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第一章 灰かぶり公子
1-9 セインの能力2
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封印が解けばすべては解決するのではないか、とセインは考えた。
言葉にすれば簡潔だが、もちろん複数の困難が伴う。
まず封印を解くだけの能力がこの身体にない。それこそ生命力でも削れば解放はできるかもしれないが、それはすなわち使役できない妖をこの世に放つことに他ならない。
要するに、妖たちを封じたため、魂自体が封印の影響を受けている。しかも新たに授かったはずのセインとしての妖力も、その封印に引きずられて能力を押さえ込まれている、ということなのだ
もとはと言えば、魂が世を彷徨うことになり制御を失ったとしても、封じた妖や、霊力が暴走しないよう強力に施した封印だった。
もっとも、ろくに能力を操る術ももたぬ過去のセインが、あれほど癖のある妖たちをこれまで押さえ込めたこと自体がすごいことだが、その魂の持ち主は元チート陰陽師なのだから素養は完璧である。
だが、セインという器が弱って行けばそれさえも危うくなる。どこまで行っても、魂は器に影響されていくのだ。封印を施したのは清明だが、維持しているのは魂を引き継いだセインなのだ。
セイン自体が強くならなくては、最悪、かつて使役していた妖に喰われることにならないとも限らない。
――さて、どうしたものか。札の一つでも作れば、この貧弱な能力でも多少は底上げできる、か。
こちらにも、いわゆる「お札」はある。
なにしろ些細な穢れはどこにでも発生する。
まず、基本的な死に関するもの。獲物を狩る、魔物を駆逐する、果ては家畜を捌くことまで、日常においてもそれは絶え間なく起こる。そのたびに、能力者の手を借りることは不可能だ。
そのためお札や道具などに念や魔力を込めることで、その都度使ういわゆるインスタントに穢れを祓う道具が存在する。
聖魔法使いや、人妖の術の使い手が出張るのは、それこそ大きな祭事や、行事、大掛かりな穢れ払いが必要となる事態の時だけである。まあ、それだけでも結構な頻度になる大事業ではあるが。
なので、この便利な日常使い用の「お札」を作ることも重要な仕事になる。
一言で「お札」といっても、穢れを祓う能力にも差はある。念を込める能力者の力の差、お札自体の形式の差。また紙を使わず、それ自体に意味のある「物」を形代に使うこともある。
その中でも「汎用札」は、軽度の穢れ払いに使われ、誰でも簡単に使用ができる代物で、治療院やそれに準ずる場所で比較的安価で手に入る。
もちろん作るのはすべて手作業。主に、年少組の子供たち、または伯爵家に仕える年若い陪審、その子供たちなど、修業の一環でもあり、またいい小遣い稼ぎでもあった。
とはいえ、それらはあくまで世に出すもので、粗悪品を出すわけにもいかない。なので、能力を認めてもらってない子供たちには、筆すら握らせてもらえないのだ。
早い話、セインはまだ「お札」の作り方を習ってないということだ。
「……もっとも、かつての方法でなら作れないでもないけど」
穢れを祓うだけでなく、護符に呪符、ありとあらゆる霊符を作ることだってできる。だが、文字も違うし形式も違うこの世界で、それが通用するのかわからない。
「やれやれ。だが……ひとつ、やってみるか」
おいしそうな果物に後ろ髪をひかれながらも、セインはもたれかかっていた木の幹から、弾みをつけて身体を起こして歩き出した。
言葉にすれば簡潔だが、もちろん複数の困難が伴う。
まず封印を解くだけの能力がこの身体にない。それこそ生命力でも削れば解放はできるかもしれないが、それはすなわち使役できない妖をこの世に放つことに他ならない。
要するに、妖たちを封じたため、魂自体が封印の影響を受けている。しかも新たに授かったはずのセインとしての妖力も、その封印に引きずられて能力を押さえ込まれている、ということなのだ
もとはと言えば、魂が世を彷徨うことになり制御を失ったとしても、封じた妖や、霊力が暴走しないよう強力に施した封印だった。
もっとも、ろくに能力を操る術ももたぬ過去のセインが、あれほど癖のある妖たちをこれまで押さえ込めたこと自体がすごいことだが、その魂の持ち主は元チート陰陽師なのだから素養は完璧である。
だが、セインという器が弱って行けばそれさえも危うくなる。どこまで行っても、魂は器に影響されていくのだ。封印を施したのは清明だが、維持しているのは魂を引き継いだセインなのだ。
セイン自体が強くならなくては、最悪、かつて使役していた妖に喰われることにならないとも限らない。
――さて、どうしたものか。札の一つでも作れば、この貧弱な能力でも多少は底上げできる、か。
こちらにも、いわゆる「お札」はある。
なにしろ些細な穢れはどこにでも発生する。
まず、基本的な死に関するもの。獲物を狩る、魔物を駆逐する、果ては家畜を捌くことまで、日常においてもそれは絶え間なく起こる。そのたびに、能力者の手を借りることは不可能だ。
そのためお札や道具などに念や魔力を込めることで、その都度使ういわゆるインスタントに穢れを祓う道具が存在する。
聖魔法使いや、人妖の術の使い手が出張るのは、それこそ大きな祭事や、行事、大掛かりな穢れ払いが必要となる事態の時だけである。まあ、それだけでも結構な頻度になる大事業ではあるが。
なので、この便利な日常使い用の「お札」を作ることも重要な仕事になる。
一言で「お札」といっても、穢れを祓う能力にも差はある。念を込める能力者の力の差、お札自体の形式の差。また紙を使わず、それ自体に意味のある「物」を形代に使うこともある。
その中でも「汎用札」は、軽度の穢れ払いに使われ、誰でも簡単に使用ができる代物で、治療院やそれに準ずる場所で比較的安価で手に入る。
もちろん作るのはすべて手作業。主に、年少組の子供たち、または伯爵家に仕える年若い陪審、その子供たちなど、修業の一環でもあり、またいい小遣い稼ぎでもあった。
とはいえ、それらはあくまで世に出すもので、粗悪品を出すわけにもいかない。なので、能力を認めてもらってない子供たちには、筆すら握らせてもらえないのだ。
早い話、セインはまだ「お札」の作り方を習ってないということだ。
「……もっとも、かつての方法でなら作れないでもないけど」
穢れを祓うだけでなく、護符に呪符、ありとあらゆる霊符を作ることだってできる。だが、文字も違うし形式も違うこの世界で、それが通用するのかわからない。
「やれやれ。だが……ひとつ、やってみるか」
おいしそうな果物に後ろ髪をひかれながらも、セインはもたれかかっていた木の幹から、弾みをつけて身体を起こして歩き出した。
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