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初めからあったモノ

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 根元は困惑していたが、鋭い目つきで鉄を睨んだ。

「おい……その、つまり、あの二人は…………誰かに殺されたって言いたいのか?」

 彼はニヤリと笑う。

「逆に訊くが……初日や次の日ならともかく、攻撃的な能力持ちがそう簡単にやられると思うか?」

 皆は記憶を辿る。その可能性を今、考え始める。

「て、適当な事言ってんじゃねぇぞ……ッ」

 今まで我慢していた清時が切れて飛び掛かろうとしたが、佐久間がいつの間にか近づいていて、彼を宥める。


「それと宮本……お前もこの話が聞きたいんだろ。出て来いよ」

「要?」

 鉄の言葉を聞いて、物陰にいた要がこちらに近づいて来た。

 久しぶりにまともに立っている姿を見た気がする。要はこの短期間に痩せていた。しかしその眼光は鋭い。短い時間だが目だけを動かして、俺たち全員をとらえていた。要は鉄を睨み付けた。

「その話は本当なのか?」

「さてな……それはお前が判断すればいい」


 要との話を終えると、根元が話し出す。

「前にお前が秋元を諭した時は私も同意見だった。能力を得たからって人殺しをするとは思えない。だから、今回のその言い分には納得できない。お前がそう思う理由を聞こうか……」


「簡単だ。ルールが違う。俺たちは三年間生き残れば地球に帰れる。だが、そこに異物が紛れ込んでるとしたら? 例えば民や職なし、いずれかを殺さないと帰れない奴がいるとかな」

「……誰かがそんな事を言ったのか? それを訊いた奴がこの中にいるのか?」

 周りに意見を求める様に時間を置いたが、発言をする者は誰も居なかった。それを受けて鉄が話を続ける。

「証拠が無い以上、これは妄想の域を出ない」

 だから生活が安定するまで、余計な混乱を避けるために言わなかったのだろう。


「……」


「だが、女神は言った。そのボードに書かれている事は真実であり、約束は守ると。ルール説明が雑。違和感を覚えなかったか? そして女神自体も問答を嫌がる様に、すぐに俺たちをここに飛ばした」

 すまし顔の女神を思い出す。そこまで見る余裕が無かったので、そう言われればそんな感じもする程度の曖昧な記憶だった。

 それだけでは説得力が無く、皆困惑している表情をした。田村が悲し気な表情で言う。

「けどよぉ! やっぱ信じられねぇよ。俺たちの中にそんなのが居る何て……ていうかよ! それで疑心暗鬼になる事があの性悪女神の作戦かもしれねぇだろっ?」

「なら……獣があの三人を殺した瞬間を見た奴はいるか……?」

 そこで初めて今泉が何かを発言しようとした時、鉄が先んじて忠告をした。

「それと分かっていると思うが……発言には気を付けた方が良い……俺の妄想が当たりだとすれば今後、それが敵味方の判断材料になる。信用を失うとその後は、発言の真偽を問わずして悲惨な目に合うかもしれん」

「ッ……」


 その言葉は覚悟の無い者は黙っておけ、とも受けとれた。

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