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冬の間
休暇(予定通り)2
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買い物といっても、お店に注文に行くだけのお仕事でした。量も多いので、配達されるそうです。
私は疲れたパンが食べたい。甘いパンが食べたいと走り書きしてあったので、それは別に買ってくることしました。
カリナさんのお疲れ度合いを感じます。
仕事が終わって仕事がやってくるという状況は、ブラックすぎますね……。悠長にしてたら雪が降ってくるので、仕方ないのでしょうけど。
まあ、それは我々も同じなのです。雪が降る前にある程度引きこもれるくらいの準備終わらせないと困ります。心底困りはしないので、そこまで危機感がないのが問題なんでしょうね。
とりあえず雪かき道具ぐらいは確保しておかないと……。まだ残ってるんですかね? 保存食も買っておかないとまずいでしょうし。
買い物メモに従って、あちこちのお店を回るついでに情報収集をしました。食料品店が多かったのですが、一部布屋さんとか燃料系のお店もあって興味深かったです。
特にリネン類は屋敷にあるものそのまま使ってましたので、普通に売ってるものって見たことなかったんです。興味本位で、いくつか見せてもらったのですが手触りからして違いました。あの屋敷にあるの高級品です。コットンでも最上級みたいな……。雑に洗ってたのを反省したくなりました。
洗濯機にお任せではいけなかった……。
お店ではものすごく普通に新婚なの? 新居用? と雑談を振られる事件も起きましたが、孤児院で使うであろうシーツ類の発注をかけることは出来ました。
燃料屋さんでの注文はぎょっとしたような顔をされたのですけど。それは他の魔導師が原因でした。以前、実験に使いたいからと薪を買って謎の儀式を敢行した人がいるんだそうですよ……。しかも町の空き地で。ボヤ騒ぎで済んだのは良いことでしょうけど。
以後、一定量以上は購入不可なんですって。
うちじゃなくて孤児院でと言えばほっとした顔でしたね。
それから、孤児院(仮)を覗きに行くことにしました。
「え? これ住んでる?」
「住んでるらしいんだが」
その屋敷を前に困惑して二人で顔を見合わせてしまいました。人手不足、原因は子供たちじゃないかも。
なんか、お化け屋敷って感じでした。いえ、ご立派なんですけど、手入れされていない庭と建物に絡んでいるツタが! ほーんてっどなまんしょん! とか思いました。
ほどほど裕福な人が住むあたりらしいんですけど、あきらかに雰囲気が違います。
こういう孤児院とかのお手伝いって、時間のあるご婦人や小遣い稼ぎの若い女性がよくやるらしいです。あまり男性には人気のないお仕事で、地域への奉仕というニュアンスが強いし、給料も安いということなので仕方ないのだそうで。
というわけで、こういう場所に喜んできたがる女性はいないでしょう。
時々、魔導師も男女関係なく派遣されますが、あれはどちらかというとペナルティ。
立派だけどさびている門を押して、中に入ってみました。屋敷の中からは声が聞こえるので、人はいるみたいです。
……幽霊じゃないですよね?
ひしっとエリックの腕にしがみつきます。困ったようにちらっと見られましたけど見なかったふりです。
「……おや?」
ドアを開けた先には受付さんがいました。やんちゃそうな男の子の襟首ひっつかんでますね。お取込み中のようです。
ちょっと待ってくださいねという穏やかさを我々には向けてくれたのですが……。
なぜか、エリックに両耳をふさがれてます。直前に受付さんがものすっごい低い声で、悪態をついていたのはわかったんですけどね。
声は聞こえませんでしたが、見てわかるほどに男の子が青ざめていきました。がっくりと頭を下げたあたりで、手をはなしてくれたのですけど。
「お見苦しいところを見せましたね」
受付さん、何事もなかったようにくるりとこちらを見てもちょっと怖いですよ。
男の子は青ざめた顔で、奥へとふらふらと向かっていきました。なに言われたの?
エリックが苦笑しているところをみれば、それほどひどくはないと思うのです。大丈夫ですよね?
「それで、なんの用です?」
挨拶もほどほどに屋敷の奥へと案内してくれました。見た目よりもちゃんとしていたのですが、やはり雰囲気が暗いんですよ。実際明かりも少ないですし。
昼間なのに、明かりが必要というのはなかなかですね。
「カリナさんが、お疲れで、孤児院満員超えてるらしいので様子見です」
「カリナちゃんも戻ってきて早々災難ですよ。
普通に人を雇うつもりなんだけど、住み込みと言った瞬間に総お断りされたので、暗礁に乗り上げてます。それで、私が子守ですよ」
受付さんはそう言って肩をすくめています。
「他にいなかったのか?」
「怖いって普通の女性には不評で、魔導師は不足中です。そのうち戻ってくると思いますけど、役に立ちそうにありませんね」
以前、魔導協会に来た時には結構いたような気がしたんですけど。近隣から見に来たとか何とか言って。
「元々、冬になると減るんですよ。自宅を持たない魔導師は、寒くても雪の降らない地方に移動していったりします。夏は暑くないところとか。そうじゃないならその時期しかできないこととか始めたりして、外ではしゃいだりですね……」
あたしの疑問が顔に出ていたらしく説明してくれました。
魔導師、とてもアクティブです。家に引きこもったりとかしてません。そういえば、フィールドワークもするんでしたっけ。
「なにかさせるなら餌でもあれば別ですけど」
受付さんにじっと見られました。露骨です。ものすっごい露骨です。確かに餌でもばらまこうとか思ってましたけど、言いだす前にアピールされました。
エリックは顔をしかめていますが、なにを言われたわけでもないのでそこは黙っているつもりのようです。
「……そうですね。困っている友人を助けたいとは思うんですけど、お金を出すのはちょっと違う気がするんですよね」
魔導師をひっかけるのは、それでは無理でしょう。
あたしがここに来るのは論外で。それ以外となるとこれしかありません。
「質問券とか、どうです?」
「質問権?」
「一枚につき一回、質問できる権利の紙、ですかね。直接やり取りするのもなんですから、教会に寄付して、そこから買い取ってもらって」
うーんと受付さんが唸ってます。直接魔導協会に依頼をかけるほうがいいかなと思ったんですけど、それは貸しのようでよくない気がしました。
それにこれは現金があれば人が集まるって類でもありません。
あたしへの質問券なんて、人によっては紙くずですが、有効活用すればそこそこいいものが手に入ると思います。
ピンポイントすぎますけどね。
「検討します」
即答しないだけ、ちゃんとしてますね。ギルド長にご相談案件でしょう。
こっちは教会に正式にお話を持っていかねばなりません。カリナさんあたりは、え、それなんの役に立つの? と言いだしそうです。
魔導師特攻ですからね。あるいは、一部貴族にも必要かも?
孤児院(仮)の中はなかなか荒れていて、やんちゃ(控えめ表現)な感じの子供たちが十人ばかり。皆それなりの年に見えるので、教会が保護する規定のぎりぎりといったところでしょうか。
エリック見た途端にやつら黙りましたけど。
子供たちがいるという部屋の前に面倒そうにかぶったフードがダメだったと思います。なんか、悪の魔法使いっぽい。受付さんは普通の町人1みたいな恰好なので、魔導師としてここに来てないんでしょうね。
そっちの人のほうが厄介だぞと忠告すべきでしょうか。
「はい、注目! この二人には喧嘩売らないこと。人生が終了します!」
……ひどい紹介をされました。前代未聞です。
「質問の件はなかったことに」
「一番重要かつ必要なことじゃないですか。両方とも魔導師なので、いたずらがいたずらになりません。さくっとやられます。教会とかで見かけたらお行儀よくすること!」
「俺は子供相手にそこまではしない」
むっとした口調のエリックに同意です。全面同意です。
「彼らがしでかしたことを述べてみましょうか?」
しかし、受付さんの目が据わってました。
よっぽど腹に据えかねたことがあったんでしょう。怖かったので大人しく拝聴しました。
備品をかっぱらって売りそうになったり、逃亡したり、弱い立場の子からの強奪、世話をしている人への暴言と多少の暴力行為、などなど。あと騙されて、悪い大人が立ち入りそうになったそうです。裏に行けば子供の売り買いなど存在するそうですけど、発覚した時点で、なんやかんやで潰されるんですって。
なんやかんやでとか怖いですね。誰の仕業でしょうか(棒読み)。
にこやかにブチ切れそうな受付さんを見てると、この子供たちの果敢な勇者ぶりに一周回って賞賛したくなります。すごいな、知らない子供。
なお、元々ここにいる孤児たちは遠巻きにして巻き込まれないようにしているそうです。賢いですね……。
「確かに普通の人じゃ無理っぽいですね。シスターでも難しいのでは」
自分たちの話をされているのはわかっているのか子供たちはきまり悪そうな顔をしています。一部ふてくされてますけど。
同情すべきところもあるんですけど、ものには限度というものがあります。
あと数が多いと心折れますね。
「そろそろ恐怖支配を検討していたところなので、ほかの誰かが引き継いでくれるとうれしいですね」
……。恐ろしい沈黙がありました。
なんだか不安になって、一時間ばかりお手伝いをしていくことにしました。
さすがに子供たちもその後は、大人しいものでした。受付さんの威圧がすごかったですものね……。
私は疲れたパンが食べたい。甘いパンが食べたいと走り書きしてあったので、それは別に買ってくることしました。
カリナさんのお疲れ度合いを感じます。
仕事が終わって仕事がやってくるという状況は、ブラックすぎますね……。悠長にしてたら雪が降ってくるので、仕方ないのでしょうけど。
まあ、それは我々も同じなのです。雪が降る前にある程度引きこもれるくらいの準備終わらせないと困ります。心底困りはしないので、そこまで危機感がないのが問題なんでしょうね。
とりあえず雪かき道具ぐらいは確保しておかないと……。まだ残ってるんですかね? 保存食も買っておかないとまずいでしょうし。
買い物メモに従って、あちこちのお店を回るついでに情報収集をしました。食料品店が多かったのですが、一部布屋さんとか燃料系のお店もあって興味深かったです。
特にリネン類は屋敷にあるものそのまま使ってましたので、普通に売ってるものって見たことなかったんです。興味本位で、いくつか見せてもらったのですが手触りからして違いました。あの屋敷にあるの高級品です。コットンでも最上級みたいな……。雑に洗ってたのを反省したくなりました。
洗濯機にお任せではいけなかった……。
お店ではものすごく普通に新婚なの? 新居用? と雑談を振られる事件も起きましたが、孤児院で使うであろうシーツ類の発注をかけることは出来ました。
燃料屋さんでの注文はぎょっとしたような顔をされたのですけど。それは他の魔導師が原因でした。以前、実験に使いたいからと薪を買って謎の儀式を敢行した人がいるんだそうですよ……。しかも町の空き地で。ボヤ騒ぎで済んだのは良いことでしょうけど。
以後、一定量以上は購入不可なんですって。
うちじゃなくて孤児院でと言えばほっとした顔でしたね。
それから、孤児院(仮)を覗きに行くことにしました。
「え? これ住んでる?」
「住んでるらしいんだが」
その屋敷を前に困惑して二人で顔を見合わせてしまいました。人手不足、原因は子供たちじゃないかも。
なんか、お化け屋敷って感じでした。いえ、ご立派なんですけど、手入れされていない庭と建物に絡んでいるツタが! ほーんてっどなまんしょん! とか思いました。
ほどほど裕福な人が住むあたりらしいんですけど、あきらかに雰囲気が違います。
こういう孤児院とかのお手伝いって、時間のあるご婦人や小遣い稼ぎの若い女性がよくやるらしいです。あまり男性には人気のないお仕事で、地域への奉仕というニュアンスが強いし、給料も安いということなので仕方ないのだそうで。
というわけで、こういう場所に喜んできたがる女性はいないでしょう。
時々、魔導師も男女関係なく派遣されますが、あれはどちらかというとペナルティ。
立派だけどさびている門を押して、中に入ってみました。屋敷の中からは声が聞こえるので、人はいるみたいです。
……幽霊じゃないですよね?
ひしっとエリックの腕にしがみつきます。困ったようにちらっと見られましたけど見なかったふりです。
「……おや?」
ドアを開けた先には受付さんがいました。やんちゃそうな男の子の襟首ひっつかんでますね。お取込み中のようです。
ちょっと待ってくださいねという穏やかさを我々には向けてくれたのですが……。
なぜか、エリックに両耳をふさがれてます。直前に受付さんがものすっごい低い声で、悪態をついていたのはわかったんですけどね。
声は聞こえませんでしたが、見てわかるほどに男の子が青ざめていきました。がっくりと頭を下げたあたりで、手をはなしてくれたのですけど。
「お見苦しいところを見せましたね」
受付さん、何事もなかったようにくるりとこちらを見てもちょっと怖いですよ。
男の子は青ざめた顔で、奥へとふらふらと向かっていきました。なに言われたの?
エリックが苦笑しているところをみれば、それほどひどくはないと思うのです。大丈夫ですよね?
「それで、なんの用です?」
挨拶もほどほどに屋敷の奥へと案内してくれました。見た目よりもちゃんとしていたのですが、やはり雰囲気が暗いんですよ。実際明かりも少ないですし。
昼間なのに、明かりが必要というのはなかなかですね。
「カリナさんが、お疲れで、孤児院満員超えてるらしいので様子見です」
「カリナちゃんも戻ってきて早々災難ですよ。
普通に人を雇うつもりなんだけど、住み込みと言った瞬間に総お断りされたので、暗礁に乗り上げてます。それで、私が子守ですよ」
受付さんはそう言って肩をすくめています。
「他にいなかったのか?」
「怖いって普通の女性には不評で、魔導師は不足中です。そのうち戻ってくると思いますけど、役に立ちそうにありませんね」
以前、魔導協会に来た時には結構いたような気がしたんですけど。近隣から見に来たとか何とか言って。
「元々、冬になると減るんですよ。自宅を持たない魔導師は、寒くても雪の降らない地方に移動していったりします。夏は暑くないところとか。そうじゃないならその時期しかできないこととか始めたりして、外ではしゃいだりですね……」
あたしの疑問が顔に出ていたらしく説明してくれました。
魔導師、とてもアクティブです。家に引きこもったりとかしてません。そういえば、フィールドワークもするんでしたっけ。
「なにかさせるなら餌でもあれば別ですけど」
受付さんにじっと見られました。露骨です。ものすっごい露骨です。確かに餌でもばらまこうとか思ってましたけど、言いだす前にアピールされました。
エリックは顔をしかめていますが、なにを言われたわけでもないのでそこは黙っているつもりのようです。
「……そうですね。困っている友人を助けたいとは思うんですけど、お金を出すのはちょっと違う気がするんですよね」
魔導師をひっかけるのは、それでは無理でしょう。
あたしがここに来るのは論外で。それ以外となるとこれしかありません。
「質問券とか、どうです?」
「質問権?」
「一枚につき一回、質問できる権利の紙、ですかね。直接やり取りするのもなんですから、教会に寄付して、そこから買い取ってもらって」
うーんと受付さんが唸ってます。直接魔導協会に依頼をかけるほうがいいかなと思ったんですけど、それは貸しのようでよくない気がしました。
それにこれは現金があれば人が集まるって類でもありません。
あたしへの質問券なんて、人によっては紙くずですが、有効活用すればそこそこいいものが手に入ると思います。
ピンポイントすぎますけどね。
「検討します」
即答しないだけ、ちゃんとしてますね。ギルド長にご相談案件でしょう。
こっちは教会に正式にお話を持っていかねばなりません。カリナさんあたりは、え、それなんの役に立つの? と言いだしそうです。
魔導師特攻ですからね。あるいは、一部貴族にも必要かも?
孤児院(仮)の中はなかなか荒れていて、やんちゃ(控えめ表現)な感じの子供たちが十人ばかり。皆それなりの年に見えるので、教会が保護する規定のぎりぎりといったところでしょうか。
エリック見た途端にやつら黙りましたけど。
子供たちがいるという部屋の前に面倒そうにかぶったフードがダメだったと思います。なんか、悪の魔法使いっぽい。受付さんは普通の町人1みたいな恰好なので、魔導師としてここに来てないんでしょうね。
そっちの人のほうが厄介だぞと忠告すべきでしょうか。
「はい、注目! この二人には喧嘩売らないこと。人生が終了します!」
……ひどい紹介をされました。前代未聞です。
「質問の件はなかったことに」
「一番重要かつ必要なことじゃないですか。両方とも魔導師なので、いたずらがいたずらになりません。さくっとやられます。教会とかで見かけたらお行儀よくすること!」
「俺は子供相手にそこまではしない」
むっとした口調のエリックに同意です。全面同意です。
「彼らがしでかしたことを述べてみましょうか?」
しかし、受付さんの目が据わってました。
よっぽど腹に据えかねたことがあったんでしょう。怖かったので大人しく拝聴しました。
備品をかっぱらって売りそうになったり、逃亡したり、弱い立場の子からの強奪、世話をしている人への暴言と多少の暴力行為、などなど。あと騙されて、悪い大人が立ち入りそうになったそうです。裏に行けば子供の売り買いなど存在するそうですけど、発覚した時点で、なんやかんやで潰されるんですって。
なんやかんやでとか怖いですね。誰の仕業でしょうか(棒読み)。
にこやかにブチ切れそうな受付さんを見てると、この子供たちの果敢な勇者ぶりに一周回って賞賛したくなります。すごいな、知らない子供。
なお、元々ここにいる孤児たちは遠巻きにして巻き込まれないようにしているそうです。賢いですね……。
「確かに普通の人じゃ無理っぽいですね。シスターでも難しいのでは」
自分たちの話をされているのはわかっているのか子供たちはきまり悪そうな顔をしています。一部ふてくされてますけど。
同情すべきところもあるんですけど、ものには限度というものがあります。
あと数が多いと心折れますね。
「そろそろ恐怖支配を検討していたところなので、ほかの誰かが引き継いでくれるとうれしいですね」
……。恐ろしい沈黙がありました。
なんだか不安になって、一時間ばかりお手伝いをしていくことにしました。
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