28 / 32
除霊始めました 陰陽師土御門太郎と金井武(全5話)
Prologue.おかしな陰陽師
しおりを挟む
友人の土御門太郎に会いに土御門神社を訪ねると、その清涼に佇む山門に貼られた珍妙な張り紙が夏の熱い風に揺れていた。
『除霊始めました』
……なんだこの冷やし中華始めましたみたいなのは。
その達筆の筆書きはそれだけで威厳を溢れさせる雄渾なものであったが、それを書いたであろう太朗本人の混乱した内心を想像すると著しく残念な気分に陥ってくる。
ぼんやり眺めていると汗が吹き出し、シャツの首元を濡らす。早く中に入れとでもいうようにクマゼミが一声うるさく響き、やれやれと思いつつ山門に足を踏み入れた。
除霊、ねぇ。それは改めて募集すべきことなのか。心底そう思う。太郎はこの緑の深い神社で宮司をしている俺の幼なじみだ。今日も案の定、社務所で1人、のんびりとほうじ茶を飲んでいた。長めの髪を頭の上の方で適当にくくり、トノサマバッタと書かれたTシャツにチノパンで扇風機の前でだらけている。
宮司ならせめて服くらいはきちっとしとけとは思うが、この神社はそもそもあまり人が来ないから問題はないのだろう。
「あれ? 金井じゃん」
「何だよあの張り紙。お前、普通に仕事で除霊やってんじゃん」
「そんなこといってもさぁ。わかんないんだもん」
太郎は口を尖らせて悪態をつく。いつも思うが子供っぽい。
この土御門太郎という幼馴染は随分と変わっている。神社の宮司は仮の姿、とまでは言わないまでもおまけの姿、その収入の大部分を凄腕の陰陽師として稼いでいる。
その仕事は主に県や市、区、町といった行政から直接請け負う。だから近隣住民としては、太郎は宮司だからお祓いくらいはしているだろうという認識は持っていても、陰陽師だなんて人の道に外れた仕事で荒稼ぎしているとは露とも思っていないのだ。
けれどもまさに、太郎はその『陰陽師』という部分が理解できない。
なにせ太郎は退魔の力は6代前の先祖返りといわれるほどに強大であるのに、覚知というか認識というか、ようするに太郎には霊や化け物を見るための霊感というものがまるでない。
そして頼まれて除霊をしても、漫画なんかでよくあるようにMP的なものを消費したりも疲れたりもしないらしい。なので太郎にとって除霊という行為は、ただテケレッツノパァとでも唱えるのと同義なのだ。
それでいて適当に唱えた祝詞はその強大な退魔の力で絶大な効果を発揮し、目の前で展開する不幸やら呪いやらを綺麗サッパリスッキリバッサリと胡散霧消させるものだから、理不尽この上ない。
けれども太郎はその退魔の結果もまた同様に認識できない。だから依頼者にありがとうございますと頭を下げられると、流石にそんなことはないだろうと思いつつも、県ぐるみで騙されているのではないかという一抹の不安が拭えずにいつもビクビクしている。
太郎の力は間違いなく有る。馬鹿みたいに本物だ。
なにせ俺はその不幸の根源も、それがきれいさっぱり消滅したことも見えるのだから。
『除霊始めました』
……なんだこの冷やし中華始めましたみたいなのは。
その達筆の筆書きはそれだけで威厳を溢れさせる雄渾なものであったが、それを書いたであろう太朗本人の混乱した内心を想像すると著しく残念な気分に陥ってくる。
ぼんやり眺めていると汗が吹き出し、シャツの首元を濡らす。早く中に入れとでもいうようにクマゼミが一声うるさく響き、やれやれと思いつつ山門に足を踏み入れた。
除霊、ねぇ。それは改めて募集すべきことなのか。心底そう思う。太郎はこの緑の深い神社で宮司をしている俺の幼なじみだ。今日も案の定、社務所で1人、のんびりとほうじ茶を飲んでいた。長めの髪を頭の上の方で適当にくくり、トノサマバッタと書かれたTシャツにチノパンで扇風機の前でだらけている。
宮司ならせめて服くらいはきちっとしとけとは思うが、この神社はそもそもあまり人が来ないから問題はないのだろう。
「あれ? 金井じゃん」
「何だよあの張り紙。お前、普通に仕事で除霊やってんじゃん」
「そんなこといってもさぁ。わかんないんだもん」
太郎は口を尖らせて悪態をつく。いつも思うが子供っぽい。
この土御門太郎という幼馴染は随分と変わっている。神社の宮司は仮の姿、とまでは言わないまでもおまけの姿、その収入の大部分を凄腕の陰陽師として稼いでいる。
その仕事は主に県や市、区、町といった行政から直接請け負う。だから近隣住民としては、太郎は宮司だからお祓いくらいはしているだろうという認識は持っていても、陰陽師だなんて人の道に外れた仕事で荒稼ぎしているとは露とも思っていないのだ。
けれどもまさに、太郎はその『陰陽師』という部分が理解できない。
なにせ太郎は退魔の力は6代前の先祖返りといわれるほどに強大であるのに、覚知というか認識というか、ようするに太郎には霊や化け物を見るための霊感というものがまるでない。
そして頼まれて除霊をしても、漫画なんかでよくあるようにMP的なものを消費したりも疲れたりもしないらしい。なので太郎にとって除霊という行為は、ただテケレッツノパァとでも唱えるのと同義なのだ。
それでいて適当に唱えた祝詞はその強大な退魔の力で絶大な効果を発揮し、目の前で展開する不幸やら呪いやらを綺麗サッパリスッキリバッサリと胡散霧消させるものだから、理不尽この上ない。
けれども太郎はその退魔の結果もまた同様に認識できない。だから依頼者にありがとうございますと頭を下げられると、流石にそんなことはないだろうと思いつつも、県ぐるみで騙されているのではないかという一抹の不安が拭えずにいつもビクビクしている。
太郎の力は間違いなく有る。馬鹿みたいに本物だ。
なにせ俺はその不幸の根源も、それがきれいさっぱり消滅したことも見えるのだから。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
宵どれ月衛の事件帖
Jem
キャラ文芸
舞台は大正時代。旧制高等学校高等科3年生の穂村烈生(ほむら・れつお 20歳)と神之屋月衛(かみのや・つきえ 21歳)の結成するミステリー研究会にはさまざまな怪奇事件が持ち込まれる。ある夏の日に持ち込まれたのは「髪が伸びる日本人形」。相談者は元の人形の持ち主である妹の身に何かあったのではないかと訴える。一見、ありきたりな謎のようだったが、翌日、相談者の妹から助けを求める電報が届き…!?
神社の息子で始祖の巫女を降ろして魔を斬る月衛と剣術の達人である烈生が、禁断の愛に悩みながら怪奇事件に挑みます。
登場人物
神之屋月衛(かみのや・つきえ 21歳):ある離島の神社の長男。始祖の巫女・ミノの依代として魔を斬る能力を持つ。白蛇の精を思わせる優婉な美貌に似合わぬ毒舌家で、富士ヶ嶺高等学校ミステリー研究会の頭脳。書生として身を寄せる穂村子爵家の嫡男である烈生との禁断の愛に悩む。
穂村烈生(ほむら・れつお 20歳):斜陽華族である穂村子爵家の嫡男。文武両道の爽やかな熱血漢で人望がある。紅毛に鳶色の瞳の美丈夫で、富士ヶ嶺高等学校ミステリー研究会の部長。書生の月衛を、身分を越えて熱愛する。
猿飛銀螺(さるとび・ぎんら 23歳):富士ヶ嶺高等学校高等科に留年を繰り返して居座る、伝説の3年生。逞しい長身に白皙の美貌を誇る発展家。ミステリー研究会に部員でもないのに昼寝しに押しかけてくる。育ちの良い烈生や潔癖な月衛の気付かない視点から、推理のヒントをくれることもなくはない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ガダンの寛ぎお食事処
蒼緋 玲
キャラ文芸
**********************************************
とある屋敷の料理人ガダンは、
元魔術師団の魔術師で現在は
使用人として働いている。
日々の生活の中で欠かせない
三大欲求の一つ『食欲』
時には住人の心に寄り添った食事
時には酒と共に彩りある肴を提供
時には美味しさを求めて自ら買い付けへ
時には住人同士のメニュー論争まで
国有数の料理人として名を馳せても過言では
ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が
織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。
その先にある安らぎと癒やしのひとときを
ご提供致します。
今日も今日とて
食堂と厨房の間にあるカウンターで
肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める
ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。
**********************************************
【一日5秒を私にください】
からの、ガダンのご飯物語です。
単独で読めますが原作を読んでいただけると、
登場キャラの人となりもわかって
味に深みが出るかもしれません(宣伝)
外部サイトにも投稿しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる