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第12話

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私がアレン様のもとに嫁いでから、1か月が経過した。

ここでの生活は穏やかで、さながら凪いだ海のようだった。

アレン様やルークさんはいつも忙しそうで明け方に屋敷を出て、深夜に帰宅する生活だ。

そのため、やり取りはもっぱらメモを介して行う形になり、私はいつも1人だった。

普通なら、こういう状況では寂しさを感じるのだろう。

幼いころから病弱なシエルに付き添うために室内で過ごす術を身に着けていた私にはさほど苦でもなかった。

強いて難点をあげるなら独り言が増えてしまうことくらいかしら。

「さあて、今日は新しいお料理に挑戦しちゃうわよ!」

食堂に備えられたキッチンで誰に言うともなく宣言する。

今回作るのはフローラさんの備忘録に書かれていたレシピ。複数の香辛料を組み合わせたスープだ。

材料は牛肉とキャベツやタマネギなど数種類。

まずは肉を一口大に切って、塩コショウと香辛料を振りかけて暫く放置してなじませる。

その間に野菜を切り、鍋にお湯を沸かして野菜、そしてコンソメを入れて煮ていく。

野菜が柔らかくなったところで、牛肉を香辛料ごと鍋に放り込む。

牛肉に火が通ったら8割がた終了だ。

あとは2,3時間ほど鍋を放置して香辛料の香りがスープ全体にいきわたるのを待つだけ。

まだお昼前で他にやることもない。

手が空いたので、自室で待つことにした。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



コンコンコン!



ノックの音で目が覚めた。

うららかな日光にあてられて寝入ってしまったみたい。

「エミリーさま、寝ているんですかい?」

「ルークさん・・・今日は早いお帰りなんですね」

扉を開けると、そこにいたのはルークさんだった。

時間はまだ昼下がり。

いつもは深夜に帰ってくる方が一体どうしたのかしら?

「アレンさまも一緒ですよ。商談がスムーズにいったもんですから今日は早く帰ってきたんです」

「そうだったんですか、それで私に何か?確か今日は買い物は頼んでなかったはずですが・・・」

「ああ、エミリーさま宛の郵便があったんですよ。早く渡した方がいいやつだと思いましてね」

ルークさまは1枚の便せんを差し出してきた。

送り主の名を見て、息が止まりそうになる。

(シエル・・・!!)

それはたった1人の愛しいシエルからの手紙だった。

「じゃあ、俺はもう行きますんで。ごゆっくり」

ルークさんは扉を閉めて去る。

私は急いでペーパーナイフで封を切ると手紙を開いた。

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