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26.さよなら
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「どうだった? 新しい家は」
次の日の昼過ぎ、疲れて帰ってきた亜貴と真琴に、熱い緑茶を出しながら話を聞く。
二人の座るソファ前のテーブルに置くと、茶葉の香りがフワリと広がった。
「うん。窓から海が見えてさ。いいところだったよ。今は亡くなった有名建築家が建てた家で、少し古いけど庭つきでいい感じだった。父さんが俺に相続させるって買ったんだって」
ぐったりしたようにソファにもたれながらも、目は少し輝きを取り戻していた。
俺はお盆を置いてその隣に座る。
「へぇ。買い物の次元が違うなぁ。で、おばあちゃんとは会えたのか?」
「うん。全然元気そうだった。中学まではちょくちょく会ってたからさ。来るんなら手伝うって言ってくれた」
「そうか。良かったな」
俺が笑顔で返せば、亜貴がにじり寄る様にして身を乗り出して来た。
「ねえ。大和。新しい家に来ない? ちゃんと家政婦として雇うからさ。住み込みできなよ? ね? 部屋も空いてるし」
「へ? 何言ってんだよ? そんな都合よく──」
「だって、大和、また仕事探して働くんだろ? だったら同じでしょ? あんな広い家、お祖母ちゃん一人じゃ世話見切れないよ。大和とはこうして一緒に過ごせてたんだし、何も問題はないだろ?」
亜貴はなおも畳みかけてくる。困惑しているとそこへ真琴が。
「いい話じゃないのか? 大和」
「真琴さん?」
「岳と過ごすのは無理だが、亜貴とは家族でいてもいいだろう? なあ、岳、知らない奴に亜貴を任せるのも心配だろう?」
「…そうだな」
岳はダイニングテーブルでノートパソコンを開いて何事か作業中だったようだが、その手を止め、こちらに気のない返事を返してきた。
そっけない態度の裏には熱が隠されていることをもう知っている。
明け方近くまでその腕の中にいたおかげで、身体にずっと岳の体温と薫りが残っている様で、正直落ち着かない。身体の中の違和感もある。
「大和はどうしたい?」
岳の問いに俺は視線を亜貴に戻し、それから真琴を見て、自分の手元に落とすと。
「悪くはない、話だとは思う。けど…」
「けど、なんだ?」
岳の問いに俺は努めて笑顔を作ると。
「亜貴といると、きっと岳を思い出す。で、会えないことを思い出す…。それは一生続く。それくらいだったら、亜貴の側にもいない方がいいのかなって…」
最後は語尾が小さくなった。
岳を忘れなければならないのなら、できるだけ、それを思い出すものと関わらない方がいい。そう思ったからだ。
我ながら消極的な考え方ではあるが、正直な気持ちだった。
すると、亜貴は俺の胸元を掴み引き寄せると。
「なら、俺でいいじゃん。俺なら、ちゃんと大和と一緒にいるよ? 途中で捨てる事なんてしない」
「亜貴?」
俺はきょとんとする。
「俺は、大和が好きだよ。兄さんに先を越されたけど…。俺は諦める必要、ないもん」
「亜貴…」
呆れたような声を岳が漏らした。
いやいやいや。俺はお前たち兄弟が争うほどいいもんじゃないぞ? 何か思い違いをしてるんじゃ──。
「兄さんはもう口は出さないでよ。後少しで他人なんだろ? 大和、俺じゃだめなの?」
「へ? って、待てよ。亜貴。岳の事で何か混乱してるんじゃ」
「してない。兄さんが大和にキスしようとしてたあの時、気付いたんだ。俺も大和が好きだって」
「なら余計一緒にはすごせねぇって。俺は好きな奴いるし…」
そこで亜貴の視線がある一点で止まっていることに気が付いた。そこは俺の鎖骨辺り。
ああ、その辺りには確か岳が──。
残した跡がある。カッと顔が熱くなった。
そこで亜貴は大きくため息をつくと。
「…なんで別れるのに、手、出すかな?」
「亜貴…?」
恐る恐る問えば。
「好きなのって、兄さんのことでしょ? でもあと少しで大和を捨てる気だ。そしたら大和はどうなるの? 俺たち以外、大和が悲しんでる意味なんて分かんないよ。だったら知ってる人間が傍で慰めたっていいだろ?」
「亜貴…。でも、それじゃお前も辛いだろ?」
俺の言葉に亜貴の勢いが止まる。
「他の奴思って泣いてる奴なんて、正直側にいてしんどいはずだ。そりゃ、もしかして、もしかがある場合もあるかもしれないけどさ。俺は…きっともしかしては、無理だ…。気持ちはすっげぇ嬉しいし、お前のせっかくの告白を断るのはバカな奴って思う。でも、ごめんな。亜貴」
俯いたその頭をぽんぽんと叩く。綺麗な黒髪がサラサラと手に心地よかった。
亜貴はすんと鼻をすすったあと、ぽたりと温かい雫を俺の膝の上に落とした。
今も未練たらたらだ。
こんなに幸せな時間なのに、それを捨てていかねばならない。
岳も真琴もただ黙ってそのやり取りを眺めていた。
+++
とうとうその日が来た。
朝食も済み一段落すると、俺はすっかり元通りになった部屋を眺める。
忘れ物はなかった。
梅雨も直に明けるらしいが、今日は朝からあいにくの曇り空。
俺は廊下を行った先、岳の部屋の前まで来て足を止めた。ノックをしようか迷って、それでも勇気を振り絞ってノックする。
「岳。俺、行くから」
暫く待ったが応答はない。岳は朝から顔を見せていなかった。
今日から岳は潔の家ヘ行く。
明日、岳は跡目相続の式を行うのだと言う。ごく内々でやるらしいのだが、それでもその筋の名だたる関係者が集まるらしい。
「俺。…俺……。岳のこと、忘れる。忘れる様に、頑張る。だから──」
喉が詰まり声がでなくなる。一度、深く息を吐き出し気持ちを奮い立たせると。
「──だから、岳も忘れてくれ…」
言ったあと、コツリとドアに額をつける。反応はなかった。もしかしたら、寝ているのかも知れない。
いや。それはない。
今の俺ならわかる。
岳もきっとこのドアの向こうで聞いている。聞いていて、きっと同じ様に辛い思いをしているはず。
岳。俺はお前を忘れない。岳が俺を好いてくれた事も、ここで過ごした何もかも。
忘れたりしない。
大好きだ。岳。この先も、ずっと──。
それから、そっとそこを離れた。
もう、岳は別の世界の人間で。
二度と会えない。
どこかですれ違う偶然があったとしても。
でも、きっとそれすら、ない。
俺はまたあのボロアパートに戻って、賑やかな連中とのんびり過ごす。
聞けば父親も一旦だが、戻ってきているとの事だった。どうやら金を作るため、漁師になってマグロ漁船に乗っていたのだとか。
それは消息も掴めないだろう。
自分の借金を返す必要がなくなったとなれば、どうなることかと思うが。
それでも、漁師の仕事をいたく気に入ったらしく、またそっちで世話になると言っているらしい。
全て真琴が調べて教えてくれた。
俺は前のアパートへ帰るだけだ。すでに前に使っていた端末も渡されていた。
そっくりそのまま、使えるようになっている。解約はされていなかった。
代わりに持っていた端末は返すことにした。真琴は持っていてもいいと言ったが、二つも必要ない。
そこには撮りためた彼らの姿が収められている。何といっても、ほとんど外出もままならなかったのだ。撮る対象は自然と限られていて。
隠し撮りした岳の写真も山ほどある。
もちろん、それは好きと自覚する前のものだったが。
出ていく前、玄関先でそれを真琴に手渡しながら。
「ロックはかけてねぇから。全部消してくれても構わない」
しかし、それを受け取りながら真琴は。
「前に使っていた端末にも、俺たちの連絡先は入れてある。削除するのも大和の自由だ。ただ、何かの為に残しておいてくれると嬉しい。役に立つこともあるかもしれない」
「ありがとう…。でも、きっと使えねぇ」
使えばそこへ戻りたくなる。拒否されると分かっていても、岳の腕に飛び込みたくなるのだ。
「俺、歩いて帰る。…岳によろしく。無事、式が終わることを祈ってる。それから、ずっと岳の幸せを願ってる…って」
「…岳の奴。最後くらい顔を見せればいいものを」
真琴が絞り出すようにそう口にした。
亜貴は今朝、早々に新居へと移っていった。
亜貴は大泣きするかと思ったが、俺を躊躇いなくぎゅっと抱きしめると、『さよならは言わないから』赤くなった目でそう言って、さっさと背を見せ出ていった。
ああ見えて亜貴も強い。
「いいんだって。顔見ると、俺が泣くから。そうなると、別れがたくなるだろ? それに、さよならはもう済ませてある。泣くとお互い、嫌な気持ちになるし…。これでいい。俺ん中にはちゃんと亜貴も、真琴さんも、岳もいる。いままで本当にありがとう。それじゃあ…」
荷物はひとつもない。ポケットには今受け取った昔使っていた端末と、財布があるだけ。
「大和…」
真琴はそう呟くと、不意に俺の頭を引き寄せ胸に押し付けた。
「岳の代わりだ。どんな事でもいい。何かあれば、遠慮なく連絡してくれ。岳には内緒にする」
そういうと、俺の着ていたシャツの胸ポケットに一枚の名刺を入れた。そこには真琴の弁護士としての連絡先がある。
「…ありがとう。真琴さん。あのさ。岳を…よろしく」
真琴は俺が連絡を取らないことを分かっている。けれど、渡さずにはいられなかったのだろう。
やっぱり俺はちょっと泣いて、それから重い扉を自分で押し開けて外に出た。
一人でここを出ていくのはこれが初めてで、これで最後だった。
次の日の昼過ぎ、疲れて帰ってきた亜貴と真琴に、熱い緑茶を出しながら話を聞く。
二人の座るソファ前のテーブルに置くと、茶葉の香りがフワリと広がった。
「うん。窓から海が見えてさ。いいところだったよ。今は亡くなった有名建築家が建てた家で、少し古いけど庭つきでいい感じだった。父さんが俺に相続させるって買ったんだって」
ぐったりしたようにソファにもたれながらも、目は少し輝きを取り戻していた。
俺はお盆を置いてその隣に座る。
「へぇ。買い物の次元が違うなぁ。で、おばあちゃんとは会えたのか?」
「うん。全然元気そうだった。中学まではちょくちょく会ってたからさ。来るんなら手伝うって言ってくれた」
「そうか。良かったな」
俺が笑顔で返せば、亜貴がにじり寄る様にして身を乗り出して来た。
「ねえ。大和。新しい家に来ない? ちゃんと家政婦として雇うからさ。住み込みできなよ? ね? 部屋も空いてるし」
「へ? 何言ってんだよ? そんな都合よく──」
「だって、大和、また仕事探して働くんだろ? だったら同じでしょ? あんな広い家、お祖母ちゃん一人じゃ世話見切れないよ。大和とはこうして一緒に過ごせてたんだし、何も問題はないだろ?」
亜貴はなおも畳みかけてくる。困惑しているとそこへ真琴が。
「いい話じゃないのか? 大和」
「真琴さん?」
「岳と過ごすのは無理だが、亜貴とは家族でいてもいいだろう? なあ、岳、知らない奴に亜貴を任せるのも心配だろう?」
「…そうだな」
岳はダイニングテーブルでノートパソコンを開いて何事か作業中だったようだが、その手を止め、こちらに気のない返事を返してきた。
そっけない態度の裏には熱が隠されていることをもう知っている。
明け方近くまでその腕の中にいたおかげで、身体にずっと岳の体温と薫りが残っている様で、正直落ち着かない。身体の中の違和感もある。
「大和はどうしたい?」
岳の問いに俺は視線を亜貴に戻し、それから真琴を見て、自分の手元に落とすと。
「悪くはない、話だとは思う。けど…」
「けど、なんだ?」
岳の問いに俺は努めて笑顔を作ると。
「亜貴といると、きっと岳を思い出す。で、会えないことを思い出す…。それは一生続く。それくらいだったら、亜貴の側にもいない方がいいのかなって…」
最後は語尾が小さくなった。
岳を忘れなければならないのなら、できるだけ、それを思い出すものと関わらない方がいい。そう思ったからだ。
我ながら消極的な考え方ではあるが、正直な気持ちだった。
すると、亜貴は俺の胸元を掴み引き寄せると。
「なら、俺でいいじゃん。俺なら、ちゃんと大和と一緒にいるよ? 途中で捨てる事なんてしない」
「亜貴?」
俺はきょとんとする。
「俺は、大和が好きだよ。兄さんに先を越されたけど…。俺は諦める必要、ないもん」
「亜貴…」
呆れたような声を岳が漏らした。
いやいやいや。俺はお前たち兄弟が争うほどいいもんじゃないぞ? 何か思い違いをしてるんじゃ──。
「兄さんはもう口は出さないでよ。後少しで他人なんだろ? 大和、俺じゃだめなの?」
「へ? って、待てよ。亜貴。岳の事で何か混乱してるんじゃ」
「してない。兄さんが大和にキスしようとしてたあの時、気付いたんだ。俺も大和が好きだって」
「なら余計一緒にはすごせねぇって。俺は好きな奴いるし…」
そこで亜貴の視線がある一点で止まっていることに気が付いた。そこは俺の鎖骨辺り。
ああ、その辺りには確か岳が──。
残した跡がある。カッと顔が熱くなった。
そこで亜貴は大きくため息をつくと。
「…なんで別れるのに、手、出すかな?」
「亜貴…?」
恐る恐る問えば。
「好きなのって、兄さんのことでしょ? でもあと少しで大和を捨てる気だ。そしたら大和はどうなるの? 俺たち以外、大和が悲しんでる意味なんて分かんないよ。だったら知ってる人間が傍で慰めたっていいだろ?」
「亜貴…。でも、それじゃお前も辛いだろ?」
俺の言葉に亜貴の勢いが止まる。
「他の奴思って泣いてる奴なんて、正直側にいてしんどいはずだ。そりゃ、もしかして、もしかがある場合もあるかもしれないけどさ。俺は…きっともしかしては、無理だ…。気持ちはすっげぇ嬉しいし、お前のせっかくの告白を断るのはバカな奴って思う。でも、ごめんな。亜貴」
俯いたその頭をぽんぽんと叩く。綺麗な黒髪がサラサラと手に心地よかった。
亜貴はすんと鼻をすすったあと、ぽたりと温かい雫を俺の膝の上に落とした。
今も未練たらたらだ。
こんなに幸せな時間なのに、それを捨てていかねばならない。
岳も真琴もただ黙ってそのやり取りを眺めていた。
+++
とうとうその日が来た。
朝食も済み一段落すると、俺はすっかり元通りになった部屋を眺める。
忘れ物はなかった。
梅雨も直に明けるらしいが、今日は朝からあいにくの曇り空。
俺は廊下を行った先、岳の部屋の前まで来て足を止めた。ノックをしようか迷って、それでも勇気を振り絞ってノックする。
「岳。俺、行くから」
暫く待ったが応答はない。岳は朝から顔を見せていなかった。
今日から岳は潔の家ヘ行く。
明日、岳は跡目相続の式を行うのだと言う。ごく内々でやるらしいのだが、それでもその筋の名だたる関係者が集まるらしい。
「俺。…俺……。岳のこと、忘れる。忘れる様に、頑張る。だから──」
喉が詰まり声がでなくなる。一度、深く息を吐き出し気持ちを奮い立たせると。
「──だから、岳も忘れてくれ…」
言ったあと、コツリとドアに額をつける。反応はなかった。もしかしたら、寝ているのかも知れない。
いや。それはない。
今の俺ならわかる。
岳もきっとこのドアの向こうで聞いている。聞いていて、きっと同じ様に辛い思いをしているはず。
岳。俺はお前を忘れない。岳が俺を好いてくれた事も、ここで過ごした何もかも。
忘れたりしない。
大好きだ。岳。この先も、ずっと──。
それから、そっとそこを離れた。
もう、岳は別の世界の人間で。
二度と会えない。
どこかですれ違う偶然があったとしても。
でも、きっとそれすら、ない。
俺はまたあのボロアパートに戻って、賑やかな連中とのんびり過ごす。
聞けば父親も一旦だが、戻ってきているとの事だった。どうやら金を作るため、漁師になってマグロ漁船に乗っていたのだとか。
それは消息も掴めないだろう。
自分の借金を返す必要がなくなったとなれば、どうなることかと思うが。
それでも、漁師の仕事をいたく気に入ったらしく、またそっちで世話になると言っているらしい。
全て真琴が調べて教えてくれた。
俺は前のアパートへ帰るだけだ。すでに前に使っていた端末も渡されていた。
そっくりそのまま、使えるようになっている。解約はされていなかった。
代わりに持っていた端末は返すことにした。真琴は持っていてもいいと言ったが、二つも必要ない。
そこには撮りためた彼らの姿が収められている。何といっても、ほとんど外出もままならなかったのだ。撮る対象は自然と限られていて。
隠し撮りした岳の写真も山ほどある。
もちろん、それは好きと自覚する前のものだったが。
出ていく前、玄関先でそれを真琴に手渡しながら。
「ロックはかけてねぇから。全部消してくれても構わない」
しかし、それを受け取りながら真琴は。
「前に使っていた端末にも、俺たちの連絡先は入れてある。削除するのも大和の自由だ。ただ、何かの為に残しておいてくれると嬉しい。役に立つこともあるかもしれない」
「ありがとう…。でも、きっと使えねぇ」
使えばそこへ戻りたくなる。拒否されると分かっていても、岳の腕に飛び込みたくなるのだ。
「俺、歩いて帰る。…岳によろしく。無事、式が終わることを祈ってる。それから、ずっと岳の幸せを願ってる…って」
「…岳の奴。最後くらい顔を見せればいいものを」
真琴が絞り出すようにそう口にした。
亜貴は今朝、早々に新居へと移っていった。
亜貴は大泣きするかと思ったが、俺を躊躇いなくぎゅっと抱きしめると、『さよならは言わないから』赤くなった目でそう言って、さっさと背を見せ出ていった。
ああ見えて亜貴も強い。
「いいんだって。顔見ると、俺が泣くから。そうなると、別れがたくなるだろ? それに、さよならはもう済ませてある。泣くとお互い、嫌な気持ちになるし…。これでいい。俺ん中にはちゃんと亜貴も、真琴さんも、岳もいる。いままで本当にありがとう。それじゃあ…」
荷物はひとつもない。ポケットには今受け取った昔使っていた端末と、財布があるだけ。
「大和…」
真琴はそう呟くと、不意に俺の頭を引き寄せ胸に押し付けた。
「岳の代わりだ。どんな事でもいい。何かあれば、遠慮なく連絡してくれ。岳には内緒にする」
そういうと、俺の着ていたシャツの胸ポケットに一枚の名刺を入れた。そこには真琴の弁護士としての連絡先がある。
「…ありがとう。真琴さん。あのさ。岳を…よろしく」
真琴は俺が連絡を取らないことを分かっている。けれど、渡さずにはいられなかったのだろう。
やっぱり俺はちょっと泣いて、それから重い扉を自分で押し開けて外に出た。
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