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温泉と故郷と泣き叫ぶ豆
ある兄弟 4
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「お姉ちゃん、もう、大丈夫だよ」
呆れたような、ねぎらうような声が聞こえてきます。
白い空間が壊れて、その隙間から普通の風景が広がっていきます。直前までいた教会の祭壇の間、が壊れています。天井が壊れて半壊を超えて廃墟の趣が……。壁もないですね。
あれ? 領域作ったときにあたし壊したかしら? と冷や汗が流れますが、どうも違うっぽいです。
謎の魔物っぽいものの死体が転がっています。
その向こうに知っている人たちがいました。
「勝手に死なないでって言ったじゃん。なんで、死亡フラグ立ててんだよ」
ユウリが怒ってますね。
「そうよ。少しは待ちなさい」
ローゼが仁王立ちしておりまして……。こちらも怒ってますね。
「全く、これだから魔導師は嫌なんだ」
「来訪者殿を守ったことは評価するが、他はダメだな」
騎士お二人様もイラついたようで。
他にも本編で見かけた方々がいらっしゃいます。なんでフュリーもいるの、とは野暮ですかね。
「バカ弟子が」
ゲイルさんもおいででした。こちらはほんとバカだなーと思ってる顔してますよ。こつんと頭を叩かれました。意外と痛いですよ。
「師匠が来るって言ってきかなかったが、子守押し付けてきた。可愛い孫には負けるらしいぞ」
「……リリーが怒りそうだが」
「激怒してるから、怒られてやれ。
さて、あれを殲滅すればいいんだろ。最近、開放してなかったから加減できない。補佐しろ」
「わかった」
兄弟弟子同士のなんかわかりあうなんかあるのかさっさと行ってしまいました。あたしにここにいるように念押しはされましたが。それも二人ともに。
見送っていたらゲイルさんの姿が知っている姿よりもちょっと小さくなって、透ける翅が生えて……?
「……はい?」
「妖精らしいわよ。
なんでも魔導師と神々の中間地点に存在するとか。自我がないのがほとんどらしいけど」
おっさんが美少年になるのを見ると幻覚かと思いますね。
「あ、あたしも」
待ってろとは言われましたが、そうしている場合でもない気がします。
「無理。魔素からっぽ。あたしも存在を維持するので精一杯。
それにこっちの神様からのお仕事もあるんだって」
なにそれと返答する前に意識が急速に遠くなっていき……。
あ、これ、呼ばれるときと一緒と気がついたときには真っ白な空間に放り出されていました。
先ほどの領域と違うのはツイ様と詩神様がおいでになることでして。
「お座りいただけます?」
詩神様がお怒りです。顔がないのになぜかわかっちゃいました。
「はいっ!」
正座して背筋をピシッと伸ばします。なぜか、ツイ様もお隣にいます。もちろん正座してます。
「予告なしになんてことするんですか。災厄を滅する手伝いはありがたいですが、次元の壁が揺れすぎています。
ツイ様。あなたにも責はありますからね?」
「手出しできないでしょ。だから、代わりに……、はいはい。悪かったので、罰則っていうか要求はなんですか」
へらりと笑うツイ様、強い。でも、詩神様がすっごい圧を出してくるんでやめてほしいんです。青ざめるよりもっと震えそうなんですけど。
「その子を貸してください。
それから眷属と一緒にあれも持ち帰ってください。移動できるようになるまではこちらで養育します」
「ふぅん?」
「なんですか、その顔」
「うちの子はうちの子なので、雑に扱ったら容赦しないよ」
「珍しい適合体なので大事にしますよ」
「そういうモノ扱いはやめてって言ってんの」
「なんですって!?」
「すみません。あたしを挟んでバチバチやるのやめてもらっていいですか。神威で死にそうなんですけど」
慌てたように二柱ともなんかひっこめましたね。はぁ、息ができるって良いことですね。
「それであれってなんですか?」
不吉な予感がするんですけど。そのアレを押し付けられる予感満載。
二柱にじーっと見つめられて居心地が悪いどころではありません。
「では、私たちは準備があるので頼みましたよ」
そそくさと詩神様が去っていきました。説明したくないのが一目瞭然。
「で、なんなんです? あれって」
「そうだなあ、君の夫の弟君の魂」
「魂、ですか?」
「そう。なんか、生まれてはいたらしくて、そのまま災厄を入れ込む儀式したようだよ。ただ、半端な儀式だったようで魂が消えなかった。困らないと思ったようだけど、思いもしないところで体を乗っ取られることがあったらしい。
ほら、なんか本編でいいところまでいって失敗するというやつあったじゃないか。あれ、弟の魂のほうがやらかしていたみたい」
あれは本当に小さな子供だったわけですか。あれ? なんかひっかかるような?
「んん!? じゃ、今の体って」
「災厄に乗っ取られた弟そのもの」
「ちょっと戻っていいですか」
「戻すけどその意味では出来ることはないよ。あれは使い物にならない。
で、災厄を滅したら、魂残るはずだからそれ捕獲してきて」
「……はい?」
「だいじょうぶ、やり方は入れ込んでおくから」
壮絶な無茶振りきましたよ!?
「むりむりむり」
そうつぶやきながらの起床ってどうですかね? ツイ様になんか勝手に仕込まれたので、タイミングになったら自動起動ですって。
人の体をなんだと思ってんですか。ロボットでもプログラムでもないんですよ。
「あ、起きた」
思ったより近くから声が声が聞こえました。
「ローゼ」
煤けてますけど、無事そうです。教会のところからは離れたところに移動されているようです。仮設のテントがあちこちにあるのが見えます。
なんでこんなところにと疑問に思ったのがわかったのでしょう。ローゼはあっちと指さしました。
あ、なんか光ってるし、ドーンとか音してる。
「あっちに混じれないので救護活動中よ。
町はもう壊滅するかな。住人は可能な限り退避させておいたけど。それからシスターたちは救出済み」
「ええと、カリナさんとかは?」
「もう一人の神官の人と一緒に教会の建物入っていったわ。あ、ちゃんと護衛ついてるから死なないと思うわよ。青い服着た人たち。魔導師だって言ってたけど知ってる?」
「知りませんが、予想はつきます」
あの人たち、危険を顧みず証拠の品を捕獲しに行きましたね。たくましいものです。
「戦況は?」
「ユウリが言うには、ふたりで半分削ってんの化け物でいいよね? と真顔でいってたからあとちょっとじゃない?」
否定しかねる状況ですね。あともうちょい頑張ればよかったでしょうか。
ローゼは落ち着いているようですが、視線がちらちらと向こう側に行きますね。ちょうどよいことです。
「では、行きましょう!」
「どこに?」
「ほっといたら困ったことになってそうな旦那様のところですよ!」
あたしの勢いに押されてという感じではありましたが拒否はされませんでしたので、向かうことにしましょう。
途中、マルティナさんやロブさん、子供たちの姿も何人か見かけました。それぞれ忙しそうですね。
人の少ない通りまでやってきました。道も中々荒れてますね。これは時間がかかりそうです。ふむ。ちょっと考えてローゼを見ました。いけなくもない?
「じゃ、しっかり捕まっててくださいね」
ユウリには悪いですが、これは緊急事態です。
「な、なななっ」
驚愕の声をあげるローゼを抱きかかえて教会まで戻りますよ。もちろん、身体強化フルにつけてます。ちょっと休んで魔素回復しましたからね。というより神様たちに気合い注入されたような感じで溢れそうなんですよ。
そして、さくっと現地到着です。屋根の上って障害がありませんね!
死ぬかと思ったという既視感のある感想をローゼから聞きながら下におろします。
やっぱり災厄の相手は余裕ではなかったようです。満身創痍のユウリ、ゲイルさんもちょっと羽が焦げてます。ほかの誰も無傷ではいません。
エリックのことはわざと見ませんでした。動揺しそうですからね。心底気になり、今すぐ駆け寄りたいのですが、あたしにはするべきことがあります。
最後にボロボロの災厄が視界に入ります。災厄は、三日月のように、笑った。
「もう、大丈夫そうですね」
「え、なにするの?」
説明する気はありません。止められるでしょうし。あとでぶっ倒れると思うので救護してもらうつもりですから喧嘩したくありませんし。
「我は謡う」
その言葉を鍵として内側を空っぽにして、体を通して力ある言葉が流れているのがわかります。
そして、あたしでなければならなかったことが。
神威を素通しする訓練済みの体というものはこの世界にはないらしいのです。直接世界とつながってしまうからそこまでの絆を作れない。
「きんのほしくず
くろのいと
しろくそめるよるを
ゆりかごに」
緩やかに災厄を拘束する糸は輝きを持つ金色。
「ねむれ ねむれ
おさなごにかける
ぎんのほしくず
まぶたにふりまいて」
銀の糸を増やし密度が増す。
あがこうとすればするほどに絡めとられるのは蜘蛛の糸のよう。
「ねむれ ねむれ
やさしいかぜにゆらされて
おひさまのあたたかさにゆるされて」
もう、災厄は見えない。ぎゅうと縛って眠りに沈める。しずかにしずかに眠りの奥底に。
動きをとめたそれを煌めきが空から降ってきて撫でる。やさしく、ほめるみたいに。
そして、あらゆる音を圧縮したような轟音が貫いた。
そのあとには、何も残っていなかった。
ふと気がつくとあたりは静かになっていました。自分のしたことは理解していますが、どこか他人ごとなんですよね。でも疲労はがっつり自分持ち。ばったりと倒れますよね。
「あー、死ぬかと思った」
根こそぎ魔素も気力も体力も持っていきました。ミリも動かせません。人の体だと思って好き勝手しないでいただきたいものです。
ローゼが慌てたようにあたしを揺さぶっていますが、今はやめてほしいです。切実に。保護要員として連れてきましたが、一人でもよかったかもしれないですね。
「だいじょーぶです、たぶん」
かすれた声がようやく出てきました。今は寝かしてほしいです。
「……言いたいことはそれだけか」
冷ややかを通り越して極寒の声が降ってきました。思いのほか元気そうでと思いつつ眠い目をどうにかこじ開けて……。
「な、なななんで、泣くんですかっ!」
眠気どこか行きましたよ! がばっと起き上がって、眩暈がして倒れこみそうになるのをエリックに支えられます。
そのままぎゅっと抱きしめられたのですが、力加減なしで痛いくらいです。
「痛いですって」
「うるさい」
そう言いながらもぼろぼろとエリック泣いてますよ、どこ、泣くところありましたか。
推しを泣かせてしまいましたか、罪人はどこ? ってあたしですか?
おろおろするあたしを軽く誰かが頭を叩いていきました。
「いきなり戻ってきて、神卸し見せられたらそりゃ度肝ぬかれるだろ。
確かに助かったんだけど。あれは止めが刺せなかった」
ユウリがしゃがみこんであたしと視線を合わせてきました。偽りを許さぬような鋭い視線にちょっとひるみます。一番最初に会ったときくらい剣呑ですね。
「そうなんですか?」
「切っても壊しても戻るんだ。外部端末みたいなもんらしくて、核がない。災厄の部分そのものを壊さなければいけなかった。
どこにあるか探ってはいたんだが、足元とはな」
ゲイルさんもやってきたようで頭上から声が聞こえます。
見れば抉られたようにその部分がなくなっています。
「封印じゃなく、滅したな。なにをしたんだ?」
「神様がなんとかしてくれというので体を貸しました」
「……普通、人格消し飛ぶだろ」
絶句したのち、ゲイルさんが怪訝そうに尋ねてきました。
「祖母が神の眷属でその関係でできるんですよ」
ただ、寿命とかいろんなものを削るんですよね。今回は、魔法のための回路がめちゃめちゃになってしまい使えなくなる予定です。元の世界の魔法はそのまま使えるそうなので、仕様の違いを感じています。
ところで、さっきから無言のエリックがちょっと怖いんですけど。もう涙はとまってるようですが、逆にそれも怖い。
「あ、あのですね。もう一つ用事がありまして」
声が裏返りました。焦ると良くないですね。
「なに」
近くから聞こえたのがドスの効いた声でして。今まで聞いたことがないくらい暗くて怖い声なんですけど……。
「魂を拾ってこいと。あの、体の持ち主の魂は残っていたから」
エリックは無言であたしを離してから抱き上げました。どこにそんな力残ってたのか、わからないんですけど。あたし以上に負傷して、魔法も使いまくったはずなんですが。
「どこにいけばいい?」
「その穴のあたりに」
「あるよー」
引っ込んでたあーちゃんが戻ってきました。気楽な声とは裏腹にあたしを責めるような視線が痛いですよ。
今回は、あたしが全面的に悪かったと思います。反省会はあとでします。
穴の中から白い光がふわりと浮いてきました。一応、エリックにも見えてるようです。視線で追ってますからね。
「あーちゃんみたいにあたしの内側に入れるのがいいらしいんですけど」
「反対だ」
「はんたーい」
即、むしろ食いぎみに反対されました。あれ? なんで?
「仮の体を用意するまでの仮の対策なので、ちょっとだけですよ?」
「狭くなるのやだ」
「嫌だ」
強固に否。あーちゃんはなんかわかるんですよ。同居人増やすとかありえないってのは。
でもエリックはなぜですかね?
「それくらいなら俺が預かる」
「え、そんなに嫌ですか?」
「お姉ちゃん、よく考えてみて。好きな人の内側に一時的とはいえ、他の、しかも異性がいるの嫌じゃない?」
「子供ですし、異性の内ではないのでは?」
「駄目」
「じゃあ、試すだけ試してダメならあたしが預かりますからね」
ものすっごい不満そうなんですけど。
ふよふよ浮いている小さな光はあたしとエリックの周りをくるくる回っています。
「ちょっと眠っていてくださいね。起きたら、楽しいことがありますよ」
あたしの指先にちょこっと触れてから、エリックのほうに行っちゃいました。
「お兄ちゃんのほうが良いみたいですね」
「……そうだな」
ものすっごい含みのあるなんかなんですけど。あたしが気がついてないなんかあります?
「まあ、とりあえずはこれでおしまいです」
さすがにこれで死亡フラグも折れたでしょう。折れてなかったら、なんなんだって話ですよ。
「……あれ、お兄ちゃん、なんか変な呪いある? なんか変なの見える」
「へ?」
「呪い、みたいなのはある」
「はいぃ?」
なんですかそれ、聞いてませんよと許されるなら揺さぶりたかったですよっ!
呆れたような、ねぎらうような声が聞こえてきます。
白い空間が壊れて、その隙間から普通の風景が広がっていきます。直前までいた教会の祭壇の間、が壊れています。天井が壊れて半壊を超えて廃墟の趣が……。壁もないですね。
あれ? 領域作ったときにあたし壊したかしら? と冷や汗が流れますが、どうも違うっぽいです。
謎の魔物っぽいものの死体が転がっています。
その向こうに知っている人たちがいました。
「勝手に死なないでって言ったじゃん。なんで、死亡フラグ立ててんだよ」
ユウリが怒ってますね。
「そうよ。少しは待ちなさい」
ローゼが仁王立ちしておりまして……。こちらも怒ってますね。
「全く、これだから魔導師は嫌なんだ」
「来訪者殿を守ったことは評価するが、他はダメだな」
騎士お二人様もイラついたようで。
他にも本編で見かけた方々がいらっしゃいます。なんでフュリーもいるの、とは野暮ですかね。
「バカ弟子が」
ゲイルさんもおいででした。こちらはほんとバカだなーと思ってる顔してますよ。こつんと頭を叩かれました。意外と痛いですよ。
「師匠が来るって言ってきかなかったが、子守押し付けてきた。可愛い孫には負けるらしいぞ」
「……リリーが怒りそうだが」
「激怒してるから、怒られてやれ。
さて、あれを殲滅すればいいんだろ。最近、開放してなかったから加減できない。補佐しろ」
「わかった」
兄弟弟子同士のなんかわかりあうなんかあるのかさっさと行ってしまいました。あたしにここにいるように念押しはされましたが。それも二人ともに。
見送っていたらゲイルさんの姿が知っている姿よりもちょっと小さくなって、透ける翅が生えて……?
「……はい?」
「妖精らしいわよ。
なんでも魔導師と神々の中間地点に存在するとか。自我がないのがほとんどらしいけど」
おっさんが美少年になるのを見ると幻覚かと思いますね。
「あ、あたしも」
待ってろとは言われましたが、そうしている場合でもない気がします。
「無理。魔素からっぽ。あたしも存在を維持するので精一杯。
それにこっちの神様からのお仕事もあるんだって」
なにそれと返答する前に意識が急速に遠くなっていき……。
あ、これ、呼ばれるときと一緒と気がついたときには真っ白な空間に放り出されていました。
先ほどの領域と違うのはツイ様と詩神様がおいでになることでして。
「お座りいただけます?」
詩神様がお怒りです。顔がないのになぜかわかっちゃいました。
「はいっ!」
正座して背筋をピシッと伸ばします。なぜか、ツイ様もお隣にいます。もちろん正座してます。
「予告なしになんてことするんですか。災厄を滅する手伝いはありがたいですが、次元の壁が揺れすぎています。
ツイ様。あなたにも責はありますからね?」
「手出しできないでしょ。だから、代わりに……、はいはい。悪かったので、罰則っていうか要求はなんですか」
へらりと笑うツイ様、強い。でも、詩神様がすっごい圧を出してくるんでやめてほしいんです。青ざめるよりもっと震えそうなんですけど。
「その子を貸してください。
それから眷属と一緒にあれも持ち帰ってください。移動できるようになるまではこちらで養育します」
「ふぅん?」
「なんですか、その顔」
「うちの子はうちの子なので、雑に扱ったら容赦しないよ」
「珍しい適合体なので大事にしますよ」
「そういうモノ扱いはやめてって言ってんの」
「なんですって!?」
「すみません。あたしを挟んでバチバチやるのやめてもらっていいですか。神威で死にそうなんですけど」
慌てたように二柱ともなんかひっこめましたね。はぁ、息ができるって良いことですね。
「それであれってなんですか?」
不吉な予感がするんですけど。そのアレを押し付けられる予感満載。
二柱にじーっと見つめられて居心地が悪いどころではありません。
「では、私たちは準備があるので頼みましたよ」
そそくさと詩神様が去っていきました。説明したくないのが一目瞭然。
「で、なんなんです? あれって」
「そうだなあ、君の夫の弟君の魂」
「魂、ですか?」
「そう。なんか、生まれてはいたらしくて、そのまま災厄を入れ込む儀式したようだよ。ただ、半端な儀式だったようで魂が消えなかった。困らないと思ったようだけど、思いもしないところで体を乗っ取られることがあったらしい。
ほら、なんか本編でいいところまでいって失敗するというやつあったじゃないか。あれ、弟の魂のほうがやらかしていたみたい」
あれは本当に小さな子供だったわけですか。あれ? なんかひっかかるような?
「んん!? じゃ、今の体って」
「災厄に乗っ取られた弟そのもの」
「ちょっと戻っていいですか」
「戻すけどその意味では出来ることはないよ。あれは使い物にならない。
で、災厄を滅したら、魂残るはずだからそれ捕獲してきて」
「……はい?」
「だいじょうぶ、やり方は入れ込んでおくから」
壮絶な無茶振りきましたよ!?
「むりむりむり」
そうつぶやきながらの起床ってどうですかね? ツイ様になんか勝手に仕込まれたので、タイミングになったら自動起動ですって。
人の体をなんだと思ってんですか。ロボットでもプログラムでもないんですよ。
「あ、起きた」
思ったより近くから声が声が聞こえました。
「ローゼ」
煤けてますけど、無事そうです。教会のところからは離れたところに移動されているようです。仮設のテントがあちこちにあるのが見えます。
なんでこんなところにと疑問に思ったのがわかったのでしょう。ローゼはあっちと指さしました。
あ、なんか光ってるし、ドーンとか音してる。
「あっちに混じれないので救護活動中よ。
町はもう壊滅するかな。住人は可能な限り退避させておいたけど。それからシスターたちは救出済み」
「ええと、カリナさんとかは?」
「もう一人の神官の人と一緒に教会の建物入っていったわ。あ、ちゃんと護衛ついてるから死なないと思うわよ。青い服着た人たち。魔導師だって言ってたけど知ってる?」
「知りませんが、予想はつきます」
あの人たち、危険を顧みず証拠の品を捕獲しに行きましたね。たくましいものです。
「戦況は?」
「ユウリが言うには、ふたりで半分削ってんの化け物でいいよね? と真顔でいってたからあとちょっとじゃない?」
否定しかねる状況ですね。あともうちょい頑張ればよかったでしょうか。
ローゼは落ち着いているようですが、視線がちらちらと向こう側に行きますね。ちょうどよいことです。
「では、行きましょう!」
「どこに?」
「ほっといたら困ったことになってそうな旦那様のところですよ!」
あたしの勢いに押されてという感じではありましたが拒否はされませんでしたので、向かうことにしましょう。
途中、マルティナさんやロブさん、子供たちの姿も何人か見かけました。それぞれ忙しそうですね。
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「じゃ、しっかり捕まっててくださいね」
ユウリには悪いですが、これは緊急事態です。
「な、なななっ」
驚愕の声をあげるローゼを抱きかかえて教会まで戻りますよ。もちろん、身体強化フルにつけてます。ちょっと休んで魔素回復しましたからね。というより神様たちに気合い注入されたような感じで溢れそうなんですよ。
そして、さくっと現地到着です。屋根の上って障害がありませんね!
死ぬかと思ったという既視感のある感想をローゼから聞きながら下におろします。
やっぱり災厄の相手は余裕ではなかったようです。満身創痍のユウリ、ゲイルさんもちょっと羽が焦げてます。ほかの誰も無傷ではいません。
エリックのことはわざと見ませんでした。動揺しそうですからね。心底気になり、今すぐ駆け寄りたいのですが、あたしにはするべきことがあります。
最後にボロボロの災厄が視界に入ります。災厄は、三日月のように、笑った。
「もう、大丈夫そうですね」
「え、なにするの?」
説明する気はありません。止められるでしょうし。あとでぶっ倒れると思うので救護してもらうつもりですから喧嘩したくありませんし。
「我は謡う」
その言葉を鍵として内側を空っぽにして、体を通して力ある言葉が流れているのがわかります。
そして、あたしでなければならなかったことが。
神威を素通しする訓練済みの体というものはこの世界にはないらしいのです。直接世界とつながってしまうからそこまでの絆を作れない。
「きんのほしくず
くろのいと
しろくそめるよるを
ゆりかごに」
緩やかに災厄を拘束する糸は輝きを持つ金色。
「ねむれ ねむれ
おさなごにかける
ぎんのほしくず
まぶたにふりまいて」
銀の糸を増やし密度が増す。
あがこうとすればするほどに絡めとられるのは蜘蛛の糸のよう。
「ねむれ ねむれ
やさしいかぜにゆらされて
おひさまのあたたかさにゆるされて」
もう、災厄は見えない。ぎゅうと縛って眠りに沈める。しずかにしずかに眠りの奥底に。
動きをとめたそれを煌めきが空から降ってきて撫でる。やさしく、ほめるみたいに。
そして、あらゆる音を圧縮したような轟音が貫いた。
そのあとには、何も残っていなかった。
ふと気がつくとあたりは静かになっていました。自分のしたことは理解していますが、どこか他人ごとなんですよね。でも疲労はがっつり自分持ち。ばったりと倒れますよね。
「あー、死ぬかと思った」
根こそぎ魔素も気力も体力も持っていきました。ミリも動かせません。人の体だと思って好き勝手しないでいただきたいものです。
ローゼが慌てたようにあたしを揺さぶっていますが、今はやめてほしいです。切実に。保護要員として連れてきましたが、一人でもよかったかもしれないですね。
「だいじょーぶです、たぶん」
かすれた声がようやく出てきました。今は寝かしてほしいです。
「……言いたいことはそれだけか」
冷ややかを通り越して極寒の声が降ってきました。思いのほか元気そうでと思いつつ眠い目をどうにかこじ開けて……。
「な、なななんで、泣くんですかっ!」
眠気どこか行きましたよ! がばっと起き上がって、眩暈がして倒れこみそうになるのをエリックに支えられます。
そのままぎゅっと抱きしめられたのですが、力加減なしで痛いくらいです。
「痛いですって」
「うるさい」
そう言いながらもぼろぼろとエリック泣いてますよ、どこ、泣くところありましたか。
推しを泣かせてしまいましたか、罪人はどこ? ってあたしですか?
おろおろするあたしを軽く誰かが頭を叩いていきました。
「いきなり戻ってきて、神卸し見せられたらそりゃ度肝ぬかれるだろ。
確かに助かったんだけど。あれは止めが刺せなかった」
ユウリがしゃがみこんであたしと視線を合わせてきました。偽りを許さぬような鋭い視線にちょっとひるみます。一番最初に会ったときくらい剣呑ですね。
「そうなんですか?」
「切っても壊しても戻るんだ。外部端末みたいなもんらしくて、核がない。災厄の部分そのものを壊さなければいけなかった。
どこにあるか探ってはいたんだが、足元とはな」
ゲイルさんもやってきたようで頭上から声が聞こえます。
見れば抉られたようにその部分がなくなっています。
「封印じゃなく、滅したな。なにをしたんだ?」
「神様がなんとかしてくれというので体を貸しました」
「……普通、人格消し飛ぶだろ」
絶句したのち、ゲイルさんが怪訝そうに尋ねてきました。
「祖母が神の眷属でその関係でできるんですよ」
ただ、寿命とかいろんなものを削るんですよね。今回は、魔法のための回路がめちゃめちゃになってしまい使えなくなる予定です。元の世界の魔法はそのまま使えるそうなので、仕様の違いを感じています。
ところで、さっきから無言のエリックがちょっと怖いんですけど。もう涙はとまってるようですが、逆にそれも怖い。
「あ、あのですね。もう一つ用事がありまして」
声が裏返りました。焦ると良くないですね。
「なに」
近くから聞こえたのがドスの効いた声でして。今まで聞いたことがないくらい暗くて怖い声なんですけど……。
「魂を拾ってこいと。あの、体の持ち主の魂は残っていたから」
エリックは無言であたしを離してから抱き上げました。どこにそんな力残ってたのか、わからないんですけど。あたし以上に負傷して、魔法も使いまくったはずなんですが。
「どこにいけばいい?」
「その穴のあたりに」
「あるよー」
引っ込んでたあーちゃんが戻ってきました。気楽な声とは裏腹にあたしを責めるような視線が痛いですよ。
今回は、あたしが全面的に悪かったと思います。反省会はあとでします。
穴の中から白い光がふわりと浮いてきました。一応、エリックにも見えてるようです。視線で追ってますからね。
「あーちゃんみたいにあたしの内側に入れるのがいいらしいんですけど」
「反対だ」
「はんたーい」
即、むしろ食いぎみに反対されました。あれ? なんで?
「仮の体を用意するまでの仮の対策なので、ちょっとだけですよ?」
「狭くなるのやだ」
「嫌だ」
強固に否。あーちゃんはなんかわかるんですよ。同居人増やすとかありえないってのは。
でもエリックはなぜですかね?
「それくらいなら俺が預かる」
「え、そんなに嫌ですか?」
「お姉ちゃん、よく考えてみて。好きな人の内側に一時的とはいえ、他の、しかも異性がいるの嫌じゃない?」
「子供ですし、異性の内ではないのでは?」
「駄目」
「じゃあ、試すだけ試してダメならあたしが預かりますからね」
ものすっごい不満そうなんですけど。
ふよふよ浮いている小さな光はあたしとエリックの周りをくるくる回っています。
「ちょっと眠っていてくださいね。起きたら、楽しいことがありますよ」
あたしの指先にちょこっと触れてから、エリックのほうに行っちゃいました。
「お兄ちゃんのほうが良いみたいですね」
「……そうだな」
ものすっごい含みのあるなんかなんですけど。あたしが気がついてないなんかあります?
「まあ、とりあえずはこれでおしまいです」
さすがにこれで死亡フラグも折れたでしょう。折れてなかったら、なんなんだって話ですよ。
「……あれ、お兄ちゃん、なんか変な呪いある? なんか変なの見える」
「へ?」
「呪い、みたいなのはある」
「はいぃ?」
なんですかそれ、聞いてませんよと許されるなら揺さぶりたかったですよっ!
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