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第六章 守り神
6-4 長老の息子
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かすかな土を踏む音と、人の気配を感じてセインは振り向いた。
まだ距離はあったが、その姿には見覚えがあった。先ほどは会話もしなかったが、ずっと長老の横に控えていた彼の息子。あと一人、先ほどお茶を出してくれた年若い青年もいる。
「確か、えーと……長老の息子、さん? 僕になにか」
身構えようとするサキに目配せをして、セインは笑みを浮かべて彼らを迎えた。もともと敵意のようなものは感じていなかったので、彼らに対しての警戒心はそれほどなかった。
感じるとすれば、彼らの明確な失望感である。
すぐ傍まで来ると、軽く目を合わせてぺこりと頭をさげ、自らをオスロと名乗った。
「おやじ、じゃなくて……父に、今の状況を話すようにと」
濃い茶色の髪は、常に日光を浴びている仕事のせいか、バサバサと乾燥している。黒に近い瞳は、若干目じりが下がった感じが、長老によく似ていた。
「侯爵様のご子息様方に無礼なことをして、もうここに人を送ってくれないのではないかと、俺……わ、私達は追い出されてしまうのではないかと、心配しておりました」
オスロは再び頭を下げると、慣れない言葉遣いに四苦八苦しながらそう言った。
「オスロの旦那は悪くないっすよ! あれは、あの二人がっ」
「やめろ、ボダ! すみません、使用人が失礼なことを」
「いいえ、構いませんよ。今回のことはデオル兄上からも聞いてます。その方の言うように、こちらにも落ち度はあったようです。兄上がこちらに何の咎も与えないなら、そういうことなのでしょう」
そう言って首を振るセインに、オスロとボダは顔を見合わせた。
「よかった……です。実際に会うまでは、失礼ながらデオル様の言葉を信じ切れずにいたのです」
ボダが「あの二人の後じゃ、仕方がない」とポツリと呟いて、慌てたオスロに頭をはたかれていた。
「今度来る弟は優秀だから何でも相談しろ、と」
セインのいないところで、とんだ大風呂敷を広げたものである。どうやらデオルは、セインのことをよほど買っているらしい。
信頼や期待が重くもあり、意外に嬉しくもあり。セインは複雑な思いだった。
「ともかく、根本的な原因や、これからの対応策は今のところは兄上に任せるとして、僕たちは目の前のことに集中しましょう。それで、この守護樹のことでなにかあれば言ってください」
オスロは頷くと、見るも無残な守護樹を見上げた。
「……今のところ穀倉帯の作物に変化はありませんです。ただ、小物の魔物が稀に侵入してくるので、ハンターを幾人か雇いました」
テンの言うように、こんな姿になっても守護樹としての役割は果たしているようだ。とはいえ、葉がなければ光合成も出来ず、いまあるエネルギーを使いきってしまえば本当に枯れてしまうだろう。
「それに雨が降らないんです。守護樹とは関係ないかもしれないですが、このままだと収穫時に実が入らない可能性もあるので心配で」
「……雨か」
確かに土が乾燥しているのか、触るとぽろぽろと崩れる。ここの穀物はそれほど水がなくても育つが、それでもこのまま雨が降らなければ困ったことになりそうだ。
セインたちの話を聞いていたボダが「あ……」と小さく声を上げた。
「そういえば、死んだうちの曾じいちゃんが、俺が小さい頃に話してくれたことがあったな。ひどい干ばつで作物がダメになりそうだった時、守護樹様が助けてくれたって……」
まだ距離はあったが、その姿には見覚えがあった。先ほどは会話もしなかったが、ずっと長老の横に控えていた彼の息子。あと一人、先ほどお茶を出してくれた年若い青年もいる。
「確か、えーと……長老の息子、さん? 僕になにか」
身構えようとするサキに目配せをして、セインは笑みを浮かべて彼らを迎えた。もともと敵意のようなものは感じていなかったので、彼らに対しての警戒心はそれほどなかった。
感じるとすれば、彼らの明確な失望感である。
すぐ傍まで来ると、軽く目を合わせてぺこりと頭をさげ、自らをオスロと名乗った。
「おやじ、じゃなくて……父に、今の状況を話すようにと」
濃い茶色の髪は、常に日光を浴びている仕事のせいか、バサバサと乾燥している。黒に近い瞳は、若干目じりが下がった感じが、長老によく似ていた。
「侯爵様のご子息様方に無礼なことをして、もうここに人を送ってくれないのではないかと、俺……わ、私達は追い出されてしまうのではないかと、心配しておりました」
オスロは再び頭を下げると、慣れない言葉遣いに四苦八苦しながらそう言った。
「オスロの旦那は悪くないっすよ! あれは、あの二人がっ」
「やめろ、ボダ! すみません、使用人が失礼なことを」
「いいえ、構いませんよ。今回のことはデオル兄上からも聞いてます。その方の言うように、こちらにも落ち度はあったようです。兄上がこちらに何の咎も与えないなら、そういうことなのでしょう」
そう言って首を振るセインに、オスロとボダは顔を見合わせた。
「よかった……です。実際に会うまでは、失礼ながらデオル様の言葉を信じ切れずにいたのです」
ボダが「あの二人の後じゃ、仕方がない」とポツリと呟いて、慌てたオスロに頭をはたかれていた。
「今度来る弟は優秀だから何でも相談しろ、と」
セインのいないところで、とんだ大風呂敷を広げたものである。どうやらデオルは、セインのことをよほど買っているらしい。
信頼や期待が重くもあり、意外に嬉しくもあり。セインは複雑な思いだった。
「ともかく、根本的な原因や、これからの対応策は今のところは兄上に任せるとして、僕たちは目の前のことに集中しましょう。それで、この守護樹のことでなにかあれば言ってください」
オスロは頷くと、見るも無残な守護樹を見上げた。
「……今のところ穀倉帯の作物に変化はありませんです。ただ、小物の魔物が稀に侵入してくるので、ハンターを幾人か雇いました」
テンの言うように、こんな姿になっても守護樹としての役割は果たしているようだ。とはいえ、葉がなければ光合成も出来ず、いまあるエネルギーを使いきってしまえば本当に枯れてしまうだろう。
「それに雨が降らないんです。守護樹とは関係ないかもしれないですが、このままだと収穫時に実が入らない可能性もあるので心配で」
「……雨か」
確かに土が乾燥しているのか、触るとぽろぽろと崩れる。ここの穀物はそれほど水がなくても育つが、それでもこのまま雨が降らなければ困ったことになりそうだ。
セインたちの話を聞いていたボダが「あ……」と小さく声を上げた。
「そういえば、死んだうちの曾じいちゃんが、俺が小さい頃に話してくれたことがあったな。ひどい干ばつで作物がダメになりそうだった時、守護樹様が助けてくれたって……」
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