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第29話
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「今から10年くらい前の話です。
裕福な地主の母子が居ました。
母親の名がフローラ、息子の名前がアレンです。
宝石の鉱脈がある土地を持っていてもので下手な貴族よりも多くの富を持ち、代々宝石の採掘と加工を家業にしていました。
ある時、とある貴族が取引を持ち掛けてきたそうです。
最初は乗り気じゃなかったフローラさまでしたが貴族の熱心なアプローチに負けて契約することになったんですが、それは罠だった。
複雑な契約の中に土地の権利に関する条項が隠されていて、あっという間に多くの土地が他人の手に渡っちまいました。
その精神的ショックからフローラさまは病に伏せるようになり、間もなく亡くなられてしまいました。
一人残された息子は1度は着の身着のままで家から追い出されてしまったものの、奪われたものを取り返すことを決意し母親仕込みの宝石加工の技術を生かして小さな商いを始めました。
商売を大きくしながら、かつて奪われた財産を買い戻していきました。
そして母の名をとってフローラ商会と名付けられた商いは今では国内有数の宝飾品を扱う商会になりましたとさ・・・」
ルークさんは語り終えた。
「・・・だいぶ端折りましたが、以上がアレンさまの来歴です。ちなみにこの屋敷は元々フローラさまの所有されていた別荘の1つです。買い戻したときにアレンさまが内部を一通り見て回ってるはずですが、蔵書室にフローラさまの書かれたものがあったのは見落としていたらしいです」
「そうだったんですか・・・」
「ちなみに俺は元々ストリートチルドレンだったんですが、7歳くらいのときにフローラさまに拾われてアレンさまの子分になりましてね。以来ずっと一緒にやってきたってわけです」
どんな反応をしていいか分からない。
私も貴族としては貧乏な家で育ったけど、何かを理不尽に奪われたことは無いし、路上で暮らしたこともない。
とても想像のつかない話だった。
「ああ、そんなに深刻に受け止める必要はないですよエミリーさま。それよりもフローラさまの書かれたものって、あの1冊だけですか? 他にはありませんでしたか?」
「はい、もう何冊かあります。料理とガーデニングに関する内容で、お二人に出す料理の参考にしていました」
「なるほど、エミリーさまの作る料理の味がフローラさまの料理とよく似てるとは思っていたんですが・・・そういうことでしたか!」
「そんなに似てましたか?」
「ええ、俺もアレンさまももう食べられないと思っていたものが食べれて本当に嬉しかったですよ」
ちょっとした差し入れのつもりで作っていた料理だったけど、単なる美味しさ以上のものを感じてくれていたことを知って私も嬉しくなった。
その時だった。
「エミリー、ルーク。いるかい?」
アレン様が食堂にやってきた。
裕福な地主の母子が居ました。
母親の名がフローラ、息子の名前がアレンです。
宝石の鉱脈がある土地を持っていてもので下手な貴族よりも多くの富を持ち、代々宝石の採掘と加工を家業にしていました。
ある時、とある貴族が取引を持ち掛けてきたそうです。
最初は乗り気じゃなかったフローラさまでしたが貴族の熱心なアプローチに負けて契約することになったんですが、それは罠だった。
複雑な契約の中に土地の権利に関する条項が隠されていて、あっという間に多くの土地が他人の手に渡っちまいました。
その精神的ショックからフローラさまは病に伏せるようになり、間もなく亡くなられてしまいました。
一人残された息子は1度は着の身着のままで家から追い出されてしまったものの、奪われたものを取り返すことを決意し母親仕込みの宝石加工の技術を生かして小さな商いを始めました。
商売を大きくしながら、かつて奪われた財産を買い戻していきました。
そして母の名をとってフローラ商会と名付けられた商いは今では国内有数の宝飾品を扱う商会になりましたとさ・・・」
ルークさんは語り終えた。
「・・・だいぶ端折りましたが、以上がアレンさまの来歴です。ちなみにこの屋敷は元々フローラさまの所有されていた別荘の1つです。買い戻したときにアレンさまが内部を一通り見て回ってるはずですが、蔵書室にフローラさまの書かれたものがあったのは見落としていたらしいです」
「そうだったんですか・・・」
「ちなみに俺は元々ストリートチルドレンだったんですが、7歳くらいのときにフローラさまに拾われてアレンさまの子分になりましてね。以来ずっと一緒にやってきたってわけです」
どんな反応をしていいか分からない。
私も貴族としては貧乏な家で育ったけど、何かを理不尽に奪われたことは無いし、路上で暮らしたこともない。
とても想像のつかない話だった。
「ああ、そんなに深刻に受け止める必要はないですよエミリーさま。それよりもフローラさまの書かれたものって、あの1冊だけですか? 他にはありませんでしたか?」
「はい、もう何冊かあります。料理とガーデニングに関する内容で、お二人に出す料理の参考にしていました」
「なるほど、エミリーさまの作る料理の味がフローラさまの料理とよく似てるとは思っていたんですが・・・そういうことでしたか!」
「そんなに似てましたか?」
「ええ、俺もアレンさまももう食べられないと思っていたものが食べれて本当に嬉しかったですよ」
ちょっとした差し入れのつもりで作っていた料理だったけど、単なる美味しさ以上のものを感じてくれていたことを知って私も嬉しくなった。
その時だった。
「エミリー、ルーク。いるかい?」
アレン様が食堂にやってきた。
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