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29.呼び出し
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次の日。
以前の様に壱輝に弁当を作り、亜貴と真琴を見送り、初奈と壱輝をそれぞれ学校へ送ってきた。帰りは藤が迎えに行ってくれる。
真琴は車で借りているマンションまで行き、車を置いて出勤。帰りにマンションに置いてあるザックを引っ掛け、先に空港へ向かう予定だ。
家事を何やかやとこなしていれば、あっという間に時間は過ぎ、出発の時刻が迫った。空港へはタクシーで向かう予定だった。直に来るだろう。
玄関先にまとめた荷物に目を向けた。大きめのザック一つだけ。トレッキングが必要になると言われ、いつもの山道具をそこへ詰め込んだだけだ。
ザックにくくりつけられた、木彫りのカワウソのキーホルダーに目を向ける。いつか、岳が見つけて来て、俺にピッタリだとそこへ取り付けたものだった。前脚を揃えて立つカワウソは愛嬌がある。目の前に日に焼けた笑顔の岳が浮かんだ。
岳…。どこかにいるんだろ?
答えは返って来ない。
そうしていれば端末が唐突に鳴った。表示は藤だった。
この時間は壱輝を迎えに行っているはずだけど──。
嫌な予感がした。
「どうした? 藤」
『出る前にすまない。壱輝だが、少し前に家族から連絡があって、帰ったらしい。クラスメートの翔が教えてくれた。話を聞いているか?』
初耳だった。
「…いや。亜貴も真琴も連絡はしていないはずだ。──八野か?」
ピンときて藤に聞き返す。すると藤もそう思ったらしく。
『多分そうだろう…。俺は初奈を家まで送ってから、居場所へ向かう。大和はこのまま空港に向かってくれ。俺一人で対応できる』
壱輝の端末にはGPSで探せるアプリが付いている。以前の件以降、壱輝の許可を得て入れたものだった。皆、共有している為、それを見れば居場所は一目瞭然だ。
家に倖江が来る予定だから初奈は問題ない。亜貴もそのうち帰って来るだろう。
今日、真琴と俺が出立することは周知のことで。藤はそう言ったが。
「藤ひとりに任せておけない。俺も行く。場所は端末の所だな?」
『大和、俺一人でいい。楠の応援も頼むつもりだ。お前は空港に行け。岳さんが待っている…』
「…っ」
俺はくっと唇を噛みしめた後。
「今、大事なのは壱輝を救うことだ。少しでも早い方がいい。八野って奴、まともじゃねぇだろ? 岳だって分かってくれる…。真琴さんには俺から連絡するから」
『大和…』
「藤。もし、ここで壱輝になにかあったら、俺はきっと一生後悔する。分かってくれ」
『……分かった』
「じゃ、初奈を頼んだ。俺は先に行っとく!」
『大和。俺が行くまで何も行動は起こすなよ? すぐに行く』
「おう。わかってるって」
それで通話を終わらせると、俺は端末のアプリで、壱輝の居場所を確認し、ちょうど到着したタクシーに行き先変更を告げた。
それからすぐに真琴に連絡する。もう空港に着いた頃だろう。
「真琴さん? 今いいか?」
『どうした? 大和』
「壱輝が行方不明なんだ。行き先は端末のGPSで分かると思う。こっちは何とかするから、真琴さんは現地にこのまま向かってくれるか?俺のチケットはキャンセルしてくれていい」
『大和、何を言って──』
「頼む。壱輝を助けたいんだ。今、岳の所に行っても、俺は何の役にも立たない…。けどこっちにいれば壱輝を救えるんだ。真琴さんには俺の代わりに行って欲しい。真琴さんだって、岳の事心配だろ? だから…」
端末の向こうで、真琴の深いため息が聞こえた。
『わかった…。警察の方には俺から連絡を入れて置く。位置は俺の方でも分かる。大和』
「なに?」
『壱輝を頼む。それから──岳の結果がどうであれ、ひとりで抱え込むな? みんながいることを忘れるなよ』
「ふふ。ありがとう。真琴さん。それ、亜貴にも言われた。みんながいるから。俺は大丈夫だ」
通話を終えると俺は気持ちを切り替える。今はなにより、壱輝を助けることが先決だった。
+++
高校の職員室に藤から直接連絡があった。出たのは教員で、要件を告げて切ったらしい。裏門で待つから、早めに下校しろと。
おやじの事で何か状況が変わったのか。
壱輝は冷静ではいられなかった。
もし、何かあったのなら──。
不安で押しつぶされそうで。
今日の夕方、真琴と大和は航空機で現地に向かう予定だった。それで、もっと詳しい情報が分かるはずだったのだが。
はやる気持ちを押さえて、藤が迎えに来ているという場所に向かった。
裏門の前。いつもは、正門から少し離れた場所に停車して待っていた。藤は車外に出て待つから、かなり目立つのだが、中で待たずに外で待つ。
その方が、拉致などを起こそうとした場合、いい抑止になるからだと言う。それに、不測の事態にすぐに反応できるからとも。
おかげで、翔と智高以外のクラスメートはさらに壱輝を遠巻きにして接するようになっていた。大和や真琴ならまだしも、藤だとどうしてもそっち系の人間にしか見えないのだ。
壱輝はヤクザの子どもだと噂になっているらしい。もちろん、職員には誰が迎えに来ているか知らせているため、そんな誤解はないのだが。
しかし、実際、元ヤクザだと本人から聞いた時は、さすがに引いた。
真琴から、岳や真琴自身の前職についても聞いていたが、二人がそうだったと知っても、今は全く穏やかなため、聞き流す程度だったが。
藤はどうやってもそうとしか見えず、ただのジムトレーナーには見えなかったのだ。それが実際は本職だったことがあると知って、皆がそう噂しても仕方ないのだと思った。
と、裏門から外に出た所で、見たことのない黒い車体のセダンがあった。近づこうとして、足を止める。
外車のエンブレム。藤の乗ってくる車は、ごく普通の紺色の国産ワゴンで。車外で待っている人影もなく。
ヤバいな…。
藤の声など教員が分かるはずも無い。ここ最近はずっと藤が迎えに来ているから、藤がどこの誰かなど八野の方でも調べはついているのだろう。
不審な気配に壱輝が後ずさると、中から人が下りてきた。いかにも柄の悪い連中だ。そう歳はとっていない。せいぜい、二十代から三十代前後。
踵を返し校門の中へ戻ろうとしたが、すぐに追いつかれその腕をぐいと掴まれた。
「おっと、逃がすかよ。壱輝、八野さんが待ってる…」
「うっせ! 行くわけねぇ──」
言いかけた所へバチリと何かがはじけるような音がして、火傷したような激しい痛みが身体を走り、動けなくなった。力なくそこへ蹲る。
「暴れるともっと痛い目見るぞ。ほら、来い」
男の手にはスタンガンが握られていた。それが腰に押しあてられたのだ。一瞬で動けなくなる。
「っ…」
男たちに引きずられるようにして、車の後部座席まで連れて行かれ乗せられる。
すぐに手足を拘束され、身動きもままらなくなった。転がされた後部座席で、これから起こるであろうことを想像し震える。
多分、容赦しない。
八野という男は切れやすかった。
一見穏やかでどんなバカ騒ぎをしていても、どこ吹く風で飄々としているが、後になって、気に入らなかった奴を動けなくなるまで痛めつけた。命まではとらないが、腕を折るくらいは平気でやってのける。壱輝の場合、暴行だけでは済まされないだろう。
だから、八野の前ではみんなへつらう。
しかし、壱輝はそんな八野がただの穏やかな人物ではないと早々に知り、距離を置くようになっていた。
が、それに反して懐かない壱輝に八野は興味を持ち、手を出してきたのだ。
八野の相手は皆、ろくな目にはあっていない。そこまですさんでいなかった奴も、八野に手を出された後は、坂道を転がる様に転落していき、どん底にいた。
それを知っていたから距離を置いたのもある。
なのに。
一度手を出されたあとは、無視し続けた。真琴たちに手を回してもらい、八野を捕まえる算段をつけたというのに。
これでは連絡を取れない。すでに壱輝の端末は没収されていた。端末を奪った男は、助手席から振り返ってそれを振ってみせると。
「大人しくしねぇと、これ使って妹、呼び出すからな? 小学五年生だって? 子どもが好きな奴は結構多いんだ。最近は…」
「ざけんなっ! 妹に手は出すな! 俺がいればいいんだろ!」
「そうさ。お前が八野さんのもんになりゃ、丸く収まる。妹には手を出さねぇって。今回はえらく執着してたからなぁ。焦らした分、可愛がってもらえるぞ」
男の口元がいやらしく歪んだ。
「俺たちも参加オーケーだ。楽しくやろうぜ」
「っ!」
隣にいた男がくいと壱輝の胸元を掴み引き上げ、たばこ臭いにおいのする顔を近づけてきた。壱輝は男を睨みつけ、唾を吐く。それが男の顔に正面からかかって、男は激高した。
「こいつっ!」
思いきりバシッと頬を張られる。
男の手は止まらない。口の端に血が滲み、目の前を星が飛び出した三度目の時、ようやく助手席から声がかかった。
「やめとけって。あんまり、見た目が変わってると、八野さんががっかりするだろ? 機嫌が悪いと扱いが大変なんだって。その辺にしとけよ」
「ちっ! クソがっ! あとで覚えとけ!」
男はようやく壱輝から手を放し、元の位置へと戻った。
投げ出された座席で、抵抗する気力をなくした壱輝の赤く腫れた頬に一筋だけ涙が伝った。
結局、どんなに足掻いても、自分の未来はどん底なのだ。
以前の様に壱輝に弁当を作り、亜貴と真琴を見送り、初奈と壱輝をそれぞれ学校へ送ってきた。帰りは藤が迎えに行ってくれる。
真琴は車で借りているマンションまで行き、車を置いて出勤。帰りにマンションに置いてあるザックを引っ掛け、先に空港へ向かう予定だ。
家事を何やかやとこなしていれば、あっという間に時間は過ぎ、出発の時刻が迫った。空港へはタクシーで向かう予定だった。直に来るだろう。
玄関先にまとめた荷物に目を向けた。大きめのザック一つだけ。トレッキングが必要になると言われ、いつもの山道具をそこへ詰め込んだだけだ。
ザックにくくりつけられた、木彫りのカワウソのキーホルダーに目を向ける。いつか、岳が見つけて来て、俺にピッタリだとそこへ取り付けたものだった。前脚を揃えて立つカワウソは愛嬌がある。目の前に日に焼けた笑顔の岳が浮かんだ。
岳…。どこかにいるんだろ?
答えは返って来ない。
そうしていれば端末が唐突に鳴った。表示は藤だった。
この時間は壱輝を迎えに行っているはずだけど──。
嫌な予感がした。
「どうした? 藤」
『出る前にすまない。壱輝だが、少し前に家族から連絡があって、帰ったらしい。クラスメートの翔が教えてくれた。話を聞いているか?』
初耳だった。
「…いや。亜貴も真琴も連絡はしていないはずだ。──八野か?」
ピンときて藤に聞き返す。すると藤もそう思ったらしく。
『多分そうだろう…。俺は初奈を家まで送ってから、居場所へ向かう。大和はこのまま空港に向かってくれ。俺一人で対応できる』
壱輝の端末にはGPSで探せるアプリが付いている。以前の件以降、壱輝の許可を得て入れたものだった。皆、共有している為、それを見れば居場所は一目瞭然だ。
家に倖江が来る予定だから初奈は問題ない。亜貴もそのうち帰って来るだろう。
今日、真琴と俺が出立することは周知のことで。藤はそう言ったが。
「藤ひとりに任せておけない。俺も行く。場所は端末の所だな?」
『大和、俺一人でいい。楠の応援も頼むつもりだ。お前は空港に行け。岳さんが待っている…』
「…っ」
俺はくっと唇を噛みしめた後。
「今、大事なのは壱輝を救うことだ。少しでも早い方がいい。八野って奴、まともじゃねぇだろ? 岳だって分かってくれる…。真琴さんには俺から連絡するから」
『大和…』
「藤。もし、ここで壱輝になにかあったら、俺はきっと一生後悔する。分かってくれ」
『……分かった』
「じゃ、初奈を頼んだ。俺は先に行っとく!」
『大和。俺が行くまで何も行動は起こすなよ? すぐに行く』
「おう。わかってるって」
それで通話を終わらせると、俺は端末のアプリで、壱輝の居場所を確認し、ちょうど到着したタクシーに行き先変更を告げた。
それからすぐに真琴に連絡する。もう空港に着いた頃だろう。
「真琴さん? 今いいか?」
『どうした? 大和』
「壱輝が行方不明なんだ。行き先は端末のGPSで分かると思う。こっちは何とかするから、真琴さんは現地にこのまま向かってくれるか?俺のチケットはキャンセルしてくれていい」
『大和、何を言って──』
「頼む。壱輝を助けたいんだ。今、岳の所に行っても、俺は何の役にも立たない…。けどこっちにいれば壱輝を救えるんだ。真琴さんには俺の代わりに行って欲しい。真琴さんだって、岳の事心配だろ? だから…」
端末の向こうで、真琴の深いため息が聞こえた。
『わかった…。警察の方には俺から連絡を入れて置く。位置は俺の方でも分かる。大和』
「なに?」
『壱輝を頼む。それから──岳の結果がどうであれ、ひとりで抱え込むな? みんながいることを忘れるなよ』
「ふふ。ありがとう。真琴さん。それ、亜貴にも言われた。みんながいるから。俺は大丈夫だ」
通話を終えると俺は気持ちを切り替える。今はなにより、壱輝を助けることが先決だった。
+++
高校の職員室に藤から直接連絡があった。出たのは教員で、要件を告げて切ったらしい。裏門で待つから、早めに下校しろと。
おやじの事で何か状況が変わったのか。
壱輝は冷静ではいられなかった。
もし、何かあったのなら──。
不安で押しつぶされそうで。
今日の夕方、真琴と大和は航空機で現地に向かう予定だった。それで、もっと詳しい情報が分かるはずだったのだが。
はやる気持ちを押さえて、藤が迎えに来ているという場所に向かった。
裏門の前。いつもは、正門から少し離れた場所に停車して待っていた。藤は車外に出て待つから、かなり目立つのだが、中で待たずに外で待つ。
その方が、拉致などを起こそうとした場合、いい抑止になるからだと言う。それに、不測の事態にすぐに反応できるからとも。
おかげで、翔と智高以外のクラスメートはさらに壱輝を遠巻きにして接するようになっていた。大和や真琴ならまだしも、藤だとどうしてもそっち系の人間にしか見えないのだ。
壱輝はヤクザの子どもだと噂になっているらしい。もちろん、職員には誰が迎えに来ているか知らせているため、そんな誤解はないのだが。
しかし、実際、元ヤクザだと本人から聞いた時は、さすがに引いた。
真琴から、岳や真琴自身の前職についても聞いていたが、二人がそうだったと知っても、今は全く穏やかなため、聞き流す程度だったが。
藤はどうやってもそうとしか見えず、ただのジムトレーナーには見えなかったのだ。それが実際は本職だったことがあると知って、皆がそう噂しても仕方ないのだと思った。
と、裏門から外に出た所で、見たことのない黒い車体のセダンがあった。近づこうとして、足を止める。
外車のエンブレム。藤の乗ってくる車は、ごく普通の紺色の国産ワゴンで。車外で待っている人影もなく。
ヤバいな…。
藤の声など教員が分かるはずも無い。ここ最近はずっと藤が迎えに来ているから、藤がどこの誰かなど八野の方でも調べはついているのだろう。
不審な気配に壱輝が後ずさると、中から人が下りてきた。いかにも柄の悪い連中だ。そう歳はとっていない。せいぜい、二十代から三十代前後。
踵を返し校門の中へ戻ろうとしたが、すぐに追いつかれその腕をぐいと掴まれた。
「おっと、逃がすかよ。壱輝、八野さんが待ってる…」
「うっせ! 行くわけねぇ──」
言いかけた所へバチリと何かがはじけるような音がして、火傷したような激しい痛みが身体を走り、動けなくなった。力なくそこへ蹲る。
「暴れるともっと痛い目見るぞ。ほら、来い」
男の手にはスタンガンが握られていた。それが腰に押しあてられたのだ。一瞬で動けなくなる。
「っ…」
男たちに引きずられるようにして、車の後部座席まで連れて行かれ乗せられる。
すぐに手足を拘束され、身動きもままらなくなった。転がされた後部座席で、これから起こるであろうことを想像し震える。
多分、容赦しない。
八野という男は切れやすかった。
一見穏やかでどんなバカ騒ぎをしていても、どこ吹く風で飄々としているが、後になって、気に入らなかった奴を動けなくなるまで痛めつけた。命まではとらないが、腕を折るくらいは平気でやってのける。壱輝の場合、暴行だけでは済まされないだろう。
だから、八野の前ではみんなへつらう。
しかし、壱輝はそんな八野がただの穏やかな人物ではないと早々に知り、距離を置くようになっていた。
が、それに反して懐かない壱輝に八野は興味を持ち、手を出してきたのだ。
八野の相手は皆、ろくな目にはあっていない。そこまですさんでいなかった奴も、八野に手を出された後は、坂道を転がる様に転落していき、どん底にいた。
それを知っていたから距離を置いたのもある。
なのに。
一度手を出されたあとは、無視し続けた。真琴たちに手を回してもらい、八野を捕まえる算段をつけたというのに。
これでは連絡を取れない。すでに壱輝の端末は没収されていた。端末を奪った男は、助手席から振り返ってそれを振ってみせると。
「大人しくしねぇと、これ使って妹、呼び出すからな? 小学五年生だって? 子どもが好きな奴は結構多いんだ。最近は…」
「ざけんなっ! 妹に手は出すな! 俺がいればいいんだろ!」
「そうさ。お前が八野さんのもんになりゃ、丸く収まる。妹には手を出さねぇって。今回はえらく執着してたからなぁ。焦らした分、可愛がってもらえるぞ」
男の口元がいやらしく歪んだ。
「俺たちも参加オーケーだ。楽しくやろうぜ」
「っ!」
隣にいた男がくいと壱輝の胸元を掴み引き上げ、たばこ臭いにおいのする顔を近づけてきた。壱輝は男を睨みつけ、唾を吐く。それが男の顔に正面からかかって、男は激高した。
「こいつっ!」
思いきりバシッと頬を張られる。
男の手は止まらない。口の端に血が滲み、目の前を星が飛び出した三度目の時、ようやく助手席から声がかかった。
「やめとけって。あんまり、見た目が変わってると、八野さんががっかりするだろ? 機嫌が悪いと扱いが大変なんだって。その辺にしとけよ」
「ちっ! クソがっ! あとで覚えとけ!」
男はようやく壱輝から手を放し、元の位置へと戻った。
投げ出された座席で、抵抗する気力をなくした壱輝の赤く腫れた頬に一筋だけ涙が伝った。
結局、どんなに足掻いても、自分の未来はどん底なのだ。
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