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第一章 空の島
1話 出会い
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日光が僅かに差し込む森の中。黒い髪、黒い瞳。十六歳程の少年は大きく口を開けていた。驚きの余り、その場からまったく動けない様子。
彼が動けないのは、近くに巨大な飛竜が横たわっているからだろうか。それとも異形な生物、黒い毛に覆われた獣が倒れているからだろうか。
どれも違う。綺麗に揃った前髪、爽やかな淡い青髪を持つ裸の少女が、大きな卵をしっかりと両手で持って、こちらに差し出しているからだ。
状況を理解した少女と少年の叫び声が森の中に響き渡る。
【九年前:アルフィー・サーマン】
小さな村。かつて流浪の一族であった彼等はこの地に流れ着き、定住した。そこに七歳程の黒い髪の少年が居た。暗闇の中、小さな松明が揺らめく。床に藁を敷き、横になっている。しかし、アルフィーは眠くない様だ。
「おじいちゃん! またお話聞かせてよ」
「そうじゃな……んむ。昔々、あるところに勇敢な少年が居た。その少年は冒険が大好きじゃった。ある時、少年は大海原へと旅に出た」
「あー! 知ってる。その少年は世界の端を見たんだよねっ」
落ちを言われた老人は若干悔しそうな表情を浮かべながらも、それを許した。微笑むとまた話を続ける。
「……そうじゃな。端を見た少年は驚いた。なんと海の水がまるで滝の様に落下していたのじゃから!」
「僕もいつか見る!? その少年が行ってないところも滝になってるか見に行くんだ!?」
「それは楽しみじゃな。そうじゃ、忘れる所じゃった。実はその少年には偉大な名前があった……」
「え? あるの、名前?」
散々ためた後、老人は笑顔で言う。
「アルフィーじゃ!」
「あー! また適当言ってるー!」
「はっはっは。もう癒しの魔法は覚えたかのぅ?」
癒しの魔法は、魔獣からの傷を治癒する事が出来る不思議な魔法。村の外には動物や魔物とは別に、凶悪な魔獣がいる。その魔獣に傷を負わされると普通に治癒魔法では治らない。
アルフィーは悲しそうに首を横に振った。しかし、老人はそれを怒る訳では無い。その様子に不安を覚え、弱々しく訴えかける。
「セラはもう使えるって。僕、才能無いのかな?」
妹の顔を思い出していた。悔しい気持ちと誇らしい気持ち、悲しい気持ちが絡み合った複雑な表情をしていた。
「そんな事は無い。アルフィーにはきっと隠された力が沢山眠っておるのじゃ」
「……僕が寝坊助だから、まだ覚えられないの?」
「はっはっは。その通りじゃ。さあ、明日はお父さんと魔法の練習をするんじゃろ? もう寝なさい」
アルフィーはそれを聞いて安心したのか。眠りについた。老人はそれを優しい眼差しで見守る。
ある大雨の日、事件が起きた。アルフィーとセラが言いつけを破って森で遊んでいると、突然妹が消えた。彼が泣きながら村に戻って事で発覚した。
少年の話は状況をよく覚えてないのか、支離滅裂だった。しかし、子供が消えたという事実は分かった。村中が大騒ぎになり、総出で探したが何日経てども見つからず、神隠しと言う事で騒ぎを鎮めた。
大人たちは理解していた。きっと魔獣に食べられてしまったのだと。
少年は疑問に思っただろう。何故自分は怒られないのかと。不安そうにしているアルフィーを元気づけるために、老人はロケットペンダントを贈った。彼はそれをギュッと握りしめた。
その日から少年は自身を鍛え始めた。妹を取り戻すために。旅が出来るほど強くなるためにひたすらに剣を振った。
少年には目標が出来た。妹を取り戻す事と、こんな悲しい事が二度と起こらない様に村を発展させる。
しかし、彼のおじいちゃんはそれを強く叱った。けれども少年も負けていない。こっそりとそれを実行するべく計画を立てていた。これが彼の初めての反抗だった。
【滅びた王都】
アルフィーは十六歳、背も183センチに成長していた。彼は旅たち世界を見て回る。そこでとある王都に辿り着くが、既に魔獣に壊された後であった。悲しそうにそれを眺めている。
旅をしていく中で彼は多くの事を知った。特に衝撃だったのはこの世界に端は無く、この地は球体だと言う事実だった。出会う人に何度聞こうと結果は変わらない。
次に衝撃だったのは、この世界は近々、魔獣によって滅ぼされるだろうと言う事実。普通はこちらの方が衝撃であろう。しかし、次々と大切なモノを奪われた彼にとっては、唯一希望だったモノが奪われた事の方が衝撃的だったまでの事だ。
彼の村は四年前に滅び、両親もおじいちゃんも……最期に残った大切なロケットペンダントさえも魔獣に食べられてしまった。
アルフィーは世界を彷徨っていた。もはや彼には妹を探すという目的ですら薄れていった。もう無知な子供では無い。薄々感づいていた。セラはもう……。
【暗い森】
アルフィーが森を彷徨っていると、頭痛がした。余りにも突然で困惑する。今までで風邪を引いた事がなかったからだ。
それと同時に、遠くで悍ましい獣の鳴き声が聞こえた。頭痛の事はどうでも良い。今彼に出来る事と言えば、気力を振り絞り魔獣に復讐する事だけ。
(どの魔獣に復讐すればいい? 今まで何匹殺して来た? あと何匹、何十匹……何百匹殺せば良い!? どうすればこの気持ちは晴れる? どう殺せばこの心は……ッ)
剣を抜いてその場に駆けつけると、奇妙な光景が広がっていた。巨大な竜が息絶えている。魔獣が竜の卵に襲い掛かる。さらに別の魔獣が卵を守っていた。
「何だ……よ……何なんだこれはぁッ!?」
思わず声を上げると、二匹の魔獣は同時にこちらを見た。そして、不快な音を鳴らす。狂う様な叫び気に、こちらがおかしくなりそうだ。
(どうすれば良いっ。意味が分からないッ)
一匹の魔獣が襲い掛かって来た。アルフィーは無意識にそれを跳んで回避した。その時ようやく我に返った。
「何も変わらない。何時も通りだっ……殺す!?」
偽物の顔と手足が複数付いている異形の魔獣。動物に似ているのも居れば、昆虫に似ているのも居る。今回のは昆虫寄りだ。しかし、黒い毛が生えており手足は動物の様だ。
何度も浅く切りつけて様子を探る。魔獣もたまらずに暴れ、闇雲に攻撃を繰り出す。近くの岩や木などに隠れ、上手く避け続ける。
その時、もう一匹を忘れている事に気が付いた。意識が散ったその瞬間、魔獣の突進攻撃に当たってしまう。そのまま地面に押さえつけられて捕まった。
「がぁ! しまったっ」
魔獣は触れただけで猛毒である。彼は癒しの魔法で身を守る。しかし、魔獣は追撃をしようと前足の様な何かを振りかぶる。スタンプの如く押し付けるが間一髪、首を動かして避ける。だが、別の足も振りかぶる。もう逃げ場が無い。
終わりを覚悟した時、魔獣は鳴き声を上げた。背後からもう一匹の魔獣が飛び掛かって来たからだ。
「何なんだこれはぁ!?」
疑問を叫びながらもその隙を付いて、頭と胴体を切り離す。さらに頭を刺して魔獣を絶命させた。肩で呼吸をしながらアルフィーはそれをジッと睨み付けていた。
残った魔獣はゆっくりと動き、大きな卵を持ちあがるとこちらに差し出して来た。この時初めて気が付いた。今まで会ったどの魔獣よりも人の形に近い。唖然としていると、気持ちの悪い鳴き声でそれをグイグイと差し出して来る。
その鳴き声は徐々に悲痛のモノへと変化する。それに恐怖を覚えながらも、終に彼はその卵に手を伸ばした。視界や頭の中が妙に澄んでいた。ふと魔獣の手が目につく。
(……指輪?)
そう考えながらも手を伸ばすのを止められない。そして魔獣に触れた瞬間、自分の手が先から徐々に黒ずんで行く。
「蝕み……!? 不味い!」
慌てて癒しの魔法を発動された瞬間、それは起こった。何時もの反応と違う。魔法が強く光を放つ。思わず手で目を覆う。光が消えると、大きく口を開けていた。
その魔獣は服を着ていない淡い青い髪の少女に変っていたのだ。神秘的な碧眼がアルフィーの黒い瞳を捉える。可愛らしい、けれども疑問の声が耳を通り抜けた。
「……え?」
「な、なんだッこれは!」
アルフィーが思わず叫ぶと少女も悲鳴を上げてしゃがんだ。彼は素早く宙に舞う卵を持つと、それで顔を覆って隠れる。
「お、おおお俺知らなくて! わざとじゃなくて! その!」
上手い事が言えず、どうすれば良いのかと考えた。何かを聞こうと思った時、何も反応が無い事に気が付いた。彼女は倒れていた。慌てて上着をかけて、癒しの魔法をかける。
かくして、アルフィーと謎の少女は出会ったのであった。
彼が動けないのは、近くに巨大な飛竜が横たわっているからだろうか。それとも異形な生物、黒い毛に覆われた獣が倒れているからだろうか。
どれも違う。綺麗に揃った前髪、爽やかな淡い青髪を持つ裸の少女が、大きな卵をしっかりと両手で持って、こちらに差し出しているからだ。
状況を理解した少女と少年の叫び声が森の中に響き渡る。
【九年前:アルフィー・サーマン】
小さな村。かつて流浪の一族であった彼等はこの地に流れ着き、定住した。そこに七歳程の黒い髪の少年が居た。暗闇の中、小さな松明が揺らめく。床に藁を敷き、横になっている。しかし、アルフィーは眠くない様だ。
「おじいちゃん! またお話聞かせてよ」
「そうじゃな……んむ。昔々、あるところに勇敢な少年が居た。その少年は冒険が大好きじゃった。ある時、少年は大海原へと旅に出た」
「あー! 知ってる。その少年は世界の端を見たんだよねっ」
落ちを言われた老人は若干悔しそうな表情を浮かべながらも、それを許した。微笑むとまた話を続ける。
「……そうじゃな。端を見た少年は驚いた。なんと海の水がまるで滝の様に落下していたのじゃから!」
「僕もいつか見る!? その少年が行ってないところも滝になってるか見に行くんだ!?」
「それは楽しみじゃな。そうじゃ、忘れる所じゃった。実はその少年には偉大な名前があった……」
「え? あるの、名前?」
散々ためた後、老人は笑顔で言う。
「アルフィーじゃ!」
「あー! また適当言ってるー!」
「はっはっは。もう癒しの魔法は覚えたかのぅ?」
癒しの魔法は、魔獣からの傷を治癒する事が出来る不思議な魔法。村の外には動物や魔物とは別に、凶悪な魔獣がいる。その魔獣に傷を負わされると普通に治癒魔法では治らない。
アルフィーは悲しそうに首を横に振った。しかし、老人はそれを怒る訳では無い。その様子に不安を覚え、弱々しく訴えかける。
「セラはもう使えるって。僕、才能無いのかな?」
妹の顔を思い出していた。悔しい気持ちと誇らしい気持ち、悲しい気持ちが絡み合った複雑な表情をしていた。
「そんな事は無い。アルフィーにはきっと隠された力が沢山眠っておるのじゃ」
「……僕が寝坊助だから、まだ覚えられないの?」
「はっはっは。その通りじゃ。さあ、明日はお父さんと魔法の練習をするんじゃろ? もう寝なさい」
アルフィーはそれを聞いて安心したのか。眠りについた。老人はそれを優しい眼差しで見守る。
ある大雨の日、事件が起きた。アルフィーとセラが言いつけを破って森で遊んでいると、突然妹が消えた。彼が泣きながら村に戻って事で発覚した。
少年の話は状況をよく覚えてないのか、支離滅裂だった。しかし、子供が消えたという事実は分かった。村中が大騒ぎになり、総出で探したが何日経てども見つからず、神隠しと言う事で騒ぎを鎮めた。
大人たちは理解していた。きっと魔獣に食べられてしまったのだと。
少年は疑問に思っただろう。何故自分は怒られないのかと。不安そうにしているアルフィーを元気づけるために、老人はロケットペンダントを贈った。彼はそれをギュッと握りしめた。
その日から少年は自身を鍛え始めた。妹を取り戻すために。旅が出来るほど強くなるためにひたすらに剣を振った。
少年には目標が出来た。妹を取り戻す事と、こんな悲しい事が二度と起こらない様に村を発展させる。
しかし、彼のおじいちゃんはそれを強く叱った。けれども少年も負けていない。こっそりとそれを実行するべく計画を立てていた。これが彼の初めての反抗だった。
【滅びた王都】
アルフィーは十六歳、背も183センチに成長していた。彼は旅たち世界を見て回る。そこでとある王都に辿り着くが、既に魔獣に壊された後であった。悲しそうにそれを眺めている。
旅をしていく中で彼は多くの事を知った。特に衝撃だったのはこの世界に端は無く、この地は球体だと言う事実だった。出会う人に何度聞こうと結果は変わらない。
次に衝撃だったのは、この世界は近々、魔獣によって滅ぼされるだろうと言う事実。普通はこちらの方が衝撃であろう。しかし、次々と大切なモノを奪われた彼にとっては、唯一希望だったモノが奪われた事の方が衝撃的だったまでの事だ。
彼の村は四年前に滅び、両親もおじいちゃんも……最期に残った大切なロケットペンダントさえも魔獣に食べられてしまった。
アルフィーは世界を彷徨っていた。もはや彼には妹を探すという目的ですら薄れていった。もう無知な子供では無い。薄々感づいていた。セラはもう……。
【暗い森】
アルフィーが森を彷徨っていると、頭痛がした。余りにも突然で困惑する。今までで風邪を引いた事がなかったからだ。
それと同時に、遠くで悍ましい獣の鳴き声が聞こえた。頭痛の事はどうでも良い。今彼に出来る事と言えば、気力を振り絞り魔獣に復讐する事だけ。
(どの魔獣に復讐すればいい? 今まで何匹殺して来た? あと何匹、何十匹……何百匹殺せば良い!? どうすればこの気持ちは晴れる? どう殺せばこの心は……ッ)
剣を抜いてその場に駆けつけると、奇妙な光景が広がっていた。巨大な竜が息絶えている。魔獣が竜の卵に襲い掛かる。さらに別の魔獣が卵を守っていた。
「何だ……よ……何なんだこれはぁッ!?」
思わず声を上げると、二匹の魔獣は同時にこちらを見た。そして、不快な音を鳴らす。狂う様な叫び気に、こちらがおかしくなりそうだ。
(どうすれば良いっ。意味が分からないッ)
一匹の魔獣が襲い掛かって来た。アルフィーは無意識にそれを跳んで回避した。その時ようやく我に返った。
「何も変わらない。何時も通りだっ……殺す!?」
偽物の顔と手足が複数付いている異形の魔獣。動物に似ているのも居れば、昆虫に似ているのも居る。今回のは昆虫寄りだ。しかし、黒い毛が生えており手足は動物の様だ。
何度も浅く切りつけて様子を探る。魔獣もたまらずに暴れ、闇雲に攻撃を繰り出す。近くの岩や木などに隠れ、上手く避け続ける。
その時、もう一匹を忘れている事に気が付いた。意識が散ったその瞬間、魔獣の突進攻撃に当たってしまう。そのまま地面に押さえつけられて捕まった。
「がぁ! しまったっ」
魔獣は触れただけで猛毒である。彼は癒しの魔法で身を守る。しかし、魔獣は追撃をしようと前足の様な何かを振りかぶる。スタンプの如く押し付けるが間一髪、首を動かして避ける。だが、別の足も振りかぶる。もう逃げ場が無い。
終わりを覚悟した時、魔獣は鳴き声を上げた。背後からもう一匹の魔獣が飛び掛かって来たからだ。
「何なんだこれはぁ!?」
疑問を叫びながらもその隙を付いて、頭と胴体を切り離す。さらに頭を刺して魔獣を絶命させた。肩で呼吸をしながらアルフィーはそれをジッと睨み付けていた。
残った魔獣はゆっくりと動き、大きな卵を持ちあがるとこちらに差し出して来た。この時初めて気が付いた。今まで会ったどの魔獣よりも人の形に近い。唖然としていると、気持ちの悪い鳴き声でそれをグイグイと差し出して来る。
その鳴き声は徐々に悲痛のモノへと変化する。それに恐怖を覚えながらも、終に彼はその卵に手を伸ばした。視界や頭の中が妙に澄んでいた。ふと魔獣の手が目につく。
(……指輪?)
そう考えながらも手を伸ばすのを止められない。そして魔獣に触れた瞬間、自分の手が先から徐々に黒ずんで行く。
「蝕み……!? 不味い!」
慌てて癒しの魔法を発動された瞬間、それは起こった。何時もの反応と違う。魔法が強く光を放つ。思わず手で目を覆う。光が消えると、大きく口を開けていた。
その魔獣は服を着ていない淡い青い髪の少女に変っていたのだ。神秘的な碧眼がアルフィーの黒い瞳を捉える。可愛らしい、けれども疑問の声が耳を通り抜けた。
「……え?」
「な、なんだッこれは!」
アルフィーが思わず叫ぶと少女も悲鳴を上げてしゃがんだ。彼は素早く宙に舞う卵を持つと、それで顔を覆って隠れる。
「お、おおお俺知らなくて! わざとじゃなくて! その!」
上手い事が言えず、どうすれば良いのかと考えた。何かを聞こうと思った時、何も反応が無い事に気が付いた。彼女は倒れていた。慌てて上着をかけて、癒しの魔法をかける。
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