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冬の間

望みは叶いましたか? 1

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「それでまじめに聞く気あるわけ?」

「同じセリフ返してもいいですか?」

 不毛なやり取りですね。
 現在の状況ですか? ユウリは一人掛けソファで、ローゼを膝の上にのせてますね。いちゃついているようで、ユウリ逃亡対策の一環です。ローゼを抱えて逃げ出す可能性もありますが、やったら彼女の激怒がまっています。新婚で別居宣言食らいたくなければ大人しくしているでしょう。
 ユウリが時々隠し切れずににやついているので、逃げる可能性は低いでしょうけどね。
 ローゼは居心地悪そうにしてますけど、諦めていただくほかありません。

 あたしのほうはぴとっとくっついてるくらいですよ。こちらも困惑したような視線をつむじに感じてますけど、無視します。
 じわじわと不安が襲ってくるというか……。

 本当に、大丈夫? なに言われたの? とか問いただしたい気持ちでいっぱいになってきて良くないです。
 声が聞こえないほど遠くはなかったのに話していたことは聞こえなくて。その直前に聞こえた鈴の鳴るような音が、静寂を意味していたことに今更気がついたのです。
 とっさに魔道具を起動してしまうほどの聞かれたくない何か。
 本来は話したくなるまで待ちたいところですが、この先も言わなそうです。なので、後ほどフュリーを捕まえようと思います。

 ついでにフラウともお話することになっていましたし、女子会すればいいですよねっ!
 あと、誰がいたっけ。ふふふ。悪いのですけど、エリックはあたしのなのでっ! 挑戦は受け付けますし、喧嘩も買いますよ。
 もちろん勝者はあたしなので。今更グダグダ言われてもあたしが妻なのでっ!

「なにかどす黒いの漏れてるからしまったほうがいいよ。うん。アーテルちゃんのほうが危険とかどうなのかと思うけど」

「そっくりそのまま返してあげますね」

 世の人はローゼのほうがユウリを独占し、威嚇しているように見えているようですが、逆です。俺のローゼに手出しするとか許されると思ってんの? くらい思ってますよ。だって、少し前のドレスを汚された事件の顛末が……。
 実行したメイドさんは解雇。紹介状抜きで放り出されたって話です。そのうえ、雇っていた家に正式に抗議文を送ったと。
 面子が大事な貴族家では、英雄の不興を買ったというのは致命的です。もちろんユウリはわかっててやってます。
 そんなことを涼しい顔でやるような人が危険ではないとは言えないでしょう。

 ユウリが何とも言えない顔してます。ぷっと噴出した声が、少し遠くから聞こえてきます。
 ちらっと視線をむければ、肩を震わせた眼鏡氏がいました。本編で名前の出てない副官の人。フィラセントというらしいですね。付き合いはながくないそうで、一年くらいとか聞きました。

 ……あれ? と思いましたね。本編では結構最初からいたような気がするんですよね。モブ的に。思ったより、違うのかもしれません。
 夢に見たものを漫画にしました。なので、作者の都合の脚色やら不足分の想像なんかも追加されていることもあるかもしれません。あるいは意図的に削除した話も。

 そして。もしかしたら作者は既にすべてを知っているのかもしれません。つまりは続編早く欲しい! ってところです。本編が予言書になれないのです……。予言してチートしたい。

「ユウリはいうことあるでしょ」

「え? アーテルちゃんごめんね。都合よくそこにいたから利用しちゃった」

 ……。
 清々しいくらいのセリフですね。
 唖然とします。
 その間にローゼがユウリの両頬をつかんで引っ張ってますけど。あ、それ前見たことある。画面の向こう側でっ!

「いひゃいって」

「誠意が、たりないっ!」

「らってぇ」

「だってもないわ。ほんと、ごめんね。どのくらい罰がいるかしら?」

 ……今、ご褒美もらった気がするので、どうでもよくなってきたとは言えませんね。
 おおっ! 今ここにあのシーンが再現っ! と内心盛り上がってました。顔に出すわけにはいかないので、ぎゅっと眉間にしわを寄せて耐えてましたけど。相当難しい顔していたように見えたんでしょうね……。

「貸しにしておきますね。内容によって、増減しますので、説明してほしいのですよ」

 穏便に言ったつもりなのに、ユウリにびくっとされたのが不本意です。

「まずは、ローゼと結婚したかった。普通の手段では、無効だの言われそうで困ってたんだ。それで教会に」

「それは怒ってませんよ。文句を言う気もありませんし、貸しにもしません。あたしもユウリはお断りなので。タイミングはもう少しどうにかしてほしかったのですけど」

 ローゼとフィラセントがすごいものに見たと言いたげに目を見開いてますけどっ! え? そんなに落としまくってるのユウリって?
 ユウリ本人がものすっごい嬉しそうなのが、事態の深刻さを物語っている気がします。
 そ、そうですか……。

「他には? 侯爵位もらうのも女じゃダメとかだったらしいですけど、そこ変えたって聞きましたよ?」

「基本的に爵位に限らず、家業も含めて継承者は男に限る、というのが普通。例外的なものはいくつかあるけど、本当に数えるほど。
 女性に爵位なんてって最初は言われたけど、最終的にはそのほうが合理的と説得したよ」

「扇動したの間違いでは?」

「自分だけが特例と聞けば心象は悪いかもね。彼女の故郷では同権とまではいかないけどそれに近いから嫌悪されるかもね。とかは言った」

「間違いではないですが、異世界来てまでそれをいう気はありませんよ。価値観がちがうものですから。それをあたしに適応されるのは嫌ですけどね」

 あまりにも虐げられているというのであれば、一肌脱ぐのもやぶさかではありません。けれど、今のあたしは良く知らないことなので積極的にする気はないんです。こういうのは繊細な話で強制的に何かをすれば揺り返しが怖いですし。
 まあ、ユウリ的には生まれて二十年位たっているわけですから思うところもあるんでしょうね。

「そこは貸しにしておきましょう。他には?」

「え? そ、そうだなぁ……」

 とたんに挙動不審になってますよ?
 ローゼが半眼でみてますけど。あ、これも見たことある。フィラセントがすいっと寄ってきて冊子を渡してくれました。

「なになに? 罪科リスト?」

 えっと、各種賄賂、脅迫、圧力と分類されてますけど。項目ごとに人名が並んでいますね。ぺらりと別ページをめくれば、税金のちょろまかしから借りた金の踏み倒しまでバリエーションがふえました。
 最後には処分がずらりと。

 ……。
 一緒にのぞき込んできたエリックも黙り込んでいます。
 怒るとかそういう次元ではありませんでした。

「わかりました。あたしを見世物にしている間に、証拠固めして、都合の悪い人たちに退場いただく、あるいは力を削いだんですね?」

「え。あ、こらっそれ最後」

「往生際が悪いですよ」

 フィラセントはくいっと眼鏡をあげて彼は悪い笑みを浮かべました。
 ……うん。いいねっ!
 少々気持ち悪い感じの笑みが浮かびそうなのを押さえましたが、お隣さんは気がついたようです。
 腰に手を回されてもう少しこっちによるようにとの意思表示をされました。

「ああいうのがいいのか?」

 ひそっと耳打ちしてくるのが、鋭いといいますか。

「記憶にあるところと同じなので、つい」

 萌えはしますが、ラブはないので許していただきたいところです。要はミーハーなのです。
 エリックはふぅんと呟いたあとに耳にちりっとした痛みを感じたのですが。
 ……なにか、こう、お仕置きされたのでしょうか。そのことを問いただす前に気がついてしまったのです。

 信じられないものでも見るようにガン見されたるのに!
 ものすっごい恥ずかしいんですけどっ!

「あったんですね。独占欲」

 フィラセントに呆然としたように言われたのですけど、エリックってどんな目で見られてたんでしょうか。本人は不機嫌そうですけどね。

「目の前で見てもやっぱり信じられない感じがする」

 ローゼにすらそういわれてしまったのです。ユウリはうんうんと頷いてますし。
 一体、どういうことですかね?

「うるさい」

「いつでも余裕と言いたげな態度のディレイが、ですからね……」

 エリックは反論せずむっとした顔のまま黙ってしまいました。

「……それで、ユウリはどのくらい、利益があったの?」

 強引に話を戻すことにします。ここを掘り下げたくありません。墓穴が待ってます。
 ユウリに対する牽制に見えて、今回についていえば、フィラセントに対してのこれなんです。
 ……まあ、五番目くらいには気に入ってましてね?
 三番目と四番目は現在、故郷に戻っていて会うこともなさそうなんですけど。しかも両方女性なのでそこらへんは大丈夫、と信じたいです。

 なので、そのあたり突き詰められると困るのです。あたしが。
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