晴明、異世界に転生する!

るう

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第七章 海への道

7-17 玄武

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 夕闇が近づき日が傾きかけた頃、セインはようやく宿屋へ戻った。ガイとの会談が終わったのち、足を延ばして夕の市場に寄っていたため、少し遅くなってしまった。人魚の卵の見張りに宿屋に置いてきたコウキとハクへお土産と、ガイに聞いた話を確認するための情報収集のためでもあった。

「ただいま」

 宿屋の二階、自分の部屋の扉を開けると、窓辺で寝ていたハクと、その毛皮に埋もれていたコウキが、ぱっと顔を上げる。
 セインが木製のテーブルに皿を置き、包をほどいて、赤い木の実と肉の串焼きをそれぞれ置くと、さっそく二匹がが嬉しそうに寄って来た。セインは下の食堂で食事を取るが、他の客の手前、コウキたちはこうして部屋でのご飯が常であった。
 もっとも、彼らに食事は必須ではないが、単純に美味しい物を食べたいだろうと、セインが与えているうちに、その習慣というか、ほぼ娯楽のように定着してしまったようである。それに肉体を持つ以上、単純にエネルギーになる食事は、それはそれで効率がよかったのかもしれない。
 
『おかえり、どうだった?』

 木の実をつつくコウキを見ていると、一番初めに声を掛けてきたのは天空だ。相変わらず能天気な声に、セインはちょっと苦笑しつつ「うん……」と曖昧に答える。
 正直、なんと答えたらいいものか、と額を人差しで押さえた。なにしろ本題の方は保留で、別件を押し付けられた格好である。

『難しい顔をしておるの? なんじゃ、なにかあったのか』

 ベッドに胡坐をかいて目を閉じていたツクが、片目を開けて口を開く。

「……いや、問題というか、とりあえず人魚の卵は情報を待つことになっていて、今は出来ることがないんだけど」
『あの、なにかトラブルですか?』
 
 窓辺に控えていたゆらが遠慮がちな声で聞いた。

「うーん、そうだね。実は、ちょっとだけ悪い予感がする。なにしろうちの事業に少なからず関わりがあるかもしれないからね。でもまあ、それは後で詳しく話すよ。それで、卵は変わりない?」

 こけら族のことと同様、いま慌てふためいたところでどうにもならないので、セインは一旦、話を戻した。毎日見ているのだから、毎回毎回確認したところで変化はないだろうけれど。

「……え、あれ? ちょっと……いつの間に?」
『ふふふ、びっくりしたでしょ』

 なにげなく卵を覗き込んだセインは、瞬きしたのち二度見してしまった。それを見ていた天空が、まるで自分の手柄のように自慢げに笑った。

「ああ、びっくりした、急にこんな」

 セインは驚きのあまり感嘆して、思わず素直に頷いていた。おそるおそる卵を抱えて、掲げるようにして部屋の明かりに内部を照らした。
 そこには手のひらほどの大きさの、誰が見ても亀とわかる姿が、ゆらゆらと漂っていた。身体が真っ黒すぎて、いまだ手足や頭がはっきりしないが、影のような姿には、なぜか頭が二つあるように見えた。

『いや、蛇……じゃな。もう一つは蛇の頭じゃ。ほれ、あやつがいつも首に巻いておったじゃろ』

 セインが卵を回転させて確認していると、一緒に覗き込んでいたツクがポンと手を叩いて結論付けた。ゆらも同意見のようで頷いている。

「ああ、そういえば。本性化したときも、そのような姿だった、か」

 十二天将には本性の姿がある。本性自体が人のような姿のこともあるが、朱雀などのように鳥の姿であったり、こうして玄武のように亀の姿の者もいる。仕える晴明に合わせて、基本的に人の姿を取っていたが、彼らは妖としてのいわゆる本来の姿を持っているのだ。
 どうやら肉体をもった四神は、元来の姿に寄せて顕現しているようだった。
 その後、しばらく卵を見守っていたセインたちだったが、すぐに変化が現れる様子もなく、仕方がないのでいつものように、窓辺で丸まったハクの腹に抱かせた。食事を終えたコウキも、身体を膨らませて卵の上に乗った。

「じゃ、僕は下に夕食を食べに行ってくるよ」

 セインは彼らに留守を任せて、ジャズ夫婦への報告もかねて、下の階へと夕食を食べに行くため、部屋を後にした。
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