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44.不気味な笑い

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 西古がゴーレム召喚に気を取られている最中、リーパーが背後から襲撃、そのまま馬乗りで連続ラッシュを繰り出しているのをコングに、それぞれの戦いも開始していた。


 クローディが服を破いた本人に勝負を挑んだ。脱がされたのが、余程イラっと来たのだろう。今はグリムの《闇の霧アーテルフォグ》で、体を黒いもやで覆っている。

 クローディの拳が放たれる。木村はそれを軽く避ける。彼は避ける事が異様に上手い。


「か、可愛い……」

 木村は思わず口走る。150センチに満たない小柄。竜の角、翼、尻尾を持つ。栗色髪の女の子。蛇のような黄色の瞳。体の一部分は黒いもやで良く見えないが、きっとスタイルも良いだろう。


 木村が避けるのが上手いのもあるが、何故かたまに転ぶ。眼鏡を拾うと、すぐに起き上り攻撃を闇雲に繰り返す。


(俺はこの世界に来た当初、自分のスキルの弱さに絶望していた。だが、今は違う。能力で相手の動きを鈍らせて、ひたすらに回避に専念する。そう、俺は近藤たちが倒し終えて来るのを待てばいい!)


「あ、黒いもやが消えかかってる」

「え!?」

 思わず彼女は手で体を覆うが、黒いもやが消えていない。騙される姿も可愛らしい。

「くっ! この! 騙したな!」

「はっはっは!」

(せめて装飾品も壊せたらと考えた時期もあった。しかし、ある日、真実に気が付いた。だがそれがいい! 俺はひたすらに彼女等が健気に動く姿を堪能すれば良い!)

 そんな時、足に木の根が絡みついた。

(なんでこんな所に剥き出しの根が!)

 すると誰も居ないのに背後から透明な何かにドンと押された。そこにクローディの分回している。大振りな拳が噛み合い、顔面にめり込んだ。

「や! やった! 皆、悪を成敗したぞ! 私の手柄だ!」

 クローディは歓喜の声を上げた。リッスとサリナが優しく微笑んだ。

 しかし、彼女等はすぐに真剣な表情へ戻る。二人は暗夜と対峙していた。不気味だった。軽く風と植物の蔦を使い、避けきれずに掠る。

 すると彼女は何事も無かったかのように笑っていた。それどころか何度も何度も無防備に近づいて来る。それを迎撃しているのだが、止まらない。

 何よりも彼女は傷が完治していた。ロストと同等かそれ以上の再生速度だった。


 そして、再び彼女が近づいて来た。二人は驚いた。先ほどよりも速い。陸上部もビックリの綺麗なフォームだ。

「加速系の魔法です!」


 凄まじい速度でリッスに接近すると、彼女の体に触れた。サリナが風魔法で吹き飛ばす。地面に転がると、ゆっくりと笑いながら立ち上がった。口から軽く吐血していた。

「ぷぷぷ。もう逃げられない」

「なにー?」


 サリナは隣を見て驚愕する。リッスが膝を付いていた。腹部に紋章が光っていた。

「ィッ……」

「痛覚……魂のリンク……呪いの魔法?」


「終わり、もう終わり。ぷぷぷ」


「サリナさんっ。遠慮せずにやってください!」

「分かったー。全力で全身を切り刻むー」


「ええ! やっぱり駄目です!」

「えー、どっちなのー?」

「ちょっと格好つけて見たかっただけですよ……何か方法はないんですか?」

「ないー」

「そんな!」


 サリナは風と光を合わせた回復魔法をリッスにかけた。それを待つ気が無い暗夜は一直線にダッシュする。

 風の魔法で直接触れない様にガードする。不気味に笑う女。二人は驚愕した。彼女の右手が爆発した。サリナたちは吹き飛ばされる。同時にリッスの腕に無数の切傷が現れ、出血する。

(んー。やっぱりそういう系統ー。本人のダメージの何割かを対象に与えてる。でも彼女……痛くないのかなー)


 暗夜の腕は再生していく。その間も笑っていた。サリナは痛くないのだと解釈する。でも、理由はあるはず。それが可能な。

 彼女の爆破圏内に入らない様に早めに風で優しく飛ばしながら、適当に観察する。リッスも痛みを堪え、拘束をメインに動く。しかし、下手に強力な拘束をすると自らを爆破するので注意がいる。蔦を引きちぎり、露骨に近寄って来る。

(魔素切れ狙いにする? んーでも、長期戦は面倒。考えられるのは痛覚の遮断……肩代わり……痛覚麻痺……戦闘しながらそれを……技術も魔素も足りなそう……それなら外部からー……)

 サリナは全体を観察した。そこで一人、戦いをしながらもこちらを気にする者がいた。アノと対峙している佐藤だ。


(見つけたー……)

「アノ……その子を倒してー。こっちに関連してて、きついかもー」


「!?」

 佐藤は動揺した。


「すまない。かなり強くて苦戦していた。だが、そういう事なら、承知した」


 アノは空間を歪め、黒い大剣と大盾を取り出した。佐藤は無意識に体が震えていた。一目見ただけで分かるその変化。その禍々しい装備。

「な、なによそれ! 聞いてないよ!」


「いざ……尋常に勝負」


 アノは落ち着いた口調でそう言い放った。


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