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温泉と故郷と泣き叫ぶ豆

旅行の準備 4

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 さて、快晴の本日。4月15日。
 本日は絶対外せない用事があります。ユウリが結婚式するんですって! まあ、冬の間に招待状が来て日程は知っていました。それに、事前準備も手伝いましたし。昨夜は女子会をしまして愚痴と言う名の惚気をいただきました。お腹いっぱいです。

 本日の挙式自体は簡素に、その後、パレードするそうです。折り合いはそのあたりで付けたようですね。ローゼは昨夜も無理、絶対無理ーと半泣きでした。

 結婚式に参加するのは兄以来だなと思いながら、式場である教会で新郎新婦を待っています。参加者は王族から一兵卒まで幅広くいるそうですね。
 あたしは偉い人たちの席ではなく、入口に近い場所に席を用意してもらっています。

 どの立場で参加するのか、というのは結構悩みました。
 来訪者、侯爵、魔導師など立場がありますからね。今後のユウリとの付き合いをどうするのかという視点で見られる可能性もあります。
 結局、どれも選びませんでした。

 ただの友人としての参加です。服装も上等ではあるものの普通に買えるワンピースで周囲から浮いてはいません。
 エリックも同じように、普通の三つ揃えです。落ち着かないとマントを持ち出そうとしたのを止めました。一般の人の席に魔導師の恰好をしていったらざわつきます。なにかあったらと言いだしたんですけど、ユウリが自分の結婚式ぶち壊しにされたらガチギレして問題を解決すると思うので大丈夫ですと言っておきました。これには同意してましたね。

 教会の中は少しざわざわしています。特にユウリのお仲間が集まっている一角はにぎやかです。シュリーやティルスは先導する役目があるそうでいないのですけど。

「あちらでなくて良かったんですか?」

「紹介しろと煩い」

 エリックは嫌そうに顔をしかめていました。
 あちらも気になるようであたしたちをチラチラ見られている気がします。気になります。ものすっごい、気にな……。
 うん。
 なんかわからないですけど、エリックにむにっと頬をつままれました。

「いひゃいです」

 あまり痛くないですけど、お約束のような気がして主張しておきます。返答が気に入らなかったのか、片方だけだったのにもう片方もつままれましたよ!?

「よそ見しない」

「しましぇんよ」

 すぐに指は離してくれたのですが、どうなんだかという視線が痛いですね。
 うん。
 ばれたのかしら。ニヨニヨしてないと思っていたんですが、どこかから漏れてた!?
 原作の人たちがっ! あそこにそろってるっ! 握手してもらっていいですか? 声聞きたいですっ!
 そんなところを押し隠していたはずなのですけど。
 でも、故郷に帰ったはずの三番目と四番目の推し様がいらっしゃるではありませんかっ! とかは漏れた気がします……。
 ごめんなさい。ミーハーなんです。今後一度も遭遇しないかもと思うとぱたぱたしちゃうんです。
 一番の推しはクルス様なので許してください。そこは言えませんけど、ここは気持ちを込めて見上げておきます。

「気になるなら、紹介する」

 エリックにものすごい渋々言われましたよ。
 おねだりしたつもりはないのですが、希望を叶えてくれるというならっ!

「好き」

「はいはい」

 どこか別の方向を見ながら雑に返されましたけど、耳まで赤いのは見えましたよ。
 本当は抱きつきたいんですけど、自重して手を重ねました。少しだけこっちを見て、手を離されてしまいました。
 えっ! と思っているうちにつなぎなおされてました。
 断られたかと思いましたよ。ドキドキした分だけにぎにぎしてやります。

「ほんとに」

 独り言のような言葉は続きが、聞こえませんでした。
 教会に入ってきた新郎新婦を迎える歓声。

 本来は教会で待つ新郎は、家まで迎えに行っちゃったんですよ……。ここはごり押ししたそうです。結婚式なんて花嫁攫われるイベントじゃんとか言いだして。
 まあ、確かにそんな映画やゲームありますけど。
 最初から最後まできっちりガードというのが、溺愛とみるべきかは人によるでしょう。 

 あの警戒心はわからなくもないんですよね。災厄の介入ないだろなとか。あの愉快犯が、面白そうとそそのかしそうとも思いますし。
 ユウリ曰く、最近ものすごく静かで不気味らしいです。
 だから、アーテルちゃんも気をつけるように、とは言われています。どちらかというとエリックのほうがやばそうな気がしています。

 あのあと結局、ステラ師と話をすることができませんでした。なんだか妙に邪魔されているという感じで、相互にこれはおかしいと認識はしています。
 人ならざる者の介入であろうと一旦、この話はおしまいにしてあります。なにかある、と把握している分だけマシでしょう。エリックにも聞けてないんですよね……。

 暗澹たる気分になってきますが、今は、幸せを祝うところです。気分を切り替えていきたいところです!

「ローゼも幸せそうでなによりです」

 元の世界で言うところのマリアベールなので顔は見えているのです。ベールも長いですが、トレーンもそれなりに長く、それを持つ子供たちがいます。小さい王子様とお姫様たちです。
 それを聞いてローゼは青ざめて断ったそうですが、本人が乗り気すぎて断れなかったそうな。
 ちょこちょこと歩いていくところが可愛らしいです。得意げなのがもう生意気可愛い。

 ユウリは、言うまでもなくデレデレです。あー、英雄よ、そんな顔はダメじゃないですかねと思うくらい。
 ちらとエリックを見れば、眉間にしわが寄っています。

「どうしたんです?」

「別に」

 なんでしょうね? 変なところはないはずですけど。
 結婚式は模擬挙式の時と同じように進行していくなと思っていたら、一つ違いました。

「あの、結婚に異議のあるものは申し出よというのはなかったですよね?」

「普通はある。そして、異議を申し立てるのは滅多にいない」

 エリックに事実を淡々と言われましたが。それ、答えになっていないというか。
 意図的に省かれましたか。反対なんてさせねぇよという教会の意思だったんでしょうか。フェザーの町の教会にはもうちょっと寄付を積まねばなりませんかね。

 異議を申し出る猛者はいませんでしたが、結婚しないで―っという悲鳴のような声はいくつか上がっていました。
 なお、男女問わずだったのでローゼもモテたのか、あるいは……。深くは考えないことにしましょう。

 その程度は普通なのかあっさりと黙殺され、式は終了しました。
 そのまま外に出ていくところに手を振って、あたしたちは見送りました。ここから数日宴席が設けられる予定です。招待客が多すぎて、二次会どころか三次会でも済まずというところです。
 なお、これには参加しません。

 王都が盛り上がって、新しい女侯爵にも来訪者にも注目が集まっていないタイミングが重要です。

「さて、行きますか」

「そうだな」

 荷物を預けていた宿に向かって、それからこっそり王都を抜けます。
 念願の新婚旅行ですっ!

 世を忍ぶ仮の姿を用意して満喫します。

「でもその前にご紹介してもらってよいでしょうか」

「……わかった」

 ものすっごい渋々でした。それでも紹介はしてくれたんですが、終始、バックハグだったのはなぜでしょう。恥ずかしいを超越しそうになります。それ意識不明っていうの。
 エリックは周りからもこの変わりように驚愕という視線を向けられていましたよ……。
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