晴明、異世界に転生する!

るう

文字の大きさ
上 下
19 / 137
第一章 灰かぶり公子

1-19 セインの裁量2

しおりを挟む
 強い言葉で「解雇」と冷然と言い放ったセインに、ベンは飛び上がらんばかりに身体を震わせ、頭を上げた。

「セイン様! 申し訳ありません、俺は、ただイゼル様の……っ」
「兄上に命令されたとして、それを聞き入れ、実行したのは自らの意思だよね。本来なら僕に報告し、是非を問うべきだった」

 そもそも初めからベンが味方をしていれば、セインが別邸に追いやられることも、父親に捨てられたと刷り込まれることもなく、ここまで負け犬根性を植え付けられることもなかったかもしれない。
 
「解雇だけでよいのか?」
「ベンを掌握できていなかった落ち度は、僕にもあります。ただ、もう顔を見たくありません」
「よかろう……セイン付き召使いベンを、今日限りその職から外し、加えて侯爵家より解雇。その者を、即刻叩き出せ」

 どこからか現れた御仕着姿の使用人軍団が、泣きを入れるベンの両脇を抱えて、ずるずると引き摺っていった。その様子を見ていたイゼルとビサンドの使用人は、次は自分の番だとばかりに震え上がった。
 しかしセインは、彼らの処遇を問う侯爵に首を振った。

「ベンはあるじを裏切ったので罰を受けました。彼らは主に従っただけ、それ以上でもそれ以下でもありません」
「なるほどな、こちらの処罰はこちらで勝手にやるとしよう」

 侯爵が言うのは、某秘書と彼らの母、そしてイゼル、ビサンド本人達も含め、だ。セインが個人的に彼らの罰を望んだとなれば、よりわだかまりを深くするだけなので、その判断は賢明といえた。
 結局のところ、兄弟と争い、蹴落とすという行為自体に、罰が与えられることはなかった。もしかしたら、勝手に本邸から追い出したり、食事に手を加え、セインの生命を脅かすほどの大事になっていなければ、侯爵本人は出張ってこなかったかもしれない。
 
「それで、セインはお部屋に戻るのね?」

 手のひらのひよこを撫でつつ、フロンは笑顔で聞いた。

「そうだな、アメリダが使っていた部屋はそのままのはずだ。本邸へ戻るがいい」

 アメリダとは、セインの母親の名である。
 セインは少し思案する様子を見せて、やがて小さく首を振った。

「……いえ、よろしければあの別邸をそのまま使わせてください」
「なに? だが、あそこは取り壊し予定だろう」
「差し支えなければ、あのままにしてもらえませんか。見たところ、古くはありますが、木材はしっかりしてますし、少し整えればかなり快適になると思います」

 これからのことを考えると、周りの目がない方が都合がよかった。今回のことで基本的な材料の心配もなくなったし、「ひよこ」のこともあって、ちょっといろいろ試したいことが増えたのだ。
 すぐにでも帰って、検証したいことが山ほどある。

「なにか考えがあるようだな……それを望んでいるなら、そうするがよい。まあ、アメリダの部屋はそのままにしておく、自由にするがよい」
「セインは変わってるわね。でも、わたくしが戻っているときは、ちゃんと顔を見せにくるのよ。もちろん、この子も連れてね」

 今回のことは確かに二人に助けられたけれど、おそらく侯爵は、セインを助けたというよりイゼル達の愚かさに腹を立てたに過ぎない。
 いつも彼らの目が届くわけではないし、やはり自らの力だけで立ち向かえるようにならなければならないだろう。

「ありがとうございます。今回の事では、お手数をおかけしました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ~小さいからって何もできないわけじゃない!~

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

【コミカライズ連載中!】私を追放したことを後悔してもらおう~父上は領地発展が私のポーションのお陰と知らないらしい~

ヒツキノドカ
ファンタジー
2022.4.1より書籍1巻発売! 2023.7.26より2巻発売中です! 2024.3.21よりコミカライズ連載がスタートしております。漫画を担当してくださったのは『ぽんこつ陰陽師あやかし縁起』の野山かける先生! ぜひチェックしてみてください! ▽  伯爵令嬢アリシアは、魔法薬(ポーション)研究が何より好きな『研究令嬢』だった。  社交は苦手だったが、それでも領地発展の役に立とうと領民に喜ばれるポーション作りを日々頑張っていたのだ。  しかし―― 「アリシア。伯爵令嬢でありながら部屋に閉じこもってばかりいるお前はこの家にふさわしくない。よってこの領地から追放する。即刻出て行け!」  そんなアリシアの気持ちは理解されず、父親に領地を追い出されてしまう。  アリシアの父親は知らなかったのだ。たった数年で大発展を遂げた彼の領地は、すべてアリシアが大量生産していた数々のポーションのお陰だったことを。  アリシアが【調合EX】――大陸全体を見渡しても二人といない超レアスキルの持ち主だったことを。  追放されたアリシアは隣領に向かい、ポーション作りの腕を活かして大金を稼いだり困っている人を助けたりと認められていく。  それとは逆に、元いた領地はアリシアがいなくなった影響で次第に落ちぶれていくのだった。 ーーーーーー ーーー ※閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。励みになります。 ※2020.8.31 お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※2020.9.8 多忙につき感想返信はランダムとさせていただきます。ご了承いただければと……! ※書籍化に伴う改稿により、アリシアの口調が連載版と書籍で変わっています。もしかしたら違和感があるかもしれませんが、「そういう世界線もあったんだなあ」と温かく見てくださると嬉しいです。 ※2023.6.8追記 アリシアの口調を書籍版に合わせました。

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

悪役令嬢の無念はわたしが晴らします

カナリア55
ファンタジー
【完結】同棲中の彼の浮気現場を見てしまい、気が動転してアパートの階段から落ちた、こはる。目が覚めると、昔プレイした乙女ゲームの中で、しかも、王太子の婚約者、悪役令嬢のエリザベートになっていた。誰かに毒を盛られて一度心臓が止まった状態から生き返ったエリザベート。このままでは断罪され、破滅してしまう運命だ。『悪役にされて復讐する事も出来ずに死ぬのは悔しかったでしょう。わたしがあなたの無念を晴らすわ。絶対に幸せになってやる!』自分を裏切る事のない獣人の奴隷を買い、言いたい事は言い、王太子との婚約破棄を求め……破滅を回避する為の日々が始まる。  誤字脱字、気をつけているのですが、何度見直しても見落としがちです、申し訳ございません。12月11日から全体の見直し作業に入ります。大きな変更がある場合は近況ボードでお知らせします。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

完璧ヒロインに負けたので平凡令嬢は退場します

琴吹景
ファンタジー
【シュプレイム王国貴族学院伝統の卒業生祝賀会『プロムナード』の会場のど真ん中で、可憐な少女と側近の令息数人を従えた我が国の王太子、エドモンド・シャルル・ド・シュプレイム殿下が、婚約者であるペネロペ・ド・ロメイユ公爵令嬢と対峙していた。】 テンプレのような断罪、婚約破棄のイベントが始まろうとしている。  でも、ヒロインも悪役令嬢もいつもとはかなり様子が違うようで………  初投稿です。異世界令嬢物が好きすぎて書き始めてしまいました。 まだまだ勉強中です。  話を早く進める為に、必要の無い視覚描写(情景、容姿、衣装など)は省いています。世界観を堪能されたい方はご注意下さい。  間違いを見つけられた方は、そーっと教えていただけると有り難いです。  どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...