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第一章 灰かぶり公子
1-15 ひよこ
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「兄上! 消えろ、こいつ」
取り乱したビサンドが後ろへ倒れ込むようにを尻餅をつき、イゼルも慌てて駆け寄って必死に手ではたいて火を消そうと奮闘する。
「……思ったより燃えたな」
セインはというと、術の成功というよりも、思った以上に威力が大きかったことに驚いていた。
ちなみに、人妖は術を使うのに呪文は必要ない。それっぽいことを唱えたりする者もいるが、それは飽くまで自分に向けての術の確認のようなものだ。札にしても、書いてある文字よりも、込めた念や、使う者の意思などに影響されることが多い。もちろん、札の文字に意味のあるものもあるが。
セインもただ形代を燃やす程度のつもりで術を使ったのだ。
「ん? あれは……」
ビサンドたちが右往左往しているのを横目に、セインは別のことに気を取られた。
なかなか鎮火しない火元の形代から、赤い火の粉とともに、ふわりふわりと布のようなものが空中に舞い上がったのだ。
風に乗るように目の前まで飛んでくると、セインは咄嗟に手のひらを広げていた。なぜかその炎の塊に対して恐怖はまったくなかった。
そんなセインの手のひらに誘われるように、ふわんと火の玉のようなものは舞い降りた。
めらめらと赤く燃えるソレは、なぜかほんわかと温かくさえある。
「……まさか、これ」
やがて火の玉は、くるくると回転するように丸まったあと、ぴょこっと頭のようなものが現れて、先ほどの布のようなものが羽となってはばたき、大きく伸びあがって、ぶるぶると火の粉を散らしながら身体を振った。
「これは……え、本当に? でも、この姿は」
あえて例えるなら、それは……ひよこだった。ひよこでしかないフォルムだった。
「お前よくも! このことは父上に報告するからな」
手元のひよこに気を取られている間に、どうやらイゼルが復活したらしい。
ようやく火が消えたのか、地面に突っ伏すビサンドを庇うように、負け惜しみのようにイゼルが叫んだ。半分涙目になっているところを見ると、すぐにでも逃げ出したいのに、腰が抜けて動けないのかもしれない。
「その必要はない、この目で見たからな」
少し離れた植垣の場所から、いきなり大きな体躯の人影が現れた。
ずんずんと効果音が付きそうな大股で歩いてくると、その人物の大きさはさらに顕著になる。
がっしりとした足、発達した上腕筋、小さな頭が乗った首は、すべてが筋肉なのかと思うほどに盛り上がっている。
「ち、父上!?」
赤くなったり青くなったり忙しいイゼルが、思わず悲鳴のような声を上げた。
そう、彼はロルシー家当主、侯爵その人だったのだ。
取り乱したビサンドが後ろへ倒れ込むようにを尻餅をつき、イゼルも慌てて駆け寄って必死に手ではたいて火を消そうと奮闘する。
「……思ったより燃えたな」
セインはというと、術の成功というよりも、思った以上に威力が大きかったことに驚いていた。
ちなみに、人妖は術を使うのに呪文は必要ない。それっぽいことを唱えたりする者もいるが、それは飽くまで自分に向けての術の確認のようなものだ。札にしても、書いてある文字よりも、込めた念や、使う者の意思などに影響されることが多い。もちろん、札の文字に意味のあるものもあるが。
セインもただ形代を燃やす程度のつもりで術を使ったのだ。
「ん? あれは……」
ビサンドたちが右往左往しているのを横目に、セインは別のことに気を取られた。
なかなか鎮火しない火元の形代から、赤い火の粉とともに、ふわりふわりと布のようなものが空中に舞い上がったのだ。
風に乗るように目の前まで飛んでくると、セインは咄嗟に手のひらを広げていた。なぜかその炎の塊に対して恐怖はまったくなかった。
そんなセインの手のひらに誘われるように、ふわんと火の玉のようなものは舞い降りた。
めらめらと赤く燃えるソレは、なぜかほんわかと温かくさえある。
「……まさか、これ」
やがて火の玉は、くるくると回転するように丸まったあと、ぴょこっと頭のようなものが現れて、先ほどの布のようなものが羽となってはばたき、大きく伸びあがって、ぶるぶると火の粉を散らしながら身体を振った。
「これは……え、本当に? でも、この姿は」
あえて例えるなら、それは……ひよこだった。ひよこでしかないフォルムだった。
「お前よくも! このことは父上に報告するからな」
手元のひよこに気を取られている間に、どうやらイゼルが復活したらしい。
ようやく火が消えたのか、地面に突っ伏すビサンドを庇うように、負け惜しみのようにイゼルが叫んだ。半分涙目になっているところを見ると、すぐにでも逃げ出したいのに、腰が抜けて動けないのかもしれない。
「その必要はない、この目で見たからな」
少し離れた植垣の場所から、いきなり大きな体躯の人影が現れた。
ずんずんと効果音が付きそうな大股で歩いてくると、その人物の大きさはさらに顕著になる。
がっしりとした足、発達した上腕筋、小さな頭が乗った首は、すべてが筋肉なのかと思うほどに盛り上がっている。
「ち、父上!?」
赤くなったり青くなったり忙しいイゼルが、思わず悲鳴のような声を上げた。
そう、彼はロルシー家当主、侯爵その人だったのだ。
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