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2.デュラはんと機械の国の狂乱のお姫様

僕とデュラはんが訪れた領境の町キーレフ

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 領域を超えた時、少しだけピリリとしびれる感触が全身を覆う。肘を打ってしびれるような感触かもしれない。
 同時に鞄の中から『ぐぁ』という小さな音が聞こえて急いで鞄を少し開けて確認すると、デュラはんが目を回していた。

「デュラはん、大丈夫?」
「めっちゃ気持ち悪ぅ」
「動ける?」
「うーん? よう考えたらボニたんに動かしてもらわんと俺動けんやん。やから変わらんかも」

 そういえばいつも飛び跳ねる子たちを見てたから動けなくなったら困るのかなとなんとなく思っていたけど、デュラはんはもともと動けないんだった。
 急に心臓が痛くなる。
 デュラはんは僕を助けるために体を失ったんだ。全然気にしないって言ってたし僕が運んでいたからそのうち気にならなくなっていたけど、やっぱり体がないと嫌だよね。ごめんなさい、デュラはん。

「どしたん? ボニたんも気持ち悪いん?」
「……ううん、ちょっとピリっとしたけど大丈夫」
「ピリ? 俺は髪の毛掴まれて全力疾走された時みたくグワングワンしたわ」
「うわぁそれ気持ち悪そう」

 領域を超えた違和感はすぐに立ち消えた。
 しばらくそっと観察していたけどデュラはんにも特に異常はないようだ。魔力が枯渇するとしても流石にすぐ枯渇することはなさそう。でもとりあえずこの領境の町キーレフに少しとどまって様子を見る。
 カレルギアまではここから5日。お腹が空いたとか気持ち悪いとか異常がなければ出発する。
 ……エネルギーが切れたみたいに突然動けなくなったりしないよね?
 念のために魔力ポーションは少し持ってきたんだけど。

 キーレフの街は白い石造りの低い建物が立ち並び、入り組んだ路地を多くの人間が行き交っている。
 御者さんにおすすめされた宿はそれほど大きくはないけれど、こじんまりとした清潔な部屋の2階で、デュラはんを鞄から出して窓際に置く。

「ふわぁ。めっちゃ爽快」
「やっぱりずっと鞄の中だと窮屈だよね」
「ああ、別にええんやで。ボニたんも馬車の中窮屈やったやろ?」
「デュラはんほどじゃないよ。うーんせめて外が見えたりできるように工夫できればいいんだけど」

 僅かに開けた窓から少し乾いた風が吹き込んでデュラはんの黒髪を揺らす。
 高速馬車は速度優先だから車中泊。毛布なんかの最低限の設備はあるけれど、時折挟まれる食事休憩の時間以外はずっと車内。移り変わる風景を眺めるのは楽しかったけど、体が縮こまっていて手足がカチコチになっていた。
 キウィタス村に来るときも僕は徒歩だったから馬車はなんだか憧れだったけど、乗ってみると思ったほど楽じゃない。高級馬車なら違うのかな。
 うーん、とベッドに手足を伸ばすと体の中からパキパキ乾いた音がする。
 ふかふかの布団が気持ちいい。

「それにしても大分違うんやねぇ」
「僕もびっくりしたよ。変な感じ」

 ここは領域の境界ぎわの町。
 とはいっても領域境界に塀や堀があるわけじゃない。でも領域が切り替わっている場所は一目瞭然。景色がくっきりわかれている。世界がガラリと別れている。
 僕らがやってきた領域は草と木に覆われているけれど、キーレフのある『灰色と熱い鉱石』の領域には緑がほとんどなくて赤茶けた土で覆われていた。遠目で見た木の形もぜんぜん違うしそもそも植物自体をほとんど見かけない。

「デュラはん、何か異常はない? 気持ち悪くなったりお腹が空いたりとか」
「いまとこ何も変わっとらんな。入った時は気持ち悪ぅなったけど今はかわらん」
「そっか。念の為しばらくこの町にいるけどどっか行きたいとこはある?」
「うーん、お土産物屋さん?」
「まだ来たばっかりだよ」
「おもろいもんあるかもしれんやん?」

 キーレフに到着したのはお昼過ぎ。少しゆっくりして日が落ちて、デュラハンを持ち歩いても目立たなくなってから外に出る。
 異国の町。僕にとって初めての町の夜はわいわい賑やか。
 見上げたたくさんの星々の下にカンテラの灯りがたくさん浮かび、さらにその下で屋台が並んでいた。

 なんとなく教都コラプティオの屋台街を思い出す。屋台の形は大分違う。けれど、コラプティオで教会塔から見た屋台区画が夜になると同じように賑わっていたのを見下ろしていたことを思い出す。
 もうコラプティオには戻れないけれど少しだけ懐かしい。悪い思い出だけじゃなかった。

 暗いから大丈夫かなと思って鞄のふたを半分めくってデュラはんが外を見えるようにする。目もと以外はハンカチで覆ってる。時々鞄から歓声が聞こえるからデュラはんも楽しんでいるに違いない。
 けれども空しか見えないとつまらないよね。デュラはんが外が見えるような鞄って何かないかなぁ。キョロキョロしながら探すけれど、鞄の横側に穴を開けないと結局外は見れないかもしれない。
 そんなことを思いながら街の切れ目でふと空を見上げると、砂糖菓子のような星がたくさん煌めいていた。
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