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成井さんと謎歓迎会
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「それでは成井さんの入社を祝って乾杯」
「乾杯!」
俺の会社はわりかし体育会系だからか飲み会は結構多い。けど参加は自由だから、実際参加するのはいつも半分弱くらいのメンバーだった。俺も飲み会は出たり出なかったりな感じ。
今回は心底欠席したかったんだけどできなかった。俺は成井さんの担当主任ってことで幹事を押し付けられたから。そんなわけで今日は部内の歓迎会。俺の行きつけの会社近くの焼き鳥屋に全部で11人が参加した。もっとおしゃれなとこにした方が良かったんじゃないかとニヨニヨしながら言われたけど勘弁して下さい。
そう、俺の誤解は解けるどころか悪化していた。まあ、気がついたら成井さんを見ている事件は頻発していたし。
そして何故か席次だけは部長が決めた。新入社員は真ん中で担当主任がその隣だとか、解せぬ。だが俺は成井さんの右隣だけは死守したぞ。眉毛のない左隣に座るのは平常心を保てる自信がない。本当に。そしてそれは丁度結婚式と反対の並びで、抵抗してンスかとか堀渕に言われた。でも左隣じゃそれどこじゃないの。本当に。キュンとしちゃうの、逆方向に。
それで堀渕はこれまたニヤニヤしてこっちチラチラ見ながら成井さんに話しかけるんだよ。
「成井さんって趣味なぁに?」
「えっ趣味ですか? うーん映画は好きです。最近はネットばっかりですけど」
「そうなの? アモプラとかニャットフリックスとか?」
「はい、ニャトフリを登録してます。オリジナル作品が結構面白くて」
「村沢主任も映画好きですよね」
ぼんやり聞いてたら被弾した。無視しようと思ったら堀渕は半分空いた俺のグラス近くにビールを構えた。無視できないじゃないか。こいつ飲み会慣れしすぎ。仕方なく注ぎ易いようグラスを傾ける。
「俺はたまに映画館行くくらいだし」
「村沢主任はどんな映画がお好きなんですか?」
こちらを振り向いた成井さんの顔のインパクトに思わずのけぞる。やっぱり左眉がない。居酒屋の隣の席は30センチくらいしか距離が離れていなくて、そういえばこんなに至近距離で成井さんの顔を見るのは初めてだった。
まじまじとその『存在しない左眉』をよく見ると、剃り跡もない気がする。産毛もない。なにもない。そうすると剃ってるんじゃなくてもともと生えてないのかな。うう、何故だ。気になる。
「ちょっと主任~、ガン見するから成井さん真っ赤じゃないですか」
「えっえっ、えと、ああ。普通の流行ってるやつ。『バット麺』とか『スパイダー麺』とか」
「あっ、アメコミがお好きなんですね。迫力があって面白いですよね」
パッと明るくなる成井さんの表情。そういえば少し顔も赤いような。ええと。あれ? ひょっとして成井さんって俺のこと好き? いやまさか。酔っぱらってるだけだろ。堀渕からかいすぎ、と話を向けようとしたけど既に他の社員に話しかけていた。あれ、これ俺が成井さんと会話続けるしかないの?
「ええと、成井さんはどういう映画が好きなの?」
「あの……ひかないでくださいね。あの、ホラーなんです」
「えっまじで。成井さんホラー好きなの!? なんかイメージ違うかも、ね、主任」
だから何故そこで俺に振るんだ、堀渕よ。ニヤニヤするな。
「私、怖いのが結構好きで」
「『リソグ』とか『口兄怨』とか~?」
「そういうのも好きなんですけど本当に好きなのはスプラッタ映画で」
「ええと、『14日の金曜日』とかそういうの?」
「そうなんです! ひょっとして主任はお詳しいですか? なんかかっこいいですよね!?」
「ジェィソンのこと? ええと、うん、まあ」
かっこいいといえばかっこいいかな、ジェィソン。ガタイは結構いいような。でも俺はどっちかっていうとフレデイ派かな。『エルム町の悪夢』の。『ジェィソンvsフレデイ』は個人的に面白かった。
俺もホラー映画は結構好きで。何か意外な共通点にちょっとドキッとした。でもどちらかというとジェイソンより成井さんの左眉の方がホラーな気がしてもやもやする。ホラーとは何か。日常との乖離。日常的ではない成井さんの左眉。成井さんは突然襲いかかってきたりはしないけど。しないよね?
「主任、成井さんと映画見に行ったらどうですか?」
「そんなちゃかすなよ、成井さんだって嫌だろ?」
「いえ、私はそんなことは……」
「じゃあ明日の土曜にデートってことで」
「ちょ、堀渕まて、落ち着け」
慌てて止めようとしたけど、堀渕は壁にかけられた俺の上着から勝手に携帯を取り出した。成井さんもなんなんだ、そのちょっとポッとした感じの表情。眉毛ないとどっちかというと正直怖い。えっどうしたらいいのこれ。
何が何だかわからないけど、明日一緒にホラー映画を見ることになった。堀渕が俺の携帯で勝手にチケットを2枚買った。よりにもよって変な映画を。
なんだこれ。『恐怖の毒々フライングキラー・ママ』。何と何が混ざってるんだ。どう考えてもB級どころかZ級だ。普通こんなのデートに選んだら映画館に入る前に振られると思う。
「わぁ、私これ行きたかったんです。主任、いいんですか?」
え、まじで!?
B級ホラー顔にはB級ホラータイトルが似合うのか。いや、言い過ぎた。さすがに失礼だよな。すまない。あの、成井さんは顔が怖いだけでいい人だっていうのはわかってる。本当に。ドキリ。
「あの、主任?」
「あ、ごめん、ええと、こんな映画で本当いいの?」
「もちろんです。気になってたんですけど1人では行きにくくって」
「ああ、まあ確かにこのタイトルじゃ1人で入りづらいかな」
チケット買うときにタイトル発音するの勇気がいる。動揺しているといつのまにか映画に行くことになってしまった。待ち合わせは映画館前で午後2時。というかこの映画のチケットはもう支払いが完了してしまっている。クレカ決済のWEBチケットだから他に譲ることもできないし、こんなの他に一緒に行くあてなんかない。
いつの間にかまわりが温かな空気になっているのも解せない。なにかヘタ踏んだ気がする。仕方がない、もう飲むしかない。やけだ。やけ酒だ。やけっぱちだ。いつもより結構飲んだからぼんやりしてきて自然に会話からアウトしてくと、成井さんは他の人と話し始めた。よかった。
そうすると俺からは成井さんの右側の顔しか見えなくなった。こちらは眉毛がある。うん。こっちは普通。眉毛が上がったり下がったりしている。うん。なんだか安心する。世界恩平穏は保たれた。
「乾杯!」
俺の会社はわりかし体育会系だからか飲み会は結構多い。けど参加は自由だから、実際参加するのはいつも半分弱くらいのメンバーだった。俺も飲み会は出たり出なかったりな感じ。
今回は心底欠席したかったんだけどできなかった。俺は成井さんの担当主任ってことで幹事を押し付けられたから。そんなわけで今日は部内の歓迎会。俺の行きつけの会社近くの焼き鳥屋に全部で11人が参加した。もっとおしゃれなとこにした方が良かったんじゃないかとニヨニヨしながら言われたけど勘弁して下さい。
そう、俺の誤解は解けるどころか悪化していた。まあ、気がついたら成井さんを見ている事件は頻発していたし。
そして何故か席次だけは部長が決めた。新入社員は真ん中で担当主任がその隣だとか、解せぬ。だが俺は成井さんの右隣だけは死守したぞ。眉毛のない左隣に座るのは平常心を保てる自信がない。本当に。そしてそれは丁度結婚式と反対の並びで、抵抗してンスかとか堀渕に言われた。でも左隣じゃそれどこじゃないの。本当に。キュンとしちゃうの、逆方向に。
それで堀渕はこれまたニヤニヤしてこっちチラチラ見ながら成井さんに話しかけるんだよ。
「成井さんって趣味なぁに?」
「えっ趣味ですか? うーん映画は好きです。最近はネットばっかりですけど」
「そうなの? アモプラとかニャットフリックスとか?」
「はい、ニャトフリを登録してます。オリジナル作品が結構面白くて」
「村沢主任も映画好きですよね」
ぼんやり聞いてたら被弾した。無視しようと思ったら堀渕は半分空いた俺のグラス近くにビールを構えた。無視できないじゃないか。こいつ飲み会慣れしすぎ。仕方なく注ぎ易いようグラスを傾ける。
「俺はたまに映画館行くくらいだし」
「村沢主任はどんな映画がお好きなんですか?」
こちらを振り向いた成井さんの顔のインパクトに思わずのけぞる。やっぱり左眉がない。居酒屋の隣の席は30センチくらいしか距離が離れていなくて、そういえばこんなに至近距離で成井さんの顔を見るのは初めてだった。
まじまじとその『存在しない左眉』をよく見ると、剃り跡もない気がする。産毛もない。なにもない。そうすると剃ってるんじゃなくてもともと生えてないのかな。うう、何故だ。気になる。
「ちょっと主任~、ガン見するから成井さん真っ赤じゃないですか」
「えっえっ、えと、ああ。普通の流行ってるやつ。『バット麺』とか『スパイダー麺』とか」
「あっ、アメコミがお好きなんですね。迫力があって面白いですよね」
パッと明るくなる成井さんの表情。そういえば少し顔も赤いような。ええと。あれ? ひょっとして成井さんって俺のこと好き? いやまさか。酔っぱらってるだけだろ。堀渕からかいすぎ、と話を向けようとしたけど既に他の社員に話しかけていた。あれ、これ俺が成井さんと会話続けるしかないの?
「ええと、成井さんはどういう映画が好きなの?」
「あの……ひかないでくださいね。あの、ホラーなんです」
「えっまじで。成井さんホラー好きなの!? なんかイメージ違うかも、ね、主任」
だから何故そこで俺に振るんだ、堀渕よ。ニヤニヤするな。
「私、怖いのが結構好きで」
「『リソグ』とか『口兄怨』とか~?」
「そういうのも好きなんですけど本当に好きなのはスプラッタ映画で」
「ええと、『14日の金曜日』とかそういうの?」
「そうなんです! ひょっとして主任はお詳しいですか? なんかかっこいいですよね!?」
「ジェィソンのこと? ええと、うん、まあ」
かっこいいといえばかっこいいかな、ジェィソン。ガタイは結構いいような。でも俺はどっちかっていうとフレデイ派かな。『エルム町の悪夢』の。『ジェィソンvsフレデイ』は個人的に面白かった。
俺もホラー映画は結構好きで。何か意外な共通点にちょっとドキッとした。でもどちらかというとジェイソンより成井さんの左眉の方がホラーな気がしてもやもやする。ホラーとは何か。日常との乖離。日常的ではない成井さんの左眉。成井さんは突然襲いかかってきたりはしないけど。しないよね?
「主任、成井さんと映画見に行ったらどうですか?」
「そんなちゃかすなよ、成井さんだって嫌だろ?」
「いえ、私はそんなことは……」
「じゃあ明日の土曜にデートってことで」
「ちょ、堀渕まて、落ち着け」
慌てて止めようとしたけど、堀渕は壁にかけられた俺の上着から勝手に携帯を取り出した。成井さんもなんなんだ、そのちょっとポッとした感じの表情。眉毛ないとどっちかというと正直怖い。えっどうしたらいいのこれ。
何が何だかわからないけど、明日一緒にホラー映画を見ることになった。堀渕が俺の携帯で勝手にチケットを2枚買った。よりにもよって変な映画を。
なんだこれ。『恐怖の毒々フライングキラー・ママ』。何と何が混ざってるんだ。どう考えてもB級どころかZ級だ。普通こんなのデートに選んだら映画館に入る前に振られると思う。
「わぁ、私これ行きたかったんです。主任、いいんですか?」
え、まじで!?
B級ホラー顔にはB級ホラータイトルが似合うのか。いや、言い過ぎた。さすがに失礼だよな。すまない。あの、成井さんは顔が怖いだけでいい人だっていうのはわかってる。本当に。ドキリ。
「あの、主任?」
「あ、ごめん、ええと、こんな映画で本当いいの?」
「もちろんです。気になってたんですけど1人では行きにくくって」
「ああ、まあ確かにこのタイトルじゃ1人で入りづらいかな」
チケット買うときにタイトル発音するの勇気がいる。動揺しているといつのまにか映画に行くことになってしまった。待ち合わせは映画館前で午後2時。というかこの映画のチケットはもう支払いが完了してしまっている。クレカ決済のWEBチケットだから他に譲ることもできないし、こんなの他に一緒に行くあてなんかない。
いつの間にかまわりが温かな空気になっているのも解せない。なにかヘタ踏んだ気がする。仕方がない、もう飲むしかない。やけだ。やけ酒だ。やけっぱちだ。いつもより結構飲んだからぼんやりしてきて自然に会話からアウトしてくと、成井さんは他の人と話し始めた。よかった。
そうすると俺からは成井さんの右側の顔しか見えなくなった。こちらは眉毛がある。うん。こっちは普通。眉毛が上がったり下がったりしている。うん。なんだか安心する。世界恩平穏は保たれた。
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