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14.話し合い
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藤の運転で途中まで行くと、後は近くの駐車場に車を停め歩いた。
繁華街。派手なネオンの色が目に眩しい。まるで昼の様だ。厳つい藤と歩くせいか、数多いる客引きは誰も声をかけてこなかった。
夜の店はこれからが稼ぎ時。大希の働く店もこれからが忙しくなる時間だろう。
藤の案内で細い路地を通り抜けながら、
「大希、出勤してるって?」
「ああ。さっき牧が連絡をくれた。今日は出勤日になっているそうだ。…この店は岳さんが若頭だった頃、懇意にしていた店だ」
「岳が? …ああ、そっかぁ」
岳はもとから男性が相手なのだ。こういった店に出入りしていても可笑しくはない。
豪遊、してたのかな?
昔の岳は派手だったって、前に真琴さんが言ってたっけな──と、思い出していると、藤がフォローするように。
「岳さんはここのバーの店主と知り合いだった。ここは元鴎澤組の縄張で、集金がてら話をしていた程度だ」
「ふーん…。って、解説、ありがとな? 藤」
へへっと笑って拳でその背を軽く小突く。
俺が不安になるのを見越しての言葉に礼を言うと、藤は黙って頷いて見せた。
店の前に到着する。五階建てのビルの地下一階にその店はあった。深い紫色のプレートが壁にかけられ、そこに店名である『MIYABI』と、描かれていた。階段を下った先に入口が見える。
「とりあえず、正面から行ってみっか。藤はここで待っていてくれるか?」
巨漢が入っては目立つだろう。それに、藤はそういった場所は好かないかもしれない。
というか、向こうからは好かれるのか?
このダイナマイトボディはなかなかだろう。そう思っていれば藤は首を横に振って。
「俺も行く。大和はこういう店に慣れていないだろう。…危険だ」
ああ、そうかと思い直した。
藤は岳について何度も来ていたのだろう。それに、元々ヤクザだったのだ。こういう類の店の出入りも仕事のうちで。好きも嫌いもないだろう。
「ん。じゃ、よろしく」
ここは素直に従った。俺は藤を背後に従え階下に降りると、店の黒地に金の縁取りのある重い扉を押す。
軽やかなジャズが流れていた。店内は間接照明に照らされ薄暗い。近寄ればようやく顔が判別出来る程度だ。
大和が入店すると、直に気づいたマスターが声をかけて来た。
腰まで届きそうな長い黒髪に、赤いドレス姿。全く違和感がない。傍目からもかなりの美人だと分かった。男性だとは正直思えない。
「あら? 藤じゃない。どうしたの?…まさか──目覚めたの?」
チラと傍らに立つ俺を見て、意外そうな顔をして見せた。すると藤は珍しくピクリと肩を揺らし動揺した気配を見せたあと。
「…違います、雅さん。人を捜しているんです」
「ひと? ここで?」
俺は藤の後を引き取ると。
「俺、宮本大和と言います。ここで働いている浅倉大希に会いたくて…。今日は出勤してると聞いたんですが──」
「ヒロに? 珍しいわね。あの子にまともなお客様なんて…。ちょっと待ってて。多分もう来てるから」
にこりと笑んだ雅は直にひらりと履いていたドレスの裾を翻し奥へと向かう。すると藤が。
「俺は裏口に回る。浅倉が逃げる可能性がある。店の中に妙な奴はいない。少しの間、一人にするがいいか?」
「あ、おう。大丈夫だ」
「浅倉が飛び出してくる。話したいなら逃がすなよ」
「…了解」
俺が頷くと素早く店を出て行った。裏口に回ったのだろう。あれだけ巨漢なのに身のこなしは軽快で。実際に手合わせするとそれがよく分かる。
店の奥、通路で声がした。誰かが慌てた様子でかけて来る。と、不意にカウンターの向こうに人影が現れた。
その人物は焦った様子で背後を気にしながら、カウンターを飛び越えて来る。
俺はその人物の腕をすかさず掴み。
「見つけた! 大希!」
そう口にした。
+++
あの日。
大希は古山の部下に連絡すると、大和をホテルに残しそこを出た。
結局何もできず。
大和に抱きしめられたら、それだけでもう、胸がいっぱいでどうしていいかわからなくなった。そのまま、何も考えずに飛び出して。
騙した自分を大和はきっと許さないだろう。それはその周囲の人間も同じで。
二度と会えない──。
今回の件に自分が関わっている事は、すぐにバレるだろう。そうなれば、大和どころか岳にさえ拒否されるはずだ。
それでも、この仕事は断れなかった──。
古山の部下から仕事を依頼され、大和の写真を見せられた。日に焼けた顔で傍らを歩く岳を見上げている。隠し撮りしたのだろう。
どこにでもいそうな、ぱっとしない見た目の青年で。近くで見れば頬に傷さえあった。
これなら、俺の方が断然いい──。
岳には似合わない。そう思った。
古山の部下の指示で大和に近づくため、吹けば飛びそうな古びたアパートに入居し繋がりを作る。
そんなアパートだが満室に近く、住人は皆、人がいい連中ばかりだった。誰も自分がそんな企みをもっているとは思ってもいない。
やたらと個性の強い人々が入居するアパートに少々面食らったが、付き合いは今だけの事。そう割り切って普段通りふるまった。
そんな事とは露知らず、アパートの住人はやれ夕飯を一緒にと誘ってきたり、これ余ったからと見たことも食べたことのない香辛料のすさまじく効いた料理を両手いっぱいに持ってきたり。
大和と仲良くなると、更にそれがエスカレートした。大和の友人は自分たちの友人と思っているらしい。
そこにはチラホラ岳の影も見え隠れした。仕事が忙しくなる前は、ここへ大和と共にちょくちょく来ていたらしい。
岳が来ない事は依頼をこなす上で重要だった。お蔭で大和に接近する事は簡単に進む。
大和はどうやら皆にとても好かれているらしく。確かに見た目はぱっとしないが、好人物である事は確かだった。
それは、付き合いだしてすぐに分かった。
一緒にいて気楽で楽しい。素でいるからだろう。裏がないのだ。言っていることはすべて思っていることで。安心して付き合えた。
ふと、古山との契約を忘れて、このままただの友人でいられたらいいのにとさえ思った事もある。
けれど、この先に岳がいるのだ。岳は大希にとって、恩人で思い人で。
大和のように近い存在になりたかったのだ。
いや、もっと上だ──。
それで古山の誘いに乗って。
ただ、大和から岳という人物の人となりを知るうち、もしかしたら、自分は大きな勘違いをしていたのでは? と思うようにもなっていった。
ヤクザに戻ったからといって、これほど大和を好いている岳を自分のものにできるのか。まして、大和を騙し利用しようとしている。
それを知って、許す男かどうか──。
しかし、今更古山との契約は破棄できなかった。そんな事をすれば、どんな目に遭わせられるか。今の居場所もなくすだろう。
それは考えられなかった。ようやく見つけた場所なのだ。
自分を守る為にも、この依頼は実行しなければならなかった。
それに、岳を諦めきれず。
きっと、ヤクザに戻れば変わる──。
何もかも諦めてしまえば岳は昔に戻るはず。古山と同じ思いだった。
昔の岳が本来の岳の姿でないことを大希は知らない。
いつも通り、店のバックヤードに向かえば、マスターの雅が姿を現した。
「珍しいわねぇ…」
そう呟きながら、ロッカールームに入ってくる。
「どうしたんですか?」
大希の問いに、ああ良かった、と言いながら。
「あのね、あなたに会いたいってお客さん」
「…指名? でも、俺、ここではそれは──」
やっていない。時折、他の店でその夜の相手を探しにはいくが、もう自身を売ってはいなかった。
「違うの。若い男の子。岳のとこで働いてた藤も一緒にきてて…。あの子、ちょっとタイプなんだけど。こう、ちんくしゃっとしたところが可愛げがあって──って、ヒロ?」
さっと体温が下がる。
まさか、大和が捜しに来たのか? 見つかった…!
「雅さん! 俺、今日は休んでいいですが? また、連絡します──」
「ええ? 何よ? どうして急に──」
開きかけたロッカーを閉めると、すぐに踵を返しロッカールームを後にすると裏口に向かった。
会えるわけがない──!
しかし、急に目の前に誰かが立ちふさがって、したたかに額をぶつける。
「!?」
きっと相手を睨みつければ、二メートルはあろうかという巨漢の男が立っていた。
後から大希を追ってきた雅があら、と声をあげる。
「藤、どうしたの?」
「こいつに話があるんで…。逃げられたら困るんです」
これでは裏口から逃げられない。
大希は来た道を戻ると、今度は店の表に出た。
私服のままカウンターを飛び越え、表の出入口へ向かおうとすれば、腕を誰かに引かれた。
「見つけた! 大希!」
満面の笑みの大和がいた。
+++
「大希。探したって──」
「何しに来たんだよ…。今更、用があるのか? それとも探し出して文句でもいいにきたのかよ…」
大希は今まで見たことのない険しい表情を見せる。俺はそんな大希の態度に戸惑いつつ。
「いやだって…。色々、聞きたいことがあって…。てか、心配だったんだって! …なあ、これからどこかで話せないか?」
周囲には客もいる。何事かと遠巻きに見つめる視線もチラホラ。追いかけてきた雅がそれを見て。
「二人とも。こっち、こっち!」
大希と俺の腕を両方掴んで、カウンターの中へと引っ張り込む。そのまま、ビルの階段を昇りどんどん上へと向かった。
雅は美しいだけでなく、身長も高く案外力も強い。掴まれた手首が痛むほどだった。
そこに、抵抗したら結構やられるかも──という不安がよぎり、大人しく腕を引かれるままついていった。
「ここならいいわよ。藤は外にいる?」
藤は小さくうなずくと、部屋のドアの前へ立った。出入口はそこだけらしい。
案内されたのは、店のあるビルの三階。雅が使う自室だった。狭いながらもセンスのいい食器や家具がきちんと整頓されて並んでいる。
そこのキッチンへと案内してきたのだ。小さなテーブルと向かい合うように並んだ椅子。雅はその椅子をそれぞれ引くと。
「話しならここで、ね? 下はお客さんがいるから。終わったら声をかけてね。ヒロは今日は休みでいいわよ。──じゃあね」
ウィンクまでして見せ、雅は出ていった。
何処をどう見ても男性には見えない。よく見れば、赤いドレスは背中も大きく開き露出部分が多い。腿の辺にもスリットが入っていて、かなり妖艶な色香を漂わせていた。
あんな人もいるんだなぁ…。
化粧をしているにしても、地が良くなければあそこまで綺麗にはならないだろう。驚きの眼で見送っていれば──。
「…あの人、岳さんの元恋人だよ。まだヤクザになりたての頃の…」
大希がそう告げた。
「ええ?! って、あんな、美人と!? …まあ、あり得るか…」
岳の元恋人を見たのはこれで二度目だ。
紗月のようにもっと冷たい印象の相手かと思ったがそんな事はなかった。
初めの頃はきちんと人らしく付き合おうとしていたのだろうか。
しかし、沙月と言い雅と言い──。
「あれがタイプだってんなら、俺と付き合ったのはかなりの珍事だな…」
どう考えても、通常ならあり得ない。
普段、ダイヤモンドやサファイアを愛でている人物が、突然、その辺の河原の石に興味を持つ様なものだ。
「…自覚はあるんだ」
大希はちらとこちらを見て、また視線を逸らすとそう口にした。
先ほどから態度がそっけなく口調も荒い。機嫌が悪いにしても、今まで自分が見てきた物腰の柔らかい大希とはえらい違いだ。
こちらが素の姿なのか?
いや、どちらも大希ではあるのだろうけど──。
「…色々、岳のこと、知ってんだな?」
にっと笑んで言えば、大希は信じられないものを見るような目つきでこちらを見やると。
「大和、どうして笑っていられるんだよ? 俺はお前を裏切ったんだぞ? ──そのせいで、岳さんはヤクザに戻って…。それなのに、どうしてそんな普通でいられるんだよっ…!」
それは最もだ。大希の手引きがあって、岳は古山の元へ下った。
でも、確かに原因を作りはしたが、きっと俺の拉致が失敗しても、奴らは別の手を考えていただろう。大希は駒のひとつとして利用されたに過ぎない。
「そりゃ、驚いたよ…。大希はいいヤツだって思ってたし、ちょっと影はあるけど、笑えばいい顔してたし…。きっと何か過去にあったんだろうくらいには思ってた」
大希がチラと視線を向けて来る。俺は髪をかき回しつつ。
「俺と…似てたんだ。素直に感情を出せない所とか…。だから、友達になりたいって思った。で、今回の事だろ? 驚いたし、俺はまだ見る目がないなって思った…」
大希はムスッとすると。
「…悪かったな。大和の思うようないい人間じゃなくて…」
「違うって。違うんだ…。俺、大希のこと分かったつもりになってたなって。勝手に寂しがりなだけって、思ってた…。けど、あんな大胆な事に手を貸すなんてさ。それだけじゃないもん、抱えてたんだって…」
「……」
大希が初めてまともにこちらを見る。
「なあ、どうして、古山の手伝いをしたんだ? 話して…くれないか?」
大希は小さくため息をつくと、視線をテーブルの上に落とし。
「大和は…ズルいんだ」
「へ?」
「俺にないものを沢山もっているくせに、何もかも手に入れようとして…。俺の事なんて、放っておけばいいだろ?」
「そう出来ないから、こうやって会いに来たんだ。ズルかろうが、なんだろうが、一度関わった奴を放っておけない」
すると俺のしつこさに観念したのか、諦めたように身体の力を抜き背もたれに預けると。
「…岳さんは俺の恩人なんだ。きっと、覚えてもいないだろうけれど…」
「恩人?」
大希は記憶を辿る様に、ぽつりぽつりと語り出した。
+++
「岳さんは──俺が昔、柄の悪い連中に襲われそうになった所を助けてくれたんだ。それだけだ…。けど、それで十分だった。一発で好きになって、情報集めて…」
大希は視線を組んだ手元に落とす。外からはアルコールに酔った連中の嬌声が聞こえて来きた。俺は話の腰を折らない様、大希の言葉をじっと待つ。
「鴎澤組の若頭だって知った。──当然、俺に近づけるわけがなくて…。でも諦めきれなかった。それが偶然、古山の組の奴と知り合って、俺が岳さんに好意を持ってるって言ったら、古山の仕事を持ってきて…。それが岳さんをヤクザに戻す為の計画だった」
「俺を攫えって?」
大希は渋々と言った具合に頷く。
「古山はどうしても岳さんに、こっち側に戻ってきて、自分のもとで働いて欲しいみたいで。今回の計画に乗れば、岳も手に入るって…」
「──で、俺に近づいたのか…」
腕を組んで唸る。
岳が手に入る──。
そんな簡単に、人の気持ちを操れるはずがない。それが分からなくなる程、大希は必死だったと言うことか。
大希はキッとこちらを睨みつけ。
「仕方ないだろ? 俺にはここで生きていくしか道がないし…。言われて断ることなんてできなかった。相手はヤクザだ。容赦ない。それに──どんな手でも岳さんの側にいられるなら…」
俺は身を乗り出す様にして、テーブルに腕をつくと。
「言っとくけど、岳はそういうのに厳しいぞ? ──もし、今回の件に大希が絡んでいるって知れば──多分、許さない…」
多分ではなく、絶対。
岳は自分が大切に思う者を傷つけたり、危険に晒したりすれば、それを行った者を許さないだろう。それは、今までの経験で知った事だった。
「そんなの分からないだろ? ヤクザに戻れば変わるかも知れないし…。大和みたいなのを傍に置いてるくらいだ。俺にだってチャンスがあったって可笑しくない」
「そ、それはそうだな…」
大希が強い口調で言い切る。勢いに押され、そこは素直に受け入れた。
どう見たって、大希の方が一般的にも格好いいし美形だ。というか、上位に入るだろう。
今は伊達メガネもかけていないから、よくその顔が分かる。
目も大きいし、睫毛もバサバサ、黒目勝ちで少々三白眼でもそれも悪くない。肌も白くて綺麗だし、笑えば可愛いのはよく知っている。
アイドルや俳優だと言っても通るはずだ。確かに俺なんかと比べ物にもならない。
って、岳の元恋人で知っているのはさっきのマスターと前の紗月って奴だけど──。
かなりの美貌だ。
まてまてまて。岳の好みで言ったら、大希の方に明らかに分がある。
もし、岳がヤクザに戻ったなら、俺なんかポイポイ捨てて、また以前の様にこういった美形連中と付き合いだしたりするのだろうか。
──でも。
「岳は、もう戻らない」
「なんで断言できるんだよ?」
大希は食ってかかるが。俺は静かな、けれど力のある眼差しで見返すと。
「分かるんだ──。岳は本来の生きる道を見つけた。本当にやりたいことを見つけたんだ。今までの様に誰かの為じゃなく、自分の為に生きる道だ。──だから、もう二度と、ヤクザには戻らない」
俺の言葉の強さに、大希は一瞬怯んだ様子を見せたものの、すぐに言い返す。
「そんなの、分からないだろ? 大和がいる限り、岳さんは言うなりだって古山の下の奴が嘲笑ってた…。大和を使えばずっと縛り付けておけるって…」
「俺がいるから、か…」
確かに。俺がいることが足枷になっている。
そっか、それって結構簡単だったんだな。
岳が自由に動ける様になるためには、俺が岳にふられればいいのだ。
けれど、一端はそれでいいにしても、また岳が別の奴を好きになったら、そいつが枷になってしまう。
それではメビウスの輪だ。ずっと切れることがない。岳は一生、ヤクザになる以外の道を行くなら、人を愛せなくなってしまう。
それはダメだろう。
「岳さんの前からいなくなれよ。それが岳さんの為だろ? 別れればいい…」
「ふふ…。そういえば俺が別れると思うか?」
大希の意地の悪い言葉に、俺はニヤリと口の端に笑みを浮かべ。
「岳が今後、俺以外の奴を好きになることがあっても、それは構わない。──けど、生きる道を邪魔するなら俺は全力でそいつを排除する」
「……っ」
「岳は俺を底辺から救ってくれた唯一の人間だ。それは──大希だってそうだろ? そんな大切な岳を不幸にする奴は絶対許さない。俺が断固阻止する」
「そんな…。どうやって古山に対抗するんだよ? 相手は本物のヤクザだぞ? 漫画や映画とは違うんだ。俺たちなんてどうとだって出来る連中だ…」
「俺は、大切なものを守りたいだけで、その為なら、相手がどうとかは考えない。どう乗り越えるかだ。俺にだって岳の為にできることはあるはず…。岳にはちゃんと自分の道を歩いて欲しいから、そう思う」
すると、大希は言葉を失くし暫くこちらを凝視していたが、視線を落とすと。
「どうせ──何もできないくせに…。言葉だけだ…」
俺はすっくと立ち上がると、
「いいや。俺はやる! 岳の為にな。それに、大希、お前も救う」
そう言ってニッと笑んで見せた。
繁華街。派手なネオンの色が目に眩しい。まるで昼の様だ。厳つい藤と歩くせいか、数多いる客引きは誰も声をかけてこなかった。
夜の店はこれからが稼ぎ時。大希の働く店もこれからが忙しくなる時間だろう。
藤の案内で細い路地を通り抜けながら、
「大希、出勤してるって?」
「ああ。さっき牧が連絡をくれた。今日は出勤日になっているそうだ。…この店は岳さんが若頭だった頃、懇意にしていた店だ」
「岳が? …ああ、そっかぁ」
岳はもとから男性が相手なのだ。こういった店に出入りしていても可笑しくはない。
豪遊、してたのかな?
昔の岳は派手だったって、前に真琴さんが言ってたっけな──と、思い出していると、藤がフォローするように。
「岳さんはここのバーの店主と知り合いだった。ここは元鴎澤組の縄張で、集金がてら話をしていた程度だ」
「ふーん…。って、解説、ありがとな? 藤」
へへっと笑って拳でその背を軽く小突く。
俺が不安になるのを見越しての言葉に礼を言うと、藤は黙って頷いて見せた。
店の前に到着する。五階建てのビルの地下一階にその店はあった。深い紫色のプレートが壁にかけられ、そこに店名である『MIYABI』と、描かれていた。階段を下った先に入口が見える。
「とりあえず、正面から行ってみっか。藤はここで待っていてくれるか?」
巨漢が入っては目立つだろう。それに、藤はそういった場所は好かないかもしれない。
というか、向こうからは好かれるのか?
このダイナマイトボディはなかなかだろう。そう思っていれば藤は首を横に振って。
「俺も行く。大和はこういう店に慣れていないだろう。…危険だ」
ああ、そうかと思い直した。
藤は岳について何度も来ていたのだろう。それに、元々ヤクザだったのだ。こういう類の店の出入りも仕事のうちで。好きも嫌いもないだろう。
「ん。じゃ、よろしく」
ここは素直に従った。俺は藤を背後に従え階下に降りると、店の黒地に金の縁取りのある重い扉を押す。
軽やかなジャズが流れていた。店内は間接照明に照らされ薄暗い。近寄ればようやく顔が判別出来る程度だ。
大和が入店すると、直に気づいたマスターが声をかけて来た。
腰まで届きそうな長い黒髪に、赤いドレス姿。全く違和感がない。傍目からもかなりの美人だと分かった。男性だとは正直思えない。
「あら? 藤じゃない。どうしたの?…まさか──目覚めたの?」
チラと傍らに立つ俺を見て、意外そうな顔をして見せた。すると藤は珍しくピクリと肩を揺らし動揺した気配を見せたあと。
「…違います、雅さん。人を捜しているんです」
「ひと? ここで?」
俺は藤の後を引き取ると。
「俺、宮本大和と言います。ここで働いている浅倉大希に会いたくて…。今日は出勤してると聞いたんですが──」
「ヒロに? 珍しいわね。あの子にまともなお客様なんて…。ちょっと待ってて。多分もう来てるから」
にこりと笑んだ雅は直にひらりと履いていたドレスの裾を翻し奥へと向かう。すると藤が。
「俺は裏口に回る。浅倉が逃げる可能性がある。店の中に妙な奴はいない。少しの間、一人にするがいいか?」
「あ、おう。大丈夫だ」
「浅倉が飛び出してくる。話したいなら逃がすなよ」
「…了解」
俺が頷くと素早く店を出て行った。裏口に回ったのだろう。あれだけ巨漢なのに身のこなしは軽快で。実際に手合わせするとそれがよく分かる。
店の奥、通路で声がした。誰かが慌てた様子でかけて来る。と、不意にカウンターの向こうに人影が現れた。
その人物は焦った様子で背後を気にしながら、カウンターを飛び越えて来る。
俺はその人物の腕をすかさず掴み。
「見つけた! 大希!」
そう口にした。
+++
あの日。
大希は古山の部下に連絡すると、大和をホテルに残しそこを出た。
結局何もできず。
大和に抱きしめられたら、それだけでもう、胸がいっぱいでどうしていいかわからなくなった。そのまま、何も考えずに飛び出して。
騙した自分を大和はきっと許さないだろう。それはその周囲の人間も同じで。
二度と会えない──。
今回の件に自分が関わっている事は、すぐにバレるだろう。そうなれば、大和どころか岳にさえ拒否されるはずだ。
それでも、この仕事は断れなかった──。
古山の部下から仕事を依頼され、大和の写真を見せられた。日に焼けた顔で傍らを歩く岳を見上げている。隠し撮りしたのだろう。
どこにでもいそうな、ぱっとしない見た目の青年で。近くで見れば頬に傷さえあった。
これなら、俺の方が断然いい──。
岳には似合わない。そう思った。
古山の部下の指示で大和に近づくため、吹けば飛びそうな古びたアパートに入居し繋がりを作る。
そんなアパートだが満室に近く、住人は皆、人がいい連中ばかりだった。誰も自分がそんな企みをもっているとは思ってもいない。
やたらと個性の強い人々が入居するアパートに少々面食らったが、付き合いは今だけの事。そう割り切って普段通りふるまった。
そんな事とは露知らず、アパートの住人はやれ夕飯を一緒にと誘ってきたり、これ余ったからと見たことも食べたことのない香辛料のすさまじく効いた料理を両手いっぱいに持ってきたり。
大和と仲良くなると、更にそれがエスカレートした。大和の友人は自分たちの友人と思っているらしい。
そこにはチラホラ岳の影も見え隠れした。仕事が忙しくなる前は、ここへ大和と共にちょくちょく来ていたらしい。
岳が来ない事は依頼をこなす上で重要だった。お蔭で大和に接近する事は簡単に進む。
大和はどうやら皆にとても好かれているらしく。確かに見た目はぱっとしないが、好人物である事は確かだった。
それは、付き合いだしてすぐに分かった。
一緒にいて気楽で楽しい。素でいるからだろう。裏がないのだ。言っていることはすべて思っていることで。安心して付き合えた。
ふと、古山との契約を忘れて、このままただの友人でいられたらいいのにとさえ思った事もある。
けれど、この先に岳がいるのだ。岳は大希にとって、恩人で思い人で。
大和のように近い存在になりたかったのだ。
いや、もっと上だ──。
それで古山の誘いに乗って。
ただ、大和から岳という人物の人となりを知るうち、もしかしたら、自分は大きな勘違いをしていたのでは? と思うようにもなっていった。
ヤクザに戻ったからといって、これほど大和を好いている岳を自分のものにできるのか。まして、大和を騙し利用しようとしている。
それを知って、許す男かどうか──。
しかし、今更古山との契約は破棄できなかった。そんな事をすれば、どんな目に遭わせられるか。今の居場所もなくすだろう。
それは考えられなかった。ようやく見つけた場所なのだ。
自分を守る為にも、この依頼は実行しなければならなかった。
それに、岳を諦めきれず。
きっと、ヤクザに戻れば変わる──。
何もかも諦めてしまえば岳は昔に戻るはず。古山と同じ思いだった。
昔の岳が本来の岳の姿でないことを大希は知らない。
いつも通り、店のバックヤードに向かえば、マスターの雅が姿を現した。
「珍しいわねぇ…」
そう呟きながら、ロッカールームに入ってくる。
「どうしたんですか?」
大希の問いに、ああ良かった、と言いながら。
「あのね、あなたに会いたいってお客さん」
「…指名? でも、俺、ここではそれは──」
やっていない。時折、他の店でその夜の相手を探しにはいくが、もう自身を売ってはいなかった。
「違うの。若い男の子。岳のとこで働いてた藤も一緒にきてて…。あの子、ちょっとタイプなんだけど。こう、ちんくしゃっとしたところが可愛げがあって──って、ヒロ?」
さっと体温が下がる。
まさか、大和が捜しに来たのか? 見つかった…!
「雅さん! 俺、今日は休んでいいですが? また、連絡します──」
「ええ? 何よ? どうして急に──」
開きかけたロッカーを閉めると、すぐに踵を返しロッカールームを後にすると裏口に向かった。
会えるわけがない──!
しかし、急に目の前に誰かが立ちふさがって、したたかに額をぶつける。
「!?」
きっと相手を睨みつければ、二メートルはあろうかという巨漢の男が立っていた。
後から大希を追ってきた雅があら、と声をあげる。
「藤、どうしたの?」
「こいつに話があるんで…。逃げられたら困るんです」
これでは裏口から逃げられない。
大希は来た道を戻ると、今度は店の表に出た。
私服のままカウンターを飛び越え、表の出入口へ向かおうとすれば、腕を誰かに引かれた。
「見つけた! 大希!」
満面の笑みの大和がいた。
+++
「大希。探したって──」
「何しに来たんだよ…。今更、用があるのか? それとも探し出して文句でもいいにきたのかよ…」
大希は今まで見たことのない険しい表情を見せる。俺はそんな大希の態度に戸惑いつつ。
「いやだって…。色々、聞きたいことがあって…。てか、心配だったんだって! …なあ、これからどこかで話せないか?」
周囲には客もいる。何事かと遠巻きに見つめる視線もチラホラ。追いかけてきた雅がそれを見て。
「二人とも。こっち、こっち!」
大希と俺の腕を両方掴んで、カウンターの中へと引っ張り込む。そのまま、ビルの階段を昇りどんどん上へと向かった。
雅は美しいだけでなく、身長も高く案外力も強い。掴まれた手首が痛むほどだった。
そこに、抵抗したら結構やられるかも──という不安がよぎり、大人しく腕を引かれるままついていった。
「ここならいいわよ。藤は外にいる?」
藤は小さくうなずくと、部屋のドアの前へ立った。出入口はそこだけらしい。
案内されたのは、店のあるビルの三階。雅が使う自室だった。狭いながらもセンスのいい食器や家具がきちんと整頓されて並んでいる。
そこのキッチンへと案内してきたのだ。小さなテーブルと向かい合うように並んだ椅子。雅はその椅子をそれぞれ引くと。
「話しならここで、ね? 下はお客さんがいるから。終わったら声をかけてね。ヒロは今日は休みでいいわよ。──じゃあね」
ウィンクまでして見せ、雅は出ていった。
何処をどう見ても男性には見えない。よく見れば、赤いドレスは背中も大きく開き露出部分が多い。腿の辺にもスリットが入っていて、かなり妖艶な色香を漂わせていた。
あんな人もいるんだなぁ…。
化粧をしているにしても、地が良くなければあそこまで綺麗にはならないだろう。驚きの眼で見送っていれば──。
「…あの人、岳さんの元恋人だよ。まだヤクザになりたての頃の…」
大希がそう告げた。
「ええ?! って、あんな、美人と!? …まあ、あり得るか…」
岳の元恋人を見たのはこれで二度目だ。
紗月のようにもっと冷たい印象の相手かと思ったがそんな事はなかった。
初めの頃はきちんと人らしく付き合おうとしていたのだろうか。
しかし、沙月と言い雅と言い──。
「あれがタイプだってんなら、俺と付き合ったのはかなりの珍事だな…」
どう考えても、通常ならあり得ない。
普段、ダイヤモンドやサファイアを愛でている人物が、突然、その辺の河原の石に興味を持つ様なものだ。
「…自覚はあるんだ」
大希はちらとこちらを見て、また視線を逸らすとそう口にした。
先ほどから態度がそっけなく口調も荒い。機嫌が悪いにしても、今まで自分が見てきた物腰の柔らかい大希とはえらい違いだ。
こちらが素の姿なのか?
いや、どちらも大希ではあるのだろうけど──。
「…色々、岳のこと、知ってんだな?」
にっと笑んで言えば、大希は信じられないものを見るような目つきでこちらを見やると。
「大和、どうして笑っていられるんだよ? 俺はお前を裏切ったんだぞ? ──そのせいで、岳さんはヤクザに戻って…。それなのに、どうしてそんな普通でいられるんだよっ…!」
それは最もだ。大希の手引きがあって、岳は古山の元へ下った。
でも、確かに原因を作りはしたが、きっと俺の拉致が失敗しても、奴らは別の手を考えていただろう。大希は駒のひとつとして利用されたに過ぎない。
「そりゃ、驚いたよ…。大希はいいヤツだって思ってたし、ちょっと影はあるけど、笑えばいい顔してたし…。きっと何か過去にあったんだろうくらいには思ってた」
大希がチラと視線を向けて来る。俺は髪をかき回しつつ。
「俺と…似てたんだ。素直に感情を出せない所とか…。だから、友達になりたいって思った。で、今回の事だろ? 驚いたし、俺はまだ見る目がないなって思った…」
大希はムスッとすると。
「…悪かったな。大和の思うようないい人間じゃなくて…」
「違うって。違うんだ…。俺、大希のこと分かったつもりになってたなって。勝手に寂しがりなだけって、思ってた…。けど、あんな大胆な事に手を貸すなんてさ。それだけじゃないもん、抱えてたんだって…」
「……」
大希が初めてまともにこちらを見る。
「なあ、どうして、古山の手伝いをしたんだ? 話して…くれないか?」
大希は小さくため息をつくと、視線をテーブルの上に落とし。
「大和は…ズルいんだ」
「へ?」
「俺にないものを沢山もっているくせに、何もかも手に入れようとして…。俺の事なんて、放っておけばいいだろ?」
「そう出来ないから、こうやって会いに来たんだ。ズルかろうが、なんだろうが、一度関わった奴を放っておけない」
すると俺のしつこさに観念したのか、諦めたように身体の力を抜き背もたれに預けると。
「…岳さんは俺の恩人なんだ。きっと、覚えてもいないだろうけれど…」
「恩人?」
大希は記憶を辿る様に、ぽつりぽつりと語り出した。
+++
「岳さんは──俺が昔、柄の悪い連中に襲われそうになった所を助けてくれたんだ。それだけだ…。けど、それで十分だった。一発で好きになって、情報集めて…」
大希は視線を組んだ手元に落とす。外からはアルコールに酔った連中の嬌声が聞こえて来きた。俺は話の腰を折らない様、大希の言葉をじっと待つ。
「鴎澤組の若頭だって知った。──当然、俺に近づけるわけがなくて…。でも諦めきれなかった。それが偶然、古山の組の奴と知り合って、俺が岳さんに好意を持ってるって言ったら、古山の仕事を持ってきて…。それが岳さんをヤクザに戻す為の計画だった」
「俺を攫えって?」
大希は渋々と言った具合に頷く。
「古山はどうしても岳さんに、こっち側に戻ってきて、自分のもとで働いて欲しいみたいで。今回の計画に乗れば、岳も手に入るって…」
「──で、俺に近づいたのか…」
腕を組んで唸る。
岳が手に入る──。
そんな簡単に、人の気持ちを操れるはずがない。それが分からなくなる程、大希は必死だったと言うことか。
大希はキッとこちらを睨みつけ。
「仕方ないだろ? 俺にはここで生きていくしか道がないし…。言われて断ることなんてできなかった。相手はヤクザだ。容赦ない。それに──どんな手でも岳さんの側にいられるなら…」
俺は身を乗り出す様にして、テーブルに腕をつくと。
「言っとくけど、岳はそういうのに厳しいぞ? ──もし、今回の件に大希が絡んでいるって知れば──多分、許さない…」
多分ではなく、絶対。
岳は自分が大切に思う者を傷つけたり、危険に晒したりすれば、それを行った者を許さないだろう。それは、今までの経験で知った事だった。
「そんなの分からないだろ? ヤクザに戻れば変わるかも知れないし…。大和みたいなのを傍に置いてるくらいだ。俺にだってチャンスがあったって可笑しくない」
「そ、それはそうだな…」
大希が強い口調で言い切る。勢いに押され、そこは素直に受け入れた。
どう見たって、大希の方が一般的にも格好いいし美形だ。というか、上位に入るだろう。
今は伊達メガネもかけていないから、よくその顔が分かる。
目も大きいし、睫毛もバサバサ、黒目勝ちで少々三白眼でもそれも悪くない。肌も白くて綺麗だし、笑えば可愛いのはよく知っている。
アイドルや俳優だと言っても通るはずだ。確かに俺なんかと比べ物にもならない。
って、岳の元恋人で知っているのはさっきのマスターと前の紗月って奴だけど──。
かなりの美貌だ。
まてまてまて。岳の好みで言ったら、大希の方に明らかに分がある。
もし、岳がヤクザに戻ったなら、俺なんかポイポイ捨てて、また以前の様にこういった美形連中と付き合いだしたりするのだろうか。
──でも。
「岳は、もう戻らない」
「なんで断言できるんだよ?」
大希は食ってかかるが。俺は静かな、けれど力のある眼差しで見返すと。
「分かるんだ──。岳は本来の生きる道を見つけた。本当にやりたいことを見つけたんだ。今までの様に誰かの為じゃなく、自分の為に生きる道だ。──だから、もう二度と、ヤクザには戻らない」
俺の言葉の強さに、大希は一瞬怯んだ様子を見せたものの、すぐに言い返す。
「そんなの、分からないだろ? 大和がいる限り、岳さんは言うなりだって古山の下の奴が嘲笑ってた…。大和を使えばずっと縛り付けておけるって…」
「俺がいるから、か…」
確かに。俺がいることが足枷になっている。
そっか、それって結構簡単だったんだな。
岳が自由に動ける様になるためには、俺が岳にふられればいいのだ。
けれど、一端はそれでいいにしても、また岳が別の奴を好きになったら、そいつが枷になってしまう。
それではメビウスの輪だ。ずっと切れることがない。岳は一生、ヤクザになる以外の道を行くなら、人を愛せなくなってしまう。
それはダメだろう。
「岳さんの前からいなくなれよ。それが岳さんの為だろ? 別れればいい…」
「ふふ…。そういえば俺が別れると思うか?」
大希の意地の悪い言葉に、俺はニヤリと口の端に笑みを浮かべ。
「岳が今後、俺以外の奴を好きになることがあっても、それは構わない。──けど、生きる道を邪魔するなら俺は全力でそいつを排除する」
「……っ」
「岳は俺を底辺から救ってくれた唯一の人間だ。それは──大希だってそうだろ? そんな大切な岳を不幸にする奴は絶対許さない。俺が断固阻止する」
「そんな…。どうやって古山に対抗するんだよ? 相手は本物のヤクザだぞ? 漫画や映画とは違うんだ。俺たちなんてどうとだって出来る連中だ…」
「俺は、大切なものを守りたいだけで、その為なら、相手がどうとかは考えない。どう乗り越えるかだ。俺にだって岳の為にできることはあるはず…。岳にはちゃんと自分の道を歩いて欲しいから、そう思う」
すると、大希は言葉を失くし暫くこちらを凝視していたが、視線を落とすと。
「どうせ──何もできないくせに…。言葉だけだ…」
俺はすっくと立ち上がると、
「いいや。俺はやる! 岳の為にな。それに、大希、お前も救う」
そう言ってニッと笑んで見せた。
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