も彼らの方が上だが、物事はそれだけではないのだから。
 相も変わらず、目の前にうず高く積まれた書類を一瞥して舌打ちする。
 毎日毎日、同じような書類に埋もれて、決済、決済、決済! 息が詰まりそうだった。
 書類をぶちまけたい衝動にかられた時、扉をノックする音がした。

「……入れ」

 ため息をついてそう言うと、眼鏡をかけた神経質そうな男が入って来た。彼は、カナートの秘書兼、付き人のロニ。この町で一二を争う大店の息子だが、事務仕事が得意なので引き抜いてきた人材だった。

「カナート様、マリザンよりのお客様がお見えです」
「ああ、早馬で長老から知らせが有った件か……確か、この町のオアシスのことを聞きたい、だったか?」
「はい、なんでもマリザンの守護樹に関係したことらしく」
「ああ……わかった。まずは町長に対応してもらってくれ。そのあと、」

 用件が曖昧なのでまとめてから来い、と指示を出したカナートだったが、ロニはそれを遮るように「あの……」と口を挟んだ。

「どうやらカナート様のご兄弟の方がお見えでして……」
「……兄弟、だと?」

 途端に不機嫌そうな声に変ったのを感じて、ロニは慌てて補足した。

「セイン……セイン・ロルシー様とおっしゃる方です」
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